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魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
レイン・オア・シャイン編
35/183

第7話 魔法少女は一緒で。(4)

 ◆9月3日◆


 普段は大勢の人々が行き交う大通りではあったが、夕刻と呼ぶにはまだ早い時刻にも関わらず、そこには人影が無く、その代わりに、倒壊したビルや家屋の残骸が敷き詰められるかの如く散乱し、各所で発生している火災によって炎と煙が一帯を支配し、土煙と黒煙に視界は奪われていた。

 止める者の居ない火災報知機のベルや車のクラクションが周辺一帯に虚しく鳴り響き、燃え盛る炎の音を徹底的に掻き消すという惨状を目と記憶に刻みながら、私は一人、その道をひた走った。


「リイーーン……! イアーー……!」

「うぅ……!」

「……!? 今の……」


 様々な雑音が飛び交う中、微かな呻き声が私の耳へと届いて振り返ると、大きな瓦礫が盛り上がるように動くのを視界に捉え、すぐさまその場へと駆け寄った私は瓦礫の山を一つずつ退かしてゆく。

 最後の最後に一際大きな瓦礫を全力で退かすと、瓦礫の下から目的の二人の姿が垣間見え、私は安堵する。


「二人とも大丈夫……!? 怪我は!?」

「こっちはなんとか」

「私も大丈夫ですわ……」

「良かった……」


 邪魔になっている瓦礫を一つずつ取っては放り投げを繰り返し、なんとか一人分が通れるくらいのスペースを作ってから隙間に手を伸ばし、私は二人を次々に引っ張り出した。


「いたたた……。あの馬鹿げた攻撃はなによ……。反則だわ……」


 リインが苦言を漏らすのも無理は無く、たった一撃でリインたち二人の体を数十メートル吹き飛ばしたうえ、その衝撃だけでビルを倒壊させたその腕力は、並大抵どころか、この世のものだとは信じ難かった。


『ウガアァァァーーーー!!!!!』

「ひ……!?」


 時折聞こえてくるこの世のものとは思えないような咆哮は、それだけで周囲の窓ガラスを破砕し、その振動はざっと100メートルほど離れた位置にいる私たちの内臓まで響き渡った。

 イアは口を塞ぎながら絶句し、ただ一点に視線を向けていた。

 私とリインも釣られるようにその方向へと視線を向けると、そこには大きすぎる存在感を放つ黒く巨大な獣がおり、今まさに町を破壊している真っ最中だった。


「あれって、()()エゾヒ……なんだよね?」

「あの実……エゾヒさんは確か“マジカ”と言っていましたわ……。恐らくそれの影響でしょうね……。ですが、さっきまでとはまるで様子が……」


 黒い巨獣は瓦礫を踏み崩しながら炎の中を徘徊し、周辺全てのものを手当たり次第に破壊する無差別破壊兵器と化しており、その姿を形容するなら巨人とか悪魔という名が相応しいと私は思った。


「……止めなきゃ」


 私がそう呟く、二人は少し戸惑ったように沈黙したが、一つ息を呑むとすぐに答えが出たようだった。


「そうですわ……。これ以上被害が広がる前に……」

「こんなところでただ見ているだけなんて、私には無理です……!」

「うん。それじゃ、私たちがやらなきゃ」


 互いに視線を送り合い、私たち三人は同時に大きく頷く。


「私はエゾヒをなんとか止める。私が引き付けている間に、リインは雨で火を消して。イアは逃げ遅れた町の人をお願い」

「おっけー! 任せて!!」

「わかりましたわ!」


 その言葉を合図に、二人は炎と煙の中へと消えた。

 そして残った私は振り返り、背後に聳え立つ巨大な存在に視線を移す。


「……みんなの笑顔を守る」


 炎の明かりを背景に浮かび上がる巨大なシルエットを前に、私の手足は僅かに震えていた。


「無茶だとしても……あきらめない」


 腰に備え付けられていたポーチを軽く叩くと、ポンッ! という音とともに、空中から杖出現し、いつもどおりにそれをキャッチして胸に当て、瞼を閉じ、自分に言い聞かすように呟く。


