定義の確認
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「あーあ」
「……」
「あーあ」
「……」
「あーあー」
「さっきからうるさいよ坂本くん」
「だってさぁ。……はぁ、もったいねぇ」
ゲームセンター帰り、僕たちはラーメン屋で夜ご飯を食べて帰路についていた。
その間ずっと坂本くんはこの調子だ。
「せっかく高瀬さんたちと一緒にご飯食べるチャンスだったのにさぁ、なーんで断っちゃうかね」
「仕方ないでしょ。あ……熱莉さんが露骨に嫌そうな顔してたんだから」
安奈たちとゲームセンターで格ゲーについて教えた後、高瀬さんが「どうせなら一緒にご飯行こうよ」と言い出した。
坂本くんは乗り気だったけど、安奈が本気で嫌そうな表情をしてたから遠慮して今に至る。
「熱莉はいつもあんな感じじゃん」
「いやそんなことはー……あるかもしれないけどさ」
否定しきれないのが幼馴染としてはふがいないような気もするけど、実際安奈はいつもあんな感じというか、ダウナーだからなぁ。
別に笑ってるところを見ないわけじゃないけど、あまり関りがない人には向けられることはまずないし。
「坂本くんだってさ、嫌じゃない? 僕じゃなくてもいいけど仲良い人とご飯行くときにさ、あまり仲良くない人が急に混ざったら」
「嫌だな」
「そういうことだよ」
「そういうことなら仕方ないか」
理解が早くて助かる。
いやまぁ、そういう状況ならほとんどの人間が嫌がると思うけど。
「っていうか……ちょっと意外だな。坂本くんが高瀬さんの案に乗り気だったの」
「ん? そうか?」
僕の言葉を、それこそ意外に感じたのか坂本くんは目をぱちくりと瞬かせていた。
「だって坂本くん、陽キャ嫌いじゃん」
「いやいや、俺が嫌いなのは偽物の陽キャだけだから。高瀬さんみたいな本物はいーの」
「なにそれ。陽キャに本物も偽物もなくない?」
意味がわからずに聞いてみると、坂本くんは「わかってないなー」と言いたげにため息を吐いた。
「わかってないなー」
言った。言いたげじゃなくて言った。
「5人中4人が陰キャのオタク仲間、最後のひとりは自称陽キャ。そんなとき、自称陽キャがぶすーって黙りこくってつまらなそうにしたり、他のグループの自称陽キャ仲間に絡みに行くの。学生生活で1度くらいは見たことあるだろ?」
「んー……あぁ、ある。あった」
「結局アイツらはさ、自分の仲間内とじゃないとしゃべれねぇんだよ。それってよ、俺らとおんなじじゃんか」
自信満々に言うのもどうかと思うけど、たしかにそうかもしれない。
仲間内ではよくしゃべり、笑い、騒ぎ、遊び。
「陽キャってのはさ、明るく社交的な人間だろ? 自分の仲間内でしかそう振舞えない人間ってさ、陽キャなわけなくない?」
「んー……まぁ、そういう解釈もある……かな?」
「けど高瀬さんは違う! あの人は誰相手でも平等! ……いやまぁ、実際仲が良い人とそうでない人で温度差はあるけどさ、多少。けどオタク相手だからって露骨に塩対応になったり馬鹿にしたり、そういうことはしない人だよ」
たしかに高瀬さんがオタク相手でも軽蔑したり距離を取ったりしようとしてないのは、今日の1件からでもわかる。
わかるけど、なんというかその考え方はいささか。
「思想強くない?」
「強くねーよ! 俺は正しい言葉の意味について話してるんだ!」
「そうかなぁ~」
そもそも陽キャって言葉の定義が曖昧というか、坂本くんの言う「明るくて社交的」ってだけではない気がする。
もちろん本当に言葉の意味通り、正しく陽キャを求めるなら高瀬さんみたいな人のことを言うんだろうけど。
「隠の言いたいことはわかる。世間的には陽キャ陰キャって、カーストの上位下位みたいな区分なんだよ」
「えっと……まぁ、あんまり悲観的なことを言いたくはないけど、そうだよね」
「ああそうだ。けどだからこそ、俺はそう思わない人を尊いと思うんだ。それこそ、ロキちゃんとかな! オタクに優しいギャル最高!」
「結局その話になるんだ」
グッとガッツポーズをする坂本くんに、僕は呆れの視線を向けざるをえない。
途中まで真面目な話してたのに。
ロキちゃんは僕らがよく見ている、いわゆる推しのVtuberだ。
最近は僕もリアルタイムで追えてないけど、アーカイブは見てる。
……思い返せば、最初にあの計画が浮かんだのも、この話がきっかけだったな。
進捗は微々たるものだけど、少しずつ安奈がアニメや漫画に触れる機会が増えてる。
この調子でいけば、いつかは安奈を「オタクに優しいギャル」にすることも不可能じゃないかもしれない。
まぁ、したところでなんになるんだって話ではあるんだけど。
「ロキちゃん、今度アルカナの同時視聴するんだぜ? 最高だよな!」
坂本くんは配信枠を見せつけながら、楽しそうに笑ってる。
あんまり笑顔を見ることのない安奈が、こういう風に笑ってくれるところを見れるなら、この計画にも意味があるかも──なんてね。




