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第9話「共有の基地」




@北海道共和国U109歩兵団基地―沖合

9月30日北海道標準時刻1506時


美唄ナイエ 大尉


「おかしい……」

 いつも通り、クラックゥを迎撃するために出撃し、編隊飛行をしながら脇を飛んでいるノリヒサをちらりと見る。

 いつもと様子が違う。

 いつもは空に上がると急にまとっている雰囲気が張り詰めたものになるのだが、今日は相変わらず地上でのぼんやらかんとした雰囲気のままなのである。

 しかも、明らかに注意力が散漫になっている。体調でも悪いのだろうか。

「そんな状態で大丈夫?」

〈肯定だ、問題ない…と思う〉

 問いかけてみると通信機越しに返ってきたのは妙に元気のない声。

 体調でも悪いのかな……と思わず思ってしまう。

〈敵機確認。方位、1-9-0。大型3機〉

 やがて前方にクラックゥを確認したらしく、通信機からノリヒサの声が流れてくる。

 クラックゥは大型が3機ほど。大型は上部または下部の実弾兵器発射器に気を付ければあとはほとんど(まと)なので、楽勝だろう。

 しかし、何か嫌な予感がする。数値化できない勘が警告を発している。

〈全機、敵の上方を占位し、正面攻撃を仕掛ける〉

 しかし、ノリヒサは普通に、伏兵の存在など考えてないような戦法を指示する。

「了解」

 今日のメンバーはノリヒサと自分、ハヤブサとフタコ、ショウコとヒエンコである。

 ライコとシデンコ、レイコは基地で他の敵に備えて待機している。

 それにしても最近、ノリヒサの戦法も妙に冴えない。妙に作戦に穴があるというか無駄が多い気がする。この戦法だって、上空に伏兵がいたら挟み撃ちされてかえって危ない。

 (……何か心に引っ掛かっているのかしらね……帰投したら聞いてみましょうか?)

 頭の片隅で考えていると前方にクラックゥの反応がでた。

 やがて、クラックゥの上方にでるとその思考を中断させる。

 そのとき、突如としてクラックゥが上から降ってきた。

 太陽を背に、ビームを降らせてくる。

「はわっ!」

 体をひねり、かろうじてビームをよける。

 さらに左右の親指でHK21Aの安全装置を解除、そして右手でベルトに設置したスロットルをMAXに叩き込み、アフターバーナーを点火、急上昇。

 急降下してくる戦闘機型クラックゥとすれ違う。

 アフターバーナーをオフ、スロットルも巡航時まで下げる。

 HK21Aを構えつつ、右に体を捻って戦闘機型を追うように降下。

 3機編隊のうち最も右側のクラックゥに7.62ミリNATTO弾を叩き込み、腰から6式多用途短剣を抜き取り、力一杯クラックゥに投げつけ、追い越す直前に体を捻って右へ離脱。

