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前世のパパは同級生(虫が湧く。2)  作者: 青風ぱふぃん


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19/20

19. 前世も今世も人(妖)の縁

「おとうさーん!」

 私は猛ダッシュで池に向かって走り、岸で踏み切って思い切りジャンプする。


「うわあ! 木綿ゆう! 危ないよ」

 おとうさんは慌てて駆け寄って、私が水に落ちる直前に抱きとめてくれた。


「本当に、お転婆なんだから……」

「えへへー」


 私はおとうさんにぎゅーって抱きついて、おでこをスリスリ擦り付けた。


「仕方ないなぁ」

 おとうさんは岸に上がり、私をそこに下ろす。

 今回は抵抗せず素直に下ろされた私は、そのままおとうさんの腰に抱きついて胸に顔を埋める。


「で、森の主の件ですが……」

「そんなことよりおヒメちゃんから離れろよ、魚!」

 おとうさんが話し始めたのに、シキが被せて文句を言う。


「おとうさんを魚って呼ばないで!」

 私はおとうさんにしがみついたままシキを睨む。

「良いんだよ、木綿ゆう

「良くないもん」

「うん、そうか、木綿ゆうは優しいね、よしよし」

 言いながら、おとうさんは私の頭を撫でてくれる。


「イチャイチャすんなってばぁ!」

 シキがギャーギャー言ってるけど知らない。


「おとうさん、森の主のおじいちゃん、何だって?」

「ああ、私が大怪我したのを見ていたらしくて、このあたりの草木を通して力を送って下さってね。だいぶ回復が早まったんだよ」

「そうなんだ……よかった……」

 おとうさんやっぱり瀕死だったのかな。森の主さん、ありがとう。


「お前を蛇の姿で脅しつけたお詫びだと言っていたよ。木綿ゆうのおかげだね」

 にこ、と私に笑いかけてくれたおとうさんは、それでね、とシキに視線を向ける。


「不穏な気配がここを中心に円を描いているって仰ってました。何かあったら雷獣を差し向けるから、使ってやってくれ、と」


「なるほどねえ」

 シキは上を見上げる。

 雷獣はカリカリと爪で結界を引っ掻いているが、傷の一つも付けられていないように見える。


「……役に立つのかなぁ、あの獣……、いや、虫?」

 シキは首を傾げてから、私たちに視線を戻す。


「と言うかさあ! 銀、お前いつも出てくるの一歩遅くね!? 結界が張られるずっと前に森の主が警告してくれてたんじゃん! こっちが散々困ってから出てくるの、やめてくんない!?」


 おとうさんは、あはは、と笑う。

「いやいや、なるべくにかわ屋殿の見せ場を奪わないようにと配慮したんですよ」

「要らない配慮!」


 ふざけて誤魔化しているけど、多分違うんだろうな。

 人型を取るのは本当に大変なんだろう。これでも精一杯、私のために人型を取ってくれているんだ。


 シキもきっと本当はそれを分かっている。

 しょーがないなあ、とひとつため息を吐くと、シキは私に視線を移した。


「おヒメちゃん、やっぱ最初の計画通り、虫を呼んでよ」

「んー」

 私はちょっと首を傾げ、ちらりと不空へ目線を動かす。うん、大丈夫かな?


「うん」

 私は頷き、おとうさんから手を離した。

 結界内を見渡すようにしてひとり立った次の瞬間。


 土の中から。


 水の中から。


 草原の草の下から。

 木の幹の奥から葉の陰から花の中から。


 飛び、這い、跳ね、うごめき。


 見渡す限り。満遍なく。


 広い結界内に満ち溢れるほど大量の虫が湧いた。


   *   *   *


 最初に不空さんを捕らえて置き去りにし、虚空とシキと三人で結界の中をぐるりと回ったとき。


「どう? おヒメちゃん」

「うーん、地面の中もダメみたい」

 私は虫を使って土の中の結界の様子を探って言った。土の奥の奥まで丸くぐるりと分厚い結界が張られていて、ダニみたいな小さい子ですら抜けられそうにない。


「外の虫は呼んでも来ないなぁ。なんかこの外側には近寄りたくないみたい。結界の核とかいうやつ探してほしかったんだけど、ダメっぽい。……あと、植物の根とか枝とかは外と繋がってるみたい……? ……あ、でも木の中を通っても外には出れないって。カミキリムシくんが結界のとこで通れないよーってなってる」


