第23話:注文の多すぎる工房と、弟子入り志願の変人たち
王都での激闘を制し、わしたち工房『小さな巨人』の一行は、意気揚々と廃村の拠点に帰還した。
「ふあぁぁ……やっと帰ってきたぁ」 「やっぱり我が家が一番ですわね。王都のベッドはふかふかすぎて、逆に腰が痛くなりましたわ」
久しぶりの我が家だ。 今日はもう店を開けず、全員で泥のように眠ろう。 そう思って、わしが工房のドアを開けた瞬間だった。
ドサササササササッ!!!
雪崩が起きた。 天井まで積み上がっていた「紙の山」が、ドアを開けた衝撃で崩れ落ち、わしを埋め尽くしたのだ。
「ぐえっ!?」 「お、親方ァァッ!? 大丈夫!?」
バードに引っこ抜かれて助け出されたわしは、手元の紙を見た。
『拝啓、王立博覧会での活躍を拝見しました。ぜひ我が家にも聖剣と同じものを……』 『ドラゴンスレイヤーの短剣、言い値で買います』 『リナ様が着ていたドレスの予約をお願いします』 『ミヤ様のサイン入りブロマイドを……』
注文書だ。 それも、数百、数千という数の。
「……ミヤ」 「は、はい」 「お主、王都にいる間、留守番のポストはどうしておった?」 「えっと……『注文は手紙で送ってね!』って看板を出しておいたけど、まさかこんなに来るとは……」
ミヤが顔を引きつらせる。 これが「王家御用達」の称号の威力か。 知名度が上がったのはいいが、これではキャパシティオーバーだ。わしたち4人では、寝ずに働いても捌ききれない。
「……仕方ない。臨時で弟子を雇うか」
以前、「人は増やさない」と決めたが、背に腹は代えられん。 わしは渋々、求人票を出すことにした。
***
翌日。 工房の前には、長蛇の列ができていた。 だが……どうも様子がおかしい。
「では、面接を始める。次の方」
わしが面接官席(ミカン箱の上)で呼ぶと、最初の男が入ってきた。 白装束に、釘バットを持った危ない男だ。
「志望動機は?」 「はい! 聖女フィーナ様の『物理説法』に感銘を受けました! 僕も敵の頭蓋骨を粉砕する快感を味わいたくて!」 「不採用。帰れ」
次。 全身をラップのようなものでグルグル巻きにした男。
「志望動機は?」 「ジュリアス様の『絶対清潔』こそ正義です! 僕も空気に触れたくないので、ここで無菌室を作りたいです!」 「ここは鉄粉と煤の職場じゃ。帰れ」
次。 やたらとキョロキョロしている、目つきの悪い男。
「志望動機は?」 「へへ……いやぁ、この店には凄い技術があるって聞いたんでねぇ。設計図の保管場所とか、金庫の場所とか教えてくれたら働くよぉ?」 「スパイじゃな。バード、摘み出せ」 「へいよ」
ドゴォォォン!! バードがスパイを空の彼方へ投擲した。
「……はぁ」
わしは深いため息をついた。 来る奴来る奴、わしの技術ではなく、わしらが作った「変な客の噂」に惹かれた狂信者か、技術を盗もうとする産業スパイばかりだ。 まともな職人志望者が一人もいない。
「ダメだこりゃ。この店の評判、どうなっとるんじゃ」 「『奇跡と狂気の工房』って呼ばれてるみたいだよ親方」 「誰じゃそんな二つ名を広めたのは」
***
結局、採用者はゼロ。 しかし、目の前には数千件の注文の山。
「……やるしかないか」
わしは覚悟を決めた。 人の手が足りないなら、機械の手を借りるしかない。
「総員、配置につけ! これより『全自動量産体制』に移行する!」
わしが開発したのは、バードの義手技術を応用した『多腕式・自動ハンマーアーム』だ。 中央の炉から伸びた6本の機械腕が、わしの動きをトレースして、6本同時に剣を打つ。
「ミヤは素材投入! リナは完成品の梱包! バードは動力(手回し発電)じゃ!」 「ええっ!? 私が動力源!?」 「文句を言うな! 回せ回せぇッ!」
ガション! ガション! ガション! 工房が工場のようになった。 わしが一本打つたびに、機械腕が同じ動きをして、6本の剣が完成する。 凄まじい速度だ。注文の山がどんどん減っていく。
「ふはははは! 見たか、これが産業革命じゃ!」
わしは調子に乗った。 だが、長時間稼働させたのがまずかった。 トレース機能にズレが生じ始めたのだ。
「あれ? 親方、なんか変だよ?」 「ん?」
出来上がった剣を見ると……なぜか刀身がクネクネと波打っている。 次に出てきた鎧は、袖が4つある。 その次は、剣の柄に、なぜかリナの作業を誤認学習してフリルが縫い付けられている。
「いやぁぁぁッ!! 私の『乙女の聖剣(フリル付き)』が量産されていきますわぁぁッ!?」 「ストップ! ストップじゃーッ!!」
緊急停止ボタンを押すが、暴走したアームは止まらない。 ガシャンガシャンと、大量の「フリル付き波打ち剣(使い道不明)」を吐き出し続ける。
「バード! 強制停止だ! アームをへし折れ!」 「おおっ!」
バードが大剣を一閃。 暴走アームを切断し、ようやく工房に静寂が戻った。
***
「……はぁ、はぁ」
床には、大量の失敗作と、疲れ果てた4人が転がっていた。
「……もう、無理だよ親方」 ミヤが天井を見上げて呟く。 「お金は欲しいけど、死んだら使えないよ」
「……そうじゃな」
わしも認めざるを得ない。 量産は性に合わん。やはり、一本一本魂を込めて打つのがわしの流儀だ。
「方針転換じゃ。 注文は『抽選』にする。そして、納期は『気長に待てる人のみ』とする。 その代わり、単価は今の10倍に設定しろ」
「えっ、10倍!? さすがに客が減るんじゃ……」 「減らしたいんじゃよ! わかるか!?」
わしは叫んだ。 こうして、工房『小さな巨人』は、「超高額だが、数年待ちでも手に入れたい幻のブランド」として、ますます神格化されていくことになる。 スローライフを取り戻すための値上げが、皮肉にもブランド価値を高めてしまったのだが、それはまた別の話である。




