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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
メルティキス編
83/183

第16話 魔法少女は共鳴で。(3)

 ◆5月3日 午前0時28分◆

 雹果の言葉を合図に、私たち三人は後退しながら一旦距離を取る。

「ちょっと、用事。先行ってて」

 だが、私はあることが気に掛かり、ひとり違う方向へと足を向ける。

「ああっ!?おいっ、チー!!また勝手にひとりで…!!」

 私は駆け足で、先ほど盛大に吹っ飛ばされた天草雪白の元に駆けつける。

 不自然なほどに歪曲した防護フェンスの足元に転がっている人影がもぞもぞと動き、立ち上がろうとしていた。

「…何をしに来たのですか?」

 思いのほかダメージが大きかったのか、天草雪白は立ち上がるのに苦労している様子だった。

「当然、こうするため」

 私は左手を差し出す。

 天草雪白は私の顔を一瞥したあと、差し出した手を勢いよく払い除けた。

「なっ!?おま…!?」

 私の後についてきた雨が、その行動に声を上げる。

 だが、そういう反応をされるであろうことは、大よそ見当がついていたため、私自身はそれを無表情で受け流す。

「無用です…。貴方のような一般人に心配されるほど、私は弱くありません…」

 私と雨は顔を見合わせ、雨は何かを悟ったと言いたげにニヤリと笑った。

「まったく…。どこの世界にも、変にプライドが高い人は居るもんだねー?なあ、チー?」

「さて、誰のことを言ってるのやら?私には判らないな」

 私はとぼけたフリをしながら、天草雪白の右手首を掴む。

 それを見た雨もまた左手首を掴み、二人顔を見合わせてタイミングを合わせたあと、その体を一緒に引っ張り起こした。

「…何の…真似ですか?」

 見ると、引っ張り起こされた当の本人は、険しい表情を私たちに向けていた。

「何の真似もなにも、困ってる人を助けてるんだろ?まあ、強いていうならヒーローの真似?」

 頭を傾げている雨に、私はすかさずツッコミを入れる。

「いや、そこはヒロインだし。というか、人助けなら皆出来るし、それこそ誰の真似でもないだろ」

「あ、出た。チーの正義バカ発言。言っとくけど、人助けなんて実際にはなかなか出来ることじゃないんだぞ?チーがお人好しすぎるんだからな?」


 ――お人好し過ぎるのか。私は。

 雨にそう言われても、すぐにはピンとこなかった。

 だが、普通に考えてみれば誰かを助けることにメリットなんて無く、自分の時間を費やすし、そのために使った労力も結局のところ無駄になっているのだろう。

 しかし、私は困っている誰かを見過ごすことが出来ず、気付いた時には体が先に動いてしまっていることが多い。

 今となっては当たり前だが、きっとこれも職業病なのだろう。


「…貴方方の言ってることは良く分かりませんが、一応礼だけは言っておきます…。ですが、この事態は私の招いたこと…。貴方方は早くこの場を離れてください。関係の無い人間は居るだけで邪魔です」

 強めの口調で私たちを突き放すように吐き捨てたあと、間を割って押し退けるように私たち二人を突き飛ばす。

「ちょっ…!?この状況で関係無いは――」

 雨がそう言いかけた直後、私にとって衝撃的な出来事が起こった。

 ――パチィーーン!!

「あっ…!?」

 弾けるような音が鳴り響いた直後、天草雪白の右頬には手形が刻印されていた。

 私は唖然としながらそれを見つめ、天草雪白もまた何が起きたのか飲み込めていない様子で虚空を見つめていた。

「…関係無いわけないですの!!」

 そのビンタを放ったのは、驚くことに芽衣だった。

「春希さんを襲ったことも関係ないと、あなたは仰るつもりなのですの?ベルさんのこともそうですの!あの子を追い詰めたのはあなたですの!」

 いつものような笑顔や、時折見せる真面目な表情とは違い、感情剥き出しの表情だった。

 だが、その表情を形容するなら、“怒り”のという直接的な感情ではなく、やり場のない怒りを誰かにぶつけてしまい、自分に嫌悪感を抱きながらも衝動を止められないといったような、怒りと苦悶が混ざったような表情だった。

