鮮緑の門番3
「……ユズハ!」
空虚な目をしていたファイガも瞳をパチクリとさせ、その姿に思わず叫んだ。
ユズハの背後には、レイとクーラの姿もある。
ユズハに紅蓮の眼光が向けられ、けたたましい咆哮が轟雷のように響く。
ズラリと並んだ無数の刃のような歯が剥き出しとなって見えると、ユズハは棍を回しその先端を向け構える。
「上等ッ!」
巨大な足が動き出すと、ツルハとポッチョはファイガ達の体を支え、急いでその場から退いた。
新たな挑戦者たちの登場に、デュシスドラゴンは息を巻くと、扉に立つ少女達に向かって駆け出した。
「行って!」
ユズハに言われると、レイとクーラは頷き、ファイガ達の元へ駆け出す。
ドラゴンの狙いは、ユズハだった。
そこから離れていくレイ達には一瞥も向けず、象が駆けるように音を鳴らしながら、ユズハ目がけて突進する。
ユズハの青い眼は鋭光を帯びていた。
その瞳は向かって来る竜の双眼をしっかりと捉え、表情は乱れることなく、涼風を受けているように涼しい。
その眼光は、竜の攻撃の始めをしっかりと捉えていた。
竜の口先が思い切り突き出ると同時に、ユズハは思い切りに地を蹴り飛ばすと、大きく宙に跳ぶ。
屠ったという確信がその手応えの無さに冷めるまでの刹那、額からの激痛にドラゴンは悲鳴を上げる。
ユズハの思いっきりに振り下ろした棍が額に命中すると、フサンが石に刻んだ主線から複数の亀裂がビシビシと走る。
ユズハが竜の額から離れると、竜はすぐさまに頭を上げた。
ブンブンッと首を煩わしそうに何度も鞭のように払うと、その勢いに外れた鉄兜が、炎の壁に叩きつけられ大きな鉄塊と化す。
竜の恐ろしい形相が露わになり、ユズハに向かって空気の振動さえ見えそうな雄叫びを浴びせるも、ユズハは一切取り乱すことはなかった。
棍先を再び竜の顔に向けると、次の出方を伺う。
竜が上半身を思い切りにユズハ目がけて叩きつけると、ユズハは横に跳ぶ。
その跳躍を逃さないように、竜は尾をすぐさまに振り払う。
その攻撃までもユズハは読んでいたようだった。
着地と同時に尾が鞭のように振りあがるのが見えると、ユズハは棍を地面につけ、それを軸に思い切りに宙へ跳ぶ。
軸となっていた棍先が地面を離れると、ユズハと地面の間を巨大な縄のような尾が迅速で駆ける。
ユズハの体は、攻撃後に無防備になった竜の背の真上にあった。
竜の背中に着地すると、その目は赤紫に輝く光に向けられる。
≪グギャアアアアアオ!!≫
「きゃッ!」
双角の間まで迫った時、竜が大きく縦に首を振るい上げると、その勢いにユズハは弾かれたように地面に飛ばされる。
「ユズハちゃん!」
「ゴメン、あともう一息だったのに」
体を起こしながらユズハが言うと、駆け寄ったツルハ達は首を横に振った。
「お蔭で助かりました。レイさん達の回復魔法があともう少し遅ければ、僕はどうなっていたことか」
レイとクーラはツルハ達のもとに駆け付けた時、すぐにファイガとフサンに回復魔法をかけた。
流石は魔法の医術師を目指しているレイだ。精神治癒系の魔法を唯一習得できた彼女の魔法は、動揺していたファイガとフサンをすぐに立ち直らせた。
魔力消耗の激しい中級呪文を使ったレイの魔力を温存するため、続いてクーラはツルハ達全員に回復魔法を唱えた。
初級の魔法だが、疲労と全身の痛みは感じられない程に体は楽になった。
「ありがとうな、レイ、クーラ、ユズハ」
「礼には及ばないわよ」
ファイガが最後にユズハに言うと、ユズハは微笑んで返した。
束の間の穏やかな空気は、竜の声に緊迫に染まった。
ツルハ達は見上げると、竜は瞳をギラギラとさせながら、こちらに向かって何度も吼える。
全員の瞳が見開いたのは、ドラゴンの背中の異変に気が付いた瞬間だった。
見る見るうちに、樹木のような肉塊が盛り上がり、左右にその骨格を広げるとその幅広い間に、赤みがかった橙色の薄皮が広がっていく。
「まさかこいつ――」
ファイガが言うと、水晶越しのアルフィーとツァイも眼を開き、同時に呟いた。
「――飛ぶのか?」




