この頃は本当に幸せだった
久川奈津の事をなっちゃんと呼び始めてから1週間。相変わらずなっちゃんは俺と必要最低限の会話だけの毎日だった。こっちから話題を振っても、全て無視。こんな扱い受けてるの俺だけじゃね? だからって嬉しくはないんだけど。
放課後、俺は図書室に向かった。今日は飼育係の仕事がお休みだったからだ。そして俺が図書室に向かう理由はウサギについてもっと知りたいと思ったからだ。
ウサギの飼育係をやっていれば興味を持って当然だと思う。特にあのフサフサの毛。魅力的だ。俺は早速、図書室に入るとウサギの本は無いかと辺りを物色した。
『ん、あれは……』
図書室を散策していたら、ある一点に目が留まる。
『んっ、ん~~っ』
そこには高い位置にある本を手を伸ばして必死に取ろうとするなっちゃん。俺は彼女の真後ろまで歩いていく。
『ん~~っ。あっ』
『これを取ろうとしてたのか?』
俺はそう言って振り返った彼女に渡す。呆けた表情で受け取った後、目を大きく見開いた。
『どうして貴方がここに?』
『それは……ウサギを調べようと思ったからだよ』
俺がそう答えると彼女は嬉しそうな顔をする。
『ほんとに?』
『あ、ああ……』
俺はその表情に内心ドキドキする。そんな顔を今までに見た事が1度もなかったから。なっちゃんはその後、しまったというような顔をする。
『えっと。その……』
気まずそうな顔をなっちゃんはした。俺はそんななっちゃんに構わずに言う事にした。
『なっちゃん。俺と……友達になってください』
それはなっちゃんを初めて見た時からずっと思っていたこと。初めて見た時からずっと彼女の事が気になっていた。この時の俺はこれが恋だなんて気付いていなかった。
『と、友達……。む、無理よっ』
なっちゃんは拒絶する。俺はその言葉に心が折れそうになる。
『……っ。なんで?』
俺が問い掛けると彼女は今にも泣き出しそうな顔で目に涙を溜めながら言う。
『だって……私。どうせまたすぐ引っ越すから』
聞けば彼女のお父さんは転勤族だと言う。早くて半年。長くて1年で引っ越すという話しだ。俺はそれを聞いてなっちゃんがいつも作り笑顔を浮かべる理由に納得する。
彼女には友達と呼べる友達が1人もいないんだ。天候をしてばかりで離れ離れになるんだったら、最初から踏み込まなければいい。そう思ったんじゃないのか。そう思った俺は
『なら尚更、友達になってよっ』
俺は懇願するようになっちゃんに言った。
『な、なんで……だって私』
『約束するっ』
彼女の言葉を遮るように俺は被せて言う。
『――ずっと友達だよっ』
俺は心から笑顔で言う。その気持ちに嘘偽りは一切無かったから。
『え。なっちゃん……。どうしたのっ』
次の瞬間、俺は相当焦った事を今でも覚えている。彼女の頬にポロリと涙が流れたからだ。涙が流れてる事になっちゃんは気付いて慌てて涙を拭く。
『あ、あれ。なんで、私っ』
『……もしかして俺と友達になるの嫌だった?』
やばい。自分で言っててなんだけど。相当凹む。
『――そんな事無いっ』
でもなっちゃんの口から出たのは否定の言葉だった。その事に俺は驚く。
『その……私とそこまで友達になろうとしてくれた人いなかったから。嬉しい……』
そう言うなっちゃんの顔は林檎みたいに真っ赤だった。そんな彼女に手を差し伸べる。差し伸べられた手と俺を交互になっちゃんは見た。
『例え、どんなに離れても俺となっちゃんは友達……約束っ』
なっちゃんは俺の言葉にとびきりの笑顔を見せた。それは作り物でないのがひと目でわかるくらい。蕾が花開くように可愛らしく、また綺麗だった。
『うんっ』
そう言ってなっちゃんは俺の手を取ったんだ。こうして俺はなっちゃん――久川奈津と友達になった。この頃は本当に幸せだった。あの事件か起きるまでは――。




