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彼女の選択は、まだ誰も知らない未来の断章  作者: だいがくいも
その少女、最強につき……
1/5

始まり

ひとりの赤子が泣いていた。


母親らしき人物は既に事切れている。


かわいそうに内乱に巻き込まれたのだろう。


赤子が泣いてももうその腕では抱えてあやすことも、その足では心地いい揺れを赤子に与えたくてもできまい。


哀れ、哀れだといつ、どこでそんな感情を覚えたのか。


赤子を抱き抱えると、己の母でもない人間に抱えられてピタリと泣き止む。


ああ、この子は……


―――――――――


見渡す限りの暗い空、そこに浮かぶいつ降ってきてもおかしくない岩。周りには石、いし、いし……いつだってこの過酷な環境で私は自分を嘆いたことなどない。


「準備できた?」


格納庫と呼べるかどうか分からない鉄骨のみの格納庫でイノセは自分の愛機を見上げていた。そこへイノセの養母に当たるセラが呼びかけてくる。


「うん、もう行けるよ。ね、アル」


アルと呼ばれたパーソナルアーマーは人間のように応答はしないものの、イノセには長年乗り回した愛機の声が聞こえたような気がするのだ。


イノセの機体は他の積み荷と同じ倉庫へと収容され、イノセとセラは搭乗する船の席へと着いた。地球ほど安定していない星の、客船とは言えないただの連絡と輸送船を兼ねた船では離陸時の衝撃は硬い椅子に座るイノセ達を襲う。


「あいてて…全くいくら捨てられた星だからとはいえ積荷と同じに扱われたらたまったもんじゃないよ。」


イノセの横に乗るセラが腰をさすりながら文句を言うと家から一つだけ持ってきたタブレット型の電子機器を難しい顔で見つめる。


「ねぇ、セラ。地球ってどんなところ?」


イノセは物心つく前にはもうセラと木星に住んでいた。

知っているのはセラが道に捨てられたイノセを拾って木星へと引っ越してきたということ。

ついこの前、地球に帰るぞと言われた時は不安もあったが、イノセは自分の産まれた地球を見てみたかった。


「環境はいい、空気もここより美味しい。まぁ人間はクソみたいだな。向こうに行ったら気をつけることは『知らない人についていかない。うまい話に騙されるな。自分を紹介するな』だな。」


セラがそう指折りで注意事項を読み上げる。本当は地球になんか行きたくなさそうだなとイノセはまたタブレットに戻るセラの横顔を見てそう思った。


(地球か…)


家にはテレビがなかった。本もセラが読む小難しいものばかりで地球を見たのは科学が発達した現代では時代遅れの地球儀だけだった。

蒼い面積とそれぞれ形の違う緑の面積が占めるそれは木星と全く違った環境。

何百年と人類は歴史を歩んでも宇宙では呼吸のために必要な酸素が無ければ生きていけない。コロニーの酸素も結局は連絡船が運んでくる資源が無ければ、そこにいる人類はすぐ死に絶えてしまう。


木星から離陸してもう1日は経ったであろう頃、イノセは目が覚めた。時間的にはまだ夜の設定らしく機内は暗い。

横にいるセラも毛布をかけて寝ている。イノセはセラを起こさないように寝息やいびきが反響する機内を静かに移動する。


船の格納庫へと入ると他の積荷により遥かに目立つ愛機の所へ向かう。コクピットのドアを操作し、開けた隙間から操縦席へと座る。


(ああ、落ち着くな。)


船の椅子は狭くてほとんど倒せない。ならばせめてコクピットならベッドに近い体勢で寝れるのではとイノセは思っていた。


(ここなら、よく眠れるかも……)


機体のコクピットに入った数分後に静かな機内でうとうとしていると、激しい衝撃と轟音が響き渡った。


鳴り響く警報。そして遠くから発砲した音が聞こえてくる。


客席で轟音と衝撃に驚いたセラは隣にいたイノセに声をかけようとして姿が無いことに気づく。

それと同時に船内の窓に大きな物体が張り付いているのが見えた。

関節のように見える繋ぎ目、そしてその背後にチラッと見えたそれに先程の衝撃は大きな別の機体に無理に接触されたときのものだとすぐに理解できた。


先程まで遠くに聞こえてきた銃声はいつしか客席にも放たれた。


「静かにしろッ!席に座れ!!通報なんかしてみろその場で殺してやるからな!!」


大きなガタイをした男たちが機関銃を片手に怒鳴っている。震え上がる乗客たちは大人しく席へと座り、神に祈る者や夫婦でお互いを落ち着かせ合う姿も見られた。


「オマエらは俺たちの仲間を解放するために必要な交渉材料だ。生きて帰りたかったら政府のクソどもが交渉に応じてくれるよう祈るんだな。」


セラは大人しくするフリをして乗り込んできたジャック犯の動向をうかがうと背中のマークには組織のマークであるシンボルが書いてあった。


犯罪過激派集団のサタン。


強盗、殺人、爆破テロ、自分たちの要求を通すためならすべての犯罪を犯す無差別の犯罪組織だった。しかし、彼らは掃討作戦の際に全員粛清されたとニュースになっていたはずだった。


