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前世のパパは同級生(虫が湧く。2)  作者: 青風ぱふぃん


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10/20

10. 前世の話は難しい

 森の主が去ってしばらく、不吉も薄れてきたようで、レストランに人が戻り始めてきた。

 派手な着物を肩にかけて錫杖を持った怪しい人物をそのまま中庭に置いておくわけにはいかないでしょ、とシキが言うので、みんなで部屋に戻ってきた。

 デザートも満足いくまで食べたし。ビュッフェ最高。


 そう言えば、私の虫たちは他の人に見えないのに、一反木綿の赤い着物は人の目に見えるんだね。

 そう言ってみたら、シキが笑った。


「わざと見えるようにしてるんだよ、退治屋に意地悪するためにね」

「…………本当に鬱陶しい……」

 後見人が溜息をく。


「わざと見えるようにとか、出来るんだ」


ちゃいます! もともと見える妖と見えへん妖がおるんです!」

 赤い着物の姿の一反木綿がひらひらと宙を泳ぎながら袖をパタパタさせて文句を言う。


「妖怪虫たちは見えへん方! うちはそもそも見える方! そら消えよう思たら消えれもしますけどな」

「へえ……、そうなんだ」

「あと、雷獣は普通見える方なんやけど、さやかはんには見えてへんかったみたいやねぇ」

「……そういえば!」

「まあそのへん個人差もありますんで。全部の人から見えへんように消えるのは結構気ぃ張りますで」


 やれやれ、というように袖を広げる。なるほど消えるのにも技術が要るらしい。


「そっか、一反木綿は意地悪してたわけじゃないんだね」

 私の言葉に、一反木綿はぴたりと動きを止め、人が腕を組むような形に袖を組む。頭があったら首を傾げているような動きだ。


「いやまあ……、旦那が困ってはるんが面白おもろうて消えてへんのやろ、言われたらまあ否定できひんいうか〜」

「ほんっっとうに鬱陶しい!」

 怒った後見人に鷲掴みにされてぎゅーぎゅー絞られながら、一反木綿はケラケラと笑い声を立てる。


 どういう関係なんだろうな、このふたり。


 そう思いながら、なんだか楽しいような懐かしいような気持ちがして、私も一反木綿と一緒に笑ってしまった。


「まあ、そう言えばシキも普通に人に見えてるしね、不思議でもないか」

「えっ? ボクは人間だってば」


 だから人間は1000歳も生きません。


   *   *   *


「ねえ、さやかのお見舞いに行きたい」

 返事の来ないスマホを眺めながら、私はシキに言ってみた。


「んー? やだなぁ」

「やなの!?」

 私は思いがけない返事にびっくりした。良いでもダメでもなく、嫌だ?


「森の主が言うにはさ、なんか外が物騒らしいんだよねー。まあここに居てもダメな時はダメだろうけど」


「物騒?」


「無差別大量殺人……いや、サツヨウ者? がウロウロしてるらしいんだよねー。あいつら、ボクは人間だって言ってんのに殺しに来るんだよねぇ」


「なんで!?」


「だから無差別なんだって。妖怪と見るや消しに来る」

 ボクは人間なのにさぁ、とシキは愚痴る。


「無差別に消されると、獣のほうの泡も無差別に消えちゃう。水位が荒れるし水面が波立っちゃって、落ち着かなくて困るんだよねぇ。あと、調整は比較的近くで入りやすいから、この辺の生き物が危なくなるかもね」


 ひょいと肩をすくめて、シキは私を見る。


「まあ、あの程度の連中にみすみすられはしないけどさ、あいつら『にかわ屋』を目の敵にしてるから、おヒメちゃんも危ないんだよね……」


「あいつらを甘く見るなよ」

 後見人が言う。


「執拗で面倒くさくて鬱陶しい。執念深いから精神的に削られてくるぞ」


「実感がこもってるねえ」

 シキがケラケラと笑う。


 後見人、その殺ヨウ者(合ってるのかこの言い方……)と知り合いなのかな?


 そう思ったけど、聞こうとする前に、スマホから着信音がした。


   *   *   *


『ゆう! 大丈夫!?』

 電話に出るなりさやかに叫ばれた。


「だ、大丈夫大丈夫。さやかこそ平気? ケガしてたでしょ」

『私のケガなんてかすり傷だったよ! それよりゆう、どこにいるの!』


 かすり傷。よかった。ちゃんと治せたんだ。


『ゆう!』

「あっ、ごめんごめん、メッセージしたでしょ、後見人さんとシキと一緒にいるよ、安心して」

『そんな不審者たちと一緒にいて安心できるかー!』


 キーン。

 耳が!