「ほー、良い情報。結界を抜けられるものがあるってことだ」


 シキは自分の手を見つめて数度ぎゅっぎゅっと開閉し、その手で結界に触ろうとする。が、バチンと弾かれて、チッ、と舌打ちした。


「植物に擬態してもダメかぁ。にかわ屋を弾くよう設定されてるなぁ。あの扇といい、どんな術式になってんだろ」

 ……植物に擬態? いろんなこと出来過ぎでは?

 私の疑問に構わず、シキは虚空を振り返る。


「……なあ退治屋。コレ妖気らしいけど、法力で中和できる?」

「うん?」

 その言葉を受けて虚空は結界の壁に手を触れる。ふわ、と一瞬そこが薄くなったように見えたが、あっという間に周りから壁が流れ込んできて、すぐに元の厚さに戻った。


 虚空は壁を見上げて、

「流石にこの量は消しきれないな」

 と首を振った。


「なるほどね……。……じゃあおヒメちゃん、おヒメちゃんの虫でコレ食べれたりしない?」

「うん?」

「妖気は妖怪が吸収できるからさ、どうかなと思って。食べ過ぎると雷獣くんみたいになっちゃうけど、おヒメちゃんの虫は数が多いから、皆でちょっとずつ食べたら無くならないかな」

「んー」

 近場の虫に声を掛けてみる。


「……うん、美味しいって言ってるから、食べれはするんじゃないかな? 量は……、分かんないけど」


 あっこら、あんたたち、食べ過ぎちゃダメだよ。おなか痛くなるよ。


 なんだか嬉しそうにもぐもぐ壁を食べている虫たちを、私は一回引かせた。


「でも私、不空さんの前では虫たちを出さないよ。たとえ一匹でも、殺されちゃったら嫌だもん」


 うっ、と虚空が固まる。そうだよね、前に私の虫たちを沢山殺してくれたもんね。


「そ、その節は……、すまなかった……」


 謝られてもさ。

 私はぷいと横を向く。


 シキが、プッ、と笑った。 


「……そっかぁ。じゃあそれは最後の手段に残しとこうね。そしたら、まずはボクが不空あいつをこてんぱんにして、結界を平和的に解除させる方法から試そうか」


 ……『こてんぱん』と『平和的』が一文の中で矛盾してる気がするけどなぁ……。……まあシキだし、殺さないだけ平和的と思ってるのかもしれない。


 ……そんなわけで、今。

 不空さんが戦意喪失してるのを確認して、私はありったけの虫を呼び出した。


   *   *   *


「うおっ!?」

 突然虫に囲まれ、驚きの声を上げて、不空が立ち上がる。袈裟と帽子を慌てて拾い、胸元に抱えた。


「不空さん、うちの子たち踏まないでくださいね?」

「えっ、あっ、ああ……」

 人の足もとには寄らないように虫たちには言ってある。そもそも法力を嫌って不空と虚空の足もとは広く空いているので、駆け回ったりされなければ虫たちは無事だろう。


 ブゥン、と音を立てて、飛べる虫たちが上空の結界に取り付く。地面からザワザワと登る虫、モゴモゴと土に潜る虫。

 皆、無理しない程度に食べてね。


「……凄まじいな……。戦闘でこれを出されたら、我らも苦戦しただろうに」

 不空がまわりを見回して言う。


「嫌ですよ。あなたたち躊躇いもなくこの子たちを蹴散らすでしょう」

 家族を盾に助かる気なんてありませんよ、とブツブツ言ってたら、不空がきょとんとした顔をして、次いで笑い出した。


「なんですか!」

「いや、すまない、そうだね、家族は大切だものね」

 そして、ふー、と息を吐き出す。

「……そうだね、人だ妖だ、虫だ獣だと……、私は傲慢だったな」

 そんな不空の肩に、トン、と虚空が手を置いた。ビクリとした不空は、ややあって無言のまま小さく頷いた。


