アクスレの縁
本作品はカクヨムにも投稿しています。
「ただいまー」
誰もいないことはわかっているけど、習慣というのは変わらない。
一応の帰宅の挨拶だけして、僕はいそいそと部屋へ向かう。
今日は安奈は外食してくるから、夕飯の支度はいらない。
冷凍食品かカップ麺で適当に済ませればいい。
ささっと部屋着に着替えて、僕はゲーム機を起動する。
久瀬さんにお勧めしてもらったアクスレをさっそく購入した。
久瀬さんとも話したけど、この作品は僕より少し上の世代で特に流行したゲームで、僕自身はほとんど触れたことがない。
世間からの評価やなんとなく作品の概要は知ってるけど。
「王道っぽく見せておいて、結構ダークっていうかシリアスっていうか、そういう系……なんだっけ」
じりじりと進むダウンロードのシークバーを眺めながら、僕はネタバレなしのレビューに目を通す。
久瀬さんのお勧めだし、そもそも世間的な評価も高い作品だし、間違いはないんだろうけど。
「おっ……きたきた」
ダウンロードが終わり、さっそくスタート。
「おぉ……。ふんふん……うわー、見たことあるなこの人」
当時テレビCMでよく見てたグラフィックに思わず懐かしさを覚えながらも、僕はストーリーを進めていく。
といっても、RPGはキャラのレベリングや装備集め、強化の必要なゲームだ。
急ぐ必要もないだろうし、まったりのんびりやっていこ──。
「──止め時を見つけられなくて、結局ほぼ2徹でやってたんだよね……」
「それで寝不足なんだ?」
週が明けて月曜日。
1時間目の授業からさっそく寝落ちしかけた僕は、先生に注意されてしまった。
そんな僕を珍しく思ったみたいで、隣の席の高瀬さんは興味深そうに聞いてきたわけだ。
別に授業中に寝そうになること自体は、そこそこあるんだけど。
……いや、僕が寝かけてるときは高瀬さんはほぼ確実に寝てるから、気づいてないだけか。
「そんなに面白いんだ。そのア……アク……アクなんとか」
「アクセラストレイヴ」
「それ、アクスレってやつ?」
「なに小堀、知ってるの?」
意外なところから言葉が飛んできて、僕は目を見開いた。
椅子に背を預けながら振り返ったのは、斜め前の席の小堀くんだ。
小堀くんとは、席替えした直後くらいしか喋ってない。
「兄貴がやってたんだよ」
「へぇ~。小堀ってお兄ちゃんいたんだ?」
「前に言ったろ」
「おぼえてな~い」
「適当女が」
吐き捨てるように言うと、小堀くんはちらりと隣の安奈の席を見た。
安奈は授業が終わってすぐ、教室を出ていった。
「小堀はそれやったことあるの?」
「いや、俺は横で見てただけ。俺はどっちかってーとトップウイレ──ま、どうせお前らゲームなんかしねぇもんな。なに言っても無駄か」
「そんなことないよ? この前ゲームセンターで格闘ゲーム教えてもらったもん。ね、隠くん」
「へ~。そりゃ意外」
「安奈と一緒に」
「は?」
瞬間、これまでとはまるで違う小堀くんの視線が飛んできた。
えっと、これまずいやつでは?
「あ、安奈」
「熱莉」
するとちょうど、席を立っていた安奈が戻ってきた。
「おい熱莉、お前格ゲーやったのか? 隠と?」
「は? なにいきなり。やったけど」
いつも通りの塩対応。
心底どうでもよさそうに安奈が答えると、対照的に小堀くんの視線の圧が強まった気がする。
「隠。昼休み、ちょっと付き合えや」
「ひっ……は、はい」
……こ~れ相当まずいやつなのでは?
もしかしなくても大ピンチ。
僕の高校生活、終わったかもしれない。




