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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
メルティキス編
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第16話 魔法少女は共鳴で。(2)

 ◆5月3日 午前0時24分◆

「収まりましたの…?」

「今の…一体何だったんだ…?」

 片目を少しだけ開き、強烈な光が収束したことを確認しながら、ゆっくりと両目を開く。

「これは…」

 まず、視界に飛び込んできたのは、霧状の白い(もや)のようなもので、それは私たちの居る周囲一帯を含め、屋上全体を雲海のように覆っていた。

 雨と芽衣の二人も私と同じく、何が起きたのか飲み込めていないといった様子で、キョロキョロと周囲を見回していた。

「…二人とも無事?」

「ああ…。パピヨンマスク着けたガキにでっかいハンドベル振り回されながら追いかけ回された挙げ句、縛られたうえに蹴り回されて、散々だったわ…」

 それを聞き、私は眉をハの字にしながら首を傾げる。

「あー…なんか良く判らないけど、とりあえずどこか悪いところを打ったのは確かみたいだな…」

 私はそのカオスな内容の言葉をまったく理解出来なかったため、適当な相槌を打つ。

「あっ!冗談か何かだと思ってるだろ、その反応は!?事実だよ、事実!!」

 横に居る芽衣に激しく頷かれたので、俄かには信じ難かったものの、どうやら本当らしいことは理解した。

 だが、意味は理解していない。

「てか、そっちは…?私たちと別れた後に何があったんだ?ていうか、会長のあの姿はどういうことなんだよ?」

 私も対抗するように、先刻起きたことを含めながら、あらすじを語る。

「あー…長くなるから色々端折(はしょ)るけど、この件の依頼人である生徒会長は、実は二年前に亡くなった生徒会長の亡霊で、その霊の存在を隠すために天草会長が狐面として立ち回ってたってのが事の真相。それを暴いたら鏡の中に落とされて行方不明にされそうになったりしたけど、こっちはそんなとこ」

「生徒会長の亡霊…!?マジで勘弁してくれー…」

 雨は貧血になったかのように頭を抱えて、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。

「で、でも!春希さんが無事で何よりですの!私は心配で心配で気が気じゃありませんでしたの…!」

 芽衣が私の両手をそれぞれ掴みながら、眼前まで顔を寄せてきた。

「行方不明も大概だけど、一番危なかったのアンタでしょーが…」

 雨の視線が私の目を誘導し、芽衣の手に巻かれたハンカチに気付かされる。

「なっ…!?怪我してるのか…!?」

 私は芽衣の手を取り、手のひらを確認するとハンカチが赤く滲んでいた。

「ああ…!?その…!これは…」

 芽衣は慌てるように私の手を振りほどき、手を後ろに隠しながら視線を逸らした。


 ――くそ…。またやってしまった…。

 ここに二人を連れてきた以上、何かしらの危険に巻き込んでしまう可能性は少なからずあると覚悟した上での判断ではあった。

 だが、いざこうして巻き込んだ事実を突きつけられると、私自身が後悔の念に苛まれているのも事実であり、自身の覚悟が足りていなかったことに今更ながら気付く。


 私が俯くと、雨は私の肩を軽く叩きながら言う。

「それは芽衣にとっては名誉の負傷だ。チーが自分を責める必要は無い。そうだよな?芽衣?」

 それを聞いた芽衣は、私を見つめながら頷く。

「はい!これは私が自分の意思でやったことですの!春希さんは関係ありませんの!!」

「でも、私が二人を連れてこなければ…」

「ま~た始まった、ネガチーモード。それは程度の問題だろ?それなら、私たちが友達にならなければーとか、出会わなければーって話にもなる。そんなのは今更考えても仕方無いし、私たちは自分の意思でココに居ることを選んだんだ。だからこれは自分自身の責任」

 芽衣は一際大きく頷く。

「私は春希さんと出会えたことが、本当に幸運だったと思っていますの!これくらいの傷、春希さんと友達になれないことと比べれば大したことありませんの!」

「あーちゃん…芽衣…」

 私は大きくため息をつく。

「分かった。とりあえず二人とも元気みたいだし、今回は結果オーライってことにしとく」

 二人の頑なすぎるくらいの固い意志を感じ取った私は、自分が折れることにした。

「…でも、私の目の届かないところでは無茶をしないで欲しい。わ、私だって同じくらい二人のことが心配なんだから…」

 二人は互いに向き合ったかと思うと、ニヤリと笑みを浮かべながら答える。

「おっけー!」

「判りましたの!」

 二人の態度に一抹の不安を抱きながらも、私は気持ちを切り替え、今するべき目の前の事に向き合うことにした。

「とりま二人に聞きたいんだけど、さっきのアレは?」

 私は当事者である二人に、先程の出来事について問いただす。

「いや、こっちが聞きたいわ…。ぶっちゃけ、チーに言われて振り返るまで気が付かなかったし…」

「春希さんが駆けつけてくださる時まで、あのようなものは無かったかと…」


 ――気付かなかった?あんなものは無かった…?

