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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章 幕間

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【カミカゼ】(1)

二話に分けようかと悩んだくらい長いです。

最近の長さの三割り増しくらいです。

すみません。

「な、なに変な方向に進めてるんです!?」


 俺とカムイさんが言葉を交わしあったあと、驚いた様子のメグリさんが割って入った。


「いつもは金額と材料を提示して、それでもと言うなら作る、納得できないなら帰れって言うだけなのに……!」

「悪いなメグリ。この男には、そういった失礼な対応をするべきとは思えなくてな」


 慌てたメグリさんの頭を軽く撫で、カムイさんは優しく言った。

 どうやら、俺は彼に普通以上に鋭く見られているらしかった。


「総」


 一方の俺にも、同行していた少女から声がかかる。

 彼女は、心配とも信頼とも取れぬ目を静かに俺に向けながら、一言だけ言った。


「信じてるからね」

「任せてくれ」


 俺は彼女へとはっきり言ってから、真っ直ぐに前を向いた。

 そこには、相変わらず堂々と構えたカムイさんの姿がある。

 どうやらメグリさんも、ひとまず俺達のやり取りを見守ることになったようだ。


「それじゃ、見せて貰おう。カクテルってやつをな」

「お任せください」


 俺は慇懃に腰を折ってから、即座に思考を回し始めた。

 注文を受けたは良いが、この段階では情報が不足している。

 相手に向けて、いったいどんなカクテルを作るべきなのか。


 カクテルグラスの依頼なのだから、ショートカクテルに限定すべきか。

 自分を見せるという意味で、オリジナルカクテルを作る方がいいのか。

 それとも、いつものように相手をじっと見て、その人に最も合ったカクテルを作るべきなのか。


 どの答えにも、一長一短がある。

 考えていても答えは出ない。

 ではどうする? 分からないならば、聞けばいい。


「注文を受けた後に恐縮ですが、お作りする前に少し質問しても?」

「ああ、お前さんが気の済むまでなんでも聞いてくれ」


 俺の言葉を受け、カムイさんは試すような声音で言った。

 飾ったり気取ったりすれば、すぐにバレるだろう。

 背伸びをしても良い事はあるまい。


「まずお聞きしたいのですが、カムイさんは、どういった一杯をご所望ですか?」

「どういった、ってのは?」

「依頼のための一杯。自分──この場合は僕を表現する一杯。または、僕のいつも通りの一杯。などなどです」

「なるほどな」


 俺の言葉の意味が伝わったのか、カムイさんはふむ、と頷く。

 そして、カッと目を見開き、はっきりと告げた。


「俺は、お前がどんな人間なのかを知りたい。ただし特別なことはしなくていい。お前さんの、ありのままの信念ってのを見せて欲しい」


 カムイさんの言葉を受けて、俺は方針を決めた。


 拘る必要はない。自分が飲んで欲しいカクテルがあっても、それよりも相手が求めるカクテルがあれば、そちらを出すべき。それは常に実践していることだ。

 飾る必要はない。特別な自分を演出しても、それは一時だけのものだ。特別な日にしか使わないグラスを求めて、俺はここに来たのではない。


 それであるならば、俺の行動の指針は一つだ。

 いつもの営業のように、ただ、必要なことを尋ねるべきだ。

 その人に合った、最高の一杯のために。


「ではまず。こちら、今から作るカクテルは、ポーションを混ぜ合わせた飲料です。ですが、僕はこれをお酒として扱っています」


 初めましてのお客さんには、俺はこう説明をする。

 どこかで噂を聞きつけ、物珍しさでカクテルを飲みに来る人もいる。しかし、何も知らずに来る人も多い。

 そういった方に、説明も無しにカクテルを飲ませるわけにはいかない。

 はたして、カムイさんは感心したように頷き、続けた。


「ああ、俺もポーションと言われてもピンとは来ない。酒と言われれば、分かる」

「では、そのように。度数は強い方が良いですか? 弱い方が良いですか?」


 自分の傑作のために信念を曲げないのが職人なら、お客さんのためにどこまでも曲がれるのが、バーテンダーとも言えるかもしれない。

 だから俺は、ここでショートに拘ることはしない。

 彼が見たいのは、カクテルグラスに合うカクテルではない。

 カクテルグラスを扱うに足る、俺なのだから。


