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だってプロですから 2 調理編

長いので分割してみます。


 先ずは手始めに、と俺は近くの料理人に料理用の水がある場所を聞き、水を一杯もらう。別に喉が渇いている訳でも無い。一応確認も兼ねて飲んでみたいだけだ。

「……まぁそうだろうな。大体予想はしていたが……」

 これまでの料理で予想していたが、俺は予想通りのその水の味に納得すると、手早く頭の中でレシピを組み立てる。とは言っても今は和食のレシピが何一つ使えねえ。やはり郷に入っては郷に従え、だ。欧風の料理にするか。

 先ずはタクトが「トン汁」と称したシチューから始めるか。全ての汁を集め、ザル……の様な物で具と汁を分ける。汁を鍋に入れ、火に掛ける。薪の量を調整して弱火に近い感じにすると、今度はザルに残った具から肉片だけを取り出す。

そして取り分けた肉だけを鍋に入れ、最後に残った野菜を木皿にあけ、すり棒の様な物で野菜を大雑把に潰す。潰したそれも鍋に入れて一煮立ち。

その間に魚の方の処理もすませるか。この魚は干物になっていて、少し時間が経っているのか少々固くて匂いが強い。先ずはその処理からだな。

調理用の酒でかかっているソースを洗い流し、蒸し器……は無かったので湯を張った鍋の上にザルを置き、その上に干物を並べて蓋をする。後は十分程蒸しなおしてやるだけだ。少し古い程度ならコレで身が柔らかくなるし匂いも大分落ちる。

干物の目途が立ったから再び汁の調理に戻る。ジャガイモに似た茹で芋があったので、それも木皿と擦り棒でつぶしていく。こっちは細かく丁寧に潰す。すり鉢があれば一番なんだがこの際贅沢は言ってられねえ。

丁度汁がいい感じに煮えたので、一度火から降ろし布で濾す。濾し終わったら先ほどの潰した芋を溶かし込む。スープの鍋を戻し、再び沸騰したらスープ作りは完了。

味は元々つけられていたので、芋を入れ多分だけ塩を足して調整する。ま、まだ完成じゃねえけどな。もう少しだけ手を加えるぜ。

先ほど濾した野菜クズに小麦粉を塗して木皿で練って大きな塊にする。それを魚を蒸している所に入れて一緒に蒸し上げる。

蒸しあがるまでにソースを作るか。折角魚醤がある事だしアレにするか。魚醤はそのままでは匂いがキツイが、加熱すると大分匂いが抑えられる。

小鍋に魚醤を入れ、酒と甘い酒を入れ、ついでに良さげな臭いがしているハーブの粉を少しいれて煮立たせる。匂いが抑えられるとは言え、やはり魚醤は匂いが独特すぎるからな。

さて、おおよその仕込みは終わったんで後は仕上げだけだ。先ずは干物と一緒に蒸ていた野菜クズの固まりを取り出す。小麦粉で練ったからちょっとしたプディングっぽくなっているそれを、借りた包丁……じゃねえ、クッキングナイフで適当な大きさに切り分けスープに入れる。これでスープは完成だ。

名付けてジャガイモ(みたいな物)のなんちゃってポタージュスープ、野菜パテ入り、だ。

後は魚の干物だ。いい具合に蒸しあがった干物を布で軽く水気を拭う。プライパンに似た鉄鍋があったので、それにオリーブオイルに似た油を敷いて干物を軽く焼く。

蒸しただけだとどうしても周りが柔らかいし、生臭みも残るからな。それにこの干物は既に骨が取られているので表面を焼き固めた方が崩れにくい。

両面に焼き色が付いたら、先程作った魚醤ソースを絡める。魚で作られた醤油だから魚との相性は勿論いい。軽く煮詰める様に焼けばとろみが出て来る。これで干物はOK。

元々干物で味が付いている所にソースを絡めて煮詰めたから大分味が濃くなっているが、そこはそれ。対応策もバッチリ考えているぜ。

タマネギに似た野菜が目に付いたのでそれを手に取りスライスしてみる。……このナイフじゃあまり薄くカット出来ねえな。刃の肉が厚過ぎて繊維が潰れちまう。

ある程度の薄さにカットしてから味見。うむ、若干辛味とアクが強いがほぼタマネギだ。スライスし終わったタマネギモドキを水を入れた深皿に浸して軽くかき回して辛味とアク抜き。

