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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
メルティキス編
76/183

第15話 魔法少女は鏡と鐘で。(1)

 ◆5月2日 午後11時◆

「ま…マジでやるのか…?」

 私は背負っていたリュックサックを門の向こうへ放り投げたあと、芽衣に補助してもらいながら校門をよじ登り、門扉を跨ぐ。

 そして、不安そうな表情を浮かべる雨に対して、高みから言い放つ。

「当然」

 そのまま反動をつけて飛び降り、反対側――つまり、学校の敷地内への侵入を果たした。

「ば、バレたらどうすんだよ!?今度は反省文じゃ済まないぞ!?」

 私は地面に落ちたリュックサックを拾い上げながら、大きな溜め息をつく。

 ――相変わらず、こういう所だけはマジメなんだよな…。

「適当に言い訳すれば問題ない」

 無論、不法侵入であることは間違いなく、訴えられれば負けることは確実だが、学校中のガラス窓を叩き割って回ろうとしているわけでもないし、忘れ物を取りに来たとでも言っておけばどうとでもなる。

「じゃあ、何かヤバイやつ出たらどうすんだよ!?芽衣はそれで良いのか…?」

 視線を移すと、芽衣は門扉から距離を取っていた。

 そして、助走を付けながら、まるで棒高跳びをするような軽い身のこなしで飛び上がり、一瞬で門扉越えを果たした。

「おおー」

 私は10点満点の着地に拍手を送る。

「何か…とは、幽霊さんのことですの?私は是非とも一度見てみたいですの!」

「へ、へぇー…じゃ、じゃあ、この前みたいにいきなり襲われたら…」

 あの赤狐面に襲撃されてから日も浅いし、雨がそう考えるのも当然だろう。

 だが、私だって家で呑気にふんぞり返っていた訳ではない。

「大丈夫。策はある」

 私は背を向け、背中に背負ったリュックを見せ付ける。

「さっきから気にはなっていたけど…それ、何が入ってるの?」

「それは見てのお楽しみ」

 暗闇に佇む校舎を見上げ、雨は身震いする。

「…ぜんっぜん、楽しめそうもないんだけど…」

「まあ、無理にとは言わないから、あーちゃんは帰っても良いよ。じゃあ、芽衣。早く行こう。こんなところで誰かに見つかったら、それこそ元も子もないし」

 私は雨の答えを聞くことなく、校舎の入口へと歩みを進める。

「えっ…。ここから一人で帰れって…?ま、待てって!?それはマジ無理だから!?私も行くから!」


 …


「お…思ったより暗いな…」

 持参していたライトで周囲を照らしながら、廊下を進む。

「あーちゃん。そんなにくっつかれると歩きづらい」

「ば…くっついてないし!」

 雨は慌てながら私と距離を取る。

 だが、落ち着かないといった様子で、しきりに周囲を警戒している。

「芽衣を見てみろ」

「わー、怖いですのー」

 芽衣は堂々と私の腕にしがみつき、密着している。

 だが、その顔はニコニコとした表情を浮かべており、その言葉は完全な棒読みだった。

「この通り、通常運行だ」

「ばっ…!わ、私にそんな恥ずかしい真似出来るわけないだろ!」

 雨は顔を赤らめながら答える。

「そうじゃなくて…これくらい今の状況を楽しめれば、怖くなくなるって言ってるの。夜の学校なんてそうそう入れないし、誰も居ない学校を探索出来ることなんて滅多にない」

「そりゃそうかもしれないけど、私にはムリだーっ!」

 雨が頭を抱えて混乱している様を、私は鼻で笑いながら歩みを進める。

「春希さん。これからどうしますの?」

「まずは、七不思議のうちの既に解明されている五つを見て回ろうと思う」

 雨は腰が砕け落ちるように、地面に伏した。

「マジかー…」


 …


 教室棟の三階にある、女子トイレの一番奥にある個室。

 私はその扉を三回ノックする。

『…はい』

「ひぃ!?」

 雨が声を上げて芽衣に抱きついたが、私は気にもせず、その扉を迷うことなく開ける。

「…」

 無論、そこには誰も居なかった。

 私は個室のドアを内側から閉め、扉の裏側を入念に探る。

 すると、後で修繕されたように不自然に変色している部分を発見した。

「あった」

 持参していたマイナスドライバーと金槌を駆使し、中身を丁寧に抉り出す。

 ドアの中から取り出されたのは、黒い小さな箱のようなものだった。

 作業を終え、私は再び扉を開ける。