 私にはどう見ても、爆弾が爆発する臨界点みたいなものに達したような状況に見えた。

 あの状況になるまでそれほど時間を要さなかったか、もしくは、私の目と同じく()()()()()()()()()()()()()()


 状況が飲み込めずにいると、私の横を通り過ぎる影が視界に入った。

「あっ!?おい!?今動くのは…!」

 私が制止するよりも先に天草雪白が飛び出し、周辺に向けて大声を上げる。

「ベルーっ!無事ですかーっ!?」

 だが、靄の壁がその声を遮る様に邪魔をしており、その言葉が誰かに届いた様子はなかった。

「どこですか!?返事をしてください!?ベル!?」

 依然として静寂が続く中、何度も声を掛け続けていたのだが、その返答は一向に返ってくることはなかった。

 痺れを切らしたのか、天草雪白は靄が色濃く残る一帯に一歩踏み出そうとする。

 だが、その直後にその足はピタリと止まる。

「…何の真似ですか…。離してください」

 私は、彼女の動揺する姿を見兼ねて、その手首を掴んで引き留めていた。

 だが、天草雪白は振り向きもせず、急く気持ちが先行するかのように靄の先を一心に見つめている。

 そこで私は真正面に回り込み、立ち塞がるように進路を阻む。

「一旦落ち着いて、先輩。彼女は無事」

「何故、貴方にそんなことが判るのですか?」

 ようやく私に視線を向けたものの、その一際鋭い眼光が私の目に睨みを利かせた。

 だが、私はそれを迎え撃つように見つめ返しながら、とある方向を指差す。

「あっち」

 誘導されるように天草雪白もその方向に視線を移すと、その表情に明らかな変化が表れた。

「…!?」

 吹きすさぶ風によって靄は緩やかに流され、その視界は次第に晴れてゆく。

「ベ…ル…」

 雨雲が晴れ、僅かな月明かりが雲間から差し込み、魔法陣の上に佇む影を照らし出す。

 そして、その機を見計らっていたかのように、静かに佇んでいた人影がゆっくりと口を開く。

『――安心なさってください、姉さま。私はなんともありません』

 整然と立つ少女は、自らの無事を告げると同時に、にっこりと笑みを浮かべる。

 そして、私たちの方に踵を鳴らしながら一歩一歩近づいてきた。

 10歩ほど少女が歩みを進めたとき、静寂に満たされた空間は打ち破られた。

「――そこで止まりなさい!!」

 そこで強く声を発したのは、天草雪白だった。

 額に汗を浮かべ、鬼気迫った表情でその少女を睨み付けながら、いつの間にやら取り出したであろう弓矢の矢じりをを少女に向けていた。

『どうしたのですか?姉さま?やはり、まだ怒って――』

 少女が言い終えるよりも先に、放たれた矢が少女の顔をかすめ、一筋の赤い軌跡が白い頬に刻まれた。

「なっ!?」

「下手な芝居など無用です」

『…』

 少女はその場で硬直したまま目を伏せた。

 そして、長い沈黙のあと、ニタっとした笑みを浮かべながら口を開き、頬を伝う血を舌で舐め取った。

『――かはは!こいつは面白くねーな…!』

 先ほどまでの様子から一変し、その容姿からは掛け離れた口調で少女は話し始める。

『さすがは、俺様を封印した人間…。これだから巫女ってヤツは面倒なんだ。鼻が良過ぎるのも考えもの…てか、この場合は目か?かはは!』

「たとえ姿形を偽ろうとも、私が貴方の放つ邪気を見間違えることはありえません…!」

 私はその会話の意味に引っかかりつつも、二人の会話に割って入る。

「す、ストップ!やめるんだ、先輩!あれは…!」

 私は再び天草雪白の前に立ち、両手を大きく広げる。

『偉大な巫女さんに覚えられているなんて、光栄の至りだけどよー?少し勘違いしてるぜー?この体は正真正銘ホンモノの肉体なんだぜー?』

「戯言を…。その手には乗りません」

 天草雪白は私に構うことなく、矢を鏡の中から取り出して再び狙いを定める。

「先輩!いいから話を聞いて!あいつは嘘を言ってない!たぶん、ホンモノだ!」

 私が腕を掴んで妨害するも、弓の矢先は少女を狙い、狙われている方もまた一向に挑発を止めない。

『いいぜいいぜ?嘘だと思うなら、その矢でこの身体を射抜いてみれば良いんじゃないか?前みたいになー?かはは!』

 少女が放ったその言葉の直後、天草雪白に明らかな変化が現れた。

「くっ…!?トウガ…!!」

