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毎週定例の軍事内局部長会議のあと、自分の執務室へ戻ったダイゴに、アルテュールから長官の呼び出しがあったことを伝えられた。
「用件は何か聞いているか?」
と問うダイゴに、副官は、
「細部は聞いておりませんが、父、いえ長官は悪い話ではないとおっしゃいました」
ならば何だろうと思い、ダイゴは腰を上げた。アウグストが解決できないような難題を部下に押しつける人物ではないことは、わかっている。新たな作戦に関する内々の相談でもするのか、というダイゴの予測は、しかし長官執務室で裏切られた。
「貴公、貴族になれ」
ことなげにアウグストは言い渡した。呆気にとられるダイゴに、
「軍部の序列第二位でも、無位では軽んじる者もいる。特に、全国議会にはな。スフラーフェンハーヘ伯爵家がこのままでは断絶するところだから、貴公が継げ。これはリーセ、いや総督のご配慮でもある」
と続けた。
「伯爵家……でございますか?」
「左様」
共和国に貴族がいるのは本来おかしな話だが、ネイザーラントの貴族は、オラニェ公爵家も含めてすべて神聖帝国皇帝が授爵した者たちである。神聖帝国の支配を離れても、爵位を手放そうとする者はほとんどまったくいなかった。貴族の地位には、それだけの魔力があったのである。
スフラーフェンハーヘ伯爵家は、当主が病弱で、跡継ぎを残さないまま先日死去した。その家名と爵位を継承せよという話だった。総督にも貴族に叙任する権限はないが、断絶する家の家督を譲らせることはできた。
「スフラーフェンハーヘ伯爵家には、大した財産も領地もない。ただ箔が付く。それだけだ。気構える必要はない」
ダイゴは、それならばと、承諾することにした。実際、彼は現在の気楽な独り暮らしがそこそこ気に入っており、「貴族」と聞いて、厄介なものを背負わされるのではないかと、いぶかしんだのである。それが、アウグストに見透かされたらしい。
「承知いたしました、閣下」
「手続きは、第一書記局にいって、書類をやり取りするだけのはずだ。面倒なら、公証人を使うといい。我が家の懇意にしている者を紹介しよう」
ダイゴに正式な爵位継承が認められるには、それから一月ほど時間が必要だった。そしてその直後、全国議会で軍に関する一つの人事案が審議された。
「全国議会は、スフラーフェンハーヘ伯爵ダイゴ・ノダ卿を、共和国軍総司令官代理に任命することに、賛成いたします」
リーセロットの提案により、彼の地位は軍監から共和国軍総司令官代理に昇格することが、全国議会で可決された。
ダイゴは自分の席から起立して、一礼した。