「すべてをかけてでも、絶対に……」


 瞼をゆっくりと開くと、鈍く光る赤い眼光がこちらを捉えていたのだが、不思議と先ほどまでの恐怖は無く、杖を強く握り締め、私は眼光の主の元へと走り出した。


 ………


「うあ゛!?」


 エゾヒの攻撃を杖で受けたものの、その衝撃は私の体が堪えられるレベルの衝撃ではなく、私の体は容易く吹き飛ばされ、バレーボールのように瓦礫の山へと打ち付けられた。

 タイミング良く駆けつけたリインが、甲高い声を上げながら私の名を叫んだ。

 

「レム……っ!? このぉっ!? ミラージュ・レイン!!」


 魔法の効果によって雨が降りしきる中、リインは魔法で自らの分身を作り、何も無い空間から突如として現れた数体の分身体はエゾヒを囲むように散開する。

 そして、それらの分身体がエゾヒの注意を引き付けている間に、残った本体であるリインは私の元へと歩み寄った。


「ナイスタイミング……。これ、かなり効くね……」

「馬鹿言ってないで、手に掴まって!」

「ありがと。でも大丈夫。自分で出来る」

「いいから、ほら!」


 自力で起き上がろうとする私の手首を強引に掴み取られ、私は吊り上げられるように一気に引き上げられた。


「あ……ありがと……」

「こ、これはさっきのお返しだから! これで貸し借り無し、だから!」

「わかった。そういうことにしとく」

「なっ!? 何その態度!? せっかく助けてあげたのに!? 私がお節介したみたいじゃない!?」

「自覚無かったの……?」


 私たち二人が言い合いをしていると、そこに救助活動を終えたイアが駆けつけ、いつもどおりマイペースながらに仲裁に入る。


「お二人は、こんなときでも仲良しですわねー。それよりもお二人とも、この辺りの人達の救助は終わりましたわ」

「それじゃ、三人揃ったところで、あの怪物をどうにかする方法を考えないとね……」

「とりあえず、隙を突いて浄化出来れば、なんとかなるかも知れないけど……」

「隙もなにも、誰一人近づけさせてくれないような相手に、隙なんて出来るの?」


 私とリインが問答を繰り返していると、イアが何かに気が付く。


「えっと、あれ……? ちょっと待ってください!」


 イアは両耳に手を添えて耳を済ませるように沈黙し、その様子を見た私とリインも息を殺すように押し黙った。


「今のは……子供の……声……?」

「……!?」


 イアの一言によって、私たちの間に無言の緊張が走った。


「あそこです!!」


 イアが方向を指差すなり、私の体は自らの判断を待たずして、条件反射のように駆け出していた。

 走りながらその方向を注視していると、エゾヒがあと一歩踏み出せばその巨体に踏み潰されてしまうであろうという最悪の位置に、幼い少女が蹲っている現状を私の目は捉えた。


「シャイニー・ライト!!」


 このまま走っていては間に合わないと確信した私は、魔法による加速を試みる。


「私が注意を惹きつける!」


 リインが残っていた2体の分身を使って、エゾヒの注意を惹くためにあえて視界に飛び込む。

 しかしながら、その行為も虚しく、2体の分身はエゾヒの腕一振りによって一瞬で掻き消された。


「ダメッ!? 効かない!!」

『ウガアァーー!!!』

「間に合えーーーー!!!!」


 リインの行動を意にも介さず、エゾヒは少女が蹲るその場所へと踏み出そうとする。

 私は渾身の力を振り絞ってスピードを上げ、少女に向かって飛び込む。


『レムっ!?』


 叫ぶように二人が同時に声を上げ、それは周囲の雑音を掻き消すように周囲へ響き渡った。


「お姉ちゃんが来たから、もう、だいじょう、ぶ……だよ……」


 間一髪、エゾヒの足と地面との間に滑り込むことに成功した私は、蹲っていた少女に向け、安心できるよう、出来るだけ優しい口調で声を掛けた。

 しかしながら、私自身がエゾヒの足と地面に挟まれただけに過ぎず、危機的状況を脱していたわけではなかった。


「今のうちに……逃げて!」


 押し潰されるような圧迫感に耐えながら少女に語りかけるも、少女は無表情で私を見上げながら、立ち上がるどころか、問答すらもままならない様子で腰を抜かしていた。


(このまま支え続けたとしても、あと数秒が限界……。押し返して、エゾヒが体勢を崩している間に脱出する? けど、手を離した瞬間にペシャンコにされかねない……)

「ぐっ……!? それでも……私が……私が絶対に君を……守ってみせる……から!」


 しかしながら、私の固い意志を砕こうとしているかのように、掛けられる荷重は更に強さを増していった。


(もう、ムリ……!?)


