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Dear Finalist エピローグ
月が優しく街を包む。
夜が月を呑み込み、月の光が夜を呑み込む。
ざっざと足音を立て、走る子どもが1人。服が破れ、地面には血痕が線を引く。約束の場所には誰もいない。
―ヒュー
風の音がする。風が少年を包み込む。蒸し暑い日が続く。
「ねぇ…朱鴇は大きくなったら何になりたいの?」
親も誰も迎えに来ない公園。朱鴇と呼ばれた少年は少女と話していた。
「紗智のお婿さん…」
父親は海外に行ったきりで、母親は見向きもしなくなってしまった。大きな樹の根に座り、2人は地面に絵を描く。
「あたしもうすぐでね、遠いところに引っ越すんだって」
「帰って来ないの?」
朱鴇は目を大きく開いた。
「分からないケド、朱鴇のこと忘れないから!」
少年は俯いた。
「帰ってきたら、遊ぼうね、会いに来てね!それでいっぱい遊ぼうね」




