夜を駆ける悪魔5
黒と茶の影が、残像の尾を引きながら、一気に迫ると、アルフィーとツァイは咄嗟に構えた。
「うあっ!」
アルフィーの眼前が朱色の炎を上げ、一瞬光を放つと、間一髪で黒馬の剣を防いだツァイが叫ぶ。
「アル!」
アルフィーが一歩跳んで着地したのが見えると、ツァイはすぐに黒馬の剣の光に視線を戻す。
なんという速度だ。
防御として放った炎は、最も発動速度の速い魔法だった。
発動直後の炎に茶毛の馬の剣が触れたということは――
バンッ、バンッ! と、小さな花火のように光を放ちながら後退するアルフィーの姿には、間合いを詰めるロッソの姿が着いて来た。
無詠唱の最速呪文でギリギリの攻防。
素の脚力が高いとはいえ、肉体強化でここまでその速度を上げられるものなのか――?
ツァイは、黒馬の横に振った刃を、屈んで避けると、すぐ様にその死角である後方へ向かう。
ツァイは、その一撃に目を丸めた。
まるで後方までしっかりと捉えているような、そんな斬撃に、ツァイはシュヴァルツから距離を置く。
「鬼王君! こいつらに後方からの奇襲は通じない!
馬のように側面に目がある動物は、後方までの視野が広いんだ!」
アルフィーの声に、ツァイはシュヴァルツに舌を打った。
「どうりで、綺麗な攻撃ができた訳だ」
苦戦を強いられる2人の様子を見ながら、セバは愉悦の声で加えた。
「それだけではない。彼らは夜目もよく効けば、動体視力も優れたものだ。
肉体強化のこともあって、恐らく君たちの攻撃は、彼らには私達に見えているよりも遥かに遅く見えていることだろう。
脚力もそのまま活かし、尚且つ知性も獲得しているとあれば、これ以上強力なものはいない!
奇跡でも起こらなければ、君たちに勝ち目はないということだ」
かつてない強力な敵に唇を噛む2人に、ツルハは胸元をギュッと握った。
嫌な汗に、心臓の鼓動が激しく脈を打っている。
(このままじゃ、このままじゃ2人が……)
ふと目に入った伝説の剣に、ツルハはハッとした。
(……ウォルンタスの剣)
あの勇者の力が使えれば、2人を助けられるかもしれない。だけど――
一瞬不安がよぎった。
これまで、勇者の力を使った時に度々起きた、失神。
アルは何ともないように振る舞っていたけれど、アルの様子の変化はすぐに分かる。
あれはきっと、私の命を脅かすものなのだろう。
ツルハは戦うアルフィーとツァイに目を向けた。
だけど――
私は、アルを、皆を護れるなら、厭わない――!
セバはその異変に気が付くと、ふとその光に視線を向けた。
「な、なんだ……!?」
太陽のような光と共に、鞘からその剣が引き抜かれると、少女の瞳も同じ色に染まり、その鋭い視線を魔物達に向けた。
ツルハは確信していた。
今であれば、ウォルンタスの剣は、自分に力を貸してくれることを。
誰かを護りたい。そう強く思った時、この剣は大きな力を貸してくれるのだ!
2体の魔物達も、今まで戦っていた敵から、その闘志を少女に向き替えた。
シュヴァルツ達は感じ取っていた。
突然現れた、強力な力に、それを早く潰せという本能を。
「くっ! ロッソ、シュヴァルツ!
まずはあいつからだ! あの少女から片付けなさい!」
セバの声に、ロッソとシュヴァルツはブルルッと唇を震わせると、淡い光を放つ剣を持つ少女に剣を構えた。
ツルハもそれに応えるように、剣の先を向け構えると、緊迫の静寂が草原に落ちた。




