俺への贖罪の思いが
驚いた。鬼原に出会った事もそうだけど、まさか屋上に連れ出されてそこで……頭を下げられるなんて。そこで鬼原と久川さん、この2人の姉弟の過去を聞いた。
俺が出会う以前の久川さんの聞いた限りの印象は、今の彼女とそんなに違っていなかった。つまり弟から見ても、今俺に見せてる彼女が本来の姿だってことだと思う。
『お前には姉貴を変えさせる何かがあるのかもな。これからも姉貴の事宜しく頼む』
あんな事を鬼原から言われたけど、俺に久川さんを変えさせる何かは持ってない。多分、彼女をああさせたのは……俺への贖罪の思いがそうさせたんだ。じゃなかったら、俺と彼女は間違いなく接点など無かったと思うから。
「おかえり蓮本っ」
「おかえりなさい。龍君」
部屋に戻るとそこには、久川さんと永嶋さんがいた。俺は永嶋さんの顔を見つめる。
「ど、どうかした?」
なんか、永嶋さんの顔がやけに赤いような?
「そりゃお前がそんな顔を赤くしてるからだろ」
そう言って鬼原は永嶋さんの元に行くと、自身の額を永嶋さんの額にコツンと軽く当てる。
「――っ」
永嶋さんが息を呑む音が聞こえた。
「うーん、熱はねえみたいだけど。ん、なんだ? 顔がさっきより赤くなってる気が」
「ばっ、ばか〜〜〜っっっ」
永嶋さんが大声を上げたかと思うとバシンッと、鬼原の頬に平手打ちを叩き込む。
「いっ……なにすんだ、このアマっ」
「か、軽々しく……乙女に触れないでよっ」
「へぇ。お前のどこに乙女要素があるか教えて欲しいね」
「なんですって〜っ」
なんか目の前で、口喧嘩が勃発してるけど。久川さんに目を向けると
「頑張って……霧華」
とよく分からない声援を永嶋さんに送っていた。でもそんな事を言いながら彼女は鬼原と永嶋さんの事を暖かい眼差しで見守っていた。そうか。喧嘩する程仲がいいって風に見えてるんだな。
口喧嘩があらかた終わると久川さんがパンッと手を叩く。
「さ。夫婦喧嘩はそれぐらいにして……、そろそろ遅いし帰るわよ」
と言うと
「誰が夫婦だっ」
「そっそうよっ。ふ、夫婦なんて……」
キッパリと否定する鬼原とは対照的に永嶋さんは顔を赤くしながら言い淀む。後半なんて蚊が鳴くかのように小さかった。
「じゃあ蓮本。また明日ね」
「じゃあね龍君」
「またな」
そう言って去っていく3人に俺は手を振る。そして扉が閉じられると同時に俺はベッドに横たわる。
どうしたらいいんだろうか俺は。鬼原の話を聞いて思う事がある。言葉にはしてなかったけど、昔の久川さんに戻ったって事なんだろう。俺も今の久川奈津は6年前の仲良かった頃のなっちゃんだと思う。
――騙されるな。
心の中の俺が言う。そんなのはお前を騙す為の演技だと。その可能性は否定できない。だけど……もし違ったら。本当に変わろうとしてるんだったら?
だって久川さんは誰も味方をしてくれなかった俺の事を見捨てずにいてくれたじゃないか。なのに俺がその彼女の事をちゃんと見ようとしないのは、違うんじゃないか。
俺は今も降り続けている雪が見える窓を見ながら決意する。もう1度彼女と……過去と向き合ってみようと。そう思った時だ。ガラガラっと、扉が開く。