 ……仲直りしたなら良かったな。


「……だが……、すまないが、多分これでも結界は破れないと思う。外にある結界の核……、妖の殻や骨から、延々と妖気が供給されるからね」

「はあ? どんだけ沢山妖怪の残骸使ったんだよ!」

「いや……、数もそうだが、周囲の妖気を集めて結界に転用するよう術式を組んだんだ」

「うわー! 終わらないやつ!」

 シキがガシガシと頭をかきむしる。


 私はひとり納得していた。

 なるほどね、外の虫たちが近寄りたがらないはずだよ。近寄ったら妖気吸われて干からびちゃう。


 どうしようかなぁー、とシキが腕を組む。

「にかわ屋の力で無理矢理消し飛ばしても良いんだけどさぁ、そしたらこの辺でどんだけ人が死ぬか……」


「にかわ屋を弾くようにも術式を組んであるから、消し飛ばすのは無理だろう……」

 すまん、という不空に、シキが柳眉を逆立てる。


「はあ? 舐めるなって言ってんだろ」

 シキがバッと右手を上げると、その直線上の先、丁度虫が取り付いていない壁が、バチバチバチッと音を立てながらひび割れていく。近くの虫が、わあーっ、と散るようにその場を離れた。


 直ぐにパッと手を引いたシキは、痛てててて、と右手をパタパタ振った。


「……この程度だよ。いてて、くらいだ。本気になったら吹っ飛ばせる。……でもこの量を吸収もせずふっ飛ばすとなぁ。命の海が荒れるんだよな……」


「その海とやら、荒れると困るのか?」

 不空が聞く。


「ボクらにかわ屋は、海の上に浮いた泡みたいなもんだ。揺れると気持ち悪いんだよ」

「お前が気持ち悪いだけか……」

 不空が呆れたように言う。


「あと、ついでに、世界がバランスをとるために、消えた妖気に相当するだけの生気を消滅させる」

「……生気を?」

「人や獣がたっくさん死ぬってこと」


「……そっちのほうが大問題だろう!」

 驚く不空に、シキが苦笑する。

「だからずっとそう言ってんのにさ。今さらやっと聞く気になったわけだ」


 う……、と唸って不空は下を向く。

 もご……、と謝罪を口にしかけたところで、


「大丈夫ですよ、来ました」


 おとうさんが結界の外に目を向けながら言う。

「えっ?」

 おとうさんの視線を追って外を見る。


「うわぁ!」

 見ている目の前で、ざわ、と草が動き、みるみるうちに伸びていく。

 あっという間に、人の背丈より高く生い茂った。


「キュー!」

 雷獣くんが結界の上からピョーンと飛び降りて、草むらの向こうに姿を消す。


 同時に、バキンッ!! と結界が音を立てる。


「わっ! やばいやばい割れる!」

 シキが焦った声を上げ、見れば地面の下から天へ向かって、2本、3本と結界にひびが入っていく。


「……根だ」

 私は虫を通して様子を見て言う。


「根?」

「結界を貫通してた木や草の根を軸にして、結界にヒビを入れてる」

「マジかー、なるほどねー。草の根は強いもんなー」

 シキは納得して頷いている。


「そう!? 草だよ!?」

 驚く私を見て、シキはあははは、と笑う。

「草も強いんだけどねえ。ま、つまり森の主の力でしょ?」

 シキがスッと外に目を向ける。


「何日ぶりですかな」

 雷獣を従えて、草むらの中から品の良いスーツ姿の老紳士が現れ、ソフト帽に手を置いてゆったりと頭を下げた。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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