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前世のパパは同級生(虫が湧く。2)  作者: 青風ぱふぃん


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11/20

11. 前世は覚えてないってば!

「さて、どのくらいで着くかな。フロントに追加の連絡しておかないと」

「追加の連絡?」

 私はシキの言葉をオウム返しに問い返す。


「うん。この部屋はふたり以上泊まれるから、さやかちゃんはいいとして……。……何人ついてくるかな、SPでーす、でいけるかな……。普通の女子高生に護衛ぞろぞろは不自然すぎるかなー」

 シキはひとりでブツブツ言っている。

 別にさやかは泊まるわけじゃないんじゃないの?


 と思っていたら顔に出ていたらしい。シキが説明してくれた。


「ホテルって基本的に宿泊者以外部屋に入れちゃいけないんだよ。だからさやかちゃんもこの部屋に泊まるってことにして、予約入れ直しておかないと、部屋に呼べないよ」

「あ、そういうものなの?」

「厳密に言ったら、ボクがこうしてこの部屋にいるのもダメなんだけどね。家族で宿泊しててそこまでうるさくは言われないだろうけど」

「そうなの!?」

「まあボクは色々使ってちゃんとホテルの許可取ってここにいるから大丈夫」

「色々使って!?」


 ふ、と私に笑って見せたシキは、さて、と顔を上げる。


「フロントに連絡しなきゃね。まあ、誰か来たら連絡くれるだろうけど……、あれ?」


 気配を探るように窓に目を向け、シキは眉根を寄せる。


 電話に伸ばしたまま止まっていた手の先で、フロントからのコールが鳴った。


「この気配……、やっぱりかぁ。はっや!」

 シキは苦笑しながら受話器を取った。


   *   *   *


 結論から言うと、さやかはホテルに入れてもらえなかった。


 さやかには男の人たちが 七人も付いてきたそうで、どうします、と問われたので、仕方がないから私とシキが下に降りた。後見人は、声をかけても返事をしなかったので部屋に置いてきた。


 降りてみたら、フロントの前に、ぞろり、と黒スーツの人たちが居た。

 その人たちが、全員揃ってこっちを睨む。

 ひえっ、と思ったが、その集団の中にさやかを見つけ、私は思わず駆け寄ろうとする。


 その私を遮るように、黒服の中のひとりが、つ、と前へ出てきた。

 リーダー格なのだろうか、その一人だけ、柔らかそうな革のコートをスーツの上に纏っている。

 本革かな。高そう。なんて、余計なことを思ってたら、ニッコリと微笑みかけられた。


「お久しぶりですね。いや、初めましてかな?」


「えっ!?」

 私はびっくりして数歩下がる。

 会ったことない……と思うけどな?


 私の反応に、ホテルの人が動いた。


 私の側にさりげなく立ち、小声で、

「お客様、何かトラブルですか?」

 と聞く。


「え、ええと……」


 そりゃそうだ。

 こちとら何故かスイートルームに泊まっている高校生。


 黒服の男の集団の中にも、取り囲まれるように女子高生がひとり。


 確かに犯罪みある。いや犯罪臭しかしない。

 なんと答えよう、と困っていると、


「おじさん、久しぶりー!」

 とシキが明るい声を上げた。


「……やあ、本当に久しぶりだね。久しぶり過ぎてその子にはすっかり忘れられているみたいだ」


 ははははは、と笑いながら、革コートの人はシキと握手をする。


「おヒメちゃんは仕方ないよ、おじさんと会ったの、ずーーーっと前じゃん。あとさぁ、そんなに大勢部下の人連れて来るから、みんなびっくりしちゃってるよ」

「いや済まない、久しぶりの顔合わせだったから張り切ってしまったよ」


 あははははは、と和やかな笑い声を立て、シキはふと声をひそめる。

「その格好さあ……、圧がすごいよ。普通の軽い感じの服にできなかったの? TPOって聞いたことない?」

 その言葉に革コートの人が笑顔のまま、やはり声を落として答える。


「おや、緋の法衣に金襴の袈裟、檜扇か中啓でも持って、散華しながら来たほうが良かったかい? 私はどちらでも良かったのだけれど」


「………………」


衣冠単いかんひとえのほうが好みかい? 祝詞が聞きたいなら今すぐにでも……」


「あんたんとこはなんの宗教なんだよ!」


「うちねぇ、うーん、陰陽道か修験道が近い気がするけれども……」


 秘密秘密、と革コートの人は笑う。


「……なんのていを装うかは決めといたほうが良いんじゃないですかねぇ? おじさん?」


「いやいやご心配なく、ずっと臨機応変でやらせてもらってるので」


「…………」


「………………」


 ギスギスした雰囲気を隠し、和やかに笑顔と握手を交わしあったふたりは、申し合わせたようにパッと手を離して向きを変え、すたすたとホテルを出る。

 私は、まだ少し不安げなホテルの人に、大丈夫です、ありがとうございます、と頭を下げて、シキの後を追った。


 その後、シキたちと、黙々としばらく歩いた。

 私は、なんとかさやかと話そうとしたけど、さやかはなんだかぼんやりとしているし、男の人たちはさりげなく私とさやかの間に入ってくるしで、言葉を交わすことは出来なかった。


 そうこうするうちに、門前町を抜けて、お寺の山門を潜る。


 境内はがらんとしていた。


 ここ、わりと観光地だからいつも沢山人がいるんだけどな? と不思議に思ってキョロキョロしていると、シキはすたすたと奥まで進み、そこにあった大きい岩にホイッと乗って、その上に座った。


 お寺の岩って乗っていいの!?


