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未完結短編集  作者: .六条河原おにびんびn
Dear Finalist リメイク打切りver. 中学生/R-15/流血/暴力表現
51/86

Dear Finalist 4 過去

+++


「笑わない、泣かない、怒らない。…化け物かね~?」

「さっすが、天才児は頭も精神面までも違うのかよー」

「俺、ここ入るのに一日10時間は勉強したんだぜ~?」

 日本ではないある国の国立大学でそう言われた。同じ国の出身。何倍か年上の人たちだった。辞書に画鋲を刺されるということ。机に誹謗中傷が書かれること。下履きが濡らされること。それが何を意味しているのか分からなかった。そしてそれが低レベルな児戯であることさえもあの時の自分には分からなかった。そんな自分を周りは天才という。人間のそんなところに興味を持った。何故だろう。何故そんなに卑屈になるのだろう。人間という素直な生き物に興味を持った。人間が愛しい。自分は、物の見方を誤った人間に過ぎないのに。

 両親は何より自分を大切に育ててくれた。感謝していた。両親は自分がされていたことに気付いた。自分の才能を留めておくことより、それを潰してしまうことを恐れたのであろう両親は自分を自主退学させた。

 父親は大きな会社を持っていた。母親はどこかの大きな企業の長の娘。

 大学を辞めた自分は日本に帰った。日本では小学2年生から始まった。母親は自分の才能を絶対にひけらかしてはいけないと言った。自分はその言い付けを守ろうと努めた。思ったことを率直に言うには、周りは幼すぎた。公立小学校だ。周りの生徒たちとは上手く付き合えていたと思う。しかし先生にはあまり気に入ってもらえなかった。

「魁、お前はここを継ぐのだ」

 真夏だった。まだ蝉の声が煩い季節。父親に連れられた場所でそう言われた。 一見そこは動物園に思えた。そこには自分となんら変わらない人間が居た。4人というべきか、4匹と表現すべきか。「あー」とも「うー」ともない呻き声を漏らし、自分と父に柵から手を伸ばしていた。

「将来、お前が使えばいい」

 どういう意味で父はそう言ったのだろう。

「お前は人間観察が好きだろう」

 父はそう言った。ここなら、理性を失った人間の観察も出来る。死ぬ間際の人間も観察が出来る。父は自分に言った。人間を誘拐、拉致してはここで飼育していると彼は言った。怖くなった。怖くなって、泣いた。涙が伝う頬に手が触れた。柵の向こうの小さな子供の冷たい手だった。




+++


何かまでは興味が無かったけれど、生物を飼育している父さんは夏休みだというのに毎日家を空けている。母さんは家にいるけれど、一緒に遊んだりすることは全く無い。しかし、何一つ暮らしに不自由はない。遊び相手を除いては。

 昔父さんは、自分には同い年の兄弟がいると言っていた。母さんに訊いたら物凄い力で殴られた。それが怖くてもう訊くことはない。

 クーラーの効いた部屋。母さんが僕と一緒にいることを嫌がって、母さんは僕をリビングに入れたがらない。僕は暇だった。暇な時は父さんから聞かされていた兄弟のことを考えた。どんな兄弟なのだろうか。父さんはその兄弟に会社を託すと言っていた。

「お前は頭がいい。だがお前の兄弟はもっと頭がいい。だから会社をお前に継がせることは出来ない」

 長年僕は独りで、いつでも自分の中にあったものは兄弟。きっとお母さんは違うんだろう。だけど、僕の兄弟。

「いつか彼と会えるだろう」

 父さんは言った。きっと会える。会いたい。そう思っていた。父さんはまた兄弟の元へ帰っていった。

ある日母さんは父さんじゃない男の人を家に連れてきた。僕より一つ小さい双子を抱えていた。名前は覚えていない。本当の母さんの笑顔。自分に向けられないことは分かっていた。

「アンタさえいなければ!あたしは幸せでいられたのに!」

双子と男の人が帰った後、母さんは僕の首を絞めた。

生きたかった。どうしても、死にたくなかった。だから、殺したんだよ。死なせたんだ、僕が。



+++


 父親は悪魔。母親は毒蛇。それだけは知っていた。オレがオレを納得させるためだけの、気休めだということもしっかりと分かっている。温かい家庭環境ではなかったけれどオレはそれでも悲しくはなかった。歳の離れた姉がオレを連れて家を出た。小学校低学年の頃だった。

 本当は知っているオレの姉は母親で、オレの母親は祖母であることを。中学2年の時に親父との間に生まれたそうだ。

 はっきりと聞いたのは14歳の誕生日。すでに姉は死んでいた。姉は姉だ。そうとしか考えられなかった。考えたくなかった。考えようがなかった。世間一般に有り得ないだろう。そう思うのは、オレの頭が足らないからだろうか。だけど何となく気付いていた。分かっていても、どこかでは勘違いだということを期待していた。事実を突きつけられたとき、自分では気付かないうちに心の準備はされていたようで大したショックは受けなかった。

るい

「何、おばあちゃん」

 厳密に言うと曾祖母にあたる人。

「お前は何も悩まなくていいんだよ。お前はお前だ。涙、立派に生きなっせ…」

 訛りまじりの言葉。おばあちゃんはいつでもお香の匂いがした。

「分かってるよ」

 分かってるよ、この世はそんなに甘くないって。

自分がきちんとしようとしたって、事情を知っている者はそうはさせてくれないかもしれない。自分が自分らしく生きようとすることなんて出来ない。結局は生い立ちが関わってしまうんだ。不条理だ。

「人を信じなさい。お前が思っているほど悪いことじゃない」

 おばあちゃんはいつもせんべいをくれる。

「きっといつか信じられる仲間が出来る」

 おばあちゃんがくれるしょうゆせんべいが好きだった。

「姉ちゃん、死んじゃった」

紫姫しきは、仲間じゃないよ」

「嘘だ。オレはずっと独りだ!セプしかいないもん…」

でも、それでいい。

 セプ、お前だけは死なないんだよね…?


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