表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女はそのままで。   作者: 片倉真人
レイン・オア・シャイン編
34/183

第7話 魔法少女は一緒で。(3)

 ◆4月7日 午後4時30分◆


 私の体は魔法の衝撃によって上空へと吹き飛ばされ、投げ出されるように宙を舞っていた。

 だが、そんな状況だというのにも関わらず、私は全く別のことを考えていた。


(……そういえば、結局私は空を飛べなかったな)


 少年少女であれば誰もが皆、一度は空を飛んでみたいという夢を抱いたかと思う。

 もしも空が飛べたなら、学校に遅刻することもなく登校できるとか、少し遠出するときは電車賃も浮かせられて懐事情にも優しそうとか、単純に気持ち良さそうとか理由は様々あるのだろうが、かく言う私もその例に漏れることはなく、そんな夢を見たこともあった――というよりも、魔法少女を経験した今もなお、そう思っている。

 なぜなら、アニメや漫画の魔法少女たちは自由気ままに、そして華麗に空を舞っているにも関わらず、私こと魔法少女シャイニー・レムには空を飛ぶような魔法が備わっていなかったからだった。

 理想と現実の乖離には今以て納得いっていないのだが、過去の私はそんな現実を甘んじて受け入れ、飛ぶことを早々に諦めた――などということはなく、反骨精神を抱きながら空を飛ぶための様々な抵抗を試みたのだった。


 ………


 シャイニー・レムの特性は光と花の力を由来としているらしく、過去の私はなんとかそれらの力で空を飛ぶことは出来ないだろうかと試行錯誤した。


 最初はオーソドックスなところで、杖に乗って飛ぼうとしたものの、杖から魔法を放出すると必然的に杖の先から放出してしまうため、私自身が前進しながら地面を滑走するだけに留まり、見事な大失敗に終わった。

 

 次に、当時流行っていた“手からビームを出す社長”から着想を得て、両手から魔法を出して飛んでみようと試みたのだが、実際やってみると姿勢のバランスコントロールが難しく、魔法を放出し続けるので非常に疲れ、さらには両手が塞がるので飛んでいる間はほぼ何もできないと三拍子揃っており、とてもじゃないが人間だけで出来る芸当ではなかった。


 そこから、某アニメ作品に出てきた足に履くタイプの飛行機械のように、足でバランスをとれば手も空くのではと考え至り、足から魔法を出す訓練をしたところ一応の成功には達したものの、手と同様にバランスをとることが難しいことと、非常に疲れるという問題は解消されなかったため、結局実戦で使えるようなものにはならず、当時の私は空を飛ぶことを断念していた。


 しかしながら、空を飛ぶまでには至らなかったものの、一時的に加速できるという点では評価できたため、補助魔法のように使って戦力の強化に繋げたという経緯があり、それらの試みが全て無駄になったということにはならなかった。


 ………


 私は現実逃避から戻り、瞼を開ける。


(まさか、あのときの経験がこんなところで役に立つなんて、夢にも思っていなかった……。けど、考えてみれば、空を飛ぶなんて今となっては夢のまた夢になったな……。あの時もし、私が空を飛ぶことを諦めていなければ、今の私は空を飛べていたのだろうか……?)


 なぜ、私がこのように過去に思い(ふけ)っているかというと、ドロップキックというものが、()()()()()()()()()()()という、肝心にして重要なことを忘れていたことに、今さらながら気付いたためだった。

 完全に自業自得ではあったのだが、魔法を使用した後にまで考えは及んでおらず、ドロップキックを繰り出したのも人生初であり、受身の正しい取り方を普通の女子高生である私が知るはずもなかったため、結果として、魔法を使用した反動で体はまともに動かず、完全無防備の状態のまま、無情にも地面は私の数センチ先にまで迫っていた。