「ただいまー」

 私はそれを芽衣に手渡す。

「おかえりですのー。これが七不思議の正体ですの?」

 芽衣がそれを三回振ると、それは少女の声で再び返事をした。

 音感センサーを搭載しているのか、三回振動した際に作動し、小さい音で少女の声を発するという仕掛けが組み込まれた機械のようだった。

 事前調査の段階で、オカルト研究会から七不思議の内容、設置場所、事の顛末までを全て聞かされていた私が、なぜ、こうして七不思議を巡っているかというと、それらが()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

「ん?」

 気がつくと、魂を引っこ抜かれたように、雨の顔は顔面蒼白になっていた。

「あーちゃん?生きてる?」

「はっ!?」

 雨は、まるで気絶していた人間が目を覚ましたかのように目を見開いた。

「チー…もうちょっと順序とか遠慮とかあるだろ…。こっちの心の準備も考えてくれ…」

「いちいち心の準備なんてしてたら日が暮れる…もとい、日が明けちゃうだろう?」

「てかこれって、今じゃなくて昼間のうちに調べれば良かったんじゃ…」

「さすがに日中にドアを壊してたら目立つ。それに、それじゃあ()()()()()()()?」

「わ、私は今のほうが面白くない…――って、あれっ!?い、今のは私でも判るぞ!どう考えても矛盾してる!」

 私はニンマリ笑う。

 雨の言う様に、昼間のうちに調べておけば、今こうしている時間も必要なかっただろう。

 だが、先ほど私が言った様にそれでは()()()()()のだ。

「…あー!?ようやくわかったぞ!?私が怖がる様子を見て楽しんでたのか!?そうだろ!?そうなんだな!?」

 私は、雨の言葉をスルーして歩みを進める。

「よし。じゃあ、張り切って次行こー」





 ◆5月2日 午後11時55分◆

 実習棟を回り終えた私たちは、教室棟に戻ることにした。

 その際、急な悪天候に見舞われて雨に晒され、ずぶ濡れの状態で教室棟に辿り着くことになった。

「くっそ…いきなりだなぁ…」

 雨はブラウスの裾を絞りながら愚痴をこぼす。

「なんか、あーちゃんと一緒だと、高確率でこういう目に逢う気がする」

 私もスカートを絞りながら愚痴をこぼす。

「でも、これくらいなら、少しすれば乾きそうですの」

「じゃあ、服が乾くまで休憩しよう」

「賛成…流石に疲れたわ…」

 雨は傘立てに腰掛け、私と芽衣も習うように腰掛ける。

「…まあともかく、これでハッキリした。七不思議は怪現象なんかじゃない」

 他の四つの七不思議に関しても一通り回ってみたが、オカルト研究会から聞いた通りのものだった。

 夜な夜な動き出す人体模型は、カラフルな臓器のイラストで彩られた全身タイツを着た誰かが、校内中を走り回っていたものらしく、それらしき痕跡である全身タイツは化学準備室から発見され、誰も居ないのに鳴り出す音楽室のピアノは、数分以外はほぼ丸一日無音が録音されたピアノの音源を流していたらしく、ピアノの裏面に設置されたレコーダーを確認できた。

 目が動くモーツァルトの肖像画は、精巧に作られたニセモノの絵に、裏を黒く縫ったガラス玉の半球をはめ込んだもので、どこから見ても自分を見ているように見えるという錯視を利用したもので、あるはずのない13段目の階段は、演劇部が舞台で利用している目の錯覚を利用した舞台階段を、屋上の階段の踊り場に設置して視覚的に13段に見せかけていただけだった。

「結局のとこ、誰かが七不思議をでっちあげてたってこと…?」

 私は大きく頷く。

「はぁー…。なんかビビッてた私が、馬鹿みたいじゃないか…」

 最初から知っていた私としては、ここに至るまではかなり面白い余興だった――なんて本人に言ったらへそを曲げてしまう気がしたので黙っておくことにした。

「でも…一体誰が、何の目的でそんなことをなさったのでしょう?」

「どこかのバカが考えたイタズラじゃないの?」

 私も当然、誰かが七不思議を用意したあとに七不思議の噂を流した、という線を考えた。

 だが、史実と結果が一致している以上、もう一つの可能性を見過ごすことは出来なかった。

「…きっと、秘密を隠すためだろう」

「秘密…?」

「たぶん、最初の七不思議は真実を隠すために故意に流された小さな嘘だった。けど、その嘘は噂となった。噂の中に真実が紛れ込んだ結果、隠れ蓑だったはずの七不思議は真実味を帯びはじめ、噂は取り返しがつかないくらいに広まった」

