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第24話:爆走! 荒野の魔導カートレース

ある晴れた休日。  工房『小さな巨人』の庭先で、わしは地面に大の字になっていた。


「……もう嫌じゃ。歩きたくない」


 わしは空に向かって足を投げ出した。  今日は街への買い出し日だったのだが、往復10キロの道のりは、12歳の短足ボディには過酷すぎた。


「だらしないですわよ親方。私なんて、このヒールで完走しましたのよ?」 「親方は歩幅がボクらの半分だからねぇ。倍疲れるんだよ」


 リナとミヤが荷物を整理しながら笑っている。  バードは涼しい顔だ。こいつの体力は底なしか。


「ええい、うるさい! ドワーフ時代は一晩中歩き続けても平気じゃったんじゃ! この体が貧弱すぎるんじゃ!」


 わしは起き上がり、拳を握った。


「決めた。もう歩かん。  これより『快適移動革命』を起こす!」


          ***


 わしが開発に着手したのは、前世の記憶にある「自動車」……は構造が複雑すぎるので、簡易版の**「魔導ゴーカート」**だ。


 動力源は、回転運動を生む『アンスズ』のルーンを刻んだ魔石エンジン。  車体は、工房に転がっていた廃材と鉄パイプを溶接。  タイヤは、スライムを固めて作った弾力性のある「スライム・タイヤ」だ。


「完成じゃ! 名付けて『疾風号ソニック・ブレイカー』!」


 わしは完成したカート(三輪車に近い)に乗り込んだ。  アクセルペダルを踏む……足が届かないので、座席にクッションを3枚重ねる。よし、届いた。


「スイッチ、オン!」


 キュルルル……ブォン!!  魔石エンジンが唸りを上げ、マフラーから魔力の残滓が青い煙となって噴き出す。


「おーっ! 動いた! 面白そう!」  ミヤが目を輝かせた。 「あら、屋根がありませんわ。日焼けします」  リナは不満そうだ。


「ふっふっふ、見ておれ!」


 わしはアクセルを踏み込んだ。  ドンッ!  凄まじい加速Gが小さな体を襲う。


「ひゃっはー! 風じゃ! わしは風になったぞ!」


 わしは荒野を爆走した。  時速60キロ。体感速度は100キロ近い。  歩けば2時間の道のりが、これなら10分だ!


 調子に乗ってドリフトターンを決めて戻ってくると、3人の目が変わっていた。


「親方! ズルい! ボクも乗りたい!」 「私も! 風を浴びてなびく髪、絵になりますわ!」 「……俺も、興味あるな」


 全員食いついてきた。  こうなれば、職人として全員分作ってやるのが筋というものだ。


「よかろう! ただし、ただ同じものを作っても面白くない。  それぞれの『個性』に合わせた専用マシンを作ってやろう!」


          ***


 数時間後。  工房の前には、奇妙な4台のマシンが並んでいた。


 1号車:ガルネット専用『疾風号』  軽量化とスピードを追求したレーシング仕様。ただし、運転席には子供用補助シート付き。


 2号車:ミヤ専用『強欲丸グリード・トラック』  後部に巨大な荷台を取り付けた軽トラ仕様。「一度に大量の商品を運べること」を最優先。車体には「高価買取」の広告ペイント済み。


 3号車:リナ専用『白鳥のスワン・ボート』  なぜかスワンボートの首がついている優雅なオープンカー。車体は純白。座席はふかふかのソファ。スピードは出ないが、自動で花びらを撒き散らす機能付き。


 4号車:バード専用『鉄塊アイアン・タンク』  巨体のバードが乗るため、装甲車のような頑丈さ。タイヤは6輪。障害物を粉砕して進むパワー特化型。


「よし、全員乗ったな?」


 わしたちは荒野のスタートラインに並んだ。  目的地は、5キロ先の「一本松」を折り返して戻ってくるコース。


「優勝者は、今後一ヶ月の『買い出し当番』を免除とする!」 「「「乗った!!」」」


 全員の目の色が変わった。買い出し(特に帰りの荷物持ち)は重労働だからだ。


「レディー……ゴーッ!!」


 ドゴォォォォン!!  4台が一斉にスタートした。


「いただきだね! 『強欲丸』の積載量をナメるなよ!」  ミヤがロケットスタートを決める。荷台が空なので軽いのだ。


「甘い! そこをどけぇぇ!」  バードの『鉄塊』が、ミヤのカートに幅寄せする。  ガガガガッ!  「ひぃっ!? 潰れる! 鉄板の厚みが違うよぉ!」


「おほほほ! 優雅に参りますわよ!」  リナの『白鳥』は遅い。だが、彼女は魔法を使った。  「ウィンド・ブースト!」  追い風魔法で無理やり加速する。ついでに他の車の視界を花びらで遮る妨害工作付きだ。


「ぐぬぬ、前が見えん! リナ、花びらを撒くな!」


 わしはハンドルを巧みに操り、スライム・タイヤのグリップ力で岩場をショートカットする。  軽い車体が宙を舞う。


「ひゃっほぅ! この空中殺法こそドワーフの……うおっ!?」


 着地の衝撃で、お尻の下のクッションがズレた。  とたん、足がペダルに届かなくなる。


「と、止まるぅぅ! 足が! 足がぁぁ!」


 減速するわしの横を、3台が抜き去っていく。


「お先にー親方!」 「あらあら、足が短くて大変ですわね!」 「すまん、大将!」


「くそぉぉぉッ! こうなったら奥の手じゃ!」


 わしはカートの後部に取り付けたスイッチを押した。  緊急加速装置『ニトロ(火炎石爆破)』点火!


 ボォォォォン!!


 アフターバーナーのごとく炎が噴き出し、わしのカートが弾丸のように加速した。  制御不能の暴走特急だ。


「どけどけどけぇぇぇ!! 止まり方を知らんのじゃぁぁ!!」


          ***


 その頃。  王都へ向かう街道を、騎士団の一隊がパトロールしていた。


「……ん? 隊長、あれは何でしょうか?」


 部下の指差す先。  荒野の彼方で、凄まじい砂煙が巻き起こっていた。  爆音。爆発。そして飛び交う謎の物体(スワンボート?)。


「ま、まさか……魔獣の大群か!?」 「スタンピードだ! 総員、警戒せよ!」


 騎士たちが剣を抜いて身構える。  その轟音はどんどん近づき――そして、彼らの目の前を、見たこともない鉄の塊たちが猛スピードで横切っていった。


「「「うわあああああああッ!?」」」


 砂埃にまみれ、呆然とする騎士たち。  その最後尾を、金髪の幼女が乗った三輪車が、火を噴きながら通過していく。


「止まれん~ッ! 誰か止めてくれぇぇぇ~ッ!!」


          ***


 結局。  レースは全員がコースアウトして自滅。ドローとなった。  大破したカートの残骸の前で、煤まみれになった4人は顔を見合わせ――そして大笑いした。


「あー、楽しかった!」 「次はもっとサスペンションを強化しましょう!」 「ボクは広告スペースを増やすよ!」


 わしは壊れたハンドルを握りながら、ニヤリと笑った。


「うむ。やはり、ものづくりはこうでなくてはな」


 翌日、騎士団から「謎の暴走集団に関する調査」が来たが、全員で知らんぷりをしたのは言うまでもない。  買い出し当番は、結局じゃんけんで決めることになった。

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