 さやかのすごい大声はスマホから私の耳を貫通してみんなにも届いた。


「……不審者」

 後見人がポツリと呟き、

「ひどいなあー、さやかちゃんー」

 私が咄嗟に耳から離していたスマホに近寄って、シキが言う。


『そこにいるの!?』

「そりゃいるよ、一緒にいるって言ってんじゃん」

『ちょっと、シキ! あんた私のこと突き飛ばしてケガさせて! 謝りなさいよ!』

「いや……、見えてなかったと思うけどさぁ、さやかちゃん襲われかけてて危なくて……」

『何が危なかったのよ、この拉致誘拐犯! ゆうを返さないと警察呼ぶわよ!』

「なんでさ! ボクは……」

 スマホに向かってさらに言い募ろうとするシキを止めて、あっちに行ってて、とシッシッと追い払う。


「……ごめん、本当に心配いらないから」

『……本当に?』

「うん、大丈夫。えーっと、私もあの時に気を失っちゃってさ、気がついたら後見人さんの泊まってたホテルで寝かされてた。さやかは救急車で連れて行かれたってあとから知ったんだ」

 ……ごめんさやか、でも嘘ではない。妖怪の話と、さやかを治した話はしないほうがいい気がするから、そこだけ内緒にさせて。


『後見人さんのホテル!? 何もされなかった!?』

「ちょっ……! 大丈夫だって。さすがにそれは失礼だよ、さやか」

『あ……ごめん、心配で……。おとうさんが任せた後見人さんだもんね、そこは信じるべきか……。でも、なんでゆうは救急車呼んでもらわなかったの? 2台呼べばいいだけじゃない』

「それはそう……。大慌てで私だけ連れてきちゃってから、ハッと気がついてさやかの様子を見に戻ったら、誰かの呼んだ救急車に乗せられてるところだった、って話だったから、単なる判断ミスかなぁ……」

『あー……、なるほどね……。ゆう偏愛の変態シキだもんね、ありそう……。突き飛ばされたのも、ゆう優先でパニックだったからかなー。なんにも見えてない感じだったもんなぁ』

 ひとりで納得して、ふー……、と電話の向こうで息を吐く音がする。


 なんにも見えてないっていうか、雷獣見てたんだけどね。


『……なんにしろ無事でよかったよ。迎えに行くから、ゆうも念の為一回病院いこ?』

「いや、もう全然元気だから、大丈夫だよ」


『私が心配なの! いいから、今どこ? どこのホテル?』

「え……、どこだろここ、そういえば私も知らないや」

『ふざけてないで、どこか教えてよ』

「いや、本当に知らないんだけど」

『なんで!? そんなわけないでしょ! 教えなさいよ!』

「……さやか?」

『どこなの! どこにいるのよ! どこぉぉぉ』

「さやか!?」


 いくら何でも様子がおかしい。慌てた私の手からスマホをぱっと取って、シキがそれを耳に当てた。


「……川のそばの、このあたりで一番大きいホテルだよ」

『かわのそばのぉぉ、いいいいちばんおおおおきいホテルぅぅぅ』

「そうだよ、一番上のスイートルームだ、待ってるから早くおいで」

『すい、すい、すいいとるうむう……』

「さやか!?」

 シキ越しに聞いてもさやかの様子がおかしいのがわかる。


 スマホを返してもらおうと手を伸ばすが、シキはひょいと身を躱す。


「ちょっ、シキ、返して!」

 小柄な私はピョンピョン跳ねながら、シキが頭上に掲げたスマホに手を伸ばす。


「んー……、可愛い」


 シキの声にハッと気が付くと、私はシキの胸元に掴まって背伸びしてシキに密着していた。

 シキの整った顔が見上げる至近距離にある。


「はい、ぎゅー!」


 ハッ! これは!

 抱きついてくる!


 私はシキの腕の中からさっと逃げ、部屋の出口の方へ回って距離を取る。前回教室の隅に追い詰められた失敗から学んだぞ!


 抱きつこうとして空振りし、体の前で腕を交差させたシキは、

「……もー、順応早いんだからー」

 と残念そうに言い、スマホを差し出してくる。


 私はなるべく遠い距離からぱっとスマホを奪って一歩飛び下がった。


「おヒメちゃん、ちょっとだけ慣れてきた野生動物みたーい、かわいー。……通話、気持ち悪いから切っちゃった、ごめんね?」


「……あ、うん……」

 私はスマホの暗い画面を見、そして呟く。


「……なんだったのかな、あれ。さやか、大丈夫かな……」


「さやかちゃんはたぶん大丈夫かな。術者がよっぽど下手をうたなければね。なんかあんまり上手く術かかってなかったよねぇ」


「……あれはあの娘のせいだろう。あの娘、妖は見えないし不吉もものともしない。多分そういうものに対する感受性が弱いんだ。術もかかりにくいだろう」

「おー……、ある意味最強じゃん。昨日みたいなことがあると急に死ぬけどね」


 ひいっ。怖いこと言わないで。


「あ、おヒメちゃんが怯えてる。大丈夫大丈夫、『取り憑かれる』とか『山に呼ばれて神隠し』みたいな現象には絶対会わないタイプだから、逆に安全かもよ」


 なんだその不穏な単語群は。


「あ……、いやちょっとだけ訂正。多分今のやつ、術者が式神を取り憑かせて操ってたんだと思う。人為的な術なら取り憑かれるかもね。今みたいに途中から術がぶれぶれになる程度には掛かりにくいけどね」


「式神じゃない、護法ごほうだ。……例のあの妖怪討伐部隊ならな」

「あー、そっか」

 後見人の言葉にシキがポンと手を打つ。


「仏教系だもんねえ、君のお兄さんの部隊」


 お兄さん!?


 目を丸くした私を見て、シキがケラケラと笑った。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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