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前世のパパは同級生(虫が湧く。2)  作者: 青風ぱふぃん


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18/20

18. 前世の罪の償い方

「『妖怪喰らい』……? 私が?」

 不空が伏せた地面から半身を持ち上げ、きょとんとシキを見上げる。


「多少は殻も削ったし、今だいぶ法力も放出したから、ちょっと楽になってない?」

「…………」

 シキの言葉に、不空は自問するように泥だらけの自分の身体を見下ろす。


「全部の生気を法力に変換して放出できてれば良かったんだけどねえ、殻が分厚過ぎて通りが悪くて、少しずつ溜まってく一方だったんだねー」

 

 一反木綿がふわりと戻ってきて、虚空が差し出した右腕に包帯のようにシュルシュルと巻き付いていく。

 私はつい

「わあ、厨二病モード」

 と口走ってしまい、虚空に睨まれ、シキを大いに笑わせた。


「……不空、ほら。一反木綿がくっついてる方は、法力が流れないから」

 虚空は右手を差し出して、不空が立ち上がるのに手を貸す。


「……体調は大丈夫か?」

「……うむ、まあ……」

 そう答える不空は、最初の頃と比べて確かに毒気が抜けている。


「空気抜きに少し魂殻クチクラにヒビを入れてあげようと思ったんだけどさ、思ったより分厚くて。かち割っちゃうとマズいから削る方向に切り替えたんだ」

「……そうか。誤解して喧嘩を売って、悪かった」

 虚空がシキに謝る。シキは何でもないことのように、あはは、と受け流した。


「クチクラ?」

 ってなんだろう。と思って思わず呟いた私に、シキが、ん、と振り向いた。

「うん、かっこいい呼び方でしょ。本来は卵の表面とか虫の外骨格とかのことなんだけど、魂の殻にもぴったりだなって思って、たまにそう呼んでるの」


 それにしてもさ、とシキが言う。

「死に際で文字通り必死だったんだと思うけど、おヒメちゃん、魂殻クチクラめっちゃくちゃに塗り重ね過ぎだよ」


 まあ、呪いとしては完璧だったねと笑うシキ。

 ……私はどんな顔をしたらいいの!


「……あ、そうだ、そんなことより」

 シキはふと何かを思い出したように改めて不空を見る。


「なあ、もう妖怪を殺す気なくなった?」

「いや……、まだ衝動は消えないが……、うん……確かに弱くなっている……。そうか、『妖怪喰らい』か……」

 不空はゆるゆると頭を振る。


「この衝動の理由がそれなら……、これは、正義感ではないんだな……」

 ふう、と一息吐き出して、不空は天を仰ぎ見る。


「ああ、まだ気持ちの整理はつかないが……、一先ず休戦ということにしてもらっていいかい? 考える時間が欲しくてね」

「うん、少なくともボクとおヒメちゃんを襲ってこないなら良いよ」

「……すまないね」

 不空はのろのろと汚れた袈裟と帽子を脱ぎ、それを畳んで丁寧に草の上に置く。そしてそのまま地面に座り込み、疲れたように肩の力を抜いた。


「不空さん……」

「……けい

 沈み込むように俯く不空を心配して、私と虚空は思わず呼び掛ける。だが、ここからどう話をしたら良いのか分からない。


「それでさ、さっさとここから出してもらっていい?」

 その気まずい沈黙を破って、あいも変わらずノンデリのシキがケロッと明るく言う。


「ああ……」

 シキの言葉に、不空は困った顔をした。


「……本当に、術の核は結界の外にあるのでね、私にも解くことはできないんだよね……」

「はぁぁぁあ!?」

 ばっっっかじゃないの!? とシキが叫ぶ。


「早くしないとさぁ、ちょっとマズいと思うんだけど!」

「なんだね、何か心配事があるのかい? 数学の課題かな? それなら手伝おうか」


 いやいやいや、今自分で出れないってはなししたのに、数学どころじゃないでしょう。不空さんもなんかピンボケだな。


「問題はそこじゃなくてさ」

 シキもちょっと呆れたように言う。


「ねえおヒメちゃん、殺生石のお守り、持ってるよね?」

「ああ、うん、この大量殺戮兵器?」

 私はポケットを探り、小さい巾着袋を取り出した。


「それさあ、ボクの姫……、おヒメちゃんのかかさまと繋がってるんだ。かかさまは封印の中で微睡みながら、ふんわりとおヒメちゃんを感じてたんだよ。で、結界は世界とここを切り離したんだよね? つまり……」

