表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/47

第43話:時の狭間を斬る一閃

「行くぞ……!」


 アルヴィスの姿がブレた。  彼が踏み込んだ足元の氷が、踏み込まれたことすら認識できずに砕けない。  それほどの神速。


 抜刀術・『空蝉うつせみ』。


 ヒュッ。


 赤い閃光が、ヴォルグリフの時間を逆行させる認識速度を超えて疾走した。


『ナニッ……!?』


 ヴォルグリフが驚愕に目を見開く。  その鼻先に、一直線の赤い亀裂が走った。  黒い血が飛沫を上げる。


「斬れた! 攻撃が通ったぞ!」  バードが叫ぶ。


 物理法則を超越した刃が、因果律の壁をこじ開けたのだ。  だが、それが魔獣の逆鱗に触れた。


『小賢シイ……羽虫ドモガァァァッ!!』


 ヴォルグリフが激昂し、その角が禍々しい光を放った。


 『絶対静止クロノ・フリーズ』!!


 世界から「色」が消えた。  音も、風も、光さえも。  全てが灰色の静寂に包まれた。


 アルヴィスは、二の太刀を振り上げた姿勢で空中に縫い付けられている。  バードとミヤも、リナも、驚愕の表情のまま石像のように固まっている。  舞い散る雪の一片すら、空中でピタリと止まっていた。


 完全なる時間停止。  この空間において、ヴォルグリフ以外の時間は進まない。


『死ネ』


 ヴォルグリフが、動けないアルヴィスに向かって巨大な前足を振り上げた。  回避不可能。防御不可能。  なすすべなく潰される未来が確定し――。


「……やらせんぞ」


 カッ!!


 灰色の世界で、唯一つ、赤く輝く瞳があった。  わしだ。


『!? ナゼ動ケル!?』


 ヴォルグリフの動きが止まる(驚きで)。  わしは、重い泥の中を歩くように、ゆっくりと、しかし確実に足を動かしてアルヴィスの前に割り込んだ。


「ふん……皮肉なものじゃな」


 わしはニヤリと笑った。


「お主のその能力、わしの『呪い』と同質のものじゃろ?  わしの時間は12歳で止まったまま。  『既に止まっている時計』を、これ以上止めることはできんのじゃよ!」


 わしの体には、長年この「停滞の呪い」が染み付いている。  いわば、わし自身がこの静止世界の住人そのもの。  耐性が違うんじゃ、年季が違うんじゃ!


『ダガ、ソノ小サナ体デ何ガ出来ル? 貴様モ辛ウジテ動ケル程度デアラウ?』


 図星だ。  空気が鉛のように重い。指一本動かすのに凄まじいカロリーを消費する。  この状態で戦うのは不可能だ。


「……戦う必要はない」


 わしはポケットから、ある「装置」を取り出した。  雷帝戦で作った『雷鳴石』の欠片と、腐竜の『毒腺』を組み合わせた、手のひらサイズの爆弾。


「お主は致命的なミスをした。  わしを『職人』だと知っていながら、自由に動ける時間を与えてしまったことじゃ」


 わしは全力で跳躍した。  目指すは、ヴォルグリフの頭上。  奴が時間を操作している器官――あの『角』だ。


『止メロ!』


 ヴォルグリフが前足で叩き落とそうとする。  だが、わしの体は小さい。指の隙間をすり抜け、角にしがみついた。


修理ハッキングの時間じゃあ!」


 わしは爆弾を角の根元にセットし、さらにハンマーでくさびを打ち込んだ。  ただ破壊するのではない。  魔力の回路をショートさせ、逆流させるための「細工」だ。


「配線変更! 出力反転! お主の『時間停止』エネルギーを、そのまま『爆発』に変換してやる!」


 カカンッ! カカンッ!


 静止した世界に、ハンマーの音だけが響く。  ヴォルグリフがわしを掴もうとするが、その手はスローモーションのように遅く見える。  わしの思考速度(職人魂)の方が速い!


「完了じゃ! 離れろ!」


 わしは角を蹴って飛び退いた。  同時に、起爆スイッチを押す。


時間停止解除リリース!」


 カチリ。


 世界に色が戻った。  時間が動き出す。


 その瞬間。


 ズガァァァァァァァン!!!


『グオオオオオオオオオッ!?!?』


 ヴォルグリフの角が、内側からの暴発によって粉々に砕け散った。  溜め込んでいた時間エネルギーが逆流し、奴の脳天を直撃する。


「今じゃアルヴィス! 奴の『時』は乱れた!  もう防御不能じゃ! 斬れぇッ!」


 時間が動き出したことに気づいたアルヴィスは、状況を瞬時に理解した。  目の前で悶絶する魔獣。  空中に舞うガルネット。


「……応ッ!!」


 アルヴィスが大地を蹴った。  今度こそ、その一撃は届く。  最強の剣士が、神話の魔獣へと肉薄した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