水気を切ったらスライスしたタマネギを粗微塵にカット。本当はスライスで終わらせる予定だったんだが、ちと厚くしか切れないからな。微塵の方がいいだろ。

干物と一緒に出されていた丸いパンを横に半分にカットする。下半分に干物の付け合わせとして皿に乗っていた生野菜を載せて、その上に干物を載せ、上に今作った粗微塵のさらしタマネギ(もどき)をトッピング。上からまだアツアツの残ったソースを掛け、残り半身のパンでサンドする。これで全て完成だ。パンと一緒なら味が濃い方が良いし、タマネギモドキで匂いも抑えられているし歯ごたえも出ているから一石二鳥だ。

名付けて、(なんだか良く分からない魚の)干物の魚醤風照り焼き(モドキ)サンド。

……何かスープと合わせて不確定名称バリバリの感じがするが……まぁしかたねえ。

「しかし、見事に和食からかけ離れた料理だな」

 自分で作っておいて何だが、何とか和風と言えなくないのは干物の照り焼きだけだ。しかしそれも魚醤だからな。味的には照り焼きとは全くの別物だ。

「和食板前のデビュー料理がコレか……クハハ、親方に見られたらぶっ飛ばされそうだぜ」

 だがまぁ、渾身の作であるのもまた事実だ。色々と不満な点はあるが、今使える物で最大限納得行く物が作れた。これ以上を望むのは異世界では贅沢ってもんだぜ。

「んじゃガキ共に持って行ってやりますか。なんたって出来立てが一番旨いからな」

 勿論俺も食うぜ。と言うか殆ど俺が食いたいから作った様な物だしな。しかし、よく考えてみたら俺の分と合わせて八人分。流石に一人で運ぶのは無理だな。

 目を向けると、周囲の料理人達がポカーンとした顔で俺と料理を見ていやがった。

「悪ぃけど、運ぶの手伝ってくれないか?」

 とその中の一人に俺が声掛ける物の、ボケっと料理を見るばかり。何だろ?ここじゃサンドイッチやバーガー的な料理ってのは珍しいのだろうか。向う(地球)でのサンドイッチの原型が確立するのは一七世紀頃(賭博好きの伯爵起源説はあくまで俗説で実際はその前には出来ていたんだぜ)なので、もしかしたらこの世界はそれ以前がモチーフなのかもな。

