124 青金
イチの一撃は見事にブラッドタイガーの頭に直撃し、頭蓋骨を粉砕して地面にめり込ませていた。
「よしっ!」
それがいけなかった。
地面にめり込んだブラッドタイガーを見て、倒したと勘違いをした。
気付いたときには既にブラッドタイガーの爪はイチを捉えようとしていた。
「イチ!」
俺の叫びと同時にゼンが体を割り込ませて魔力剣をクロスさせて受け止めていた。
だが、無理な体勢だったのと、そもそもの体格差によってイチ諸共に吹き飛ばされてしまった。
ゼンは傷も負っていた。
俺が油断なんてするから。
俺が注意を怠るから。
また、やってしまった。
俺にもっと力があれば。
俺に・・・
俺の中で何かが目覚めたような気がした。
◇◇◇
「ゼン兄!大丈夫!?血が出てる!!」
「あ、ああ。掠っただけだ。それより、ふっ飛ばされた衝撃の方がキツイや。」
すぐにポーションを取り出してゼン兄に飲ませる。
ゼン兄は本当に大したことは無かったみたいで、すぐに動けそうだった。
わたしも武器を手に再びブラッドタイガーに向き合う。
でもそこで見たのは、見たことの無いソーマ様の姿だった。
見た目が変わった訳じゃない。
でも纏う雰囲気がいつもとは全然違っていた。
いつも飄々していて余裕があって優しくてあったかいのに、今は張り詰めていて余裕がなくて冷たい。
いつものソーマ様の闘気は青いけど、今のソーマ様は青よりも金色が強かった。
何より全てが速かった。
動きの鈍ったブラッドタイガーでは目で追うことも出来ないくらい速く動き回り、ブラッドタイガーを斬りつけていた。
闘気を纏った魔力剣でもなかなか傷を与えられなかったのに、どんどん血飛沫が舞う。
ブラッドタイガーが力尽きるのに、さして時間はかからなかった。
怖かった。
ソーマ様が何処か遠くに行ってしまうんじゃないかと思って。
でも、その目にはちゃんとわたしたちが見えていた。
今もチラリとこっちに目線を向けた。
ソーマ様はソーマ様だ!
「ソーマ様!」
◇◇◇
俺はブラッドタイガーを蹴り飛ばしていた。
「グガァア!?」
吼えながら吹っ飛ぶブラッドタイガーの先回りをして上から地面に叩き付ける。
「グガァァア!!」
確実にダメージを負っているブラッドタイガーの動きは俊敏性に欠けていて、思った通りに避ける事ができる。
避けては斬る、避けては斬るを繰り返す。
いつもの感覚で魔力剣に闘気を重ねて斬る斬る斬る。
ブラッドタイガーが息を吸ったような気がして、顎を思い切り蹴り上げてやった。
「グガァハッ!!」
たぶんまた咆哮を上げようとしたのだろう。
至近距離で受けたら危なかったかもしれない。
俺はどこか他人事のような気分で考察しながら、ブラッドタイガーの攻撃を避け、斬撃を加えた。
「グガァァア!!!!」
これが最後とでも言うかの様にブラッドタイガーは赤い光を強め、全身から殺気を飛ばして来る。
受けて立つ。
俺も闘気を強め、受けて立つ。
右へ。
ブラッドタイガーの爪を右へ避ける。
左へ。
更に畳み掛けられる爪を左へ避ける。
受け流す。
襲い掛かる牙を受け流し、回り込み、全力で突き刺す。
俺の闘気とブラッドタイガーのオーラが激しくぶつかり、火花を散らし、霧散した。
俺の魔力剣がブラッドタイガーの頭を穿いた。
ブラッドタイガーの目から光が消え、その巨体はドスンと地面に崩れ落ちる。
俺の 勝ちだ。
今度は油断せず、鑑定で確認した。
今度こそ俺の勝ちだ。
俺はひと息つくと同時に不安にかられた。
戦いの最中に感じた高揚感は既に無く、なんとも言えない孤独感に苛まれる。
俺はひとり・・・
「ソーマ様!」
「!」
振り向くと満面の笑みのイチと目をキラキラさせているゼンがいた。
「にゃー。」
「ブルルー!」
シロとクロもいた。
俺はひとりじゃ無かった。
◇
我に返ると自分に違和感があった。
「ソーマ様!」
イチがそう言って抱きついてきた。
うむ。苦しゅうない。もっとやれ。
「兄貴!」
ゼンも飛び付いてきた。
こらっ!痛いだろ!
