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第10話「料理の基地」



@北海道共和国U109歩兵団基地―食堂

10月2日北海道標準時刻1204時


谷田ノリヒサ 少佐


「大阪名物タコ焼きでっせ」

 大阪生まれのヒエンコが厨房のカウンターから顔を覗かせる。

 どうやら今日の昼食のおかずはたこ焼きのようだ。

 普段の昼食は白米とインスタントの味噌汁、おかずとしてインスタントの惣菜なので、いつもより豪華になったと言える。

「あぁ、また郷土料理交換やりたいなぁ」

「ハヤブサさんは食べる専門じゃありませんの?」

「うぐっ(汗)(かっこあせ)

「ところで少佐、許可頂けますか?」

「今日の夕食でなら。襲来予報では30時間以内の襲来はない予定」

「じゃあ少佐もよろしくお願いします」

「え?」

 いきなり役割を振られて戸惑う。

「坂東の料理か~、イチコは明らかに郷土料理じゃないものしか作らなかったからなぁ」

「あれはそこそこ美味しいんだけどな~」

「でも見た目がな~、シデンコしか食べなかったじゃない」

 他のメンバーは何事もなかったかのように話を進めていく。

 (……やるしかないか)

 いちおう、普通の料理は苦手であるという自覚はあるが、やるしかなさそうだ。

 多分、缶飯(野戦食)は駄目だろう。



@北海道共和国U109歩兵団基地―食堂

10月2日北海道標準時刻1512時


国分ライコ 中尉


「(こっそり、こっそり。すてんばーい、すてんばーい)」

「(うん)」

「(すてんばーい、すてんばーい、むーぶ)」

 ハヤブサとアイコンタクトで合図しあい、厨房をのぞきこむ。

「作るか」

 厨房ではノリヒサが用意した食料の前で気合いを入れている。たぶん。何しろ無表情だからいまいちわからない。じゃあなんで気合いを入れているってわかるんだというと顔を合わせることが少なくてもやはり3ヶ月ぐらい共同生活をするとなんとなく無表情の中にも表情が見えてくるのだ。ノリヒサの場合、今一つ感情は見えてこないのだが。

「まずは人参を切って」

 手順を再確認するためなのか、声を出しながら人参を取り出すノリヒサ。

 器用に6式多用途短剣で人参の皮を剥き、ぶつ切りにしていく。

「ボウルに入れたら過酸化水素水をたっぷり入れて。」

 そういってノリヒサはボウルに傷口の消毒にも使う過酸化水素水を入れる。

「(ライコ。なんだか科学実験になってない?)」

「(大丈夫大丈夫。過酸化水素水を入れたのはきっと人参を消毒するため。うん。きっとそうだ。うん)」

「(そうなんだよね。きっと消毒するためだよね)」

 声を押さえてハヤブサと納得し合う。この際、普通の料理では消毒なんてしないことは突っ込むまい。

 まだ危なくないよね。まだ大丈夫。だよね。うん。

「で、次にドクターペ……」

「(やめよう。これ以上聞くと食べられなくなる)」

「(いや、せめてドクターペーパーかドクターペッパーかを聞こうよ!!)」

 個人的には坂東なんかの一部地域で売られている飲む人を選び、普通に飲める人を“賢者”と呼ぶアノ飲み物であってほしい。

 というか洗剤が入った食べ物なんて食べたくない。

「(ハヤブサ)」

「(何?)」

「(何があってもあれは食べないようにしよう。命に関わる)」

「(そうだね。あれを捕虜に出したら確実に国際法にひっかかる。捕虜虐待で)」

「(よし、私は何も聞いてない。立ち去ろう)」

 ハヤブサとうなずきあい、足音をたてないようにしながら立ち去る。

 ノリヒサは何にも気づいていないように料理を続けている。まあ爆発が起こらないことを祈ろう。あるいは鍋に穴が空いたり。



@北海道共和国U109歩兵団基地―食堂

10月2日北海道標準時刻1900時


谷田ノリヒサ 少佐


「よっしゃー飯だ!!」

「いただきます!!」

 ハヤブサがやたらとテンションを上げ、それを遮るようにライコが素早く「いただきます」の号令をかける。

「「「いただきまーす」」」

 全員で手を合わせて「いただきます」を唱える。

「宮城名物ずんだ餅です」

 まず初めはレイコである。

 自分にライコを経由して渡された分をもきゅもきゅと食べてみる。

 ほのかに枝豆の味がする。甘い。

「ちゃんちゃん焼き」

 続いてナイエがもってきたのは鮭を包み焼きにした料理である。

 もぎゅもぎゅとたべ、味わってみる。

 そのとき……

 突然、電気が消えた。



@北海道共和国U109歩兵団基地―食堂

10月2日北海道標準時刻1915時


谷田ノリヒサ 少佐


 バシュン

 突然、基地の電気が落ちた。

全員があわてふためく。

 バチバチッ

 暗闇の中で火花が散る。おそらくライコだろう。

 数秒の後……

 非常電源に切り替わり、基地の照明が復活した。

「管制室に行って現状を確認してくる。勝手に食べててくれ」

 そう言いおいて食堂を飛び出す。

 居住棟と本部の間の短い連絡通路を駆け抜け、階段を屋上まで上がる。

 屋上へのドアを体当たりして開ける。

 そのまま屋上を横切り、管制室に飛び込む。

「どうした?」

「北海道電力より連絡、分散式発電所システムの送電線が数ヶ所で切断。日高ブロックで電力不足に陥り、停電したようです。現在、北海道電力は電力の迂回ルートを構築中、日高ブロックの停電からの復旧には明朝0400時までかかる見込みだそうです」

「切断地点は?」

「ここと、ここと、ここです。北海道方面軍司令部はクラックゥの攻撃と判断し、浦河の日本連合北海道方面軍第4航空集団第44飛行中隊と第108歩兵団に出撃命令が出ています」

 そう言って、当直の浦幌三等軍曹はモニターの数ヶ所を叩いた。

 確かにその数ヶ所で送電線を示す黄色い線が切断され、第44飛行中隊を示すJUN4-44thFSのマークと第108歩兵団を示すJUN4-108thFSGのマークがそこに向かって移動している。

「現時点で基地内にいるのは?」

「当直の者だけです」

「わかった。被害は?」

「特にありません。自家発電システムも正常に稼動しています。稼動率30%。発電燃料のストックはフル稼動した場合であと数日分はあります」

 再び浦幌三等軍曹は別なモニターを指先で叩いた。

 確かに自家発電システムは問題なく稼働している。

「分かった。レーダーサイトは?」

「浦河レーダーサイトは一時停電しましたが、自家発電システムで問題なしとの連絡が来ています。函館レーダーサイトも影響はないようです。」

 そう言って浦幌三等軍曹はさらに別なモニターに表示された付近のレーダー画像を示した。

 確かに問題なく表示されている。

 その画面のうち、明るく表示されたレーダーの索敵範囲に新たな機影が表れた。

 味方機ならすぐに所属と機種が表示されるが、それがない。

 ジリリリリン!!

 そのとき、卓上の電話が鳴った。

「はい、こちら日本連合北海道方面軍第3航空集団第109歩兵団です。……了解しました」

 そういって浦幌三等軍曹が電話機を置き、こちらに向き直る。

「谷田少佐、敵襲です。敵は南09地区、空戦中型1機と思われます」

「分かった」

 そう言って、モニターの脇の蓋をあけ、中にある赤いボタンを押す。

 ジリリリリッ!!

 基地に敵襲警報が鳴り響いた。





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