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白いストックを、君へ  作者: rara


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1/5

禁断の恋

約二百年前。


ティナ島へという一つの島国へ、アリセナ族とクルート族がたどり着いた。


そしてそれぞれの地で、二つの国を築いた。


かつては友好的だった二つの民族だった。


しかし領土を巡る対立は次第に深まり、やがて国境によって隔てられた二国は敵対関係となっていく。


――そんな時代の話である。


「ねぇ、私。“王女様”なんて呼ばれるの、未だに照れくさいのだけれど。そう思わない? ニオ」


「そうですね。私も“アリッサ王女様”という呼び方には、まだ慣れません」


柔らかな陽射しが差し込む午後。


アデナ城の中庭では、十七歳になったアリッサが護衛騎士のニオと共に穏やかな茶の時間を過ごしていた。


アリセナ初代国王ソンジェには、双子の娘がいた。


聡明で落ち着いた姉・アンジェラ王女。


そして、明るく自由奔放な妹・アリッサ王女。


城の者達は皆、対照的な二人を微笑ましく見守っていた。


ニオは元々孤児だった。


幼い頃から傭兵として生きてきたが、その剣の腕をソンジェ王に見出され、七年前からアリッサの従者となっていた。


「アルの魔法、また見たいわ」


アリッサ王女は楽しそうに頬杖をつく。


「ニオもそう思わない?」


「そうですね。ですがアリッサ王女様は、アルト王子様へ無茶ばかり仰るではありませんか」


「無茶?」


「“美味しいお菓子を遠国から取り寄せてほしい”だの、“無人島へ飛んでみたい”だの……」


ニオは呆れたようにため息をつく。


「アルト王子様も、毎回困っておられます」


「いいの。アルも楽しそうだから」


アリッサは悪戯っぽく笑った。


「次はいつ来てくれるのかしら」


アルト――。


それはクルート初代国王ケビンの息子であり、クルート国第二王子の名だった。


穏やかで優しい青年。


そして、生まれながらに強い魔力を持つ特別な存在。


炎を灯し、風を操り、夜空へ無数の光を浮かべるその力は、人々から奇跡のように語られていた。



アリッサは立ち上がると、自室のバルコニーへ出る。


遥か遠く。


クルート国の城がある方角を見つめ、そっと手摺へ触れた。


国同士の関係が悪化した今でも、アルトは密かに彼女へ会いに来ていた。


「アリッサ王女様は、不安ではないのですか?」


「不安?」


「アルト王子様との関係が、いつか公になることです」


アリッサは少しだけ視線を落とした。


今や敵対関係となった二国。


その王子と王女が密会しているなど、知られれば決して許されない。


バルコニーへロープを掛けて密かに逢瀬を重ねていた。


幼い頃から互いを想い続けてきた二人にとって、“会える”という事実だけが幸福だった。


「もし知られてしまったら……アルは国を捨てて、私と逃げてくれるのかしら」


冗談めかして笑う。


「……なんて。物語みたいな話よね」


「内心、馬鹿にしたいところですが」


ニオは苦笑する。


「それほどまでに、アリッサ王女様はアルト王子様を愛しておられるのですね」


その瞬間。


頬を赤らめ、照れたように笑うアリッサの姿を見て、ニオの胸は静かに痛んだ。


アリッサは、ニオが孤児だった頃から一度も身分で彼を差別しなかった。


真っ直ぐで、太陽のように明るい人だった。


振り回されながらも、惹かれてしまうのに時間は掛からなかった。


「……やっぱり、言わなければ良かったです」


小さく落ちた呟きは、アリッサには届かなかった。



「アルト。お前はいつまで、隠れてアリセナへ通うつもりだ?」


同じ頃――クルート国王城。


夕暮れの差し込む執務室で、アルトは書類へ目を通していた。


そこへ、第一王子カレラが呆れたような声を掛ける。


「またその話ですか、お兄様」


アルトはペンを置き、深く息を吐いた。


真面目で融通の利かない兄とは、昔からよく衝突していた。


特に、アリッサのことになると尚更だ。


「“また”ではない」


カレラは眉を寄せる。


「私は本気で言っているんだ。敵国の王女と密会しているなど、知られれば大問題では済まない」


「そんな失敗はしませんよ」


アルトは淡々と答える。


次の瞬間、彼の指先へ淡い光が灯った。


小さな火球が生まれ、空中をゆっくり漂う。


やがて幾つもの光となり、部屋の中を静かに舞った。


幻想的な光景だった。


カレラは複雑そうに目を細める。


同じ王家に生まれながら、アルトの力は明らかに特別だった。


民衆は皆、強大な力を持つ弟こそ次代の王に相応しいと口にする。


それを誇らしく思う気持ちもあった。


だが同時に、危うさも感じていた。


普段は穏やかで理性的な弟が、アリッサのことになると驚くほど無鉄砲になるからだ。


「お前には何を言っても無駄だな……」


カレラは諦めたように肩を落とした。


「そういえば、アザミお祖母様がもう長くないらしい」


アルトの表情が変わる。


「明日、一緒に会いに行かないか? 最期にお前と話したがっているそうだ」


「……分かりました」


アルトは素直に頷いた。


アザミは父方の祖母であり、既に高齢だった。


心臓を悪くしてからは、城を離れた静かな離宮で療養している。


「本当に、勝手な真似はするなよ」


部屋を出る間際、カレラは振り返る。


その声音には、兄としての心配が滲んでいた。


だがアルトは小さく笑うだけだった。


今夜、アリッサへ会える。


そのことを思うだけで、胸が満たされていた。


いつか訪れる別れなど、考えもしないほどに。


アルトは、深く恋へ溺れていた。

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