「にゃー!」
シロまで来た。
おーもーいー!
「こらー!はーなーれーろー!」
「にゃー!」
「あははは!」
「うふふ!」
「まったく。・・・ありがとな。」
「えへへ。」
「にゃー。」
「ブールルー!」
クロも混ぜろと近付いてきたが流石に無理だ。
クロも分かっているのか近付くだけで止まっている。
なんて賢いんだ!撫でておこう。
「ブルルー!」
喜んでいるようでよかった。
「ソーマ様!凄かったです!」
「うんうん!兄貴カッコよかった!!なんかピカーって光ってた!」
「そ、そうか?」
「うん!」
「いつもと闘気の色が違う気がしました。冷たいような張り詰めたような。でも目はいつもの優しいソーマ様で!」
「うん!で、すげー速かった!トラがどう動くかが分かってるみたいに先回りしてすごかった!」
「「とにかくカッコよかった!」です!」
「お、おう。」
ふたりの気迫に押され気味に俺は頷くしかなかった。
既に俺の中にはその光は無く、あれがどういうものだったのかは分からない。
まあちょっと嫌な予感はするが、とりあえずは疲れた。
「あ、疲れた。」
ドスッと俺は座り込んでしまった。
立っているのも辛いくらい全身に疲労感がある。
あの動きはキャパオーバーだったみたいだ。
「そ、ソーマ様!!だ、大丈夫ですか!?」
イチの取り乱しようがすごい。
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだと思う。」
「そ、そうなんですか!?」
「ああ。」
「こんな時のサーシャ特性中級ポーション!」
ごくごくぷふぁー!
うんマズい!うぉお、染みるぜー。
さっきまで全身にあった疲労感がスッキリ無くなった。
流石は最高品質の中級ポーションだ。
若干の気怠さはあるが、大丈夫だろう。
心配そうにこちらを見ているイチに笑いかける。
「大丈夫そうだ。」
「よかったー。」
イチはほっと肩の力を抜いて俺と同じくへたり込んでしまった。
「あ。安心したら力ぬけちゃいました。えへへ。」
まったく。可愛い奴め。
俺とイチは二人で笑い合うのだった。
俺とイチがきゃっきゃウフフとしている一方でゼンとシロは倒したブラッドタイガーの様子を見ていた。
見るというかツンツンしていた。
ちゃんと倒せているはずだ。
鑑定の結果が明らかに変わっているからな。
名前:ブラッドタイガー
種類:大虎
等級:希少級
品質:低
属性:風
説明:ブラッドタイガーの亡骸。
赤黒い毛皮は耐魔法特性が高く、対物防御能力も高い。
若干の風属性を帯びている。
顔が怖い。
生き物には品質表示はないからな。
まあでも早目に収納してしまおう。
俺はブラッドタイガーに近付く。
「あ、兄貴。もうへーきなの?」
「にゃ?」
「ああ。歩く分には問題ないよ。」
「そっか!よかった!」
「にゃー。」
「心配かけたな。」
「ううん!大丈夫だよー!」
ブラッドタイガーに軽く黙祷して、ストレージリングに収納する。
なんとなくしたくなったのだ。
また少し休んでからクロに乗ってその場を後にする。
元陣地はこれで何も無い広場になった。
ゴミから何から全部回収したので後で選別しないとゴチャゴチャだ。
めんど草。www




