4人の交点2
ツルハとアルフィーの口が再び閉じると、ユズハは腕をギュっと組み、うーんと唸った。
「世界を滅ぼす闇と、太陽の如き勇者かあ……」
沈黙の後、ユズハがその一言だけを呟くと、ツルハは気弱そうに首を傾げて訊いた。
「信じてもらえるかな……?」
「確かに、国を出てから色んなところで、グラディワンドに勇者がいるって話は、何度か耳にしていたわ。
噂では、文字通り、太陽みたいな勇者だって聞いていたんだけど、まさかそれはツルハちゃんのお姉さんで、本当の勇者はツルハちゃんだっただなんて……
……滅茶苦茶凄いことじゃない!!」
ユズハの声にアルフィー達は思わず肩を震わせた。
ツルハはその両手をユズハに握られると、ユズハはキラキラとした眼差しでツルハに言い寄った。
「だって、ツルハちゃんが勇者なんだよ!
友達が、あのグラディワンドのお姫様だっただけじゃなくて、世界を護る使命を負った勇者だなんて!
はあ、こんなことって本当にあるんだあ」
ユズハは胸を躍らせ、夢心地な声を漏らした。
あまりの展開に、ツルハが言葉を失っていると、虚から正気に戻ったツァイが声を上げた。
「ば、バカッ!
遊びじゃねェんだぞ! 人の話なに聞いてやがったんだ!」
「そんなこと分かってるわよ。
礼儀正しさとか大人っぽさから見て、どこかの貴族か王族なんだろうなあ、とは思っていたけど、まさか強国グラディワンドのお姫様で勇者様とは思っていなかったからさ。つい興奮しちゃって」
ユズハが頭を撫でながら言うと、ツァイは呆れたようにため息をついた。
「けど、お姫様とか勇者とか、そんなのは抜きにして、良かったら私も力にさせてくれないかな」
ユズハの突然の提案に、ツルハの口から、抜けた一言が零れた。
何度も瞬きをするツルハに、ユズハは微笑んで付け加えた。
「どっちにしても、私の夢なんかより、リエンちゃんを助けることのほうが大切だし、ツァイがツルハちゃん達と旅をしているのも、多分そういう理由だろうからね。
ツァイと2人旅で色々振り回されるより、リエンちゃんの行方を追いながら、ツルハちゃん達の手助けをした方が、よっぽど良いじゃない?
それに、ツルハちゃんもリエンちゃんと同じくらい、私の大事なホウユウなんだから」
「ホウユウ?」
ツルハが首を傾げて言葉を繰り返すと、ユズハはハッと口元に手を当てた。
「朋友は、オレ達の国の言葉で、"大切な仲間"って意味だ」
ユズハが苦笑すると、ツルハは握られていた手を解くと、その上からユズハの両手を握った。
「ありがとう、ユズハちゃん。
ユズハちゃんがこれからも一緒にいてくれると、私も心強いよ!
ユズハちゃんは私にとっても大事な朋友だよ」
親し気な挨拶のように、ツルハがその言葉を言うと、ユズハは込み上げて来た嬉しさのあまり、燥ぎ声をあげてツルハに抱き着いた。
「馬の尾が良しでも、お前としてはどうなんだ?」
ツァイがアルフィーに訊くと、アルフィーは、もちろん、という顔で、
「私は構いませんよ。それに、私としても、姫様にご友人ができたことは何より喜ばしいことですからね」
「けど、まさかアルとツァイが学院にあんな形で入ってくるとは思わなかったよ」
「本当。よくあの学院長が認めたものよね……」
「そのことなのですが……」
ツルハ達が次々に言うと、アルフィーは声調を変えて話し出した。
「鬼王君には既にお話させて頂きましたが、まずどこから話して良いものやら。ユズハさんは少々驚かれることが多々あると思いますが、落ち着いて聞いて下さい」
アルフィーが言うと、のぞむところ、というように頷いた。
「最初に学院長と私のことについてお話ししましょう。
今この学院の長を務めているルベルと私は、私がグラディワンド国の賢者になるよりも以前、あのアスピスよりも前からの仲になります。
アスピスについては、ユズハさんにも追々紹介しましょう。
肝心なことは、ルベルが例の少女と何らかの関わりがある可能性が高いと分かったことなのです」
アルフィーが言うと、今度はツァイが声を上げた。
「それは本当なのか!?」
「例の少女って?」
直後にユズハが訊ねると、アルフィーは丁寧な口調で言った。
「この頃、世界各地で目撃されている、合成魔物のことはご存知ですか?」
「合成魔物?」
「普通じゃあり得ないような知性のある魔物達のことだ。達人級の剣技を使うオーガとか、馬の化物とか、そういう奴らだ」
