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もしものその後(ユウを一番待ち望んでいるのがアディだったら)7

本日は2話投稿しています。

こちらから入った方は、前の話からお読みください。

いや、ホントにそんな風に俺には思えたんだ。

アディも他のみんなもピタリと動きを止める。

でも、それはほんの一瞬で、次には全てが動き出した。


動きを止めたアディを、飛び出してきたコヴィが引き倒す。

たった今アディの頭があった場所を、矢が通り過ぎ、舞台の床に突きささった。


(こ、怖ぇぇぇ~)


でも、アディが無事で良かった。

ナイスだコヴィ。さすが、ナントカナントカ隊長になっただけある!


ホッと息を吐いた俺の視界に、愕然とした顔で俺を見るティツァが映る。


「ティツァ! あの屋根の上だ! あそこに無鱗の有隣種がいる!」


俺は咄嗟にティツァに指示を飛ばした。

襲撃者のいた屋根を俺が指させば、こっちに駆け寄って来ようとしていたティツァの動きが止まる。


「ティツァ! 頼む! 捕まえてくれ!」


俺の叫びに、何故かティツァは、忌々しそうに顔をしかめた。


(なんで怒っているんだ?)


「ティツァ!!」


それでも、俺がもう一度名前を呼べば、舌打ちしながら身を翻す。

ものすごい勢いで、ティツァは走って行った。味方の騎士までなぎ倒し、一直線に屋根へと向かい壁を跳び上っていく。


(すげぇ。コ○ンみたいだ)


見た目は子供の小学生探偵じゃなく、未来少年の方だ。

あの動きは有り得ない。

相変わらず獣人の身体能力ってのは、俺の理解の範疇を超えていた。




ボーっとティツァを見ていた俺は――――いきなり腕を掴まれて、我に返る。


「痛っ――――」


慌てて目を向ければ、視界がやけに眩しかった。



「……ユウ?」



目の前に、やたらキラキラしいイケメンのドアップがある。



(アディ……)



ドクン! と胸が大きく脈打った。


「ユウ、だろう?」


バリトンボイスが、縋るように問いかけてくる。


(い、……いやいや、やばくねぇ? 俺は、……今の俺の姿は)


俺は、自分が女性に――――アディと結ばれる姿に変わってしまっていることに気づく。


(いや、これから婚約式のアディと結ばれるとか、ありえないけれど)


それでも、俺がこんな姿になったことが、アディにバレるのは嫌だ。


(あ、でも……大丈夫だ。俺には、おばちゃんのくれたカツラと耳がある!)


尻尾もついているし、俺が獣人の女だと言い張れば、アディは諦めてくれるだろう。



「えっと、あの、ほら――――って?」


「人違いだ」と、「自分は獣人だ」と、言おうとして、俺は、自分のケモ耳に触ろうとした。

頭に手をやり――――しかし、愕然とする。


俺の手に触れるのは髪の感触だけだった。

耳なんてどこにも付いてない。


しかも、髪を掴んで引っ張ってみれば……微妙に痛かった。


「え? え? えっと」


混乱しながらも、俺は自分の頭からカツラが取れていることに、今更ながらに気づく。

そう言えば、ここに来る前、強引に人混みを突っ切った時に引っ張られたような感じがしていた。

慌てて背中を振り向けば、尻尾までなくなっている。


(そうだよな。かなり無理やり突っ込んできたものな)


取れてしまうのも当たり前だった。


「ユウ!」


切羽詰まった声が耳元で聞こえて、顎を掴まれた俺は、無理やり顔をアディの方に向けさせられる。

青い瞳が覗きこんできた。


(ああ。キレイだな)


そう思う。

キレイな青は、やけに輝いていて、俺は、そこから涙が溢れかかっているのに気づく。


至高の青は、キラキラキラと光をはじいていた。


――――そんなものを見てしまったら。

ビビりで気の弱い俺に、言い逃れなんて、できるはずもない。




「……アディ、久しぶり」



気づけば俺は、半泣きの笑い顔で、そう言っていた。


(仕方ないだろう! 俺にとってアディは小学生みたいな奴で。……つまり、その、俺は、アディを泣かせたくなんてないんだよ!)



「っ! ユウ! ユウ、ユウ!!」



アディの顔が、クシャクシャに歪む。

相変わらずそんな顔でもイケメンだ。


(クソッ! イケメン、爆死しろ!)


もう何度目になるのか数える気にもならない呪詛を頭で唱えている間に、俺はアディに捕らえられていた。

手を俺の脇の下に回した金髪のイケメンが、ロープの向こう側から俺を抱き上げる。


そのまま、力いっぱい抱きしめられた!



「ユウ!!」



わかった! わかったから。アディ、止めろ! 俺が、窒息死する。

お前、これは俺の呪詛に対する呪い返しか?


「ユウ! 探した! 会いたかった! ――――あの時、お前の腕を放した俺を、殺してやりたいと思った! ユウ! ユウ! ユウ!! ……会えて、嬉しい」


(マ、マジで、ギブ! このままじゃ、間違いなく、殺される)


熱すぎるアディの抱擁に、俺は潰されかけていた。


「ユウ! ユウ! もう二度と離さない!!」


いやいや、止めてくれ。このまま解放されなかったら、冗談じゃなく俺は死ぬぞ。



……それに、そうだ!