「なら、そうだな。せっかくだから、強いのを。自国の焼酎を思い出すくらいのな」

「……なるほど、かしこまりました」


 焼酎と来たか。

 実は気になっていたことの一つだが、どうやらこの世界──ジャポンには焼酎が存在しているらしい。

 この国にも、美味しくない蒸留酒はあるにはある。それを踏まえれば、ジャポンはここよりも多少は進んだ酒文化があるのかもしれない。

 と、それは置いておいて。ご注文は、強めだ。


「味の好みなどはございますか? 甘めだったり辛めだったり。苦手なものなどは?」

「そうだなぁ」


 少し悩むように唸ったあと、ふと外に目をやるカムイさん。

 何が見えるのかと思えば、そちらには先程気にしたばかりの稲穂が波を打っていた。


「俺は辛めが好みだな。甘過ぎないほうが良い。苦手な物は特にない」

「かしこまりました。では──」

「あ、ちょっと良いか」


 俺が頭の中で候補を絞り込んでいたところで、カムイさんは焦ったように口を挟む。

 そして、ちらりとメグリさんを見た。

 彼女がきょとんとしたのを見て、うむむ、と唸ってからその注文をした。


「いきなりで悪いんだが、例えば、俺とメグリの二杯分をってのを、頼むのはありか? もちろん判断は俺がするんだが、メグリの意見も聞いてみたい」

「もちろんです」


 何を言うかと思えばだ。

 もとより、一杯で終わってしまうつもりは無かった。

 だって、カムイさんに飲ませただけで、隣のオーナーが満足してくれるわけが無いのだから。


「なら、頼む。俺には辛め、メグリには……やや甘めで」

「かしこまりました。度数は?」

「二人とも強くて良い。こう見えてメグリはうわばみだからな」

「旦那様っ!?」


 ニヤニヤと笑っているカムイさんに、メグリさんが照れた様子で声を上げる。

 その二人のやりとりに、こちらも微笑ましい気持ちになる。


 ……俺の思い過ごしでなければ、この二人は、とても仲が良い。

 それこそ、恋仲かそれに近い信頼感がある気がする。

 だとすれば……その疑問が、浮かぶ。


「最後に、あと一つだけお尋ねしても?」

「もちろんだ」


 思ったことを直接尋ねるのは、あまり良くない。

 だが、気になったことがある。

 俺は、それをバーテンダーの作法に則って聞いてみた。


「お二人は……いえ、カムイさんはどうして、この国に?」


 バーテンダーは、お客さんが来店したとき、『どうしてこの店に入ったのか』を聞くことが多い。

 それは、新規を獲得する上で参考になることだし、会話の始まりとしても悪くない。

 だから、それと同じように尋ねた。

 あなたは、なぜこの国にやってきたのか、と。


「…………」


 一瞬だけ、カムイさんの雰囲気が揺らいだ。

 職人としての鋭い切っ先に、僅か──無機質の中に、感情のような何かが滲んだ。

 彼は静かに目を閉じ、またしても、メグリさんの方へ視線を向けた。


 向けられたメグリさんは、少し沈痛な面持ちで俯く。

 その後に、苦笑いのような、静かな笑みを返していた。


 そして最後、カムイさんは真っ直ぐに俺の目を見て、告げた。


「名を上げるため。誰からも認められる、職人になるためだ」



 その答えを聞いて、その声に宿る、鋭い心を感じて。

 俺は『その一杯』に決めた。


「ありがとうございます。それでは、今からお作り致します」


 俺はその答えを胸に、頭の中で二杯のイメージを作り上げる。

 まったく同じ名を持ちながら違う味、とあるカクテルのイメージを。



 俺は彼らに断って台所をお借りすることにした。俺はどこでもカクテルが作れるようにと、道具一式を弾薬化して持ち歩いている。

 卓上に道具を広げても良いのだが、水を使うのだから後片付けを考えれば台所が良い。

 カムイさんとメグリさんの両名は、そのまま台所まで移動して来て、俺の作業を見学するつもりのようだった。


 まぁ、見られるのもいつものことなので、問題はない。

 むくりと心の中で首をもたげる緊張や不安、そして恐怖といった負の感情。

 深呼吸をして、そういったものたちを、再び胸へと押し返す。

 どくんどくんと緊張している心臓が、心地よいと感じるまで、しばし待つ。


「では、お作り致します」


 時間にして数秒の間を置いて、俺はそう告げた。

 物音に敏感でありながら、そちらに気を取られない。

 そんな極度の集中状態から、いつも通りに体を動かす。


 最初に、オールドファッションドグラス──要するにロックグラスを二つ準備した。

 右に置いた方がカムイさん、左に置いた方がメグリさん用だ。(スイのは後回しだ)

