side奈津 いつか聞かせてね
◇◇◇◇◇
「……蓮本?」
アタシは晶君の手にしているカスミ草を、どこか切なげな表情で見ているゴンに声を掛ける。
「……あ、ごめん。なんでもないよ」
そういう彼の顔は全く笑っていない。まぁこれだけいても笑うといったら苦笑か小さく微笑むくらいなんだけど。でも昔みたいに満面の笑みを向けてほしいな。
それに、今回の顔はなんかいつもと違う気がする。なんか後悔してるって感じ。何に後悔してるのかは分からない。だけど凄い寂しそうに見える。アタシは晶君の抱擁を解くとゴンの前へと行く。そして
「――ちょっ、久川さんっ!?」
アタシは思いっきり、ゴンの身体を今までにないくらい強く抱き締める。ゴンがアタシの肩を何度も叩いて「久川さん、苦しいっ」って抗議してくるけど敢えてそれを無視する。だってあんな辛そうな顔をされたら。
「……放っておける訳ないじゃん」
「……え?」
アタシが呟いた独り言にゴンが反応する。アタシはそれを無視して抱き締めていた腕に力を入れる。きっとあのカスミ草を見てゴンは過去を振り返っていたんじゃないの? それが小学時代なのか中学時代なのか全く分からないけど。あの後悔に満ちた表情はゴンが凄惨な日々を過ごしてた時の事を考えていたんだ。きっと間違いない。
苦しい。ここまでアタシはゴンの事を何1つとして知らない。ゴンがアタシが去った後の小学時代、どんな扱いを受けてきたのか。それこそ中学時代なんて全く見当がつかない。アタシが知ってるのは、彼がそういう扱いをされるようになった始まりだけ。それしか知らない。
でも聞かなくても想像はつく。間違いなく楽しい日々ではない。周りにいない者扱い又は邪魔者扱いされてきたんだと思う。じゃなかったら、ゴンがこんな暗い表情をする訳がないじゃん。
だからアタシは昔の明るくて優しかった頃のゴンに戻す義務がある。だってアタシはそんな扱いをされる事の発端を知っていて、それに巻き込まれそうになった瞬間。アタシはゴンを
――たった1人の友達を見捨てたんだ。
だからその罪滅ぼしをしなくちゃ。そしてゴンがそれで元の明るくて優しかった頃に戻ったら、ちゃんと謝ろう。それでもし、許してくれたら……アタシはゴンに告白する。
その為にもアタシはゴンの事を知らなくちゃ。アタシは小学時代の明るくて優しかった頃のゴンしか知らない。彼がどんな事を経験してどんな事を思ったのか。知りたい。
でも無理にアタシから聞くなんて真似は出来ない。それをしたらゴンはせっかく開いてくれた心をまた固く閉ざすだけだと思うから。アタシは込めていた腕の力を抜いて、ゴンの顔を覗き込む。
「――いつか聞かせてね」
アタシがそう告げると彼は、アタシの言おうとしてる事を理解したみたいでゆっくりとアタシの言葉に頷いた。
「よし。じゃあ晶君そろそろ行くね。また」
アタシはゴンへの抱擁を解いてから晶君を見てそう告げる。ゴンも軽く彼に向かって手を振る。
「は、はいっ。は、話しかけてくれて……う、嬉しかったです」
たどたどしく晶君はそう言いながら頭を下げる。アタシ達はそれを見届けた後出入り口に向けて振り返った瞬間……
「……許さない」
という声が背後から聞こえたような気がした。アタシは後ろを振り向く。だけどそこには草木を眺めている晶君の後ろ姿だけだった。
「どうかしたの?」
「ううん。なんでもない」
アタシは首を左右に振りながら言う。今聞こえた声はきっと気のせい。だって全然、晶君の声と違ったしそれに、今の声は憎悪に満ちすぎていたから。
アタシはそんな事を思いながらゴンと一緒に中庭を後にする。