この状況はやばいんじゃないのか?


俺は、突如ハッと冷静になった。

ここは、アディの婚約式の会場だ。

なのに、主役のはずのアディが、見ず知らずの少女を抱き締め、離さないでいる。


(……どんな修羅場だよ)


「ア、アディ……おいっ!」


俺は、慌ててアディの腕を叩いた。

ぎゅうぎゅうに抱きしめられ、体格差でそこにしか手が届かなかったんだ。

チクショウ、無駄に鍛えたいい筋肉してやがんな。こんな腕で締め付けられたら、そりゃ俺も死にそうになるわ。


「ああ、ユウの声だ」


なのに、アディはうっとりとそんな言葉を呟きやがった。


そんなわけがあるか! 俺は女になったんだぞ! 以前と声は変わっているはずだ。


「可愛らしくて、小鳥のようで、想像通りの声だ」




――――ああ、そういうことかよ。


俺はアディのセリフに脱力する。

お前、俺の声まで想像していたのか?

いったい、何してたんだよ。そんなことしていて、ちゃんと政務はしていたんだろうな?

俺は、嫌だぞ。国王が道を失った原因が、女の子の声を想像していたからだなんて。



――――あ! っと、違う。今問題なのは、そんなことじゃない。


「ア、アディ。……離せって。お前、こ、婚約式の最中だろう?」


俺はやっとの思いで、そう言った。

アディは、キョトンとする。そんな顔もイケメンだ。


(チクショウ! ……以下省略)



「婚約式? なんのことだ? 今日は有隣種と友好協定の提携書を交わす式典だぞ」


「へ?」


そんなバカな!

だって、俺は、確かに今日の式典は、アディが有隣種の花嫁を迎える婚約式の式典だって聞いたんだ。


それに――――


俺は、舞台の向こう側にいる有隣種の一行を指さす。その中に一際派手な格好をした、ベールを被った花嫁(推定)がいる。

彼女? は、慌てたようにこちらに駆けてくるところだった。

そりゃあ、自分の婿が他の女を抱き締めているんだ。慌てるだろう。


「……おい、離せ! 彼女は、お前の花嫁なんだろう?」


アディは、思いっきり顔をしかめた。


「あれは、サウリアだ」


憮然として教えてくれる。



「へ?」


サ、サウリア? サウリアは、一見可愛い美少年――――つまりは、“男”だ。

俺が呆けて見ている前で、走ってくる花嫁(勘違い)のベールが取れた。中から現れたのは、豊かな赤い髪と赤銅色の肌をした美青年で、


「サ、サウリア?」


「そうだと言っている」




『ユウさまっ! ユウさまなのですかっ!』


美少年だったサウリアの声は、……野太い男の声になっていた。

いくらなんでも“男”が花嫁になれるはずがない。見れば他の有隣種たちも、全員立派な鱗を持つ筋骨隆々のリザードマンだった。


うん。彼らが花嫁なんて絶対ないな。



「そう言えば、民の一部に今回の式典に関して、根も葉もない流言蜚語が出回っていると聞いたことがある」


アディが思い出したようにそう話す。


流言蜚語とは、デマのことだ。

なんだよ。デマだったのか。

アディは、結婚なんてしないんだな。


俺は、アディの腕の中、大きな安堵の息を吐いた。

体の力も抜けて、ぐったりとアディにもたれかかってしまう。




「ユウ。……俺が、結婚すると思ったのか?」


そんな俺の耳元で、バリトンボイスが囁いてきた。

俺は、たちまちボッと、赤くなる。


「だ、だって――――」


仕方ないだろう! 食堂に来るお客さんは、みんなそう言っていたんだ! 俺が噂の真偽なんか確かめられるはずもない!


「俺が結婚すると思って、……嫉妬して、出てこなかった?」


「ちっ、違っ!」


違うわ! ボケ! そんなはずがあるかっ! お前の頭の中は、どんな花畑になっているんだ!


真っ赤になって怒鳴りつけようと思って見たアディの顔は、蕩けそうにデロデロに甘かった。

俺は思わず顔を背けてしまう。


イケメンのデレ顔、色気が半端ねぇ。

これは、放送禁止のレベルだろう。


俺は、ゴクリと生唾を呑みこんだ。



「……可愛い、ユウ」


耳元で、囁くんじゃねぇ!


チクショウ! あの、純真無垢な熱血漢アディはどこに行ったんだ?


そういや、アディは俺より年上だった。素直で良い奴過ぎて、性格小学生だったから、年上って気がしてなかったけど、俺が三十路に近づいたってことは、こいつは正真正銘、三十路なんじゃないのか?


