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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
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眼光の剣1

 ツァイから声をかけられたのは、突然だった。

 武術講義を終え、ツルハが体技場を後にしようとすると、ツァイはツルハに駆け寄り、

「夕食後はすぐに床に就け。丑の初刻にここに来い」

 と、それだけを告げた。


 その言葉の意味は、すぐに分かった。

 自主鍛錬で体力を皆が身に付け、中型人形(リトル・ゴーレム)との練習試合がその日課の一つになり始めると、ツァイから声をかけられたという生徒の話を、ちらほらと聞くようになった。

 聞けばどうやら、全員が眠りについた深夜、貸し切り状態になった体技場で1対1の指導を行っている様子だった。

 これまで武術に関わってこなかった生徒たちから優先的に呼び出しているようで、自分もそろそろ来る頃だろうと心待ちにしていたものの、その声がかかったのはファイガとユズハの指導が終わった後のことだった。

 ツルハはツァイに言われた通り、早めに仮眠をとると、誰もが眠りについた夜遅くに目を覚まし、支度をして体技場へと向かった。

 

 体技場は互いの姿がしっかりと見えるほどに、明るかった。

 手に携えた照明をツルハは下げ、天井を見上げると、その光源に驚いたように目をパチクリとさせた。

 水晶玉のような透明な球体が光を発しながら、ゆらゆらとその宙を漂い、体技場の中央からその周辺を明るく照らしていた。


「おっ、来たか」


 その光の中心でツァイはツルハに気が付くと、手に持っていた木製剣を投げ渡した。

 ツルハが慌ててそれを受け取ると、ツァイは、「何やってんだ。さっさとこっちに来い」とツルハを急かした。


 ツルハが木製剣を持ち、広場の中央に歩み寄ると、ツァイはツルハから距離を置いた。


「ユズハとファイガにも言ったんだが、お前達には何としても中型人形(リトル・ゴーレム)から1本を取ってもらいたい。

 お前達は恐らく、この先、他の誰よりも何者かと戦う機会が多くあることだろう。

 他の連中に関しては最低限自分の身を守ることができれば十分だ。下手に相手を討とうとする必要はない。

 だが、お前達は別だ。特に、馬の尾(おまえ)に関してはな」


 ツァイは、いつになく険しい表情をしていた。

 その表情はまるで、闘技場で初めて剣を交えた時のような、そんな顔だった。


中型人形(あいつ)から一本を取るには、その隙を狙おうと、その場その場の判断で攻めるだけだと無理だ。

 剣士がその剣を構える時、その戦いを制するのは常に相手より有利に立った者だけだ。

 相手より有利に立つ為には、相手の動き、繰り出す剣技、その思考、狙い――それを掴む他ならない。お前はすでにそれに必要な最低限の体力、敏捷性、精神力は備わっている。

 残るお前に必要なもの、それは、相手の動きを読み取る力だ」


「相手の動きを読む……?」


 ツルハが訊くと、ツァイは頷いた。


「そうだ。相手が繰り出す剣技はその手や足の動きに表れる。そして、その手や足を動かす思考は、どこに表れると思う?


 "()"だ。


 目は口ほどに物を言う、って言葉があるが、その文字通りでな。その思考は瞳に必ず表れる。精神を乱す特殊な状況下では特にそうだ。


 だから、お前と初めて()り合ったあの時、俺はお前に負けたんだ。

 闘技場でのあの試合中、俺はお前の瞳を見続けていた。一瞬も逸らしたことはない。瞳を相手から背けることは、武人にとって、死を意味する。

 お前の瞳を見続けていたからこそ、俺はお前の強い瞳を捉え、そして、それに敗れたんだ。

 ――構えろ」


 ツァイの言葉に自然に体が動いた。


「受け身のやり方については講義で教えた通りだ。今から2時間ぶっ続けで俺から一本取りに来い。

 そして何があっても俺から目を逸らすな」


 ツァイの静かな声は電撃のようだった。

 ツァイが両手で構え、その木製剣の先を向けると、ツルハは息を呑み、同じように構えた。


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