「その他にも、様々な合成魔物が世界の至る所で報告がされています。
現代の魔法では、合成魔物の生成法はあるものの、それは、同じ種や同じ系統のもの同士の合成、あるいはそれに近しい属性を持った魔物同士に限られます。
ですが、報告された合成魔物たちは、その常識を覆す合成がなされていたのです。
あるものは上位種と下位種、またあるものは完全なる異系統同士のもの。そして何より恐ろしいことは、それらの合成魔物達は、私たちの想像をはるかに超える知能を持ち合わせていることです。
その合成魔物が世に蔓延ることになれば、破滅的な結果を招くことになるでしょう。
私たちは旅する中で、その元凶を何とか掴もうと、その手がかりを追って、この国まで来ました」
アルフィーが言うと、再びツァイが話のバトンを受け取った。
「その手がかりってのが、金髪の女――全身真っ黒の気味の悪い野郎だ」
「じゃあその女が、この学院にいるってことなの!?」
ユズハが訊くと、アルフィーは深く頷いた。
その仕草を見ると、ツルハとツァイも目を丸くした。
「セバが残した学院のペンダント、あれが今回のカギとなりました」
「ペンダント? それって、これのこと?」
ユズハが、そのペンダントを取り出し見せると、アルフィーは頷いた。
「これは学院に在籍する生徒全てに渡されるものです。
ですが、セバはこの学院の生徒ではありませんでした。そうなれば、あの現場にそれを残して行った者は、セバを殺めた者――あの少女の物の可能性が高いということになります」
「じゃあ、そのペンダントを今持っていない人が……」
ツルハが不安そうに声を漏らすと、アルフィーは首を縦に振った。
「姫様の言う通りです。やろうと思えば、彼女が一体どの生徒であるのか割り出すことはできます。
ですが……、今は下手に動かないほうが良いでしょう」
「どうしてだ? そいつだって分かったら、とっとと捕まえて、洗いざらい吐いてもらった方が早いじゃねェか」
「ルベルは、あの少女のことを知っていました。そして、その裏にいる何かについても。
鬼王君の気持ちは分かります。
ですが、向こう側も、自身の正体が知られてしまうことは、今頃理解しているはずです。もし奴がこの学院で私たちの抹殺を考えているのであれば、すでに行動を起こしていることでしょう。
ですが奴は、姫が私たちと別れ、一人となった期間、姫を殺すどころか、姫に危害を加える様子すら見せませんでした。
奴には、ケンタウロス達の気配に完全に溶け込むほどの擬態能力があります。あれほどの能力があれば、学院の生徒や教師陣に化け、姫に近づくことはできたはずです。
しかし、奴はそれをしませんでした」
「確かにそうだな。どこかの過保護賢者様が馬の尾に忍ばせて置いた、"守りの石"も結局使わず仕舞いだったもんな」
ツァイが言うと、ツルハは懐から、学院生活が始まる前にアルフィーに渡された青い色の石を取り出した。
「そういえばこの石、アルに言われるまま渡されたんだけど、これって一体どんな石だったの?」
「その石は、持ち主の命に危険が迫ると、指定した場所へ自動的に瞬間移動する魔法石の一種です。
もし姫様の御命を危険に曝す者がいれば、姫の命が脅かされる前に、私のもとに瞬間移動するように設定してあります。
1度きりしか使用できないのが、この石の欠点なのですが、学院で姫と共に過ごす最もな理由ができるまでの間、この石に致し方なく頼ることにしたのです」
「確かにこの学院は、生徒と教師以外は特別な理由がない限り長期間いることができないもんね」
ユズハが納得して言うと、アルフィーも相槌を打った。
「で、これから俺達はどうすれば良いんだ?
アルフィーの言う通り、奴が何を企んでいるか分からない以上、下手に動くのは止した方が良さそうだが」
ツァイが言うと、アルフィーは答えた。
「取り敢えず、今は様子を伺うことに徹しましょう。受け身に徹することは、少々気分が悪いですが、今はそれが最善の道です」
「そうだな。異論なしだ」
ツァイが同意すると、ツルハとユズハもコクリとアルフィーに頷いた。
「しかし、せっかくクグノアーツ学院に来たのです。
敵がいる以上これは危機ですが、ある意味では好機なのかもしれません。
ここは是非とも、姫様とユズハさんには、しっかりと魔法を身に付けて頂きましょう」




