198話「成果と変化_01」
三十人の子供をシロちゃんに会わせて、即座に魔法の才を発現させた子供が、うち六人。魔法を発現しないまでも、魔力を喰われた際に「自分の魔力が喰われた」という自覚があった子が三人いて、そのうち二人が三度目の『食事』で魔法の才を見せた。
で、残った一人については魔法の才能というより、魔力を使う才能があったっぽいので、ティアント領都の『警備隊』の下働きに出すことになった。似たような傾向の子供がさらに三名ほど現れたので、同様にした。
たぶんゾンダ・パウガが鍛えてくれるだろうし、気まぐれでラプス・クルーガも訓練に加わるかも知れない。ラプスはあてにならないが、一緒にいるロメオは子供にものを教えるのが不得意でもなさそうなので、そちらに期待。
〈このようにして子供の才能を見つけるのは、かなり特殊なことのように思いますが、人族にとっては当然なのですか?〉
子供の魔力を喰って満足、というよりはたくさんの子供とお喋りをしたのが嬉しかったのか、シロちゃんは実験期間中、とても機嫌がよかった。
ちなみに子供たちの方は当然だが反応が様々で、さして魔力の才を感じさせなかった子供でもシロちゃんとお喋りするのが好きな子がいたり、魔力が喰われる感覚がひどく気持ち悪いと訴える子がいたり――この子はすぐに魔法を使えるようになった――あるいは、最初はシロちゃんの見た目を気味悪がっていたが話をして仲良くなった子もいた。まあ、いろいろだ。それでいい。
で、八人の魔法使い候補の子供たちは、砦の孤児院にて妖狐セレナの手ほどきを受けることになった。
この件に関してそこそこあてにしていたカルローザは、理論派に見せた感覚派で、彼女の理屈は彼女自身を納得させるためのものでしかなく、ぶっちゃけた話、カルローザは教師にまったく向いていなかった。
「あた、あた、あたし、たくさんの人に教えるの、無理かもです……えへへ」
かもというか、普通に無理だった。
カルローザ自身が意外と感覚派だったのもそうだし、彼女は子供にナメられるかわりに親しまれるという性質があり、そこのところも教師には向いていなかった。カルローザは教師ではなく、友達に向いていたのだ。
というわけで、見た目がちょっと近寄り難い妖艶な美女である妖狐セレナが手を挙げてくれた。子供たちをシロちゃんのところに運搬して『実験』を繰り返していたところ、セレナが顔を出して興味を持ったわけだ。
「今の我は暇じゃしの。お主の戯れにつき合うのもやぶさかではない」
なんて言って、子供たちからちょっと怖がられつつも面倒見のよさを発揮した妖狐セレナは、教師役にはぴったりだった。
なにより、ナメられないのがいい。そういう意味では、多数の面倒を見るにはちょっと距離感があった方がいいのかも知れない。
まあ、セレナが使うのは妖術であって人族の魔術や魔法とは体系が違うようではあるのだが、ギレット姉弟に言わせれば魔法も魔術も魔導も妖術も同じようなものだし、魔術式を介さず魔力を変換する凄腕の剣士やなんかの方が変なのだとか。
ただ、これは魔術師であるギレット姉弟の意見なので、基準が魔術師に拠っている可能性はかなり高い。
かくして実験は終了――と言いたいところだったが、子供たちにとってはシロちゃんとの触れ合いツアーが結構人気みたいだったのと、開拓地で働いているコボルトと仲良くなった子がいたりして、希望者をちょくちょく開拓地に連れて行くことになった。
レクリエーションとしては悪くないし、引き続きシロちゃんによる『食事』を行うことで魔法の才を発現させる可能性もある。そんなもんを発現させなくても、私としては別に構いやしないのだが。
ともあれ、そんなわけで開拓地はちょっと賑やかになった。
中にはコボルトの作業に興味を持つ子供もいたりして、そういう子のために孤児院へコボルトを派遣してもいいかも知れないし、むしろコボルトの手元として子供を派遣するのもいいかも知れない。まあ、望む者がいれば考えよう。
ひとまず子供たちに関しては、私の手を離れた。