 しかしながら、今の私には数瞬後に訪れるであろう結末に覚悟を決める(ほか)に成す術はなかった。


「ぐへぇっ!?」


 背中から全身を強打する形で地面に着地することになった私は、女子高生らしからぬ声を漏らしながら、電流を背中から浴びたように走る苦痛に悶えて(うずくま)り、地面をゴロゴロと転がりまわった。

 痛みがある程度収束した頃合に、煙幕が晴れていることを確認してガスマスクを外し、私は大の字になって仰向けになる。

 

「あー、痛い……。疲れた……。けど、とりま上手くいって良かった……」

(良くやった、私。そしてグッジョブ、妹。見よう見まねとはいえ、意外と上手くいった……。私なりのアレンジも入れたことだし、とりまシャイニーライトキックとでも名付けとこ……)


 この戦いの最中に、エゾヒについて私なりに気付いたことが二つあった。

 肉体の強靭さゆえの自信からか、はたまた性格や信条からなのか、エゾヒは防御行動は一切とらずに攻撃一辺倒であったことと、白煙の中での反応速度がそれほど低下していないことだった。

 しかし、突き詰めれば、それら二つの理由は一つの理由に帰結していることが見えてきた。


 花火や雷で例えると判り易く、光が見えてから音が遅れて聞こえるという現象は、光と音では伝達速度に100万倍ほどの差があるからであり、音が聴覚からの情報、光が視覚からの情報であるとすると、その伝達速度には雲泥の差がある――ようするに、耳は良いが、目は良くないエゾヒにとって、目の見える相手と対峙した際、情報伝達速度の差で圧倒的に不利であることを示している。

 音が聞こえてから防御や回避をしても反応が遅れるばかりか、エゾヒのような巨体では余計なエネルギーを消費してしまうことになるためなのか、エゾヒは防御や回避を捨て、自身の筋力を鍛えあげることで防御力を高め、その弱点を補っているのだろうと私は結論付けた。


 そして、その仮説が正しいと仮定した場合、もう一つ合点がいくことがあった。


 私も夏那もポーションで強化されたただの人間であり、条件的にはそれほど違いは無かったはずなのだが、夏那が開幕直後にお見舞いしたドロップキックは、私のアッパーカットよりも大きなダメージをエゾヒに与えていたのは明白だった。

 それでは、なぜ夏那の攻撃が有効打になったのか――それは、あの攻撃はエゾヒにとっては()()()()()()()だったからだろうと考えられた。

 私のアッパーカット攻撃はエゾヒに接近していたため、一瞬であったとしても、私の存在はエゾヒに認識されていたと思われたが、対してイアのドロップキックは、エゾヒが聴覚や嗅覚で認識できない範囲外からの高速攻撃――すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えられた。

 その先例に倣えば、エゾヒに有効打を与えられると私は考えたが、遠距離と煙幕の中という条件はエゾヒに感知されにくいという条件とほぼ同等の効果は得られるものの、高速な攻撃という条件は、陸上部で鍛え抜かれた夏那の類稀(たぐいまれ)な脚力でもなければ再現できないため、私にとってはそれを再現することが一番の難題だと言えた。

 速度を上げる方法を考えた結果、過去にシャイニー・ライトを加速魔法として使っていたことを思い出した私はそれを転用し、魔法による加速と同時に魔法攻撃を行う“シャイニーライトキック”を閃いたのだった。


「……さて、と」


 未だ痛みの残る上体をなんとか起こし、重い腰を上げ、汚れだらけの衣装や頭髪から、土と草を丁寧に払い落とす。

 そして、背伸びをするように空を仰ぎ見ると、この戦いが終わっていないことを仄めかすかのように周辺一帯が闇に包まれていたため、私は未だ痛みの残る足に鞭打ちながら、一歩、一歩と歩みを進める。


 ………


 シャイニー・ライトには邪を祓う力があった。

 邪とは、悪意や負の感情、悪霊などの精神体なんかを全てひっくるめた総称であり、存在そのものが悪意の塊であるダイアクウマたちは、肉体と悪意との結びつきが強いが故に、シャイニー・ライトによる浄化攻撃によって存在そのものに致命傷を与えることができる――つまり、シャイニー・ライトが直撃すればすぐさま力を失い、本来の姿に戻る。


