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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
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鮮緑の門番3

「……ユズハ!」

 空虚な目をしていたファイガも瞳をパチクリとさせ、その姿に思わず叫んだ。


 ユズハの背後には、レイとクーラの姿もある。


 ユズハに紅蓮の眼光が向けられ、けたたましい咆哮が轟雷のように響く。

 ズラリと並んだ無数の刃のような歯が剥き出しとなって見えると、ユズハは棍を回しその先端を向け構える。


「上等ッ!」


 巨大な足が動き出すと、ツルハとポッチョはファイガ達の体を支え、急いでその場から退いた。

 新たな挑戦者たちの登場に、デュシスドラゴンは息を巻くと、扉に立つ少女達に向かって駆け出した。


「行って!」


 ユズハに言われると、レイとクーラは頷き、ファイガ達の元へ駆け出す。


 ドラゴンの狙いは、ユズハだった。


 そこから離れていくレイ達には一瞥も向けず、象が駆けるように音を鳴らしながら、ユズハ目がけて突進する。

 ユズハの青い眼は鋭光を帯びていた。

 その瞳は向かって来る竜の双眼をしっかりと捉え、表情は乱れることなく、涼風を受けているように涼しい。

 その眼光は、竜の攻撃の始めをしっかりと捉えていた。

 竜の口先が思い切り突き出ると同時に、ユズハは思い切りに地を蹴り飛ばすと、大きく宙に跳ぶ。

 屠ったという確信がその手応えの無さに冷めるまでの刹那、額からの激痛にドラゴンは悲鳴を上げる。

 ユズハの思いっきりに振り下ろした棍が額に命中すると、フサンが石に刻んだ主線から複数の亀裂がビシビシと走る。


 ユズハが竜の額から離れると、竜はすぐさまに頭を上げた。

 ブンブンッと首を煩わしそうに何度も鞭のように払うと、その勢いに外れた鉄兜が、炎の壁に叩きつけられ大きな鉄塊と化す。

 竜の恐ろしい形相が露わになり、ユズハに向かって空気の振動さえ見えそうな雄叫びを浴びせるも、ユズハは一切取り乱すことはなかった。


 棍先を再び竜の顔に向けると、次の出方を伺う。


 竜が上半身を思い切りにユズハ目がけて叩きつけると、ユズハは横に跳ぶ。


 その跳躍を逃さないように、竜は尾をすぐさまに振り払う。

 その攻撃までもユズハは読んでいたようだった。

 着地と同時に尾が鞭のように振りあがるのが見えると、ユズハは棍を地面につけ、それを軸に思い切りに宙へ跳ぶ。

 軸となっていた棍先が地面を離れると、ユズハと地面の間を巨大な縄のような尾が迅速で駆ける。

 ユズハの体は、攻撃後に無防備になった竜の背の真上にあった。

 竜の背中に着地すると、その目は赤紫に輝く光に向けられる。


≪グギャアアアアアオ!!≫


「きゃッ!」


 双角の間まで迫った時、竜が大きく縦に首を振るい上げると、その勢いにユズハは弾かれたように地面に飛ばされる。


「ユズハちゃん!」


「ゴメン、あともう一息だったのに」

 体を起こしながらユズハが言うと、駆け寄ったツルハ達は首を横に振った。


「お蔭で助かりました。レイさん達の回復魔法があともう少し遅ければ、僕はどうなっていたことか」


 レイとクーラはツルハ達のもとに駆け付けた時、すぐにファイガとフサンに回復魔法をかけた。

 流石は魔法の医術師を目指しているレイだ。精神治癒系の魔法を唯一習得できた彼女の魔法は、動揺していたファイガとフサンをすぐに立ち直らせた。

 魔力消耗の激しい中級呪文を使ったレイの魔力を温存するため、続いてクーラはツルハ達全員に回復魔法を唱えた。

 初級の魔法だが、疲労と全身の痛みは感じられない程に体は楽になった。


「ありがとうな、レイ、クーラ、ユズハ」

「礼には及ばないわよ」

 ファイガが最後にユズハに言うと、ユズハは微笑んで返した。


 束の間の穏やかな空気は、竜の声に緊迫に染まった。

 ツルハ達は見上げると、竜は瞳をギラギラとさせながら、こちらに向かって何度も吼える。


 全員の瞳が見開いたのは、ドラゴンの背中の異変に気が付いた瞬間(とき)だった。

 見る見るうちに、樹木のような肉塊が盛り上がり、左右にその骨格を広げるとその幅広い間に、赤みがかった橙色の薄皮が広がっていく。


「まさかこいつ――」


 ファイガが言うと、水晶越しのアルフィーとツァイも眼を開き、同時に呟いた。


「――飛ぶのか?」

 

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