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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第四章

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クエルクスの森

 クエルクスの森。

 冬の空気に包まれたその場所では、乾いた落ち葉が道以外のありとあらゆる場所を塞いでいる。

 吹きすさぶ風は冷たく、なにもしていなくても、根こそぎ体温が奪われていってしまうようだ。


 エルと別れたあと、俺は早速、提示された可能性をアルバオに話した。

 アルバオはひとしきり驚愕し、しかしそれで行ける可能性はあると頷いた。

 あえて不満を上げるとするならば、俺の発案じゃないのに、俺がスイと並んで頭おかしい発想をする人間扱いされていたことくらいか。


 エルから貰った情報の裏を取ると、すぐにクエルクスの森で『マジックオーク』が目撃されたという情報が入った。

 猟に入った狩人が、森の奥で一際大きな木の魔物を見たのだと言う。


 通常であれば、すぐに街の騎士団に連絡が行って駆除されるだろうが、冬であって人が入らないという理由で先延ばしされていたようだ。

 大型の植物の魔物は、基本的には動かないでじっとしていることが多いらしい。

 そして騎士団は現在、色々な仕事が重なって人手が足りていないという。

 積極的に狩りに行く気はないとか。


「で、その安全な魔物に襲い掛かって樽の材料にしようっていうんだから、騎士団も良い顔はしないよな」

「止められたからね」


 俺は森の入り口に立って、腰のポーチを今一度確認していた。

 答えたアルバオも、いつもは持っていない戦闘用の杖を手に、準備運動をしている。

 アルバオも、スイ程ではないが魔法戦闘の経験はあるらしく、立派に戦力として見ても良いとのこと。

 俺だって、戦闘自体の経験はそんなに無いので、アルバオの方を頼りにする形となるだろう。


 マジックオークの『伐採』に向かう人員は、少数精鋭だ。

 騎士団が協力してくれなかったのは前述の通り。

 見れば分かるだろうが俺もアルバオも後衛だ。後衛は以上である。

 ホリィ研究室の皆に、俺達は加勢を依頼した。しかし返ってきた答えは、ほとんど全員が戦闘訓練を積んでいないというものであった。


 確かに、ポーションの研究員に必要なのは戦闘能力では決してない。

 魔道院などで手習い程度に実戦訓練を積んだはずだと思うのだが、そんなものは何年も前なのでとっくに忘れたとのこと。

 試しに、軽く魔法を見せて貰ったのだが……。

 アルバオと俺は、満場一致で連れて行くのを断念せざるを得なかった。


 と、後衛は残念な結果になった。

 では、前衛を勤めてくれるのは誰なのかと言ったら……。


「んー! 久々に外で運動するのも良いかも!」


 イベリスであった。

 彼女は、俺とアルバオが遠征に向かうことを聞きつけ、付いてくると主張した。

 で、何が出来るのかという話になったら、前衛ならということである。

 彼女が持っているのは、巨大なレンチだろうか。とにかく、その辺の剣に勝るとも劣らない破壊力を秘めていそうな、鈍器である。

 服装は、関節部や急所などをカバーする程度に防備が付いているが、ほとんど普段の作業着のままだ。

 彼女を連れて行くのは少し気がとがめたのだが、能力的にはありがたいことこの上なかった。


「……ふっ、ついに僕の実力を見せるときが来たようだな」


 あと、何故かギヌラが付いてきた。

 が、理由は知らない。



「さて、準備は良いか、イベリス。アルバオ」

「おっけー!」

「ああ、大丈夫」



 俺達三人は頷いて、森への一歩を踏もうとした。


「待て待て! なぜ僕を無視した!」


 ギヌラが何か言っている。

 仕方なく、俺は彼に目を向けた。

 わざとらしく腰に剣をぶら下げているので、一応彼も前衛である。


「そもそも、頼んでないのになんで付いてきたんだよ」

「僕だって嫌だったぞ! だけど、雑用係として付いていけと命令されてだな!」


 どうやら、これも雑用の仕事らしかった。

 俺は改めてギヌラを見る。

 サーベル風の剣を腰に挿しているのと、一応軽鎧的な装備をしている。


「……一つ聞きたいんだけど、お前戦えるのか? 俺が言うのもなんだけど」

「失礼だな! 僕をなんだと思っているんだ!?」


 ギヌラは犬歯をむき出しにするように吠える。


「こう見えても、剣を習っていたときには、筋が良いと褒められたんだぞ」

「へー。すごいじゃん」

「そしてなんと、ヴィオラの奴と試合して、良い所まで行って負けたこともある」


 それは子供の頃の話だろうか。

 今のギヌラがヴィオラに勝てるヴィジョンが浮かばない。


「……ついでに勝ったことは?」

「あんな化け物みたいな女に勝てるわけないだろ」

「良かったな、俺が口固くて」


 多分、ヴィオラにバラしたら、ギヌラは半殺しにされるんだろうな。

 まぁギヌラの存在自体は気に入らないが、ギヌラがいることでイベリスの負担が少しは軽くなるのなら良いか。


「あっ」


 俺とギヌラが会話をしているところで、イベリスの静かな声。

 それは、ギヌラの背後、俺の目前に出現していた。

 体調は二メートル弱くらいの、やや小柄な、熊の魔物であった。

