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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
メルティキス編
86/183

第16話 魔法少女は共鳴で。(6)

 ◆5月3日 午前0時38分◆

『力の差はさっき見せ付けたはずだぜ。意気がってるところわりぃが、てめえじゃ俺様の相手は荷が重過ぎるんじゃねーか?“()()”巫女さんよ?』

 トウガは“前の”という言葉を強調しながら、天草雪白に食って掛かる。

「…それは重々承知しているつもりです。ですが、貴方をこのまま放っておくことは出来ませんので」

 天草雪白は鏡の盾を真正面に構えながら、その切れ長の目でトウガを睨み付ける。

『かはは…!まあ、俺様としてはてめえに仕返ししないと気が済まねぇから丁度良いがな。けどよ?それも巫女としての務めってやつか?』

「違います!」

 否定を発する声と同時に、天草雪白はほぼノーモーションでトウガとの距離を詰め、その勢いを乗せたまま、ローキックからの上段蹴りに続けて掌底から顎への掌打という、流れるような連携技を繰り出す。

 対するトウガは、まるで曲芸士のような軽い身のこなしで(かわ)しながら、その攻撃を平然とした顔で捌ききる。

『遅いな。これならさっきの巫女のほうが手応えあったぜ?自分が弱いと知りながら強い敵に立ち向かうのは勇敢じゃなく無謀だぜ?』

「甘く見ないでくださいっ!!」

 天草雪白が一瞬だけ背を見せたかと思うと、まるで体操選手のように開脚しながら馬の後ろ足で蹴り上げるが如く振り上げる。

 トウガはそれすらもお見通しといった様子で、半歩身を引きながら首を逸らし、余裕の顔でそれを避けてみせる。

『お前等は、いつも偽善者面しながら神の意思やら怪の仕業やらと、誰かのせいにして自分の行動を正当化しやがる』

 そのまま後方に倒れこむようにしながら胸に重心を持っていき、手も使わずに足だけの力でバク転を決めてみせる。

『自分の意志も持ってないくせに頭が固くて、理屈が通じねー。まったく、面倒な連中だぜ、巫女ってのは――っと』

 そして、余裕の表情で着地して視線を真正面に戻すと、そこに天草雪白の影は無かった。

『――っ!?』

 トウガは何かを察したように、慌てて首を上げる。

 すると、闇夜に浮かぶ満月を背に、空中に浮かぶ影がそこにあった。

 それは、宙に浮かぶ鏡の盾を踏み台にし、今まさに飛び掛らんとする天草雪白の姿だった。

「はああっ!!」

 ――ヒュン!!

 次の瞬間、蹴り上げの遠心力と足のバネの力を乗せた天草雪白の渾身の追撃が、弾丸の如く放たれ、トウガの反応速度を上回ったその拳は空を裂きながら、文字通り瞬く間に通り過ぎた。

『へえ…。なかなかやるじゃねえか…』

 一筋の赤い線がその頬に刻まれ、トウガは舌打ちをしながら、赤い雫を拭うように頬を一撫でする。

 振り返り、地面に着地しながら背を見せる天草雪白に問いかける。

『…遅いってのは訂正してやるぜ。だけどよ…なんでわざと外した?』

 天草雪白は立ち上がり、背を向けたままキッパリ答える。

「勘違いしないでください。私がここに立っているのは巫女の使命や、正義のためなどではありません」

『じゃあなにか?自分のためってことか?まさか、あの男のためとか言うんじゃねーだろうな?』

 天草雪白は首を大きく横に振った。

「…雹果と霖裏。本来、二人が背負うことのなかったはずの使命を、私の未熟さ故に押し付ける結果となってしまった。姉としてこれ以上、あの子達に重荷を背負わせるわけにはいかないのです…!」