 そう思った瞬間、不思議と腕にかかる荷重が少しだけ和らいだ。


「“私が”ではありませんわ!」

「“私たち”が、ね!」


 気が付くと、私の隣にはリインとイアの姿があった。


「リイン!? イア!?」

「喜んでる暇なんてないでしょ!」

「一気に押し返しちゃいましょう!」

「うん!」

「はああああ……!!! ……てっ……あれ?」


 三人で力を合わせ、押し返そうとしたその瞬間、先ほどまで腕にかかっていた重さが嘘のように消え、私たちは顔を見合わせながら首を傾げる。


「止まった……?」

「なんだかわからない、ですけど――」

『――今がチャンス!』


 アイコンタクトを終えると、私が少女を抱えて真っ先に飛び出し、リインとイアもそれぞれ対角方向へと飛び出す。

 そして私は少女を少し離れた安全な場所に運んだ。


 ………


「エゾヒは?」

「まるでゼンマイが切れた時計みたいに動きませんわ」

「ゼンマイ……? そこは電池が切れた、でいいでしょ?」

「私の実家の時計は、今でもゼンマイ時計ですけど?」

「はいはい……。それはいいから、アレをやるなら今しかない」


 私たちは互いに大きく頷き、それぞれが腰ベルトに備え付けてあるシャイニー・パクトを取り外す。

 すると、三本の杖が空中に同時に現れ、それぞれが同時に掴み取ると、杖を高らかに掲げながら詠唱をはじめる。


「雨は祝福の水となり!」

「大地は生命(いのち)の種となり!」

「花は希望の光とならん!」


 紡いだ言葉に反応するように、炎に包まれていた周囲は虹色の暖かな輝きに包まれ、光の粒子が渦を巻くように私たちを取り囲む。

 そして、頭上で交差された三人の杖が振り下ろされ、その先端はエゾヒに向けられた。

 その直後、光の粒子は巨大な光の球体を形作り、それはエゾヒの巨体を全身丸ごと包み込んだ。


『流転輪廻のその果てに、悪しき心を浄化せん!』


 三人が発した言葉は、ユニゾンのように乱れることなく、歌のように見事に重なり合った。


『ミラクル・マギウス――』


 杖の先端に七色の光が収束し、その光はまるで滴る雫のように地面へとゆっくり落ち、大地に触れた瞬間、光の波紋が周囲へと広がった。

 すると、地面から植物の芽が生え、光を放ちながら天に伸び、やがて巨大な花の蕾にまで成長した。


『――シャイニー・フラワー!!!』


 その声と同じくして蕾は花開き、花弁は散りながら花の嵐となってエゾヒの体を包み込み、やがてエゾヒの身体は眩い光の中へと飲み込まれた。



◇◇◇



 ◆4月7日 午後4時32分◆


 エゾヒがこのような姿になった状態に私は一度だけ遭遇しており、その時に感じた身の毛もよだつ恐怖と、絶望に包まれた地獄のような光景は、一生消え去ることの出来ない記憶として私の脳裏に深く刻まれている。

 だからというわけではないのだろうが、私は今のエゾヒとあの時のエゾヒとでは少しばかり様子が異なると感じており、荒々しさや震え上がるほどの狂気も感じず、仁王立ちをしたまま燃える様な深紅の双眸でどこか遠くを見つめている様には、不思議と威厳や勇ましさのようなものさえ漂っていると感じていた。

 困惑していた意識が次第に鮮明さを取り戻し、ふと我に返った私は首を大きく左右に振ったあと、両手で頬を二回叩く。


(冷静になれ……私。正直、あの姿をもう一度この瞳に焼き付けることになるなんて思いもしてなかった……というより、考えないようにしてたと言ったほうが正しいかもだけど、一つ言えることは、置かれている状況だけを見れば、今はまさに最悪中の最悪の状況。現実逃避なんかに時間を割く余裕はない)