「ああ、外とは繋がりが切れただろうね」

 シキに目線を送られて、不空が頷く。


「マズいよねぇ。突然接続が切れたら姫が心配して、何し始めるかボクにもわかんないんだよね……」

「……九尾が封印を解いて暴れ出すかもしれないってことかい? それは確かにマズいかもね……」


 その時。


 ガガガガガガガン!!


 ものすごい音と光とともに、結界全体が振動する。


「うわあっ! なになに!?」

 咄嗟に頭を抱えて屈み込んだ私の上に、覆いかぶさるようにして虚空が私を庇う。


「大丈夫か!」

「あっ、う、うん」

 外を警戒しつつ一反木綿の右腕を盾のように構える虚空は、ごく自然に私を庇い、今も当たり前のように私を抱え込む。


 いつもだったら割って入ってくるだろうシキも、緊張して結界の外をひたすら伺っている。


 ……どうしよう!

 頬に集まる熱に、早まる鼓動に、そんな場合じゃないじゃん! と私は自分に言い聞かせる。


 そもそも私は虚空の奥さんのかたきだよ? こんな反応していい立場じゃないでしょ!


 ……自分で言ってて泣けてきた。


「すっごい雷。やっぱ姫様来てるかなぁ……。おヒメちゃん、大丈夫だっ……」

 外を警戒しつつも、私を振り向いたシキは、

「だから、退治屋!! おヒメちゃんを泣かすなって!!」

 と怒鳴る。

 私は慌てて顔を伏せる。ちょっと涙ぐんでるだけなのに、シキは目ざといなぁ。


「泣っ……!?」

 ハッとした虚空は、私を抱え込んでいた事にやっと気がついたように、慌てて私を離して後ろに下がる。

 私はひとつ息を吐き、滲んでいた涙を拭って立ち上がり、虚空から目を逸らして遠くを見た。


「す、すまん、無意識に……」

「なに! 退治屋、どこ触ったの!」

「触ってない! 触ってない!」

「どさくさに紛れてぇ!」

「誤解だって……!」


 シキと虚空がわあわあと言い合っているのが、遠くに聞こえる気がする。


「おヒメちゃん大丈夫? ……おヒメちゃん?」


 シキの言葉を無視して、私は結界の外に視線を固定し、呟く。


「妹?……いや……、誰?」


 結界の外、滝の落ちる奥の岩場の上。

 前世の『妹』に似た綺麗な女性が、十二単の装束を風にあおらせながら、悠然とこちらを見下ろしていた。


   *   *   *


 結界の内側は僅かに薄暗く、風も淀んでいる。

 そこから見上げる結界外の岩の上は、夕日を浴びて神々しいほど眩しく、風に靡く長い黒髪は花の香りを運んでくるかのような錯覚を覚える。


「姫!」

 嬉しげにシキが叫び、ただ見惚れていた私はハッと正気に返る。


「狐……っ」

 衝動的に殺意を滾らせた不空は、次の瞬間にはグッと唸り、目を瞑って深呼吸をする。


「……すまないね、にかわ屋くん」

「あーうん、大丈夫、うちの姫様はヒトの感情を昂らせるからね。襲いかからないようにだけ気をつけてね」

 シキは答えながら、怖い笑顔でニッと笑う。


「性的に昂る奴がいなくてよかったよ、そんな奴はボク殺したくなるからね」


「……あんな怖ろしいモノにそんな感情を抱けるわけないだろう」

 虚空が言い、シキが首を傾げる。


「あれ、意外と居るんだけどな」

「……意外と居るの?」

 シキが殺したくなる人たちが? とは言わずに私は言葉を飲み込んだ。


 シキは静かに笑みを深め、だが何も言わずに岩の上の女性に視線を戻す。


「……あれっ」


 見れば、岩の上の女性はふっと視線を逸らし、どこかを見つめたかと思うと、無表情のままスッと姿を薄れさす。


「えっ、姫、姫様! 消えんの? 待ってよ!」

 慌てたシキの声に何のリアクションもなく、女性はふわりと風に消えた。


