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前世のパパは同級生(虫が湧く。2)  作者: 青風ぱふぃん


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12/20

12. 前世はあったんだね

「お前……、何か……察して……?」

 私の言葉に、後見人は不安げな声を発する。


「……シキからちょっとだけ聞いた。私を恨んでることも。だから、言いたいことを飲み込んでるんなら……、それが苦しいなら、吐き出しちゃってくれていいよ」


「は……?」

 困惑を顔に貼り付けて、後見人は一歩下がり、次いでギリッと歯を食いしばってシキを睨んだ。


「にかわ屋!! てめえ!!」


「きゃー、こわーい」

 シキは大げさに怯えてみせると、私を抱えて再び岩の上へぴょんと飛び乗った。

 高い! 不安定!! 怖い!!


「だーいじょーぶだよ、大したこと言ってないから。あんたにあんまり近づくなって言っただけだよ」


「おお、その通りだね。その点については賛成だ。……わかったかい、そこの妖」

 革コートの人がシキに向かって軽く拍手をする。そして、私をビシッと指差す。

 シキじゃない、私だ。私とばっちり目が合っている。


「え、私? ……妖?」

「そうだ、にかわ屋二代目。ていを誑かすな、この悪女」

「タブラかす? 悪女!?」


 今までマンガとかでしか見たことのない単語で次々呼ばれる。

 リアルで聞いたことなさすぎて逆に罵倒されてる実感がわかない。


「た、誑かすつもりはないです……」

 どっちかと言うと罰されるつもりでいます。


「おやおや」

 革コートさんは鼻で笑う。


「何処がだい。前世と変わらぬその姿で、ていの周りをチョロチョロしてて……」


「あ、私、前世と変わらないんですか?」


「ん?」

 不審そうな声を上げたあと、革コートさんは小さく頷く。


「ああ、記憶がないとやらは本当か。そうだね、そのちんちくりんで貧相な容姿は前世そのままだよ」


「ちんちくりんで貧相っ……」

 思わず復唱して私は絶句する。すごいこと言われたな。やっと罵倒されている実感がわいてくる。


けい! いい加減にしろ、その子は普通の人間として生まれ変わったんだから、前世はもう関係ないんだ! オレとは関係なく……、あんな酷いことをすることもなく……、普通に……人間として幸せに……」

 ぎり……、と拳を握ったのが岩の上からでも分かった。


 胸がギュッとなる。私の前世の罪を見逃してくれようとしてるんだな。でも、すごく無理をしているのが伝わってくる。

 そして、酷いことは、やっぱりしたんだな。

 それを覚えてないことも申し訳なく思った。

 

「……だから、余計なことはするな、けい


 後見人の言葉に、革コートの人は軽く目を見開き、ふうん? と首を傾げる。


「ああ……、そうなのかい? ていがそのつもりなら、じゃあその件は構わないとして」


 コートの袖口からゆるく握った拳を覗かせて、男は、つい、と腕を上げる。


「にかわ屋は倒しておかないとね」

 男はピンと指を弾く。


「……ちっ!」


 チンッ!


 シキが舌打ちをすると同時に軽い金属音がして、岩の上に何かが刺さる。


 見れば、小さな針で、あの男が撃ってきてシキが弾き落としたものだと判った。


 ……刺さる? 岩に? 針が?


「うわ、めんど……」

 シキがため息をく。


 と思ったら、次の瞬間私を抱いたままぽんと岩の裏に飛び降りる。

 同時に、チチチチン! と小さな金属音が続き、何発か針が発射されたんだなと予想する。


 ……こっっわ。


「おヒメちゃんじっとしててねー」

 シキはそう言うと私を岩陰に下ろし、男たちが一気に殺気立ったその中へ、躊躇いもせずパッと飛び込んで行った。


「一反木綿!」

 シキが叫ぶ。


「はいな!」

「そら、退治屋!」

「うわっ! 危なっ……」

 という声とともに、後見人が砂利を弾きながら背中で滑り込んできた。


「急に投げつけるな! というか、人を投げるな!」

 怒る後見人の腕の中には、赤い着物の一反木綿に包まれたさやかがいる。


「おヒメちゃんと一緒に匿っといて!」


 シキの声とともに、激しい戦闘が始まったようだ。

 戦闘前の隙を突いて、真っ先にさやかを助け出してくれたらしい。ありがたいけど、多勢に無勢でシキは大丈夫かな……。


 人同士のぶつかる音。

 叫び声。

 金属音。

 爆発音。

 ……爆発音??

 

 さやかと抱き合って岩陰に隠れたまま、私はただ、どんどん激しくなる音だけを聞く。


 大丈夫これ?

 ここお寺の境内だよ? 国宝とか壊したりしない?


 我ながら非情だけど、シキよりそっちが心配になる。


 小さい頃からたまに遊びに来ている近所のお寺。

 シキよりお寺の方に感情が傾く。


 お寺に失礼だよ! 罰が当たっても知らないよー!!


