第7話 魔法少女は一緒で。(6)
◆4月7日 午後4時44分◆
「……着いた」
目的の場所まで移動することはできたものの、走ってきたわけでもないのに息も絶え絶えながら何とか立っている状態であり、正直なところ、明日の自分がポーションの副作用でどうなっているかなどと考えたくもなかった。
一層強さを増した雨が視界を遮ってはいるが、芽衣の姿が健在であることは辛うじて視認はでき、その事実に一度は安堵したものの、私の中で沸き立つざわざわとした胸騒ぎが終息することはなかった。
(芽衣の足止めは成功してるみたい……。だけど……この違和感はなんだ……?)
息巻いて見栄を張ったり、他人をただ真似るだけでは、威厳や風格などというものは出せないように、私同様、幾度の窮地を自らの力で乗り越えてきたような経験によって、少しずつ培われてきたものが芽衣にあると、私は確信している。
これまでの彼女がどんな経験をしてきたかなんて、数日間同じ時間を過ごしただけである私には想像もつかなかったが、私の知る今までの彼女は一般的にみれば常識人の範囲内であり、一度でも人間を外れた私のような存在であるならまだしも、普通の人間がエゾヒを止められるなどとは到底思えなかった。
状況だけを見れば上手く足止めしていることは事実ながら、芽衣がどのような手段によってエゾヒの足止めしているのか……そこに奇妙な違和感を禁じ得なかった。
(いや、考えるのは後回し……。あとは、一刻も早く芽衣に私が到着したことを伝えるだけ……。どうやって止めていたかは後で聞けば良い)
「芽衣! もういいから、下がって!」
目的の場所に到着したことを伝えるため大声で叫んだものの、雨の向こうに居る芽衣に目立った反応はなかった。
「芽衣!!!」
再び、自分の出せる最大限の声量で名を呼ぶも、やはりというべきか、これといった反応は見られなかった。
(もしかして、雨音で私の声が聞こえていないのか? それなら別の方法で……)
「あ、あれ? なんで……?」
インカムという便利な伝達手段があったことを思い出し、腰に備え付けられている本体にスイッチを入れてみるも、ディスプレイには何も表示されず、無音の静寂だけが耳に広がっていた。
よくよく思い返してみると、落下して衝撃受けたり、地面を転がって泥水に浸かったりと、これまでだけでも原因は幾つも考えられ、壊れてしまっていてもそう不思議ではなかった。
「くそ……っ! こんなときに……」
インカムも使えず、エゾヒがこの場に展開した位相空間の中では、時代の利器であるスマホも使えないため、事実上、芽衣への連絡手段は完全に絶たれていた――つまり、こちらに注意を向けさせるか、伝達できる距離まで接近するしか方法がなかった。
物を投げて知らせるという方法も考えてはみたものの、雨という悪条件の中でエゾヒを刺激せず芽衣に合図出来るような絶好の位置に投球するなどという芸当は、漫画のキャラクターかメジャーリーガーでもない限り普通に考えて無理があるし、私が接近するにしても、それによって芽衣とエゾヒの間で保たれていた均衡が一気に崩れ、不利な状況に陥る可能性さえも考えられるだけでなく、仮に意思を伝えられたとしても、満身創痍である私がその場から逃げ切れる保証など皆無であると言えた。
(芽衣がこちらに気が付くまで待つことも出来る……。でも、それは双方にデメリットがある……。芽衣は持ち堪えなくちゃいけないし、エゾヒは魔蒔化のタイムリミットを迎えて死んでしまうリスクがある……。だとしたら、私はどうすれば良い……?)
いくら思考を巡らせようと名案と呼べる考えには辿り着かず、私は焦りを覚えながら、藁にもすがる想いで何か使えるものはないかと自分の服にあるポケットというポケットを弄り始めた――その直後だった。
――バシュッ!!
「ぁ……」
水を切るような一際大きな音とともに、雨の向こうにあったはずの人影は切り裂かれ、それは瓦解するように地面にボトリボトリと崩れ落ち、小さな山を成した。
その光景を目の当たりにした私は、叫ぶでもなく、ただ呆然とその様子を見届けていた。