 天草雪白はトウガに向き直る。

「それに、後輩達が私に気付かせてくれました。この盾は大切な人を守るためにあるということを!」

『ほう…。良い目をするようになったじゃねえか。どうやら、あの時からちったぁ成長したみたいだな』

 何の前触れも無く、トウガは頭上へとハンドベルを射出する。

「何を…?」

『けどよ?俺様がこの体をすんなり返すと本気で思ってんのか?俺様はてめえに封印された借りがあるんだぜ?』

 その先端部が空中で上昇を止め、程なくして落下を開始する。

 一瞬注意が逸れたその瞬間、トウガは一気に加速し、天草雪白の眼前まで接近していた。

「しまっ――!?」

 天草雪白が事態を把握したときには既に遅く、その獣の腕が首元を締め上げることとなった。

 両腕でそれを振りほどこうとするものの、まるで万力で固定されたように一ミリたりとも動くことはなかった。

 落下速度が加わったハンドベルは、尚も勢いをつけながら天草雪白の頭上目掛けて一直線に落下していた。

「シ…ルト!!」

 ――ガキン!!

 静寂の中に金属同士の衝突音を鳴り響く。

 落下したハンドベルは地面に巨大な亀裂を走らせ、その衝撃の大きさを状況が物語っていた。

 ハンドベルの軌道を逸らすように鏡の盾が防ぎ、なんとか直撃を免れたものの、窮地を脱すどころか、事態は悪化することとなった。

「なっ…!?」

 次の瞬間、鏡の盾は音を立てながら亀裂を走らせ、破片を散らしながら地面に落ちた。

『かはは…!!自慢の“大切な人を守る盾”ってやつも粉々に散ったぜ?これでてめえは誰も守ることは出来ねえな?』

 鏡の盾が破壊されたことに気を取られていた隙に、トウガは足払いを繰り出し、両足の支えを失った体は、無防備なまま地面へと強く叩きつけられた。

「うぐぅっ!?」

 トウガは倒れた衝撃で苦悶している相手に、堂々と馬乗りになったかと思うと、何を思ってか脇や胸部の匂いをしきりに嗅ぎ始めた。

「な…に、を…!?」

『青臭い…。もしかして、もう巫女じゃねーってのに、まだ処女なのか?』

 突然の言葉に理解が追いつかなかったのか、天草雪白は一瞬停止する。

 数秒の沈黙の後、理解が追いついたのか、動揺しながら赤面した。

「あ、貴方には関係ありません!!」

『口では妹だの使命だの言っておいて、結局あの男のことまだ引き摺ってるんじゃねえか?』

「それは…!」

『んじゃ、こういうのはどうだ?素直にさせてやるよ?』

 すると、トウガの姿が再び光に包まれる。

 次に瞼を開くと、そこには宇城悠人が居た。

「――!?せん…ぱ…、ふあ!?」

 宇城悠人の左手は天草雪白を弄ぶように、器用な手つきで腹部を弄り始める。

「や…あっ!?やめ…なさ…」

 宇城悠人は抵抗する声も聞かず、起伏を確かめるかのように胸部を通り、鎖骨にかけて指先を滑らせる。

 まるで舐めるようなその指先は、喉を通り、やがて顎へと到達した。

『やっぱり、お前にはこういう方が効くみたいだな?』

 そのまま顎を固定し、宇城悠人は顔を近づける。

「こんな…!こんなこと…私は…!望んで…!」

 必死に首を逸らそうとするものの、顎に添えられた指がそれを許してはくれなかった。

 次の瞬間、宇城悠人はまるで吸いつくように、荒々しく唇を重ねた。

「うむぅっ!?んー…――」

 唇と唇が触れ合ったその瞬間から、天草雪白の四肢は力を失ったかのように抵抗を止め、状況を受け入れるかのようになすがままとなった。


 数秒なのか数十秒なのか、長くも感じられたその時間に終止符が打たれ、状況は一変した。

『――ぐわあああっ…!?力が…!!?て、てめえ!!?離せ!!?』

 宇城悠人の姿は、唐突にトウガの姿へと戻り、トウガは苦痛の叫び声を夜空に響かせた。

 トウガの背後には、蔑むような瞳でトウガを見下ろす雹果の姿があった。

「さっさと離れてください…」

