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陰りの姫のツルハ -太陽の陰に生まれた勇者-  作者: 望月 優響
第四章 クグノアーツ学院
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それぞれの講義2

 ツァイが手を2回叩くと、ツルハ達は体技場の床を踏む音に気付き、その方向に一斉に振り向いた。

 大人より少し高い背丈の、厚い皮製の鎧で全身を覆った人影が、その重そうな足音を鳴らしながらゆっくりと歩いて来ると、ツァイの隣で立ち止まった。


中型土人形(リトル・ゴーレム)?」


 ファイガが言うと、ツァイは「ああ」と首肯する。

 ツルハはまじまじと、ツァイの横に立ったその土人形を見つめた。

 確かにどこか人間ではない雰囲気があったが、その肌は鎧や布で隠され、頭部も皮兜で覆われており、パッと見は人と間違えるほど精巧な作りだった。

 しかし、その視線は土人形の胸元に集まった。

 何か液体の入った風船のような物がベルトのような物でしっかりと固定され、同じ物が背中にも取り付けられていた。


「俺の講義の合否は至って単純だ。

 才の試練当日までに、俺の隣にいる、こいつとの勝負で一本を取ることができれば合格だ。

 お前達には、こいつと同じように、胸と背中に風船のついた皮鎧を付けてもらう。3分間こいつと1本勝負をしてもらい、風船の割り合いをしてもらうってわけだ。

 こいつの風船を1個でも割ればお前らの勝ち、3分間割られずの逃げ切りも及第点とする。ただし、自分の風船がこいつに割れればアウトだ。

 まあ、実際に見てもらったほうが早いか。ユズハ」


「え、私?」


 ツァイに声をかけらると、ユズハは自分に指を差して不機嫌そうな顔を浮かべた。


「早くしろ」


 ユズハが渋々前に出ると、ツァイは予め用意してあった木製の棍1本取り、ユズハに渡した。


「使って良い得物はそいつと、お前の体だ。顔面攻撃と魔法は禁止」


 ツァイが言うと、ユズハは、


「上等じゃない」


「おいおい。大丈夫なのか、ユズハ?」

 ファイガが揶揄(からか)うように言った後、ツルハも心配そうに声をかけると、ユズハは自信にあふれた笑みを返した。


「ツルハちゃん、心配しないで。これでも世界一の武闘家を目指して故郷(くに)を出て来た身なんだから。少なくとも、そこの()()()()()よりもずっと強いんだから」


「なんだと!」


 ファイガの声に耳も傾けず、土人形の前に立ち、ユズハが棍を構えると、ユズハと土人形の勝負に体技場は興奮したざわめきに包まれた。

 声援に送られる中、ユズハは棍を両手で持ち、その先端を向けると、土人形も同じように構える。

 声援が静まり、静寂に包まれると、ツァイは息を吸った。


「始め!」


 ツァイの合図と共に、土人形が先に駆け出すと、ユズハは呼吸を整え構える。

 土人形の最初の2連撃をユズハがしっかりと防ぎ流すと、ファイガ達から感心の声が漏れた。

 武闘家を目指しているという言葉に劣れのない軽やかな動き。

 土人形の振り下ろしに、反撃(カウンター)を繰り出すと、また大きな歓声があがった。

 そこからユズハは、鮮やかな棍の、短い攻撃を放つも、土人形もそれに負けず見事な防御を見せた。

 土人形がその隙をついたように、棍をユズハの胸元の風船目がけて突き出すと、ユズハの姿が土人形の目の前から消える。

 その光景にツルハも思わず口を開いた。

 ユズハの姿は、床に先端をつけた、棍の頂上にあった。

 綺麗な直線上になった棍を軸に、ユズハは土人形の突きを交わすと共にその勢いのまま、その背後を取る。


「もらったあああ!!」


 ユズハの威勢の良い声と共に、その攻撃が繰り出される瞬間、誰もがユズハの勝利を確信した。


 バチュンッ!


 割れた風船から勢いよく水が弾き出ると、ユズハは硬直した。

 それまでの熱気と興奮が、浴びせられた水と共に一気に冷めていくと、ユズハに戸惑いの表情だけが残った。

 何が起こったのか。

 ツルハ達も同じ顔を浮かべる。

 ユズハは、自分の胸元を見ると、ようやくその状況を理解した。

 土人形の後ろ蹴りが見事に、自身の風船のあった場所にその先端をつけている。


 恐らく土人形の強さは、並大抵の武人の程だろう。いや、もしかすればそれよりも少し上くらいかもしれない。

 だが、これまで武闘家を目指して鍛錬を積んで来た自分だ。ましてや魔法を学ぶ学院の講義。

 そこまで強い相手ではないだろう。


 土人形に抱いていたそんな思いが崩される、芸術的な一撃に、ユズハの空になった心に沸々とした怒りのような感情がこみ上げて来た。


「はあッ!? 何よ、この土にんぎょ――」


 その言葉を遮ったのは、鼻についてきた激臭だった。

 ユズハは思わず鼻を塞ぐと、ファイガ達も漂って来たその臭いに思わず鼻を塞いだ。


「臭っ!! 何よこの液体!?」


 ユズハがツァイに振り向くと、ツァイはニヤリと笑った。


「そいつは、ダーティスライムの体液だ。なあに、心配は要らないさ。

 人害があるどころか、薬にも使われている、疲労回復、治癒効果もある優れものだ。ただし、糞みたいな臭いがするけどな」


「ひィィィィィィ!! アタシ、体洗って来る!!」


 ユズハが棍を投げ出して一目散に体技場から出て行くと、ツァイはツルハ達に向き直って言った。


「こんな感じだ。

 もう少しやってみるか。どいつか、我こそは、って言う、意気の良い奴はいるか?」


 ツァイが言うと、ファイガがその手をあげた。


「オレは将来凄腕の戦士になる男だ。ユズハみたいなヘマはしねェ!」


 ファイガは、ツルハの属する級の中でユズハと並ぶ体力の持ち主だ。

 ユズハが敗れた今、彼女との差に決定打を打つ絶好の機会に、ファイガは胸を高鳴らせた。


 しかしその数分後、ファイガはユズハの二の舞を踏んだ。

 棍を使わず、体技のみで挑む姿勢にツァイも感心をしていたが、その結果は散々なものだった。

 ファイガの後、その次、その次と、結局は全員が土人形と初試合を行い、全員が激臭まみれになった。


「よし、今日の講義はここまでだ。

 恐らく知っていると思うが、この講義は才の試練を受けるにあたり、必須の講義になっている。

 この体技場は24時間、お前らの貸し切りだ。朝昼晩、好きな時間に練習に来ると良い」


「ちょっと! 何も教えないつもり!?」

 ユズハが声を上げると、ツァイは煩わしそうに言った。


「教えるも何も、その土台にすら、お前らは上がれてねェんだ。

 今この土人形と戦ってみて分かっただろうが、一人一人が自分の弱さを痛感したはずだ。ユズハ(おまえ)みたいにある程度もった奴もいれば、1秒足らずで終わった奴もいる。

 何が足りなくて、こいつに勝つために何が必要なのか、自分たちでよく考えてみろ。そうすれば、必ず全員がこいつを越えられる一歩を踏み出すことができる」


 ツァイはそうして体技場の出口に向き数歩踏み出すと、何かを思い出したように振り返り、


「あと宿題だ。"諦めるな"、以上」





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