 きっとそれは、噂を流した当人も予想外の事だっただろう。

 なにせ、人を遠ざけるために吐いたはずの嘘が、逆に人の興味を掻き立てて呼び寄せることになってしまったのだから。

「誰かが嘘を吐いて、その辻褄(つじつま)合わせで七不思議をでっち上げたってこと?マジ、メッチャ迷惑じゃん、それ」

 雨は眉間のシワを一層深くする。

「ちょっと待ってて」

 私はスマホをポケットから取り出し、二人のスマホにURLを送信する。

「これは…校内新聞の過去の記事?」

「そういえば、図書室に行った時、過去に遡って閲覧出来ると書いてあった記憶がありますの」

「んん…?じゃあ、七不思議のことについても書いてあるんじゃないのか?大騒動になってたなら情報くらい出ててもおかしくないだろ?」

 私は首を横に振る。

「探した。でも、それらしい記事は見つからなかった」

 図書室に立ち寄った日の夜、過去の記事を漁ってはみたが、私が見つけられたのは夜の学校に入らないようにという注意喚起くらいだった。

「情報統制…でしょうか?」

「たぶん、学校としても七不思議を認めるわけにはいかなかったんだろ。それを認めたら、夜中の校内に生徒が出入してることになる。そういうわけで、七不思議のことはきっぱり諦めて、別の方向から調べてみた」

 私がスマホを指差すと、二人は誘導されるようにスマホ画面に視線を移す。

「これは、部活のリストですの?」

「そう。今のが一昨年。それで、これが去年のリスト。この二つを見比べてみて」

「う~ん?美術部…陸上部…科学研究部に機械工作部。吹奏楽部…それに演劇部あたりが増えてるな…。これがどうしたんだ?」

「私たちが見てきたものと、その記事こそが、私がこの説の確信に至った理由だ」

「見てきたもの…?」

 私は一呼吸置き、二人に問いかける。

「…生徒会は、なんで私に七不思議を解き明かすように依頼したんだと思う?」

 二人は互いに顔を合わせ、怪訝な顔を浮かべながら首を傾げる。

「単に、七不思議のうちの五つが既に解き明かされていることを、生徒会の方が知らなかっただけなのではないですの?」

「二年前、七不思議を解き明かした人物が多くの生徒の前で解明したと公言してる。そして、それを発端としてその人物は亡くなったとされている。そんな状況で生徒会がその内容を把握していないわけがない」

「確かに…。でも、ほとんど解明されてるとしたらチーに頼む理由はないし、自分達で解決すれば良いだけじゃない?」

「もしそうだとしたのなら、自分達では残り二つの謎が解けなかったからですの…?他に考えられるとすれば、それが隠しておきたい事実だった…」

 芽衣は何かに気が付いたのか、ハッと声を上げる。

「もしかして…」

 私は小さく頷く。

「生徒会が七不思議を解明する必要なんて無い…――むしろ、解き明かすわけにはいかなかった。なぜなら、生徒会が七不思議を作ったんだから」

「はあ!?生徒会が七不思議を作った!?」

「でも、そう仮定してしまうと、どうやっても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その瞬間、ひと際大きな雷鳴とともに、校舎が閃光に包まれた。 

「ひぃっ!?」

 雨は悲鳴を上げ、耳を塞いで縮こまった。

 雷鳴の余韻が鳴り響く中、沈黙が流れる。

「…そろそろ服も乾いたし、行こうか」

「い、今帰るのか!?まだ雨は降ってるけど、めっちゃ雷が鳴って…」

「そっちじゃない」

「へ…?」

 私は校内を指差す。

「…も、もう終わったんじゃ!?」

「何言ってるの?あと七不思議は二つ残ってるし、ここからが本題」

「マジかー…」

 雨は再び地面に崩れ落ちた。

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