 彼我の距離は二十メートル程度。だが、あちらが走り出してくると、そう何秒もあるまい。


「ギヌラ! 後ろ!」


 言いつつ、俺は後ろ走りで距離を取ろうと試みる。

 全然警戒していなかったところにいきなり現れて、心臓が早鐘のように打つ。

 イベリスもアルバオも、俺達より離れている。二人の加勢を期待しないほうがいい。

 俺は頭の中が真っ白になりそうなのを必死に堪えて、急いでポーチに指を突っ込んだ。

 だが、俺の目の前で信じられない光景が。


「う、うおぉおあああ」


 ギヌラが悲鳴を上げて、その場に立ち尽くしていた。

 熊は俺達に襲い掛かると決めたようで、四足で猛然と向かってくる。

 そのままでは、ギヌラが邪魔で満足に『カクテル』を撃つことができない。


「おいギヌラ! どけ!」

「わ、分かって!」


 ギヌラは必死に叫び返す。

 だが、ギヌラの足が思うように動いてくれない。

 俺はちっ、と舌打ちしつつ、ポーチから抜いた弾丸を銃に込めた。


基本属性ベース『ウォッタ45ml』、系統パターン『ビルド』、マテリアル『オレンジジュース』アップ!」


 俺はカクテルを放つ為に、その素性を宣言する。

 発動が早く、使いやすい『ウォッタ属性』の【スクリュードライバー】だ。

 効果は青い水球が真っ直ぐに飛んでいき、対象にぶつかるか、一定距離離れると爆散するというもの。

 熊を一撃で仕留められる程度の威力はあるはずだ。


「ギヌラ! しゃがめ! それでいい!」

「わかった!」


 ギヌラの元気の良い声。だが彼が取った行動は、しゃがむというか、死んだ振りか?

 ため息を吐いている時間はない。

 ぶうんと、手の中で鈍く震えている銃の照準をまっすぐに熊に合わせ、俺は引き金を引いた。


「【スクリュードライバー】!」


 放たれた水色の魔力が、迫っていた熊の右肩に突き刺さる。

 直後、その着弾点から、幾重にも水の砲を重ねたような水流が爆発した。

 熊は少し身体を回転させつつ、その重い身体を倒す。

 後には、静かな気配だけが残った。



「……なんとかなったか」



 俺はふうううと重い息を吐いて、薬莢を排出した。

 ついでに、カクテルで作ったこの薬莢は、カクテル以外の要素が無いと自然に還るようである。グラスとかと一緒に弾丸にしていると、ずっと残るみたいだが。

 森に入る前から、神経をすり減らすようなことが起きるものだ。


「総、大丈夫?」

「……なんとかな」


 俺に駆け寄ってきたアルバオに、強がった笑みを見せた。

 ギヌラの方にはイベリスが向かい、ツンツンと死んだ振りをしている男をつついている。


「今のが『カクテル』の本当の力か」

「本当の、なんてもんじゃない。ただの、副産物みたいなもんだ」

「ああ、すまない。でも、どうしてもね」


 アルバオは、改めて見る『カクテル』という魔法にも、驚きを隠せないようだった。

 俺はアルバオに『弾薬化』や『カクテル魔法』のことを一通り話してあった。それまで『弾薬化』は物を小さくする便利な魔法みたいに説明していたが、戦闘が絡むのであれば隠しておくのは危険だ。

 その戦闘面での効果も含めて、遠征を決めてから本当の話をした。

 アルバオは半信半疑だったが、一応ここに来る前に一回は見せてある。


「スイの話じゃないけれど、確かに、世界を変えてしまいそうだ」

「よしてくれよ。それを突き詰めたら、また俺が解剖される話になりそうだ」


 俺は苦笑いをして、銃を再び腰に挿す。

 それからようやく落ち着いたところで、奴に声をかけることにした。


「おい役立たず」

「誰が役立たずだ!」

「返事したってことは自覚ありか」


 イベリスにつつかれてややご機嫌斜めのギヌラを、冷めた目で睨む。


「前衛が足引っ張ってどうすんだよ」

「……さっきのはビックリしただけだ。次からは本気を出す」

「……いや」


 それで信頼しろというのはどうなんだ。

 だが、ギヌラの目は自信に満ちあふれている。

 と、そんなとき。


「あっ」


 再びイベリスの声。

 またかと俺が銃に手を伸ばす。そして獲物を見やる。

 そこに居たのは、先程の熊とは比較にならないサイズの、兎の魔物であった。

 なぜ魔物と思ったかと言えば、立派でいかつい角が生えているからである。


「ふっ! 僕の実力を見せてやろう」


 そんな兎に颯爽と立ち向かったギヌラ。

 兎もまたギヌラを標的と認めた様子で向かってくる。

 そして、一閃。


 思いのほか鮮やかな剣筋で、ギヌラは兎を切り倒していた。

 彼はそこそこ様になった仕草で剣を収めたあと、俺に向かってどうだと言わんばかりの笑みを見せてくる。


「どうだ見たか?」

「……あ、また熊が」

「な、なぁッ!?」


 俺が指差した方角を怯えながら見るギヌラ。当然、そっちには何も居ない。

 俺は最終的な判断を、隣で戦うことになるイベリスに任せることにした。


「……イベリス。どうする?」

「居ないよりはマシかも!」




 ということで、ギヌラも前衛に加わった。

 メンバーは、俺、イベリス、アルバオ、ギヌラの四人。

 ……前より一人多いのに、不安が大きいのは何故なんだろうか。


※0425 誤字修正しました。

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