 雹果はトウガの尻を足蹴にしながら、そこから生えている尻尾のうち何本かを、大根を引っこ抜くかのように引っ張っていた。

『て…てめえ…!?いきなり何しやがる!?てか、尻尾を引っ張るな!?』

 トウガは転がるように回転しながらハンドベルを取ると、雹果を牽制するようにそれを振りぬく。

「…それはこっちのセリフです。その姿で姉に不埒な行為をするなんて…万死に値します」





 ◆5月3日 午前0時40分◆

 男女が戯れている中に、別の女が登場して浮気シーンを目撃するという、昼ドラの修羅場のようなワンシーンを尻目に、黒子のようにそそくさと駆け寄り、力なく倒れこむ天草雪白の上体を抱き起こす。

「立てるか?」

「…」

 天草雪白は焦点も定まらない様子で、意識を失ったように俯いていた。

 当然、私の問いに対して答えられるわけもなく、私は有無を言わさず肩を支え、屋上の入り口付近まで引き摺るようにして移動を開始する。


 …


「先輩?大丈夫か?」

 近くの壁にもたれ掛かるように介助した後、私は再び声を掛けるも、先程同様に反応はなく、虚空を見つめながら、まるで人形のように四肢を投げ出したまま身動き一つすることはなかった。

 そこで私は、若干戸惑いながら頬を軽く叩いてみるものの、状況が変わることはなかった。

 その時、私はようやっと理解した。


 ――これって結構マズくね…?


 状況的に見て、天草雪白は何かしらの影響をトウガから与えられたと考えられる。

 それが毒なのか霊的なものなのか、はたまたそれとはまったく違った別の力が働いたのか、何一つ定かではない。

 つまり、原因が判らない以上、私には対処のしようが無い。

 というより、判ったところで医学知識も霊的な力も持ち合わせていない今の私にとっては、ほぼ対処不能である。

 加えて、この作戦の要である天草雪白が行動不能となれば、作戦に支障が出ることは避けられず、ただでさえ綱渡り的な状況が、糸渡りくらいの難易度に格上げしてしまう。

 つまり、今現在の状況は、自分が思っていたよりもずっと深刻な状況であると言って過言はないだろう。


「う~ん…」

 私は腕を組みながら、考えを纏めるための数秒を費やす。

 そして、考えた結果、自分が思いつく限りで有効かつ手っ取り早い手段を取ることにした。

「まあ、しょうがない…か。先輩。とりま、ごめん」

 その謝罪が本人に聞こえていないことは承知の上、一応体裁的に謝っておく。

 そして、何の迷いもなく天草雪白の頭部を両手で掴んで固定する。

「すぅー…」

 大きく息を吸い、身を思いっきり反らす。

 息を止めたあと、私のおでこを天草雪白のおでこに思い切り打ち付けた。

 ――ゴン!!

「――あうっ!?」

 その瞬間、私は鈍い音が脳内に響く感覚を覚えた。

 そして、体が貧血を起こしたようにふらついたが、頭を両手で固定しながらなんとか体勢を保つ。

「痛つつつ…」

 だが、意を決したその行動の甲斐あってか、良い結果を招いたようだった。

「ま…まさかこの痛みを二度も味わうことになるなんて…!自分の頭がどれほど硬いのか自覚してるんですか!?殺人未遂で訴訟もの――」

「と…とりあえず、元気そうでなにより。身体の方は?問題ない?」

 身体の具合は本人が一番よくわかっている、という言い回しがある。

 それが本当かどうかは定かではないにしろ、毒であれ霊的なものであれ、本人を無理やり叩き起こして本人に直接聞くのが一番手っ取り早いだろうと考え、強引に起こす方法を私は選んだ。

 実際のところ、これで目を覚まさなければ手詰まりに近い状況に陥っていたことだろう。

「元気そう…?身体…?一体何を…」

 天草雪白はそう言いかけたかと思うと、ハッと何かを思い出すような仕草をした後、顔を隠すようにそっぽを向いた。


 ――やっぱり、アレが原因なのだろうか?


