第01話 クラスチェンジ相談室
「先生、俺はどうですか!」
「んーー……。」
目の前の男子生徒の顔を見て、意識を集中させる。
彼の隣に、白枠の情報ウィンドウが浮かんだ。
【佐藤亮太:転生ドリーマー】
【力:5】
【知恵:8】
【信仰心:2】
【生命力:5】
【素早さ:9】
【運の強さ:7】
【可能クラスチェンジ】
【メイジ】
【スカウト】
俺は腕を組んで、少しだけ悩み、告げた。
「スカウトだな」
「えっ!? スカウトって、盗賊ですよね?
勇者は駄目ですか?」
男子生徒は信じられないと言わんばかりに、目を見開いた。
俺は、思わず苦笑する。
「勇者は出てないな」
「う、嘘だ……」
「メイジもいけなくもないが……。
信仰心が低いから、あまり魔法を使えないぞ?」
あまりにもがっくりと肩を落とすので、フォローしてみたが、どうやら余計なお世話だったらしい。
「そんなー……」
男子生徒は、とぼとぼと進路相談室を出ていった。
入れ替わりで、女子生徒が入ってくる。
「私……。私はどうですか?」
太い黒縁の眼鏡に、今どきの三つ編み。
態度も自信なさげで、誰がどう見てもインドアタイプだった。
こんな子も、戦場に送り出さなければならない。
少なくない罪悪感を抱えながらも、意識を集中させる。
【山口ひかり:厨二患者】
【力:12】
【知恵:2】
【信仰心:7】
【生命力:14】
【素早さ:3】
【運の強さ:3】
【可能クラスチェンジ】
【ファイター】
息を飲む。
すでに百人ほどの生徒を鑑定してきた。
二桁の数値を持つ者は、十人に一人ほど。
それが二つもあるのは、かなり恵まれている。
「おっ!? すごいぞ」
「魔法少女になれますか!」
女子生徒が目を輝かす。
失敗した。
感想より先に結果を伝えるべきだった。
「いや、戦士だね。才能は高い」
「わ、私、文芸部なんですけど?」
女子生徒は、いやいやと首を振った。
「残念だけど、魔法適正は絶望的だな」
正直、告げるのが少し心苦しい。
明らかに、性格と適性が噛み合っていない。
それも、彼女の場合は戦士といっても、能力値的には攻撃を受け止める役割、いわゆる『タンク』だ。
果たして、彼女は前線に打って出れるだろうか。
だが、俺にできるのは進路を導くことだけだ。
「そんなー……。」
女子生徒は、絶望を背負いながら進路相談室を出ていった。
入れ替わりで別の女子生徒が入ってくる。
見慣れた顔だった。
「おつかれさまー」
「おう、次はお前か」
毎日のようにここへ顔を出しているせいか、他の生徒よりもやり取りは軽い。
彼女は、俺の机の前に置いてあるパイプ椅子には座らず、隣の机の椅子に腰掛けた。
「そんなに見つめられると照れるなー」
「……黙ってろ」
俺は椅子を回転させ、彼女の顔をじっと見る。
【柊ひなた:ギザギザハート】
【力:15】
【知恵:14】
【信仰心:13】
【生命力:14】
【素早さ:15】
【運の強さ:18】
【可能クラスチェンジ】
【ヒーロー】
【ファイター】
【ナイト】
【サムライ】
【メイジ】
【プリースト】
【ビショップ】
【スカウト】
【ニンジャ】
危うく、驚きで声が出そうになる。
動揺を隠すため、左手で肘を支えながら、右手で口元を覆う。
生徒たちの能力値を入力した、ノートPCを見る。
【神谷渉:元生徒会長】
【力:7】
【知恵:17】
【信仰心:15】
【生命力:10】
【素早さ:8】
【運の強さ:12】
【可能クラスチェンジ】
【メイジ】
【プリースト】
【ビショップ】
これが、彼女までの最高値だ。
彼女の数値は、破格と言うほかない。
特に『ヒーロー』のクラスは、初めて目にするものだった。
ヒーローを直訳すると、『勇者』になる。
間違いない。彼女は、固有のユニーククラス持ちだ。
「うーーん……。プリーストだな」
「そっか、他は?」
「プリーストしかないな」
だが、俺は真実を伏せた。
勇者なんて、なるものじゃない。
かつて、そう呼ばれた経験があるからこそ断言できる。
「じゃあ、強くなって、先生を癒してあげるね」
「俺はここから動けないんだが?」
「だって、いつも眠そうにしてるじゃん?」
それに、申し訳ないが、教師といえども、好き嫌いはある。
自分を慕ってくれている生徒を、勇者として最前線に送りたくなかった。
「おいおい、俺を寝かさない気か?」
「やだっ、先生のえっちぃ~っ!」
「違う! そういう意味じゃない!」
もう一つ言い訳をすると、彼女には友達がいない。
家が少し特殊な生業なのが、その理由だ。
そんな彼女に、皆を率いる立場を押し付けるのは、酷でしかない。
だから、プリーストにした。
皆から頼られる立場なら、自然と友だちもできるだろう。
「でも、先生ならいいよ?」
「止めろ! 誤解されるだろ!」
「別にいいけどー」
いずれにせよ、俺たちを異世界に転移させた『神』はクソだ。
そして、戦う力を持ちながら、生徒を戦わせることしかできない、俺はもっとクソだ。