「木之崎さん…でしたか。花咲さんを襲ったことは認めます…。ですが、私があの子を追い詰めるようなことは断じてありえません…」

 右の頬を押さえながら、天草雪白は芽衣をにらみ返す。

「ベルさんが私たちの足止めをしようとした理由は、姉さまと呼び親しんでいる方のためと仰っていましたの。あなたがその姉さまであるのなら、ベルさんをそうさせたのはあなたに褒められたかったからではないですの?」

「それは、あの子が勝手に…!」

 芽衣は首を大きく横に振る。

「ベルさんはあなたのことを敬愛していましたの。ベルさんをそうさせてしまったのは、紛れもなくあなたの行動が招いたことではありませんの?」

「ぁ…!」

 天草雪白は反論しようと大きく口を開く。

 だが、声が発せられることはなく、そのままゆっくり口を閉ざしたあと、芽衣の言葉に耳を傾ける。

「ですが…私があなたに言うべきことはそんなことではありませんの…。ベルさんに慕われているはずのあなたが、迷うことなくベルさんにその矢を放った理由を聞かせていただけますの?」

「そんなこと決まっています…!貴方方は、トウガ(あれ)の危険性を知らないからそんなことが言えるのです…!」

「では…もし、ベルさんが本物のベルさんだったとしたなら、ベルさんがその行動をどう感じるか、あなたは本当に理解していますの?」

 その瞬間、天草雪白は何かを悟ったように顔色を変える。

「きっとベルさんは“自分は見捨てられ、見限られた”。そう感じているはずですの」

「私が…あの子を見捨てた…?私はそんなつもりでは…!?私があの子に、また同じことを…?」

 天草雪白は頭を抱え、ひどく動揺した様子でふらつく。

「あなたは、自分は悪くない、関係無いと言って、責任から背を向けてきたのかもしれません。ですが、あなたの軽率で身勝手な行動は、既に多くの人を傷つけていますの。ですから――」

 芽衣はそっと手を差し出した。

「ベルさんや迷惑を掛けた人たちにきちんと謝罪するために、今の自分と向き合ってください。それが、今のあなたがするべきことだと思いますの」

 天草雪白は、戸惑いつつもその手に触れようとしたものの、思いとどまるように手を下ろす。

 だが、芽衣はすかさずその手を掴み、両手で強く握り返した。

「今のベルさんを本当の意味で救い出すには、あなたの力が必要だと思いますの。ですが、ひとりで抱え込む必要はありません。出来る事は少ないかもしれませんが、私たちにその協力をさせていただけませんか?」





 ◆5月3日 午前0時28分◆

『姑息な真似しやがって…。てめえ、どこから湧いて出やがった…?』

 少女は息を荒げ、片膝をつきながら吐き捨てる。

「不思議なことを言いますね?湧くもなにも、あなたがここに現れる前から居ましたが…?それに、湧いて出たのはあなたのほうだったかと思います」

 雹果は首を横に傾げながら、さも当然といった様子で冷ややかに答える。

『…かはは!ちげーねー。なかなか笑わせてくれるじゃねーか』

「あなたもなかなかのものです。少し強いからって意気がるその根性。私には無いものですので見習いたいものです」

『かはは!言うじゃねえか!口は達者だが、俺様の力を知ってて言ってるんだろうな?さっきの巫女の無様な吹っ飛びよう見てただろ?』

「…そうですね。姉さまは根は優しい方ですから、妹には手を出せなかったんでしょう」

『…まあいい。復活ついでの準備運動には丁度良さそうだし、その恐れ知らずの脳ミソに恐怖ってやつを教えてやるよ!』

 少女は準備運動をするように背を逸らし、肩を数回まわしたあと、まるで猫が獲物を狙うような低い体勢で構える。

「先に言っておきます。私は姉さまのように()()()()()()()使()()()()()