 見たところ、天草雪白には意識の混濁も無く、毒の線は薄いとみられる。

 何かの霊的な作用や呪いという線も考えられたが、あのトウガがそんな回りくどい方法を使うとも思えなかった。

 だとすれば、天草雪白に起きているこの現象は一体なんなのか。

 私には一つの仮説があった。

 先ほどの話を聞いた限り、トウガという存在は肉体から肉体へと移り渡る実体を持たない存在――つまり精神体であると言える。

 そして、そのエネルギーの源は宿主である存在――つまり、人間ということになる。

 トウガが人間に取り憑いてエネルギーを搾取するような存在だと仮定した場合、そこには()()()()()()()()()


「あ…えっと…その…。ど…どうやら、貴方には迷惑を掛けたよう…ですね…」

 私は無言で首を横に振る。

「いや…。注意を惹きつけるよう頼んだのは私だ。ごめん…」

 天草雪白もまた、首を横に振る。

「…トウガの言っていたとおり、私には荷が重すぎた…ということでしょう。これが私という人間の限界。肉体的にも精神的にもトウガのほうが上だった。ただそれだけ…」

 気を取り戻してはいるものの、天草雪白はまるで覇気がなくなったようにうな垂れていた。

 というよりも、呼吸も荒く、生気を抜かれたようにグッタリとしていると表現したほうがしっくりくる。

「そもそも、二年前に出来なかったことを、巫女でなくなった今の私が出来るはずが無かったのです…」

 珍しく弱音を吐く天草雪白を気にも留めず、私は思考を巡らせていた。

 天草雪白は既に作戦を遂行できる状態にないことは明らかだ。

 かといって、トウガの注意を惹きつけることが出来るのは、現状において天草雪白以外には居ない。


 ――こうなったら私が…。


 私が口を開く前に、天草雪白は私の手を取り、あるものを手渡した。

「これを、雹果に届けてくれませんか?」

 私は、強引に手に乗せられたものをまじまじと眺める。

「これは…」

「正直言うとあの時、トウガの腕を振り払おうと思えば振り払うことは出来ました…。ですが、少し嬉しくもあったのです…。不謹慎だと判ってはいるのですが、その…生前、先輩と…ああいったことをすることはありませんでしたし…」

 天草雪白はどぎまぎしながら、顔を赤らめ、恥らうように視線を逸らした。

 「乙女か!!」などと、瞬時にツッコミを入れたくもなったが、私はすぐに思い留まった。

「宇城先輩はこの世にはもう…。だから…」

 その表情に暗い影を落としている様を見て、それが強くて一途な好意から来ているものだと、私にも理解できた。

 だが、生憎というかなんというか、恋愛相談を受けたことも、所謂コイバナを語り合うみたいなイベントも、私の人生では発生していないため、こういうときにどういった反応をすれば良いのかよく判らなかった。