 もしも明日火(あすか)の一件と同じようにエゾヒが暴れ始めでもしたら、現役の魔法少女が三人掛かりで手を焼いた過去からみても、魔法を使い切って体もまともに動かない元・魔法少女が単身立ち向かったところで、抑止力など皆無に等しく、嘘でも冗談でも気休めでもなくバッドエンドを迎えることになること請け合いだろう。

 少年漫画でありがちな眠っていた力が解放されたとか、相手の急所が判明して一発大逆転なんてことがあれば話も別だろうが、現実でそんなことが都合良く起きるものでもないし、神頼みをすることと大差ないだろうと考えた私は、少しでも打開の糸口を掴めればと置かれた状況を冷静に観察しながら、思考をフル回転させる。


(これまでは相手の力を封じながら、こちらの戦力を上げ、辛うじてイーブンまで持っていったにすぎない……。でも、もう次元が違うとかそういうレベルですらなく、比較することすら無意味……。今のエゾヒはもう地震や竜巻、津波や噴火といった厄災に近い“()()”。予見することが出来たとしても、それそのものをどうこうすること事体が人間には不可能な領域……。いっそ、ここから一度離脱して戦略を練り直す……? いや……出直したところで、時間稼ぎにしかならないし、ただ被害が拡大するだけ……。でも、相手が“事象”である以上、自然災害のようにやり過ごす方法しか――)

「ん……? ……()()()()()……やり過ごす?」


 相も変わらず空を見上げ、時折鼻を嗅ぐ仕草を見せているエゾヒを、私はここにきてじっと観察しはじめる。

 それはまるで、博物館に展示されている熊の剥製のようで、今はただ、そこに佇んでいるといった表現が正しかった。


「そう……か。私は目の前のことを何も見てなかった……。今の私が考えるべきは、勝つための方法を模索することでも、逃げるか戦うかを選択することでもない。選択肢は()()()()()()()を選ぶこと。でも、それならもう答えは出てる」


 ………


 生き物に“凶魔(クウマ)の種”と呼ばれる種子を植え付け、負の感情を増幅させて力を強化させられた存在はコアクウ魔、もしくはアクウ魔と呼ばれ、中でも五本の指に入る実力を持った者たちはダイアクウマの中では幹部と呼ばれる特別な存在とされていた。


 その幹部の一人であり、野生のエゾヒグマに凶魔(クウマ)の種を植え付けられた存在がエゾヒであるが、今のエゾヒは魔蒔化(マジカ)と呼ばれる秘術によって、アクウ魔の上位存在であるアクウ魔神へと変貌を遂げている。


 魔蒔化(マジカ)は、幹部だけが使える特殊な秘術であり、アクウ魔の潜在能力を極限まで引き出し、神の領域まで昇華させる禁忌の秘術などと幹部の一人が言っていたが、私たちシャイニー・レムリィによって窮地に追い込まれたエゾヒは、最後の切り札としてこの秘術を使用し、結果として自我を失い、周辺にあるもの全てに対して破壊の限りを尽す、無差別破壊兵器に成り果てることになった。


 私たちシャイニー・レムリィは状況すら理解しないまま、エゾヒの暴走を止めるために力を合わせ、辛うじて危機的状況を乗り越えることには成功したのだが、魔蒔化(マジカ)には活動時間の制限があることと、その秘術が未完成であったことを、私たちはのちの戦いで知ることとなった。


 魔蒔化(マジカ)は、強大な力を得る代わりに、活動限界を超えると自我が崩壊する危険性があり、さらに時間が経過すると負荷に耐えられなくなった細胞が自壊し、()()()()()――初めて魔蒔化(マジカ)を実践したエゾヒにも未完成であることが隠されていたらしく、もしも私たちが浄化が間に合わなかったら、エゾヒは何も知らぬまま、その秘術の実験台として死を迎えることになっていただろう。


(あの時とまったく同じ状況かどうかなんて判らない。けど、同じだと仮定した場合、このままエゾヒを放っておけば活動限界を迎え、死が訪れることになり、私は何もせずとも勝利することが出来る……。それで良い……なんて訳があるはずがない。だって、エゾヒはただの被害者なんだから)