 怒られるんじゃないかと思って、お寺の本堂の方を見たけど、本当に誰も居ない。振り向いて授与所の方を見ても、その中にすら誰も居ない。なんだこれ。また不吉ってやつ? いや、お寺だよ!? お寺が不吉でどうすんの!?


 シキが手招きするので、私は仕方なくそろりと岩の下へ寄った。登っておいでというように手を差し出されたが、無視した。怒られそうで嫌だもん。あと、なんかばちが当たりそう。

 プイ、と横を向いた私にシキは不満げだったが、仕方なさそうに手を引いた。


 男の人たちは、さやかを中心にして岩の正面を囲むように並び、シキを睨む。

 シキはその様子を、足を組んでその膝に頬杖をつき、ニヤニヤと見下ろしていた。態度最悪である。


「で? なんの用ですかねぇ、魔物討伐隊の皆様?」

 シキが問う。

 漫画でしか見たことのないような名前が出てきた。


 男の人たちの真ん中にいた、革コートの人が、ふっ、と笑った。


 ……が、彼が何が言う前に、さやかが急にハッとした様に口を開く。


「あーっ! ゆう! ゆうだ! あー、無事でよかったよー。ほら、一緒に帰ろう?」

「……えっ?」

「どうしたの? ゆう。ほら、急いで帰ろうよ。うちの親も心配してたんだよー」

 さやかは周りの状況などどうでもいいように、私だけを見てニコニコと話す。


「……ねえ、なんか気持ち悪いからこの子を解放してやってくれない?」

 さやかを見ながら言うシキに、革コートの人はにっこりと笑う。


「色々大変だったみたいだからね、この子の心に負担がかからないように、一時的に不愉快なことは目に入らないようにしてあるだけだよ」


「そうなの? ……ねえ、ボクのこと見てないみたいだけどさ、ボクって不愉快に分類されてるの?」

「そこまでは我々の関知するところではないね。彼女の気持ちの問題だ。我々に文句を言うより、自分の行いを振り返るべきではないかい?」

「はあ?」

「もしや君は、自業自得という言葉を知らないのかな? いや、あやかしにはそんな概念はないか……、いや失礼した、気にしないでおくれ」

「うぅっわあー、ムカつく! ホントこいつら嫌い」

 言いながら、シキはべーっと舌を出し。不快げに手を振ってみせる。


 複雑な顔をしている私を見て、さやかは心配そうにするが、なぜかそこから動かない。


「ねえ、ゆう、どうしたの? 具合悪い?」

「さやか……」

 私は岩の下を離れてさやかの側に行こうとした。だが、岩から飛び降りたシキが私の手を捕らえ、ぐっと引き戻す。


「……あいつらの近くに寄っちゃダメだよ」

「でも、さやかが……」


「ねえ、さやかちゃんをこっちに寄越して」

 シキが私の手を握ったまま男たちに言う。


「別に構わないでしょ? この子の友だちなんだよ、知ってると思うけどさ」


「友だちねえ……」

 革コートさんが小首を傾げ、まわりの男たちは、人間と友だちとは妖が戯言たわごとを、と、さわさわと笑い合う。


「うっざい、もうー。ボクもおヒメちゃんも人間だってば! ねえ退治屋、隠れてないでこのお兄様をなんとかして差し上げてよ!」


 えっ、退治屋って、後見人? 一緒に来なかったんじゃ?

 

 キョロキョロと探してみれば、いつの間に来たのか、私たちがひっついてる岩の陰に、隠れるようにして立っている。


「知らん」

 後見人は、岩陰からうんざりした声で一言吐き出す。


「おお、師弟してい! 久しぶりだね。知らん、はないだろう、師兄しけいに挨拶は?」

 笑顔なのに妙な圧のある声で告げる男に、後見人は渋々と岩陰から出てきて、頭を下げる。

「……お久しぶりです、けい


 本当に知り合いなんだ……。シテイとかシケイってなんだろ。


「いい子だ、てい。我儘はいい加減にして、部隊に戻ってきなさい」

「私はそちらの部隊に所属した覚えはありません」

「明治以降うちの宗派は陰陽寮に所属させられてしまったからね、お前も自動的にうちの一員だよ?」


 陰陽寮? そんなの今もあるの?


 後見人は、深い溜息をいて髪をガシガシと搔く。

「……破門してくれて構わないんだが」

「するわけないだろう? 力のあるものを国が放置するわけがないからね、ここに所属してないとむしろ色々ややこしいことになるよ。さあおいで、可愛い弟よ」


 その言葉に、ちっ、と舌打ちして、後見人は相手をギロリと睨む。


「だから! 行くわけないって知ってるだろう! オレが許すと思っているのか、お前たちのせいでオレの妻は……!」


 そこまで言って後見人はハッとした様に口を噤み、私の方を振り返る。


 『妻』。


 『前世であいつの最愛の奥さん殺しちゃったからさ』……シキの言葉が甦る。


 ああ、私に気を使っているのか。

 私は一回深く息をついて、後見人と目を合わせる。


「……私の記憶がないからって、気を使わなくて良いよ。……言いたいことがあるなら、言って」


 覚悟を決めて、私は言う。


 後見人は目を丸くした。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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