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約五時間後、戦闘は終結した。約一万のイスハニア軍は、その兵力の約三分の二を失い、生き残りは辛くも包囲を破って脱出した。勝利を確信した段階で、ダイゴは幕僚を伴って最前線に出た。軍規維持という大仕事が残っているからである。後方には憲兵隊が続いていた。
低地諸州同盟軍の軍法は、略奪、放火、強姦などを厳禁している。イスハニア軍では、これは兵士へのある種の報酬として黙認されている行為だったが、軍の規律を著しく乱すものであり、低地軍ではこれを根絶するものとした。
「降伏した者を殺すな!」
と、ダイゴは将兵に対して大声で呼びかけた。
単なる人道主義の産物ではない。傭兵の募集には、大金がかかるのである。捕虜に報酬を示して寝返らせれば、募集にかかる費用を幾ばくかは節約できるのである。ゲルマーニャやフランク出身の傭兵に、金銭以外の欲求はない。金銭さえ与えれば、次の戦いからは味方にできるのだった。
ネイザーラント軍では、平素の訓練の一環として軍法の徹底が行われている。だが、それでも違反する者は根絶できない。イスハニア軍の生き残りから、金銭を奪い取るといった行為は略奪の一種に該当する。この罪によって三人の兵が憲兵隊に検挙された。
従軍法官が呼ばれ、前線で軍事法廷が開廷された。証人となる憲兵、近くにいた他の兵、上官等が証言をおこない、そして即決で死刑判決が下された。被告人三人は、軍が見守る中、その場で銃殺された。最前線における処罰は、一種の見せしめである。ダイゴとしても目の前での銃殺は気が引けるが、残酷でも、こうしなければならなかった。負傷者の手当や後送、死者の埋葬、兵器の回収など、やることは他にも山ほどあった。
細部は幕僚に任せ、アルテュールを連れて戻った本営の天幕のなかで、夜通し戦勝報告を書いたダイゴは、翌朝一番にリーセロットに呈覧した。目を通し終えたリーセロットは、唇を開いて満足げに言った。
「大儀でした、ノダ軍監。全国議会も、これで納得しましょう。卿の働きには、大いに報いることとします」
右ひざを地に付けたダイゴは、精一杯の厳かさで、
「ありがたき幸せにございます。総督閣下」
と申し述べた。
――ああ、褒められた。漏れ、召される……!
損害は、概数にしてイスハニア軍七〇〇〇に対し、ネイザーラント軍八〇〇。鹵獲されたイスハニア軍の兵器は、マスケットだけで五〇〇丁を超えた。かくして、トゥルンハウトの会戦は、ネイザーラント軍の大勝利で幕を降ろしたのである。