 エゾヒは元来、野生の熊であり、ダイアクウマによって捕らえられ、有無を言わさず強化され、私たちと戦わされ、果ては実験台にさせられて死にかけた……言うなれば被害者に他ならなかった。

 そして、私たちが計らずながらも救い、束縛から開放した命が、このような形で再び死へと歩み進む様子をただただ黙って見ていることなど、私には到底出来はしなかった。


(きっと何か方法があるはずだけど、恐らくそれほど猶予は残されていない。一刻も早く、エゾヒを何とかする方法を見つけ出さないと)


 今のエゾヒは、通常の浄化魔法が通じなくなったことや、人間の姿で私たちの前に再び現れたこと、負の感情がなくても存在を維持できていること等など、以前と違う何かが起こっている――そしてそれらには必ずきっかけや理由となる鍵があり、それさえ見つけ出せれば、エゾヒを元に戻すことが可能であると私は考えていた。


(エゾヒの言動や行動を思い出せ……。やたらと好戦的なことと、戦闘中に戦えることが嬉しいだの、楽しいだの、はたまたずっと続けば良いだのと言っていたこと……? それと……私たちシャイニー・レムリィに復讐するって言ってたけど、殺意は無く、復讐心だけがあったこと?)


 復讐心とは、多かれ少なかれ誰しもが抱く向上心の一種であり、誰かに劣等感を抱いたときにそれを乗り超えたいと思う気持ちのことだが、この感情に強い憤りや妬みといった負の感情が混じり合うと、それはたちまち復讐心へと変化する性質があり、ベクトルが違うだけで、向上心と復讐心は表裏一体であると言える。

 私たちシャイニー・レムリィに向けられた感情に殺意がないとするのなら、その時のエゾヒには私たちを極度に害するような感情は存在していなかった――つまり、復讐心ではなく向上心だったということになる。


(三人揃わないと意味がない……ってことは、三人揃って初めて達成できる条件があった……? 好戦的であったこと踏まえると、私たち三人を倒したいとか、超えたいという想いが一番もっともそうな理由……。つまり、私たち三人を倒すという目的はあったけど、そこに復讐する意図はなく、ただ勝ちたいという向上心しかなかった……? でも、だとしたらエゾヒから復讐心の胞子が出ていたことをどう説明する……? 私は確かにこの目で確認して――)


 その瞬間、私の中に散らばっていた疑問という無数の点が、一本に繋がった。


「違う……。そう……か……。ようやく理解した……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ……」


 その可能性に勘付いた私はすぐさま目を凝らし、両足、腹部、右手、左手と足先から隈なく視線を移してゆく。

 すると、それはすぐに見つかった。


「……あった! あれが……()!!」


 今のエゾヒは無気力状態で、()()()()()()()()()()()()()()()ため、当然、私の目にもエゾヒの負の感情は視えてはいなかったのだが、エゾヒの胸部……人間で言うと心臓の辺りからだけ、僅かに感情の胞子が発生し続けていた――つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 エゾヒと再会したあの日、彼は『シャイニー・レムリィへの怒りで支配されていた』、『それ故、本能の赴くまま、主等が使う“魔法の力”とやらの痕跡を捜し歩いていた』と語っていた。

 恐らく“怒りに支配”されていたことは事実であり、エゾヒの中には“怒り”という感情も確かに存在していたと考えられるが、それはエゾヒ自身が生み出した“怒り”ではなく、何らかの原因によって偶発的に発生した……あるいは他者から故意に植えつけられた別の“怒り”――それによって、純粋な向上心が復讐心へと変質させられていたのだと推察された。


 雨を連れ去ろうとするエゾヒに対して、私が小瓶を投げて引き留めようとしたとき、エゾヒは『今すぐ相手になっても良い』と言っていたのだが、『今のお前を倒しても我のこの憤りは治まらない』といった矛盾した発言を直前にしており、そして、終始冷静だったエゾヒが後にも先にも()()()()()()声を荒げたことに、私はずっと違和感を感じていた。

 しかし、もしその発言をしたのが、()()()()()()()()()と考えれば辻褄(つじつま)が合うのではないかと私は考え至った。


「私は困ってる人を見捨てたりはしない……。たとえそれが熊だろうと敵であろうとね」

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