 他に、メジャーカップ、シェイカーもそれぞれ二つ用意した。

 今回の場合、それぞれ二つあるほうが都合も良い。


 それらを、まな板の上部に並べるようにして置いて、その下で俺は洗ったライムを縦にカットする。

 六分の一カットを二つ用意し、まず一つから果汁を絞り右のメジャーカップへ注ぐ。

 適度に絞った果実は、捨てるのではなくグラスへと送り込む。その後に、右のメジャーカップにはフレッシュのジュースで15mlを計った。

 僅かに浮いた果肉が、溢れるフレッシュな酸味を想定させる。そのイメージを持ったまま、右のシェイカーへと液体を流し込んだ。

 次いで同じようにライムをカットして左のメジャーカップを満たす。こちらは、果汁を20mlだ。


 その次に計るのは『ウォッカ』──『ウォッタポーション』である。

 軽やかに瓶の栓を開け、右のメジャーカップは一度、ひっくり返す。使うのは30ml側ではなく、45ml側だ。そちら側の上限量をぴっしりと計り、シェイカーに注いだ。

 これで右はすでに60mlとなったが、ひとまず置いておいて左側だ。

 左のメジャーカップはひっくり返すこともなく、ライムと同じように20mlを計り入れた。


 この時点で、既に両者の分量は大分異なっている。

 ベースの量を考えれば、度数自体にも大きな違いが生まれてしまいそうだ。

 だが、次に俺が栓を開けるのは、この世界で初めて手に入れた『リキュール』。

 柑橘の甘さと、皮の苦みを併せ持つ、とろりと上品な魔草ポーション。

 地球ではアルコール度数40度。ベースの蒸留酒に勝るとも劣らない度数を持った『コアントロー』だ。


 その瓶を右手に持ったまま、今度は左から、メジャーカップで20mlを計った。

 それを左のシェイカーへと注ぎ、メグリさんの分はこれでおしまいだ。

 カムイさんの分には、最後の仕上げが残っている。

 俺は手に、メジャーカップではなくバースプーンを持つ。

 そして、コアントローを1tsp──スプーン一杯分だけ計り、そっと右へと落とした。


 そのままバースプーンで右側を軽く混ぜ、味を見る。問題無い。

 その後に、左側も同様に味を見た。いつもであればバースプーンは水で洗うところだが、今回に限っては構成物に違いがないのでその必要はない。

 これで準備は整った。


 カムイさんへ作る一杯は『ウォッタ45ml』『ライム15ml』『コアントロー1tsp』。

 メグリさんへ作る一杯は『ウォッタ20ml』『ライム20ml』『コアントロー20ml』。


 後はシェイクをするだけだ。

 まず、メグリさんへの一杯に着手することにした。

 基本的に、俺はご注文の品は同時に出せるように作るが、シェイクが複数だとどうしても、同時にというわけにはいかない。

 その場合、二杯なら俺は女性のカクテルから作ることにしている。


 レディファーストというのも少しはあるが、バーでは大抵の場合、男性の方がカクテルに詳しいことが多い。

 女性のカクテルを先に持って行った方が、男性が説明などをしてくれて、時間を自然に埋めてくれることが多いのだ。

 もちろん、男性を立てた方が良さそうな場面だったり、先輩と後輩のような関係だったりと、その都度に応じて順番を入れ替えはするのだが。


 ついでに三杯以上であれば、小細工は諦めて作業台で全部用意してから持って行く。

 今回の場合も、カクテルグラスを使うわけではないので、そのつもりだ。


 どうでも良い話が長くなってしまったが、メグリさんの分の一杯に取りかかろう。

 しかしその前に、カムイさんの方のシェイカーも、軽く蓋をして埃などが入らないようにしておくのを忘れない。


 それが済んだら、左のシェイカーへ氷を詰めて、蓋をする。

 ぎゅっと強くストレーナーを締め、トップを被せる。仕上げにまな板に、シェイカーをココンと打ちつけた。

 そして、俺はシェイカーを胸の高さに持って来て、緩やかに振った。


 台所に、心地よい音が響く。

 氷と液体が、シェイカーを叩く感触が指先に伝わってくる。

 温度が、衝撃が、少しずつ高まって行くカクテルの完成を、如実に教えてくれている。

 その完成度が、味の上昇曲線が、平になるそのタイミング。

 俺は開始時と同じように、静かにシェイクを終えた。


 シェイカーのトップを開け、ライムが横たわる左側のロックグラスへと、薄白の液体を注ぎ込んだ。

 緑色のライムが液体に煽られて踊る。その様を堪能したあと、シェイカーのストレーナーも開けて、氷をトングで取り出す。

 ライムが映えるよう注意しながら、迅速に氷をグラスへと詰めて行った。

 ロックグラスの中で、薄白の液体と緑の果実、そして透明な氷が見事な色彩を作った。


 これで、メグリさんの分は完成だ。

 後は、カムイさんの分も、同じ作業を繰り返す。

 前述したように、供するタイミングは同時にするつもりだ。




「お待たせしました」


 カムイさんとメグリさん、それぞれの前にグラスをそっと差し出した。

 俺の動きを真剣な目で見ていた二人は、目の前に現れた飲み物にも注意深い目を向けている。


「……これが、『カクテル』か」


 カムイさんの呟きに、俺はすこしだけ訂正を加えた。


「はい。ですが『カクテル』は、そうやって作られる飲み物の総称ですので、そちらの一杯──いえ、二杯には違う名前があります」


 言うと、二人はその名を聞く為に、グラスへと向けていた目をそっと持ち上げる。

 俺は、その二人に送るつもりで、その名を告げた。



「【カミカゼ】です」



 それは、この世界のジャポンではきっと、台風や嵐といった意味なのだろう。

 その由来を説明するのは、後で良い。


 今は、その名を受け取った二人が、どのような感想を持つのか。

 それをただ、待つのみである。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


どのカクテルが出てくるか予想されたかもしれませんが、こうなりました。

レシピや由来について様々あるカクテルなので、今回や次回の話も、あくまで一例と思っていただけると幸いです。


※1215 誤字修正しました。

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