「珍しいか?なら後で作ってやるから手伝ってくれ」

 と言うと、周囲の料理人が我先にと皿を取り合いだした。やっぱコレは珍しかったのか……


「おう、待たせたなガキ共。持って来たぞ」

 俺は手伝ってもらった料理人達と一緒に料理を並べながら言う。

「え、もう出来たの!?」

 俺の後にゾロゾロと料理人が付いて来たのに若干引き気味のライムが並べられた料理を見て言う。フンカフンカと料理の匂いを嗅いで「食べても大丈夫か?」とか言ってやがる。

 失礼なヤツだ。

「十五分位かかっちまったか。まぁ作り直しとは言え慣れねえ厨房と見た事ねえ食材ばかりだったから、これ位は勘弁してくれ。慣れればもうチッとは早く作れるからよ」

四騎士の前にも料理が行き渡った事を確認した俺は、料理人達に礼を言い、元の椅子に着く。

「そ、そんなに早くこれを……?」

と四騎士達が騒めいているが、そんなに驚く事じゃねえだろ。

「元々出来上がってた物を作り直しただけだぜ。ここの料理人ならもっと早く作れただろ」

料理中にチラッと調理場の奴らの手際を確認したが、皆中々の腕だった。ま、俺も劣ってはいない(そん位は自慢させてくれ)が、やはり慣れている奴等には敵わねえ。

「まぁ、俺らの口に合わせたからタクト達は問題ねえと思うが、クラウス達の口に合うかどうかはちと微妙だけどよ。取り敢えず食ってみてくれ」

タクト達とクラウス達、それぞれに向けて言う。

四騎士は初めて見る料理に気が引けているのか、しげしげと料理を見つめるばかりで中々手を出そうとしない。タクト達の方はと言うと、

「ええと……ほらライム、君が頼んだんだから、君が最初に食べないと、うん」

「そ、そうだね。ライムちゃんが言い出しっぺだもんね!」

「うえ!?あ、あたしから!?ずるくないそれ?」

 ……どんだけ信用ねえんだよ俺。本っ当に失礼なガキ共だな!

「あのなぁ、コレでもプロとして名指しされたんだ。食えねえようなモンは作るか。ゴチャゴチャ抜かしてねえでさっさと喰え!」

 俺の剣幕に、ライムが覚悟を決めたのか、渋々と言った感じで手を伸ばす。

 おっと、忘れてた。と、俺は素早く手を動かし――

 ズビシッ!

「フギャンッ!」

再びライムの頭にチョップを入れる。さっきよりは手を抜いたつもりだったんだが、結構痛かったらしく頭を抱えて悶えている。

「な、何すんのよっ!」

 半分涙目でライムがにらんで来るが、それを無視して俺は殊更に不機嫌な顔をしてみせる。

「……『いただきます』はどうした」

「…………へ?」

「食い物に手を出す前に『いただきます』は日本人として最低限の礼儀だろうが。お前、見てたけど一度も言ってないよな?後タクト、お前も言ってねえよな。今までは異世界って事で多めに見てたが、同じ日本人の俺が作ったメシだ。無作法は許さん」

 最近は言わないヤツが増えたが、「いただきます」は自分の食べ物として犠牲になった命に対しての感謝の言葉だ。そして「ご馳走様」は美味しく作ってくれたヤツと、美味しく変わってくれた命に対する感謝の言葉だ。ま、だからマズいと思ったら料理人に対しては言わなくていいんだけどな。料理になった命に対してだけ言えばいい。

食べ物と言う、命を犠牲にして旨い物を作り金をもらう、と言う商売をしている人間にとっての、これは譲れない部分だ。少なくとも俺が作った料理は、無言で食う事を許す訳にいかん。

「ちったぁミントを見習え。小せぇ声だがちゃんと言ってるぞ」

「「え?そ、そうだったの!?」」

 と、タクトとライムがミントを見ると、

「う、うん私の家はお父さんがそういう躾には厳しかったから……」

 と顔を赤くしてモジモジしている。うんうん、俺ぁガキには興味無いが、こういう仕草は可愛くていいぜ。何よりけしからん胸が揺れるのがまた……ゲフンゲフンッ!

「と、ともかくだ!お前達も見習って、食事の礼儀はちゃんと守れ」

「わ、分かったわよ……いただきます!これでいいんでしょ!?」

 不承不承といった感じだが、取り敢えずは手を合わせてライムが言う。うむ、分かれば良いのだ分かれば。何やら小さい声で『食い物が絡むと怖い顔が余計凶悪になりやがるわ』とか聞こえた気がするが、気のせいにしておこう。

「おう、召し上がれ」

 こう返すのも密かに料理人の楽しみでもあるんだな、これが。色々言ったが結局は折角作った料理を、いきなり無言で食われるのはちょっと切ないって理由もある訳さ。 


一応このお話の料理は(架空の材料は兎も角)全て「再現可能」を

コンセプトに組み立てております。

時間と根気がある物好きな人は作ってみるのも一興かと……

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