『かはは!良い顔だ!ソレだよ!ソレ!そうこなくっちゃあ面白くない!!』

 少女の顔は歪み、まるで喜びを求めているかのように、卑猥な笑みを浮かべた。


「メルティー・ベルさん…。どうなさったのでしょうか?」

「ああ…。さっきまでとまるで別人だ…。まあ、生意気そうなところは相変わらずだけど」

 芽衣が洩らした言葉を、私は聞き逃さなかった。

「もしかしてメルティー・ベルっていうのか?あの子?」

「あ、はい。本人から直接聞きましたの」

 芽衣の言うようにメルティー・ベルが彼女の名であるのなら、先ほどのやりとりから見てもメルティー・ミラと名乗った天草雪白とは見知った間柄か、それ以上の関係なのだろう。

 そしてまた、同じような力を持った存在である可能性もまた高い。

 だが、現在のあの子はその限りではない。

 なぜなら、あの少女からはメルティー・ミラである天草雪白とはまったく異なる、異質な何かであると私は感じとっていた。

 例えるならそれは、まったく違う人格が複数人混ざり合ったように、様々な感情を発していたからだ。

「なるほど…。今の彼女はメルティー・ベルであって、メルティー・ベルでない。そうですね?先輩?」

「このまま放って置けば、また…。どうすれば…」

 天草雪白は心ここに有らずといった様子で、私の声が聞こえている様子は無かった。

「先輩!しっかりしてください!」

『おーい、そこのチビガキ。こっちは良い感じに盛り上がってるんだから、水を差すんじゃねーよ?邪魔するなら、子供でも容赦しないぜ?』

 「誰がチビガキか!」などとツッコミを入れる余裕も与えてはもらえず、トウガと呼ばれた少女はその小さな身体を一気に加速させて距離を詰める。

「春希さん!?」

「チー!?避けろ!?」

 その手には巨大なハンドベルのような形状のものがいつの間にやら握られており、それをバットを振るかの如く、横一線になぎ払った。

 それと同じくして、私は一歩引こうとする際につまずき、体勢を崩して地面に尻餅をついた。

 次の瞬間、結果的にはハンドベルが私の頭上で勢いを止め、未だその位置を保っていた。

『…何の真似だあ?ソイツはお前にとって邪魔な存在じゃ無かったのか?』

 首を上に傾けると、鏡の盾を構えた天草雪白がハンドベルを防ぎ、私を守るように立っていた。

「せん…ぱい…?」

「…私は大切な人を守るためにと、この力を行使してきました。そして、守るためだからと自分の行動を肯定していました。それ故、本当に守るべきものが見えておらず、あまつさえその人たちにこの力を振るってしまった…」

 天草雪白は絞り出すような声で話を続ける。

「…私は間違っていました。私の力は大切な誰かではなく、弱きを守るために行使すべきもの。そんな当たり前のことすらも忘れていました…。ですが、今守るべきものくらいは判ります…!」

『かはは!散々人を貶めておいて、今さら正義ヅラか?手遅れだっつーの!』

 少女が力を入れると、天草雪白の身体は盾もろとも弾き飛び、大きく宙を舞ったあと、フェンスに叩きつけられた。

「くはっ!?」

『かはは!弱い!弱いぜ!?この身体すげーな!?』

「――これは少し躾が必要ですね」

 少女が息巻いた直後、どこからともなく囁くような声が聞こえた。

『ぐあああっ…!?なんだぁあああ!?』

 その直後、まるで雷に打たれたように少女は身体を仰け反らせながら、苦悶の声を上げた。

 気が付くと、その背後には人影があった。

「うちの妹の身体。返してもらいます」

 その人影は八代雹果だった。

「雹果…!どうしてここに!?」

 驚く天草雪白を余所に、私は苦言を漏らす。

「さすがに出てくるのが遅すぎないか…?何回か死ぬとこだったぞ…?」

 実を言うと、彼女がここに来ていることを私は知っていた。

 だが、明らかに登場するタイミングが遅すぎる。

「…あなたたちの使った戦略、勝手に使わせて貰いました。確かになかなか有効そうです」

『ぎいぃ…!?オイオイ!?巫女が二人も居るなんて聞いてねーぞ!?』

 地面に片膝をつきながら、少女は声を荒げる。

「ともかく、今のうちです。皆さんは引いてください。私がこの子の相手をします」

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