連絡先……ですか?
「今日も終わりか……」
俺は教室の自席に座った状態で窓へと目を向けた。窓には濃い目のオレンジに色付く夕焼け空が広がってて、そこに空と同じ色をしている夕陽の光が俺に降り掛かる。俺はあまりにもその光が強かった為、目を細める。今この教室には誰もいない。皆部活動に出ててこの教室には俺1人。俺はそのまま考え事に耽る。
結局今日はなにも収穫なしか。まぁ元々そんなのは朝の段階で予想ついていたから、なんとも思わないけど。大丈夫なんだろうか? 今回みたいな事情聴取は過去に1回だけ経験したことがある。それも冤罪だけど。
「……冤罪?」
果たしてあれは冤罪か? 事実上はそうだけど、俺は今でも心のどこかで罪の意識に苛まれてるんだな。
『――いつか聞かせてね』
久川さんが俺に言ってくれた言葉が脳内で再生される。きっとあの言葉は俺がどんな過去を過ごしてきたのか、それを教えてという意味だろう。
でもそんなの言える訳がない。いくら、友達とはいえこんな過去話しちゃ駄目だ。きっと引かれるに決まってる。怖い。俺の過去を知られてまた俺から誰か離れていくのは。
結局俺は口では友達って言っても他人を……久川さんを心の底から信じきれてないんじゃないか。
――誰もお前の事を信用する訳がない。
心の中の自分が俺に囁いてくる。
――今までそうだっただろう? これまでお前に手を差し出してくれた人間なんて1人でもいたか?
うるさい。
――人間なんて汚い。自分の都合のいい時だけ利用してくる卑怯な生き物だ。
うるさいうるさい。
――その場では友達って言って裏で何を言ってるか分かったもんじゃない。
うるさいうるさいうるさい。
――きっとあの久川奈津だって……
「うるさいっ」
「――わっ」
「……え?」
俺は声のした方へ目を向けるとそこには姿勢を低くした状態で驚いた顔をしてる久川さんがいた。彼女の目線が俺とバッチリ合う。彼女の赤い瞳が俺を捉える。俺はその赤い瞳に吸い込まれるように眺める。綺麗な赤……。鮮血の色――真紅って言った方がいいのかな? 淀みが一切なくて見ていて落ち着く。
「……あ、あの」
久川さんの震える声が俺の鼓膜を震わす。彼女の困ったような声を聞いて俺は意識を彼女の目から顔に移す。
「……ん、どうかした?」
顔を見るけど別段どこもおかしくないように見える。夕陽で赤く照らされた彼女の顔は戸惑ってるように見えた。
「あのさ……普通に帰るんでしょ?」
俺はその言葉に頷く。当然だ。学校が終わったら家にそのまま帰る。放課後になっても残っているのは考え事をしてたからで、本来ならもう家だ。
「ならさ……そのっ」
珍しいな。久川さんがこんなに歯切れ悪く喋るなんて。俺は彼女が切り出すまで無言でいる事にする。暫く静寂が辺りを包む。突如彼女が大きく息を吸い込むと
「連絡先を……おしえて……ほしいん、だけど」
最後の方は蚊の鳴くような声で聞き辛かったけど、なんとか内容を理解する。
「連絡先……ですか?」
思わず俺は丁寧口調で尋ねる。すると彼女は恥ずかしそうに首を立てにチョコンと動かして頷く。
マジか。女子の連絡先なんて俺のスマホに1人もいなかったってのに。あ、母親がいたか。まぁ連絡なんて1人暮らしをしてから1度もないし、そもそも女の子って年じゃないから。有ってないような物だろう。
「交換……して、くれない、の?」
うっ。その言い方はずるい。彼女は俺に上目遣いでしかも今すぐ泣き出しそうな顔で告げてくる。言い方からして不安に思ってるという事が伝わってくる。そんなの断れるわけないじゃないか。
「……分かったよ。LINで良い?」
俺の言葉を聞くと彼女は目をキラキラさせながらとびっきりの笑顔で頷く。俺はそんな彼女を見ながら思う。こんな彼女が俺を裏切る事なんてありえない。彼女は今までの人達とは違うんだと。俺は胸を片手で抑えながらそう言い聞かせた。