『オイオイ…意気がったと思ったら、今度は泣き落としか?さすがにそれは興ざめ――』

「――ですが…」

 次の瞬間、粘り気を帯びた闇のように黒い何かが地面から突如出現し、少女の足先から太ももまでを侵食するように伝う。

『っ…!?これは…呪符!?いつの間に…!?』

 その黒い何かは、少女の足元に並べられた四枚の札から発生しており、今なお溢れ出るように涌き続けている。

「あなたが嫌がるような術はたくさん使います」

 少女の体に絡み付いた闇は、既に首元まで到達していたが、少女は動じるような素振りをまったく見せることはなかった。

『く…かはは!何かと思えば…』

 少女が体を一瞬だけ震わせたかと思うと、体に纏わりついていた闇は弾け飛び、周囲に飛散した。

『この俺様にこの程度の術とは…程度が知れるな、人間…!』

「そうですか…。では、その程度が知れる人間を手早く始末してみてはどうですか?あなた、強いんですよね?」

 少女は鼻で笑ったが、雹果は表情ひとつ変えずに辛口の言葉を受け返す。

『相変わらず減らない口だな…。だが、巫女のくせに呪術とは、なかなか面白いじゃねーか。お前、名は?』

 雹果は、呆れたように小さなため息をつく。

「はあ…礼儀がなっていませんね。先が思いやられます…。名乗るときは自分から名乗るのが礼儀と教わりませんでしたか?」

『…人間の礼儀なんて知るかよ。それに、いきなり先制攻撃と罠をしかけてきたヤツに礼儀もなにもあったもんじゃねーだろーが。だが、まあいい。教えてやるよ。俺様の名はトウ――』

「――まあ、私はあなたの名前に興味はありませんが」

 少女が名乗ろうとした直後、雹果が被せるように口を開く。

『まったく…。言うこと為すこと、癇に障るヤツだな…お前…。つーか、いい加減、会話も飽きてきたぜ。さっさと続きをやろうぜ…?』

 少女が一歩足を踏み出そうとする。

 だが、まるで靴底が地面に張り付いたかのようにその足は動くことはなかった。

『なっ…ぐ…!?お前…一体何をした…!?』

 少女の足元は黒い泥のようなものが広がり、それらが少女の靴底に絡み付いていた。

「そちらの方々は文字通りの粘着質タイプなので、一度くっつくとなかなか離れてくれないんです。やはり、本物の戦場を経験されている方々は執念の年季が違いますよね」

 雹果は少女の足元をまじまじと見つめながら、感心するように呟く。

『はあ…?お前、何を言って…』

 必死に身じろいでもまったく動けない少女を余所に、ポケットから白い手袋を取り出し、それを両手にはめる。

「…八代家は、破魔の血を受け継ぐ退魔師の家系です。中でも私は、特にその力が強く顕現したらしく、私が悪霊などの霊的な類に触れると、低級霊であればたちまち浄化されてしまいます」

『それが一体…って、まさかてめぇ…!?俺様がそこいらの雑魚と一緒だって言いたいのか…!?』

 少女が大きく息を吸い、気合を込めるように息を吐き出すと、足に絡み付いていた黒いものは再び飛散した。

『甘くみるなよ…。この程度の術、何度も同じ手が通用すると思ったら大間違いだぞ…』

 雹果は眉を八の字にしながら首を傾げる。

「甘く見てなどいませんが…?むしろ、あなたのことを評価しています。先ほど私があなたの背中に少し触れたとき、あなたは難なく耐えてみせましたから」

『なっ…に…!?さっきのあれが、触れただけだって…!?ちっ…、ま、まあ誉められて悪い気はしねぇが、試されてるみたいで気分が悪いぜ…』

 すると、その言葉に雹果は初めて驚いた様子を見せる。

「驚きました。なかなか察しが良いですね。実は私、○ンハンよりもポケ○ン派なんです」

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