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第44話:呪いの終わり、そして小さな巨人の旅立ち

ザンッ!!


 アルヴィスの『時雨』が、ヴォルグリフの巨体を真っ向から斬り裂いた。  断ち切られたのは肉体だけでなく、奴が支配していた「因果」そのもの。


『バ、馬鹿ナ……我ガ……時ガ……止マル……ダト……?』


 ヴォルグリフの虚無の瞳から光が消えていく。  山のような巨体が、砂時計の砂のようにサラサラと崩れ、風に溶けていった。


「終わりだ、古き悪夢よ」  アルヴィスが剣を納め、静かに呟く。


 ドォォォォォン……。


 魔獣が消滅すると同時に、ニブルヘイムを覆っていた灰色の空が割れた。  差し込む陽光。  止まっていた雪が再び舞い降り、風が吹き抜ける。  世界中の「時間」が、再び動き出したのだ。


「やった……! 勝ったよぉ!」  ミヤが飛び跳ねて抱きついてくる。 「やりましたわ! 空気が美味しいですわ!」  リナもへたり込みながら涙ぐむ。


 そして、わしにも変化が訪れた。


「……っ!」


 心臓がドクンと大きく脈打った。  体の奥底に食い込んでいた冷たいくさびが、パキンと砕け散る感覚。  体が熱い。血が巡る。


「大将! 体が光ってるぞ! もしかして、ついに元の姿に……!?」  バードが期待の眼差しを向ける。


 わしはゴクリと唾を飲み込み、自分の体を見下ろした。  光が収まっていく。  さあ、ダンディで渋い職人の肉体よ、戻ってこい!


 ……。  …………。


「……変わっとらんではないか!!」


 わしは短い手足をバタつかせた。  視線の高さは変わらず。手のひらは紅葉もみじのように小さいまま。  相変わらずの、愛くるしい12歳の姿だ。


「あれ? 親方、ちっちゃいまま?」  ミヤが首を傾げる。


「どういうことじゃ! 呪いは解けたはずじゃろ!?」


 わしが喚いていると、アルヴィスがクスクスと笑いながら近づいてきた。


「焦るなよ、ガルネット。  『時間が止まる呪い』は解けた。つまり、**『止まっていた時計が、今ここから動き出した』**ということだ」


「……あ」


「君はいきなり大人になるんじゃない。今日からまた、普通に一日ずつ成長していくんだよ。人間と同じようにね」


 なるほど。  一気に加齢するわけではなく、成長期が再開したということか。


「……ちっ。まあいい。  これから毎日牛乳を飲んで、すぐにバードを見下ろすような大男になってやるわ!」


 わしはふんぞり返った。  まあ、この便利な(狭いところに入りやすい)体とも、もうしばらくの付き合いということだ。


          ***


 ――そして、数週間後。


 工房『小さな巨人』は、相変わらずの活気に満ちていた。  わしは未だに踏み台を使わないと作業台に届かないが、そのハンマー捌きは冴え渡っている。


「おーい、親方! 王宮から追加注文だよ! 新型魔導剣を100本だって!」 「100本だと? あやつら、この児童労働(見た目だけ)を酷使しすぎじゃ!」


 ミヤ、リナ、バードの3人も、冒険を経て一回り逞しくなり、今や工房になくてはならない戦力だ。


 カランコロン♪


「やあ、ガルネット。元気にしてるかい?」


 爽やかな笑顔で現れたのは、英雄としてさらに名を上げた騎士団長アルヴィスだ。  腰には、あの『時雨』が差されている。


「また来たのか、暇人団長。今日は何の用じゃ? 剣のメンテナンスなら昨日したばかりじゃぞ」


「いや、今日はメンテナンスじゃない。……『依頼』だ」


 アルヴィスが、一枚の地図をカウンターに広げた。  指差したのは、東の大陸の上空。


「東の空で『空飛ぶ島』が見つかったらしい。  そこには、ヒヒイロカネを超える未知の金属や、古代の技術が眠っているという噂だ」


 その言葉に、わしの手が止まった。  未知の金属。  空飛ぶ島。  わしの職人魂(と冒険心)が、疼かないわけがない。


「……ふん。忙しいと言っておるのに」


 わしはニヤリと笑い、掛けていた作業用ゴーグルを額に上げた。  その目は、子供のように輝いていた。


「ミヤ! リナ! バード! 店じまいじゃ!  『グラン・フォートレス』のエンジンを暖めろ!  次は空の旅じゃぞ!」


「やったー! また冒険だね!」 「お供しますわ! 今度は『空飛ぶドレス』を作りたいです!」 「へいよ大将! 空の魔物もハンマーで叩き落としてやるぜ!」


 仲間たちが歓声を上げ、準備に走り出す。  アルヴィスも嬉しそうに微笑み、わしに手を差し出した。


「行こうか、相棒」


「うむ。置いていくなよ、のっぽ団長」


 わしはその大きな手を握り返した。  身長差はまだある。  だが、この手が生み出す技術と勇気は、誰よりも大きい。


 わしは世界一の鍛冶師、ガルネット。  人はわしをこう呼ぶ。  ――『小さな巨人』と。


 わしたちの冒険は、まだ始まったばかりだ!


(第一部 完)

需要があれば第2部書きます。

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