 短剣がコアに突き刺さったらしく、クラックゥが崩壊し、光りながら空気に溶けていく。

 宙返りをして再び降下体勢に入ったところでヒエンコとショウコ、フタコがさらに1機撃墜。

 下方にいたノリヒサとハヤブサも射撃。正面から残った戦闘機型に弾丸を叩き込む。

 戦闘機型の表面を白い煙が覆う。

 戦闘機型は主翼内の4門の実弾兵器発射器で射撃。無数の実弾兵器がノリヒサとハヤブサのシールドに突き刺さる。

 自分やヒエンコ、ショウコ、フタコが戦闘機型の後ろに占位、射撃。

 そして戦闘機型が崩壊。

 同時に戦闘機型の残骸を追い越す。

「!!」

 そのまま下方の大型に狙いを変えようとしたとき、髪を何かが掠める。

 反射的に後方シールドを展開、足をつきだして減速。そのまま上昇に移る。

 振り返ると、シールドに大量のクラックゥの破片が突き刺さり、青いシールドが白く染まっている。

 崩壊するコアの至近距離にいるとコアの破片を受けることを失念していた。

〈ぐっ…しまった………〉

 下を見ると、ノリヒサがシールドを張り損ねて破片の直撃を受けたのか、墜ちてゆくのが見えた。

 あのまま落ちれば下にいる大型の攻撃を喰らってしまう。鴨扱いされている大型でも墜落途中の航空機動歩兵を落とすのは造作ない。

〈…くっ!!〉

 が、ノリヒサは辛うじて立ち直り、足をつきだして減速。

 坂東49式25ミリ機関砲を構え、射撃。

 大型を撃墜する。

 続けざまにショウコがM134ミニガンで7.62ミリNATTO弾を毎分3000発の勢いで叩き込む。

 2機の大型は編隊を解除、左右に分かれる。

 直後にハヤブサが上空からクラックゥに坂東40式対装甲ライフルで30ミリ対クラックゥ特殊炸裂弾を撃ち込み、1機を吹き飛ばす。

 その隙にハヤブサに接近しようとしたもう1機にフタコが魔法粒子の青い帯を曳きながら急接近し、固有魔法の魔力噴出で魔力を帯び、青く輝く鉈で真っ二つにする。

〈周囲のクラックゥの撃墜を確認。これよりき……と…う…する!!〉

〈了解!!〉

「了解!!」

 見上げると、ノリヒサがが上空でぐるぐると旋回している。

 上昇してノリヒサの2番機位置につき、編隊飛行を始める。

〈少佐、怪我は大丈夫ですか?〉

〈肯定。大丈夫だ。制服が破れただけだ〉

「じゃあとりあえず帰投ね」

 するとノリヒサはちらりと振り返って全員がきちんとついてきていることを確認して、針路を基地のほうに向けた。

 しかし、ノリヒサの制服の腕には明らかに血が付いていた。





@北海道共和国U109歩兵団基地―医務室

9月30日北海道標準時刻1617時


谷田ノリヒサ 少佐


 ベットに上体を起こし、ベットの脇の椅子に腰掛けたナイエと向かい合う。

 少し前に医師の検診を受けたが、「直ちに健康に影響はないが念のために1日は寝ていたほうがいい」と診断し、メンバーが見舞いにきたがナイエ以外はやがてめいめいの部屋に帰っていった。

 先に口火を切ったのはナイエであった。

「何か、心に、引っ掛かっている、ことが、あるの?なら、話して」

 思わず息を吸い込んでしまう。

 そのまま沈黙を保とうとしたが、沈黙の重さに負け、大きく息を吐き出し、話を始める。

「分かった。話す。……この話は信じなくてもいい。そのときはなにかを勘違いしたと思ってくれればいい。単刀直入に言うと、この部隊には魔力以外の何らかの本来存在しないはずの能力をもった人間ばかりが何らかの力によって集められているらしい。そして、その能力は最終決戦の時、戦いの重要な何かを握る可能性が高いらしいんだ」

 すると今度はナイエがはっとした表情を浮かべ、つぶやいた。

「その通りかも知れない。私も、時々、周囲のエネルギー量や風向風力、気温気圧なんかがなぜかわかることがあるの。シデンコのバットの合金は初めはただのアルミ合金のはずが今では正体不明の合金になっているし、ショウコのM134ミニガンはなぜか弾が無尽蔵、ヒエンコはなぜか敵の動きが先読みできている。みんな固有魔法は別にある。第一、それらはありえないはずの系列の魔法なの。なにより、あなたも空に上がると性格がまるで変わってしまう。でも今はおかしい。……地上と空が逆になったようなの」

「だとしたら……あれは嘘ではないのか…」

 思わずうつむいてしまう。

 自分は一介の、たいしたことのない軍人だ。こんな常識はずれな突拍子もない話は専門外だ。

 自分が士官学校で学んだのはあくまで戦術(ミクロな戦い方)であって、戦略(マクロな戦い方)ではない。参謀教育も受けていない。

 後方の基地からモニターに映った大きな戦場の動きをにらむより、前線で戦局を肌で感じるほうが性にあっている、自分はそういう人間。分かりやすく言えば大局的なものを判断するには向いてないのだ。

 ましてや、世界中で起きているこの戦いの方向性なんて。

 しかし、このことは他言無用と言われてしまった。つまり、自分で完結させなければならないということだ。

 思考が一段落ついたので顔をあげると、ナイエが真面目な顔をして口を開いた。

「谷田少佐、あなたはしばらく飛ばない――クラックゥとの戦いに出ない方がいいかもしれない」

 しかし、自分にとってその提案は受け入れられない。――自分は、戦わなければならない。

 ナイエと目を合わせないように軽く頭を振りながら提案を受け入れないことを告げる。

「それはできない。確かに、クラックゥと戦う限りはいつ死ぬかわからない。いつ死んでもおかしくない。そういう戦場にいることは嫌というほどわかっている。――だけど自分は戦う。戦わなければならないんだ」

 すると、ナイエの顔に一瞬影がさし、なにか辛いことを思い出すような表情になったが、すぐに元の、普段の表情に戻ると、

 ナイエはホルスターから拳銃を取り出し、まっすぐ自分に銃口を向けてきた。

「あなたが、それでも戦うというなら撃つ。この拳銃で」

 その様子は、いつもの冷静なナイエとは正反対といえるものであった。

 一瞬、どきりとした。

 銃口から、薬室に装填されているであろう弾丸さえ見えそうな気がする。

 しかし、すぐに冷静になる。

 冷静になってみると、ナイエの手は震え、手に握られたドイツのHK(ヘッケルコッホ)社製拳銃、USPは手から落ちそうになっている。しかも安全装置(セーフティ)がかかったままだ。

 その様子を冷静に観察していると、体の芯から沸き上がる闘志でかっと熱くなっていた頭が冷静になっていくのが分かった。

 そして、手を伸ばし、ナイエが拳銃を握っている手に、そっと手をそえる。

「ありがとう。冷静になれた」

「そぅ……ごめんなさい。……私も冷静になれてなかった。…………どうかしているわね。上官に銃を向けるなんて」

 そしてナイエは、ゆっくりとした動作で拳銃をしまった。

「じゃあ、これからどうするかを考えよましょう。その最終決戦のために」

 ナイエのその言葉に、ただ頷くことしかできなかった。

 ナイエを直視できなくて目をそらすと、窓の外は白い霧につつまれていた。


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