「……実体じゃないのかぁ! 久しぶりに会えたのに、姫様冷たい!!」

 もうちょっとさあ、なんかさあー、こっち見てくれるとか笑いかけてくれるとかさあー! と言いながら、シキは地面に膝を付き、そのまま倒れてゴロゴロと駄々っ子のように転がる。


「…………妹にそっくりだった……」

「はー……、ああ、うん、そうだね」

 一通り駄々を捏ねたシキは、私の言葉にムクリと立ち上がった。


「あの『妹』たちは、姫様、つまり君のかかさまの姿を写してるからね」

「えっ?」

「ボクは姫童子ひめどうじって呼んでるよ、姫様とおヒメちゃんに仕える者たちって意味でね」

「え、え?」


 ど、どういうこと?


 だがシキはもう説明する気がないようだ。


「姫が行っちゃったなあ、どうしようかなぁ。なんか、何かを確認して『私が出張でばるまでもないな』みたいになった雰囲気だったなぁ……」


 そこへ。


 ドン! ドドドドン!!


 再び光と音と衝撃が連続で襲ってくる。


「うわっ、なになになに、また雷!?」


 ぱっと目を上げると、

「キュキュー!」

 元気な鳴き声がする。


 結界の天辺近く、雷獣くんが結界に爪を立ててしがみついていた。


   *   *   *


「雷獣くん……?」

 私が声を掛けると、雷獣は嬉しそうに答える。

「キューキュー!」

「え、そうなの?」

「チー! チチー!」

「ダメだよ、無理しないで!」


「いやいやいやいや、おヒメちゃん」

「何? シキも止めてよ、雷獣くんには無理でしょ!」

 雷獣との会話に割り込んできたシキに、私は文句を言う。


「いや、あのね、雷獣の言葉はボクらにはわかんないわけよ」

「えっ?」


 ……………………。


「あっ、そうか!」

 今さら驚いた私に、皆して苦笑いを返してくる。

 ぐぅ、恥ずかしい。


「あのね、雷獣くんがこの結界を割ってくれるって言ってるの。妖気で出来てるから、ボクが食べるよー、とか言ってるんだけど、割るのも無理そうだし、もし割れても食べ過ぎでまた雷獣くん巨大化しちゃうんじゃない?」

「なんだってぇ? こら! この食いしん坊! また苦しくなるぞ、懲りろ!」

「キュー!!」

「何?」

「…………うっさいバーカ、だって……」


「こっの野郎ー! 今度こそ魂殻クチクラかち割ってやるぞ、覚悟しろこの天然お馬鹿!」

「チッチチー」

「今のはなんとなくわかったぞ! やれるもんならやってみろって言ったろ! よーし後悔するなよ!」


 ……合ってるなぁ。伝わるもんだなぁ。……同レベルってことかな?


「シキ、シキ。やめたげて。この子、森の主の言いつけで来てるんだってさ」

「森の? ホテルの中庭で会ったあいつ?」

「そうみたい」

「あー」

 シキは雷獣に向けて振り上げていた拳を下ろす。


「あいつが関わってるのか……。なるほどね。それで姫が譲ったのか。……あー、ってことは……」

 シキは滝に目を向ける。それに応えるように。


 ……ザァッ。


 滝壺から水柱が立ち上がる。


「妙にお前の怪我が浅いと思ってたんだよ。そういう事ならさっさと説明しろ、アホ魚」


 水の柱が割れ、流れ落ちる中から、困り笑いのおとうさんが飛沫を振り切るようにして姿を現した。


 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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 次もよろしくお願いします!

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