セラは次に窓の外に見える機体を見る。

コロッサスと呼ばれる大きなロボット型の兵器で軍事利用に特化した大きな機体だ。搭乗者は一人で開発当初は一機で戦場を塗り替えるほどの力があった。


現在目視できたものと船に張り付いているもので2体は確定。しかし他にもいる可能性は否定できない。


セラが考えていると、サタンの男たちはゾロゾロと前方へ移動する。2人ほどの見張りを残して。

そして、目の前の男を立ち上がらさせる。


「お前、地球のお偉いさんだろ?ちょっと政府のヤツらと通信してもらうぞ。死にたくなかったら上手くやるこったな」


男は小さく悲鳴を上げながら船の操縦席の方へと消えていった。


その頃、地球ではサタンによる輸送船ジャックの通報が入っていた。


「なに?サタンだと?あれは第4部隊が掃討したのではなかったか?」


連絡を受けた政府は人道的に救出作戦をすることを決定。しかし、その実は救出作戦はテロ組織の自爆により失敗するという筋書きの元、残党を一掃せよとの司令だった。


それをちょうど現場付近のコロニーに滞在していた部隊へと司令が降りた。


「全く、政府にとって都合の悪い御仁が乗っているのだろう。わざと失敗しろとは…嫌がらせにも程がある。」


帝国機動兵団ジユニオン第1隊隊長ヴォルター・シュトラウスは呆れていた。


フッとヴォルターは不敵に笑う。


「政府のお望み通り救出作戦は失敗してやろう。全員を助け出し、残党のみ駆逐するという形でな。」


今までのコロッサスを用いた犯罪はすべて犠牲を最小限、又は、犠牲無しで遂行してきたその部隊に失敗せよとの命令にチームを率いてきた隊長として、救出ではなく失敗しろとはプライドが許さない。


「いくぞ!!」


「「「おー!!!」」」


部下に指示をし、彼も作戦へ向かうために準備を始める。


――――――――――――


輸送船がジャックされて、しばらく見張りの男たちは暇なのか人質で遊び出した。銃への恐怖で言うことを聞かざるを得ない彼らは見るに堪えない仕打ちをうけ、船内には悲鳴とそれを笑う声が支配している。


(今のうちにイノセへ連絡を取ろう……)