   *   *   *


「綺麗ねぇ、ゆう、この着物どうしたの?」

 さやかは一反木綿に袖を通し、剣先あたりを掴んで広げ、裾を引き摺らないように持ち上げてくるりと回る。花模様の中に散りばめられた金彩がきらりと陽を弾いた。


「さやか……」

 岩の向こうでは、未だ戦闘音が続いている。


 なのに、さやかには何も聞こえていないように見える。


「ねえ、早く帰ろう? えーと……、ゆう、これ汚さないように脱ぐにはどうしたら良いの……」


「あー……、はいはい」


 別に一反木綿だし、自分で地面に摺らないよう出来るだろうけど、と言うか摺ってもどうってことないだろうけど、そうも言えないしなぁ。


 裾を掲げてあげようと、私はさやかの後ろに回る。

 屈んで両手を広げ、着物の腰下あたりから大きく持ち上げて、肩のところとまとめて持って引き摺らないようにする。


「いいよ、袖抜いて」

「はーい」

 さやかはくるりと回るようにして腕を引き抜き……。


 そのままの勢いで私の首に小さなナイフを突き立てた。


   *   *   *


「ニカ!!」

 後見人が、誰かの名前を呼ぶ。ああ、懐かしい声。なんでだろう。


木綿ゆうはん!!」

 一反木綿が、ただの着物のふりをかなぐり捨ててさやかに巻き付きながら、悲鳴のような声を上げる。


 私はと言えば、何が起こったか良くわかっていない。


 どうやらさほど深く刺さらないうちに一反木綿がさやかに巻きついて押さえ、後見人が錫杖で刃物を弾き飛ばしたようだった。


 首から溢れ出す血を抑えるように手を当て、その指の間からそれが砂利に滴るのをただ呆然と眺める。


 弾き飛ばされたナイフの刃には、ミニミニヤマガミが刺さっていた。どうやらあの一瞬に、私とナイフの間に入ってくれたらしい。傷が浅いのは、そのせいもあるようだ。

 ヤマガミは、心配そうにウゾ、と脚を私に向けて動かした。

 君のほうが重傷じゃん。ありがとう。ごめんね。


「おヒメちゃん!!」


 遠くからシキが駆け寄ってくるのを感じながら、私は血の気の引く感覚とともに地面に倒れた。


   *   *   *


 ふ、と意識が戻る。


 首の傷が塞がっているのがわかる。

 感覚的に、シキがつくろってくれたんだなとわかったけど、多分だいぶ血を失ったからだろう、目が回るような感覚は残っている。


 頭も起こせないまま重いまぶたを上げ、周りを見る。


 さやかが、ぼんやりと立っている。

 良かった、さやかは何もわかってないみたいだ。


 視線を回すと、一反木綿と後見人が何か紐のようなものでぐるぐる巻きになっているのが目に入った。


 捕まっちゃったのか。


 シキも捕まったのかな、と目だけであたりを探すと、岩に押しつけられるように抑えつけられたシキと、そのシキに檜扇ひおうぎを押し当てている革コートの人を見つけた。


「あの小娘ひとりの危機に、皆揃って隙だらけとはね」

 革コートの人が笑う。

「うっさいな、未成年の女の子を使って傷害事件とか、人としてどうなのよ?」

 首元に押し当てられた扇を見ながら、シキが眉をしかめて言う。


「笑止。妖が人の倫理を語るとはね。あの少女は、記憶が残らないようにしてあるから大丈夫だよ」

「なんの大丈夫だよ。記憶の問題じゃないっての。……で、なんなのその扇。うっざいなあ」

「にかわ屋対策に開発した。にかわ屋の力と反発するんだよ、凄いだろう」

 自慢げな革コートに、シキが顔を顰める。

「しばらく音沙汰がないと思ってたら面倒くさいことを〜〜〜」


 シキはひどく不愉快そうに唸っているが、首元の檜扇を振り払うことが出来ないようだ。


「人がせっかくあんたの部下を殺さないよう気を遣って無力化したのにさ、何これ、恩を仇で返すってやつ?」

「我々はお前に対抗するために魂の殻を強固に鍛えている。そう簡単には殺せないだろう」

「はあ? 舐めてもらっちゃ困るね、試しにひとり、魂を割って見せようか?」

「ひとり割っている隙にこの扇を一閃出来る。ひとりの犠牲でお前が消せるなら効率がいいことだ」


 ギギギ、と空耳が聞こえてきそうなほど、ふたりはきつく睨み合っている。


 ……なんか怖い話してるなあ。


 ……後ろから奇襲攻撃したらあの革コート、倒せないかなぁ。


 私は軽く意識を集中する。


 ……さすがに無理か。すごく強そう。

 ……でも。


 ふいに、ハッとした様に一反木綿が声を上げる。

木綿ゆうはん?」


 私は、岩の上に力を集めた。


   *   *   *


不空ふくう様っ……!! 岩の上に……!!」

 革コートの男に向かって、部下の黒服のひとりが叫ぶ。

 ハッとした革コート……不空って言うんだね……、その不空が、目だけチラッと岩の上にやる。


「……狐っ……!!」

 不空が驚いたその一瞬の隙に、シキが不空を膝で蹴り上げる。


「ぐっ……」

 咄嗟に身を引いた不空だが、その拍子に扇がシキの首元から離れる。

 同時に、


 バキン!!


 と音がして、不空がよろける。


 見て分かる。

 シキが魂を割ろうとして、し損なった。

 割りきれはしなかったが、そこそこダメージは与えている。


師兄しけい!!」

 後見人さんが心配を滲ませて叫ぶ。

 

 そして、

「姫!? いや……、姫童子ひめどうじ……?」

 戸惑ったようなシキの声がする。


 岩の上を見たんだね。


 私は横になったまま、ふふふ、と笑う。


「おヒメちゃん……?」

木綿ゆうはん……」


 そう、私はさっき死にかかった時、前世を少し思い出した。


姉様あねさま


 岩の上の、和服の女性が私に向かって笑う。


 私が今、形作った怪異。


 私は、この山の化け物とともに人を喰らう、妖だった。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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