三十男の大人の色気に、俺はタジタジになる。



「……だ、だいたい、お前が悪いんだぞ! どうしてデマをそのままにしておいたんだ! ここにいる民衆のほとんどは、お前の婚約式を見に来ているんだぞ!」


俺は、必死の思いで奥義『悪いのはお前だ!』攻撃を繰り出した。

これは間違っていないはずだ。

民衆は、国王の花嫁を見たい! と思っている。例えそれが根拠のないデマだったとしても、責任はきちんと訂正をしなかったアディにある。


どうするつもりだと、アディを睨めば、奴は、ものすごく悪そうに笑った。

当然、そんな顔もイケメンだ。


(チク! ……以下省略)


何故か、俺の背中に悪寒が転がり落ちた。



「そうだな。王として民衆の期待を裏切るわけにはいかないな」



そう言ったアディは、俺を抱きかかえたまま、舞台の上へと登っていく。


お、おい、ちょっと待て!

どうして俺を一緒に連れて行くんだ?

俺を離せ!


何をするつもりだ!?



「ユウさま!」

「ユウ!」

「ユウさま!」

『ユウさま!』


俺とアディの周囲に、リーファとティツァ、フィフィ、サウリアが寄ってくる。


ティツァ、お前、もうスパイを捕まえたのか? 相変わらず仕事が早いな。


みんな、どこか焦った顔をしていた。


うん。俺もわけがわからないで、焦りまくっている。


なんで俺はアディに抱えられたまま、こんな舞台の中央にいるんだ?



ただ一人。アディだけが満面の笑顔だった。

周囲の人々は、全員今の出来事に驚き、こちらを注目している。




アディは、俺を抱いたまま片手を上げて、騒然としていた民衆を静かにさせた。

そうなればリーファやティツァたちもアディの背後に控えざるをえなくなる。


アディは、そっと俺を自分の隣に降ろした。


ホッと安心したのも束の間、俺の腰はアディにがっしり掴まれて、グッと体を引き寄せられる。

結果、民衆の前でアディと並び立つような格好になった。


数千、数万という民衆が俺とアディに注目している。



……こ、怖ぇぇぇ。



俺が、アディに擦り寄ってしまったのは、恐怖ゆえの条件反射だった。


アディは、心底嬉しそうに笑う。

その笑顔のまま、民衆の方を向いた。

凛々しい横顔に、不覚にも胸が高鳴る。

うん、これが噂のストックホルム症候群かもしれない。

誘拐された人質が犯人に恋をしてしまうというあれだ。


俺の複雑な心境を知ってか知らずか、アディは凛とした声を張り上げる。



「皆に心配をかけてしまってすまない。賊は捕えた。私は無事だ」



王の言葉に民衆は、安堵の歓声を上げた。

アディは、もう一度手をあげて、周囲を鎮まらせる。



「紹介しよう! 私を救ってくれた人だ。……彼女(・・)は、ユウ。かつて我が国――――いや、世界を救った救世主にして、私の唯一。今も昔も私は、ユウに助けられている」


そう言うとアディは、俺を一歩前へと押し出した。

民衆が再び大歓声を上げる。


――――いや、マジ止めて欲しい。

俺の繊細な心臓が壊れてしまうだろう。


助けを求めてアディを見上げれば、俺をこんなところに立たせた張本人である奴は、優しく微笑み――――なんと、その場で、俺の額に、キスをした!!


俺の魂が、抜けていく。


うわぁっ! と盛り上がる観衆を、アディは三度鎮めた。




「敬愛する我が民の前で、ここに、私は宣言する。……私、アディグラファ・ロダ・マーティは、救世主“ユウ”を、我が花嫁とする!」




ウオォォォォォォ~ッ!! と、観衆が湧いた!


ゴーラいっぱい、いや、王都全体を揺るがす勢いで歓声が沸き起こり、伝染していく。





俺は、……ポカンとしていた。


いや、アディ、今、お前なんて言った?



(俺……俺を、は、花嫁とか、なんとか……)



呆然と立ち尽くす俺の顔を、アディのイケメン顔が覗き込んでくる。



「これで、デマではなくなっただろう?」



ニッコリ笑って、そう言った。



それは、確かにそうだけど。



「ユウ。俺は、お前をもう二度と離さない」



俺が異世界に来た時と同じ力強い手が、その時の何倍もの強さで俺の腕を掴んでいる。


決して振りほどけそうにないその手を見つめ、

俺は自分が捕まったのだということを、なんだかホッとしながら自覚した。




『やれやれ、長かったですのぉ。まったく、往生際のわるいところも、あのヘタレ――――前国王に似ておられる』


頭の中に、呆れたようなヴィヴォの声が響いてくる。


(放っておいてくれ!)


言っておくが、俺は、王妃(・・)になっても、あの『愛と感動の一大スペクタクル、ヒューマン、ハッピーエンド物語』だけは、演じるつもりはないからな!



心の中でヴィヴォに怒鳴りつけていた俺が、”王妃になる”ということを受け入れているのに気がつくのは、もう少し先のことだった。

一応これでラストです。

ちょっと尻切れトンボかな? とも思うので、もしかしたらもう少し付け足すかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです。☆彡 あれからどうなったのかなぁ~と思っていたので、ハッピーエンド(笑)まで読めて、嬉しかったです。^^
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