不審な動きに見えないようにセラは腕に着けた端末を見ず、イノセへとメッセージを送る。


その頃、操縦席で寝ていたイノセの端末にセラからメッセージが届く。

目を通すとイノセは端末をなくさないように大事に胸にしまい、操縦席の横に置いてあるヘルメットを被ると今度はきちんと操縦席へ座る。


「なんだ?」


確保している輸送船がガタガタと震え出した。

サタンのコロッサスに乗る男たちは船の異常かと見回すと、突如として下の格納庫から煙と共に何かが飛び出してくる。


「何か出てきたぞ!!何だ!アレは」


飛び出してきた機体は彗星のごとく、真っ直ぐに輸送船へと向かい、その姿を表す。


「コロッサスは全滅、船は傷つけない。」


そう呟き、イノセは船の右側のコロッサスへ上から突撃し船体から引き剥がす。同時に船の下から左側のコロッサスへ向けてビームライフルを放ち、船体から引き剥がす。


「へっ!その機体…まさかパーソナルアーマーか……そんな骨董品持ち出してきて、このコロッサスに勝てんのかよォ!!」


放り出されたサタンのコロッサス達が一気に向かってくる。


「アーマー展開」


イノセの機体背後から盾が独立起動し、6つに展開され、コロッサスのレーザーを弾き返す。

ビームサーベルを抜いたもう一機のコロッサスがイノセの機体に向かってくる。背後のバッグパックからビームサーベルを抜き攻撃を受け止める。


「しょせんは時代遅れのパーソナルアーマーだろうが!!最新のコロッサスに勝てるわけがねぇんだよ!!」


バチバチとビームサーベルの閃光が輝く。


鍔迫り合いの末、お互いに距離をとるとモビルスーツは間髪入れずにイノセへと突っ込んでくる。


「パーソナルアーマーは起動こそすれ、使用者が適合できなければいくら性能が良くても宝の持ち腐れだ!」


ビームサーベルがコックピットごとイノセを貫こうと迫る。




「急げ!!乗客を1人残らず助けるぞ!!」


拠点を飛び立ったヴァルターが率いるコロッサス部隊はジャックされた輸送船へと急行していた。


付近の通報からどうやら輸送船はサタンのコロッサスによる攻撃を受けているという情報も入り、このままでは誰一人助からないことに焦りを感じていた。


「隊長!見えました。あれが通報のあった輸送船です。」


モニターに映る景色を見るとサタンのコロッサスはどうやら輸送船ではなく別の機体と戦っている。


「なんだ…仲間割れか?」


サタンのコロッサスにはデカデカとまるで己の力を見せつけるかのように組織のマークを機体のどこかに印字している。


だが、対峙しているコロッサスは形状もマークもサタンのコロッサスとは明らかに異なっていた。


白い機体に特徴的なグリーンのセンサーアイ、コロッサスよりもより人型に近いフォルム。ヴァルターは記憶を辿り、ひとつの機体を思い浮かべる。


「……パーソナルアーマーか」


サタンのコロッサスの腕は宙を舞い、イノセの機体に攻撃が届くことはなかった。


「なにッ!?」


すぅと息を吸って、ふぅと少し長めに吐く。


「そう、地球の人はこの子の操作もできないのか。いつまでも戦いが終わらないわけね。」


パーソナルアーマーのセンサーアイが煌めき、機体に赤い閃光が走る。その姿を見たが最後、突如としてコロッサスのパイロットの目の前は閃光に包まれた。


「おい。明らかにさっきと動きが違うぞ!」

「くそ!あいつ、まさか…適合者なのか!?」


敵を見据えるイノセの目が蒼から紅へと変わる。


「さぁ、行くよ。」


イノセはコロッサスへと向かう。怯えたサタンのコロッサスはビームライフルでこちらをデタラメに撃つが、イノセの機体は舞うように閃光を潜る


「なんだ、あの機動力は!」


ライフルを捨て、サーベルを抜くと突っ込んでくる機体にコロッサスが腕を振り上げる。


しかし、その手は振り下ろされることはなく、イノセによって放たれたビームにより腕が破壊されていた。

驚いて目を離した一瞬、サーベルがコクピットごと一閃。コロッサスを撃破する。


輸送船を襲っていた最後のコロッサスを撃破したところで、後方から更にサタンのコロッサスと思わしき増援が近づいてくる。

これには勝ったと確信していたサタンの構成員も次々にコロッサスを圧倒的な性能で撃破していく光景に次第に青ざめていく。


「なんなんだ…これが、パーソナルアーマーの本来の性能だっていうのかよ……」


サタンの操縦者はこう教えられていたのだ。

パーソナルアーマーは誰もは扱えない粗悪品、コロッサスは万人が使用できる最高品だと。

だが、現実はどうだ。軍の工場から奪った最新鋭のコロッサスは骨董品とまで称されるパーソナルアーマーに蹂躙されるばかりだ。


「くそっ、くそっ!!調子に乗るなぁ!」


ヤケクソの特攻。しかし、それもイノセとパーソナルアーマーの前では無力。


パーソナルアーマーに届く前にライフルで腕、脚、胴体の機動は奪われる。

破損によるショートの中で見たその機体の姿はまるで


「あ……あく……」


イノセの放ったビームにより、残りのモビルスーツを撃破。サタンはもう対抗手段を持ってはいない。


「イノセ、お疲れ。こっちも終わったぞ」


モニターに船内にいるセラの顔が映し出される。


「船内のテロリストたちは?」


「お前の戦闘に夢中でね、その隙に全員捕まえてやったのさ」


余裕そうなセラの顔を見てイノセは笑う。

船内にいたサタンの構成員は戦闘で仲間が蹂躙していく光景に震え、戦意を喪失。その隙にセラは乗り合わせた乗客と銃を奪い、構成員たちを無力化、捕縛していた。


「また無茶して…セラは科学者なのよ。戦闘は専門外でしょ」


「今は科学者でも戦闘ぐらいできなきゃ生き残れないのさ」


その後、サタンのテロリスト達は乗客によって制圧されたとニュースに報じられ、これでサタンの組織は完全に撲滅されたと世間へ知らされた。


ジユニオンの手柄になって。


サタンのコロッサスから回収されたモニターで次々にパーソナルアーマーによって撃破されていく映像。


圧倒的科学力、機動力、制圧力、どれをとってもコロッサスには叶わないものばかりだった。


旧世代の機体、誰も扱えない欠陥品。なんということか戦闘を見ていたヴォルターは己の知識を改める。


「素晴らしい」


ヴォルターは震えていた。恐怖からではない、それは喜び、嬉しさ、興奮、幸福。


「なんと、素晴らしい。あれがパーソナルアーマーの本来の姿、そして性能か……」


コロッサスを一方的に破壊していくその様はまるで戦神のようだった。ヴォルターは一瞬にして心を奪われる。


「是非とも我が部隊に勧誘しよう。」


いまだ宇宙に凛と佇む神聖な姿の機体にヴォルターはゆっくり舵を切った


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