 それ故、私なりの答えとして、一つだけ判っていることを端的に伝えることにした。

「残念だけど、私はそういう気持ちを知らないから共感は出来ない」

 私は付け加えるように、続ける。

「…だけど、お互いが強く望めば、その願いは叶うと思う」

 私は受け取ったものをポケットにしまい、雹果の元へと歩き始める。

「世の中には、強く願えば叶うこともあるってこと」





 ◆5月3日 午前0時42分◆

『さっきの白いほうのやつは出さねーのか?また消されるのが怖くてビビッて出せないってか?』

 トウガは嘲るように笑いながら、ハンドベルを構える。

「あなたぐらい、私一人でなんとかしてみせます。それと、絶対ゲッ…友達にします…!」

 雹果はボールを握ったように構え、その腕をまっすぐトウガに向ける。

『かはは!その貪欲さと威勢だけは認めてやるよ。だが、これならどうだ?』

 すると次の瞬間、雹果目掛けてハンドベルが射出される。

 雹果は咄嗟に重心を横に逸らして回避する。

「…!」

 だが、鎖は突如として軌道を変え、雹果の腕を絡み取った。

『こいつの扱いにもだいぶ慣れてきた。てめえ相手には丁度良い武器だぜ』

「まさか…私を縛り付けて拘束し、破廉恥なことをする気なのですか?」

『ば…!?さ、さっきも言っただろ!?別にお前とやりあう理由はねーって!これに懲りたら、もう二度と俺様に付き纏うんじゃ――』

 トウガが動揺する素振りを見せた直後、苦悶の声が夜空に響き渡った。

『――ぐわあああっ…!?なん…だとぉ…!!誰だ…!?』

「やっぱり」

 私はトウガの尻尾を強く握りながら呟く。

『て…てめえ、さっきからチョロチョロしてるガキか!?そ、その手を離せ!?』

 ――よもや、ガキにガキ呼ばわりされる日がこようとは。

 ガキと呼ばれたことを根に持ちながら、私は重い口を開く。

「弱点なのに、出してなきゃ力が発揮できないなんて難儀なもんだよなー」

 私は嫌味ったらしく、まるで独り言を言うかのように呟く。

 トウガは悶え苦しみながらも私の手を振り払い、まるで野生動物のように飛び退りながら距離を取った。

『て、てめえ…!何しやがった!?それに、なんで尻尾のことを知って…!?』

「あんたが痛がってるのは、雹果が()()()()()()()()()()()()()だったから、ちょっと再現してみた」

 私は手の内に潜ませていた恋愛成就のお守りを見せる。

「雹果には(えにし)を結ぶ力がある。そして、あんたが持つ(えにし)を絶つ力と雹果の力は“くっつこうとする力”と“離れようとする力”のため、反発を起こす。そうすると、力の大きいほうがその場に留まり、小さいほうが押し出される。それを無理やりくっつけた場合、その負荷は全部小さいほうに集約される」

 私が雹果に手を差し伸べると、雹果は迷う様子もなく私の手をとった。

「雹果の作ったこんな小さなお守りでも、あんたの尻尾に触れるだけでこれだけの効果があった。つまり、この現象が発生するということは、()()()()()()()()()()()()()。違う?」

 一度目は、トウガの背後に雹果が現れ、その背中に触れた時。

 そして二度目は、先ほど雹果が尻尾を掴んで足蹴にしていた時。

 いずれも、トウガは同じ反応をしていた。

 なぜ、そんなことが起こるのかを考えた時、私の中で一つの仮説が生まれた。


 トウガが尻尾を隠していた理由は、弱点を隠すため。

 弱点である尻尾を出さなくてはいけなかった理由は、弱点を晒してでも、本気を出さなければ太刀打ちできない相手だと悟ったから。

 トウガは天草雪白に見せたような直接的な戦闘は雹果に対しては行わず、ハンドベルを使った間接的な攻撃に留まっていた。

 さらには、精神的に追い詰めたり、理由をつけて戦闘から離脱しようと試みたり、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『俺様がそいつより弱い…?かはは…!ただの人間が俺様を侮辱しようってのか…!?俺様に盾突くなんて、千年早えーんだよ!!』

 その言葉を聞いた瞬間、私は笑いを堪えられなくなり、思わず吹きだしてしまった。

「ぷっ…くっ…はは…!はははは!!」

『い、いきなりなんだ…?な、何が可笑しい…?』

 私は、ふと先日の芽衣とノワのやりとりを思い出し、妖精だろうが神様だろうが、どこの世界にも似たようなことを言うやつがいるのだということに、無性に可笑しくなってしまった。

