番外編「錐音とざくろ二人の過去」
これは錐音とざくろ、二人の過去の話だ。
月黒女学園。
ここは本当の死神という職に就くための、育成学校である。
死神という職は割と女子の間に人気で、共学の育成学校でも、男子が少なく女子で覆い尽くされることが多い。
そのため、女子だけの学校を街が作ることにしたのだ。
死神にはランクがあり、A、B、Cというグループに分けられ、学んでいく。Aはとても成績が良く、Cは悪いランクだ。
まだ錐音とざくろがこの学園にいた頃、二人は先輩、後輩といった感じだった。
空が暗く、まだ日中なのに夜みたいな雰囲気になっていた時、ざくろは錐音から基礎を学んでいた。
「錐音先輩、お相手お願いします」
「手加減はしないわよ」
「はい」
お互い距離を置いて、睨みあう。
二人の間には異様な空気が流れ、ひんやりと漂っている。
五、四、三、二、一、ドンといった感じで、二人は走り出した。
まるで、チーターのように素早く、姿が取られないくらいだ。
足音も立てず、静かな走りで、目の前のゴールへと向かう。
(錐音先輩、前より私との距離を離してる。前までは同時に並んで走ってたのに。どうして)
「っはぁはぁ」
「ざくろ、息を漏らさないこと。いつも狩りをする時は、このくらいの速さで移動しないと人に見つかってしまうから、気を付けなさい」
「は、はい」
だんだんと二人の距離は離れていく。
先頭を走ってる錐音の表情はとても良く疲れてなさそうだ。しかし、後ろにいるざくろは汗をかき辛そうな感じで、息を漏らしていた。
やがて、二人の練習は終わり、ざくろは錐音に負けた。
更衣室に向かい、体操着から制服へと着替える。
何時間も走ってたので、体操着は汗でびっしょりだ。気持ち悪い感覚から早く抜け出したいので、二人は素早く脱いで制服に手を出す。
「……ざくろ」
シーンと静まり返る中、錐音の声が響いた。
「はい、何ですか?」
今、聞こえるのは二人の声、そして服が擦れる音だけ。
「……もし……もし、私が死神の掟を破ることになったら、ざくろはどうする?」
「え。錐音先輩がそんなことするはずないじゃないですか」
ざくろは信じていた。
錐音が絶対に掟を破ることなどしないということを。
「……そうよね……。でも、人はこれから先、何が起こるか分からないもの。もしかしたら、ある小さなことで心が揺らぎ、掟を破ってしまうかもしれない」
「……錐音先輩」
「ごめんなさいね、急に変なことを言ってしまって。忘れてちょうだい」
先に錐音は着替え終わり、更衣室を去って行った。
一人取り残されたざくろは、ただ、錐音の言葉を思い出し考えるしかなかった。
死神の掟、それは、死神が人の命を救うことである。
本来、死神は生死を彷徨った人の魂を奪い取ること。
そこに、本来の仕事をしない(魂を救う・裏切る)ものは死刑とされてきた。
それほどまでに、死神たちは人の命を救うことを、死に対するぐらい嫌っていたのだ。
恐らく、先祖から続く死神の血がそうさせるのであろう。
月黒女学園のほとんど、いや、全ての生徒が先祖から死神の血を少し受け継いでいる。
そのため、掟を破ったものは厳しい罰が待っていた。
長い通路を歩き、大広間の前を通る。
コツコツと足音が響き、歩いてるのは錐音だけだ。
静まり返った暗闇の中、自分の部屋に戻ろうと歩いていると、ある部屋から電気の光が廊下へ漏れてるのに気が付いた。
どうやら中に誰かいるようで、コソコソと話声が聞こえる。
「……早くしないと! もう向こうは待ってくれないんだぞ!」
「しっ、静かに。あまり大声を出さないで」
「だが、しかし……」
扉から離れていても聞こえる大きさだが、錐音はそっとドアの前に近づき話を聞いた。
部屋の中にいるのは、錐音の父親と母親であり、どうやら錐音の結婚について話しているようだ。
「昨日、向こうの両親と決着がついたわ。話し合った結果、明日結婚式をすることにしたの」
「明日……でも、まだ錐音は結婚を反対してるんだぞ。大丈夫なのか?」
「ええ。向こうの判断で、無理やりでも結婚させるそうよ。相手は大金持ちで死神の王だもの、結婚を断ったといったら近所に怒られ、私たちは孤立してしまうわ」
「……そうだな、結婚させないと死刑もあるかもしれないし、向こうの言うとおりにしよう。明日は忙しくなるな」
これを聞いた錐音は、驚きと涙でいっぱいになった。
好きでもないのに、無理やり結婚させられる。
王が結婚相手を選ぶものなので、選ばれたものはそれに従うしかない。
もし、逆らったりしたら、死刑ものだろう。
だが、それでも錐音は結婚することを反対していた。
今も、これからもずっと。
(ここを離れないと)
錐音は逃げることを決めた。
まだ学校を卒業してないが、このままでは結婚させられてしまう。
もう、錐音の選択は逃げるしかなかった。
もしかしたら、死刑になるかもしれない。
でも、錐音は結婚するより、死刑になったほうがマシだと思っていた。
急いで身支度をし、部屋を出る。
そして、大広間を通り、家を出た。
もう戻ることはないだろう。
今まで育ててきた親に感謝しながら、人間界へと舞い降りた。
それから月日が流れ、錐音は死神界に戻り、死神という職を何とかして手に入れた。
学校を途中で放り出したので、試験とか難しいものがあったが、努力一つで合格。
体力試験も合格し、見事、錐音は本物の死神となった。
その数週間後、錐音は葵と会い、守るべきものを見つけた。