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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
レイン・オア・シャイン編
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第5.5話 魔法少女は浴場で。(1)

 ◆4月6日 午後9時◆


「うわー! おっきいー!? 見て見てお姉ちゃん! プールみたいだよ!?」


 私自身は好きか嫌いかと問われればどちらでもないものの、母親に口うるさく言われているため風呂に入ることは毎日の習慣であり、浴室を借して貰えるよう芽衣に頼むと、芽衣は私を浴室へと案内した。

 興味本位で一緒にくっついてきた夏那は、到着するなり浴室への扉を思いっきり開け放つと、その光景に驚嘆の声を上げた――というのが現在の状況だった。


「……確かに凄い。浴室っていうより、大浴場だな……」


 高級ホテルを思わせるような凝った意匠が随所に施され、さも当然の如くマーライオンらしきものが堂々たる様相で中央に鎮座し、その口から止め処なく流れ出しているお湯が25メートルプールほどはある浴槽を満たすために尽力しており、その横では、高級旅館の大浴場とも思えるヒノキ造りの浴槽が併設され、和洋折衷といった光景が非日常を演出していた。


「着替えはこちらにご用意しておきましたので、ゆっくりくつろいで下さいの」

「あ!? ありがとうございます!」


 芽衣はそう言って、先日私が着せられたものと同じネグリジェのようなものを棚に置くと、そのまま立ち去ろうとした。

 私はその行動に違和感を覚え、思ったことをそのまま口走ってしまった。


「……一緒に入らないの?」


 背中を流したいだとかを自分から言ってくるものと覚悟していたので、その謙虚な対応はらしくないなと直感的に思っただけなのだが、よくよく考えてみれば自分から一緒に入ってほしいようにも捉えられる発言のため、私らしからぬ失言してしまったことをすぐに後悔した。


「そうしたいのはやまやまなのですが、私が一緒だと春希さんがゆっくり出来ないと思いましたの。だから、ご家族でゆっくりなさってくださいの」


 顔は笑っているが、その眉はハの字を描いている。


(なるほど。私を気遣ったってことか)


 当然ながら私は、プールや脱衣所で肌を晒すことすら躊躇うタイプの人間ではあるし、人付き合いが苦手な私が、その上位レベルのコミュニケーションであるところの、俗に言う裸の付き合いが得意であるはずもなかった。


「気にしないでいい。せっかくだし、一緒に入ろう」


 浴室を借りている身である私にとやかく言う筋合いは無いだろうし、これから一緒に肩を並べ、命運を託そうという相手に壁を作るような態度は、信頼関係に関わってくるだろうと考えた私は、今回ばかりは大目に見ることにした。


「え……? ほほほ、本当に!? で……でも……本当に良いのですか……?」


 芽衣が歓喜の声を上げ、その瞳に何か異常めいた何かを感じた私は本能的に一歩後退った。

 故に私は、一応の線引きをしておくことにした。


「へ……変な目で見たらすぐに出てくから」


 ………


(どうしてこうなった……)


 浴場に隣接している脱衣場で、私は困惑していた。

 流した汗を洗い流すとともに、湯に浸かりながら疲れを癒し、文字通り身も心も全てをさらけ出して交流を行い、明日の決戦へ向けて万全を期すために心も身体も整える――なんとも有意義かつ合理的ではないかと思慮する反面、この先起こるであろう事態に、私の気が休まる瞬間など無いのだろうと確信していた。


「じゃあ、さっそくみんなではいろー!」


 夏那はものの一瞬で上着を脱ぎ捨てると、スポブラを惜しげもなく晒す。


「ちょちょちょちょ!?」


 棚に体当たりしながら、夏那とハーマイオニーの間に滑り込むと、ハーマイオニーは突然のことに驚き、キョロキョロと視線を泳がせていた。


「な、なに? どうしたの、お姉ちゃん?」

「ちょ、ちょっと足が痺れちゃって」

「大丈夫?」

「だ、大丈夫。もう治った」

「そうー? よかったー」


 どうやら芽衣も困惑している様子で、チラチラと視線を送りながら私たちのやりとりを傍観しているのだが、それに対し、夏那はいつになくご機嫌な様子だった。

 この場の流れ的に、私が衣服を脱がなければ不自然ではあったのだが、妹を挟んだ私の背後にはハーマイオニーが居るため、私がその場をどけば、妹の脱衣シーンを再びその目に晒してしまうことになるという板挟み状態になっていた。


(くっ……。ここは私が犠牲になるしかない、か……)


 覚悟を決めて服の裾に手を掛けると、私の一挙手一投足を窺うようにこちらをガン見しているハーマイオニーの顔が視界に入り、私は蔑む様に睨み返しながら「見・る・な」と無言でジェスチャーを返す。

 するとその直後、ハーマイオニーの顔は一瞬にして青ざめ、恐怖に歪んだ。


「ひぃっ……!?」

「ん? ハーマイオニーちゃん、どうしたの?」

「ややや、やっぱり、ぼ……私は大丈夫です! あとで、一人で入りますから!」

「もしかして……みんなでおフロ入るの嫌い?」

「へっ!? あ、いや……そういうわけでは……というかむしろ好きではあるんですけど……」

「あっ! わかった! 一人で体と頭が洗えないんだね! わかるよー! それなら、私が一緒に居るから大丈夫! 一緒に洗いっこしよ!?」

「あー、いやー……それが一番マズイんだけどー……」


 このまま流れに任せると、妹は数秒でその衣服を脱ぎ捨て、美少女の皮を被った狼の前で一糸纏わぬ姿を晒すことになる――姉として、それだけは避けねばならない事態であり、明日の作戦に不都合が起きることも考慮した場合、ここで私の出来ることはハーマイオニーを遠ざけてこの場をやり過ごすか、その目を欺くことくらいだった。


「ハーマイオニーちゃんは着てる服が脱げないのかなー? ちょっと脱ぎ辛い服だからねー? 芽衣、ちょっと手伝ってあげてー?」

「えっと……。ああ!? は、はいですの!!」


 わざとらしく声を上げ、目配せだけで芽衣に指示を出すと、状況を理解した芽衣はすぐさまハーマイオニーに駆け寄った。


「あー、そうだったんだ! 気がつかなくてごめんね? じゃあ、私も手伝って――」

「い、いいから! 夏那は先にはいってて! ハーマイオニーちゃんは後で私達が連れて行くから!」

「そう? それじゃあ、先に行ってるね!」


 夏那は年頃の恥じらいも無いかのように衣服を脱ぎ捨て、すっぽんぽんになって浴室に勢いよく駆けていった。

 その姿が消えたことを確認すると、ハーマイオニーの目を塞いでいた私は安堵の溜息を吐いた。


「さて、と……。不確定要素は去ったけど、ここからが問題……」

「じゃ……じゃあ、僕は部屋に戻りますね……」


 そういって帰ろうとするハーマイオニーの手首をガッシリと掴み、私は引き止める。


「待って。ここで帰ったら不自然。こうなったのは私の責任だし、なんとか私の知恵で乗り切ってみせる」

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