 私はひとしきり笑い終えた後、大きく深呼吸して呼吸を整えた。

「あー…えっと、千年早いんだっけ?でも、言わせてもらうけど、千年早かったら私はここに立ってないと思うぞ?」

 私はそう言いながら、雹果に天草雪白から預かったスマホを手渡す。

 すると雹果は、私の顔とスマホを往復するように視線を移していた。

「だって、雹果は私の友達だ。千年早かったら同じ時代に生まれて、友達になることなんて出来なかっただろうからな」

 私がドヤ顔で言い放つと、雹果が小さく言葉を漏らす。

「とも…だち…?私が…?あなたと…?」

「ああ。私たちはもう友達だ。少なくとも私はそう思ってる」


 ――自分の気持ちを素直に伝える。


 自分気持ちを相手に伝えられないほうが辛い。

 だから、恥ずかしくても言う。

 私は先日の戦いでそれを学んだ。

 だからもう、迷わない。


「雹果はどう?」

 私は雹果に向けて問いかけながら、右手を差し出す。

「人間の…友達…」

 戸惑った様子を見せた後、雹果は私の手を握り、大きく頷いた。

「友達…です」

 雹果が呟いたその刹那、手渡したスマホが突然光りを帯び、闇に飲まれた周囲を眩い閃光で照らした。


 …


 光が収束したことを確認して両の瞼を開くと、驚愕といった表情を浮かべるトウガの顔が真っ先に飛び込んできた。

『この力…!?まさかそれは…』

 私自身も事態を把握するために、慌てて振り返る。

 するとそこには、キラキラとした光の粒子を帯びながら佇む、煌びやかな衣装に身を包んだ人間が私の手を握っていた。

「…雹果…なのか?」

「はい?そうですが…?」

 何でそんなことを聞くのかと言いたげに私に疑問の視線を向けていたので、私は下を見るように促す。

「これは…」

 デザインこそメルティ・ミラと同じであるものの、カラーリングは薄紫色を基調としたものに変化していた。

 さらには羽衣のような透明な布を纏い、髪の色も衣装と同様の薄紫色へと変化、どこからともなく現れたヘアピンのおかげで前髪は留められ、今まで隠されていたその顔がハッキリ確認できようになった。

 その姿を形容するなら、地上に舞い降りた天女(てんにょ)のようだと言って過言は無いだろう。

「…驚きました」

 自分に何が起こったのかを理解していない様子で、自分の纏う衣装を触ったり捲ったりしながら、念入りにチェックしている。

「姉さまのあの格好は、趣味で着ていたわけではなかったのですね…」

「そっちかよ!?」

 私は即座にツッコミを入れる。

「私、こういう派手な召し物を着たことないので、ちょっと…恥ずかしいですね。特に前髪が…」

 雹果は視線を泳がせながら前髪を無いことを気にするようにおでこを触り、少しだけ照れくさそうか尾を赤らめながらモジモジしていた。

 その光景を目の当たりにした私の脳は、陰キャからの劇的ビフォーアフターをすぐに受け入れることができずに混乱するとともに、魔法少女マニアのスイッチを入れたと同時に激しい動悸を引き起こしていた。


 ――あー、ヤバ。マジ、可愛いぞ…これ。

 

「ま、まあアレだ。大丈夫。すごく似合ってる…と思う」

 完全に混乱していた私は、目の前にあるスカートを捲りたい衝動に駆られながら、咄嗟にアニメの男性キャラが水着回で言うようなセリフを口走ってしまった。

 雹果はこちらにチラリと視線を移したかと思うと、何かに気がついたように私をジッと見つめはじめた。

「えっ…?な、なに…?」

「そういう花咲さんも…。似合ってますよ、その格好」

 雹果の視線が私の目を離れ、下に向けられた。

「…へっ?」

 誘導されるように視線を下ろした直後、私は受け入れ難い光景を目の当たりにして硬直することになった。

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