(あのまま、浄化されてくれれば楽だったんだけど……)


 エゾヒは焼け焦げたように黒い煙を上げながら、大の字で地面に伏しており、目論見どおり致命傷は与えられたようだった。

 しかしながら、全て私の目論見どおりとまではいっていなかった。


 先ほどのシャイニーライトキックは、今の私が繰り出せる間違いなく最強の一撃であったし、エゾヒを白煙から吹き飛ばすことにも成功していたのだが、想定よりも飛距離は伸びておらず、目的の場所の2メートル手前までしか到達していなかった――つまり、今の位置では()()()()()()()()()使()()()()()()


「これはどうしたもんかな……。引きずって移動させようにも、私の力だけじゃ動かすにも限界があるし……。応援を呼んで手伝ってもらう……? いやいや、それはマズいだろ……。普通の人から見ればそれなりにショッキングだろうし……どう誤魔化せば良いんだ……。何か道具を使って移動するか、本人に移動してもらうくらいしかないんじゃ――」


 私があれこれ考えあぐねていると、突然、エゾヒが音もなく立ち上がり、私は動揺しながらも条件反射的に距離をとり、すかさず臨戦態勢に入った。

 私はその直後、言いようのない違和感を覚えた。


(な……なんだ? この感じ……?)


 エゾヒは立ち上がったきり微動だにせず、まるで気力など無いかのように腕をダラリと下げていた。

 私は恐る恐る様子を観察しながら警戒を続けるも、暫く経ってもエゾヒが次の行動を起こす気配はなかった。


「き……気分はどう? さっきの一発はさすがに効いたでしょ?」


 不気味なほど動きの無い相手に、私は揺さぶりをかけようと話し掛けるが、エゾヒは無言を貫いたまま――というより、私の声がまるで聞こえていないような様子だった。

 そこで、私はあることに気が付いた。


「ん……? 私、今、眼鏡をかけてない……よな?」


 芽衣の眼鏡を外しているが、エゾヒの姿はハッキリと捉えられる――それはつまり、今のエゾヒには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だということになる。

 

(浄化は成功していた……ってこと? いや、そもそも私のシャイニー・ライトを食らって立ち上がるなんて――)


 負の感情を増幅させることによって存在を維持しているエゾヒたちダイアクウマの幹部は、シャイニー・ライトによる浄化が成功すればすぐさま力を失い、本来の姿に戻る――しかしながら、エゾヒはこうして立っている。

 それが指し示している事実に、私はようやく気付かされることになった。


「――っ!? そうか……。『気が付いたら、この姿で近くの町に居た』ってことは、人の姿になったのが先で、私たちへの怒りや復讐心はその後に生まれた感情……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……! つまり、エゾヒが復活したことと、私たちへの復讐は無関係……」

『うっ……。ううっ……ウガ……ガ……』

「それだけじゃない……。怒りや復讐心という悪意で動いているわけではない以上、私のシャイニー・ライトじゃ()()()()()()()()()()()()()……!!」


 エゾヒが呻き声を上げ始めたと同時に、エゾヒの体に変化が起き始め、呻き声と比例するようにその姿が巨大化し、見る見るうちにその姿を変容させていった。


「この感じ……前に……!? まさか……()()()!?」


 私は思わずながら、驚きの声を漏らした。

 しかし、「マジカ」というのは、驚いたという意味合いの言葉でも、魔法戦隊の呪文でもなく、それは今のエゾヒの状態を指した言葉だった。


『ウガアァァァーーーー!!』


 巨大な獣が耳を(つんざ)くほどの咆哮を上げた――それは比喩表現などではなかった。

 茶色い体毛で全身が覆われた4メートルはあろう巨躯に、ツルハシのように太い爪を持った獣――エゾヒは、本来の姿である巨大な“熊”へと姿を変えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