……いや、別に最初から手を掴んでいたわけではないのだが、あとは放って置いてもプロジェクトが回る状態になった、というべきか。
となると、クラリス・辣腕・グローリアは、次のプロジェクトに取りかかることになる。次の、というか同時並行で進めていたのだが。
シロちゃんが生み出す、絹糸だ。
◇◇◇
二年前、砦を造るにあたってグロリアスの連中にコンクリートの造り方を教えたことがある。基本的にはものを燃やした後の灰をベースに、あれこれ混ぜて水で練って硬化させるわけだが、ここでグロリアスの職人連中が『試作』という概念に気づいた。とにかくあれこれやってみることの有用さに。
おそらく、獣人の領域で自分たちだけで暮らしていた頃は、あれこれ試してみるという発想がそもそもなかったのだろう。毎日コンビニか外食かというおっさんが自炊しようとしないみたいに、端的に言えばそんな余裕がなかったのだ。
獣人たちは日々の暮らしに向き合っていたが、自分たちの未来についてはあまり想像していなかったように思う。でなければレクス・アスカが特別ということにはならない。数多い獣人の中で、ほとんど唯一、あの低身長童顔巨乳お姉さん女豹だけが、種としての獣人の未来を考えていた。
だって、これまでと同じことを続けていれば生きていられるのなら、変化をする理由がない。そしてその変化というやつは外部から襲いかかってくることもあると知らなければ、変わらない日々が続くことを人は盲信してしまうものだ。
もちろん、変わらない日々など存在しない。
そもそもが『生きている』ということ自体、変化の連続なのだ。世間、社会、世界というものは変化の連続に見舞われる者たちで構成されている。であれば、いずれ、何処かで、間違いなく変化がやってくる。
それは冬のある時機に訪れる寒波のようなものかも知れないし、季節の変わり目にやってくる渡り鳥のようなものかも知れない。あるいは落雷によって起きてしまう山火事のように襲い来るかも知れないし、退屈な日常の中でパスタを茹でていたら唐突に鳴り出す電話のようなものかも知れない。
かも知れない、かも知れない、かも知れない……だが、いずれ、必ず、訪れるのだ。それが嫌なら自分で波をつくって乗るしかない。
その意味で、コボルトたちは勤勉だった。
というより、ポロ族やシャマル族のコボルトたちは、本質的にあれこれ試すのが好きみたいだった。かつては木工の範疇だけであれこれ試していたのが、グロリアスにおいては手を出していい範囲が広がったせいか、コボルトたちは本当に楽しそうにあれやこれや、それもこれも、試しては失敗して、失敗しては成功を生み出していた。なにかを生み出しては嬉しそうに尻尾を振って「クラリス様!」と報告してくるコボルトたちのことが、私は大好きだ。
「クラリス様! 見てください、これ、凄いですよ!」
と、今回もイオタは嬉しそうに楽しそうに、開発した絹糸を見せてくれた。そしてその絹糸を編んで作られた絹生地も。
「シロちゃんの『魔力を食べる』っていう性質から予想できたことではあるんですけど、この生地自体に魔力が備わってるんです。いうなら魔鉄筋みたいな感じで、糸にしたときからそうだったんですけど、とにかく丈夫ですし、全然汚れないんです。表面が汚れても、内側まで汚れないっていうか、凄いんですよ、これ!」
ぶんぶんと尻尾を振って、ハイテンションに報告してくれるイオタ。
彼らの作業場にはイオタ以外にも十名くらいのコボルトがいて、何故か作業場の端ではシロちゃんに魔力を喰われたカルローザが転がっていたが、ひとまず面白魔人種については流しておく。
「なるほどな。予想はしていたが、もしかすると予想していたよりすごいものができたかも知れないな。繭の加工も大変だったろ」
「はいっ! あれこれ試してみたんですけど、ある種の木の実を砕いて水に溶かして、その水の中で繭を解すっていうのがいいみたいでした。もしかしたら違う方法もあるかも知れないので、試すのは続けますけど、今のところ、この方法が一番きれいに糸を取れます」
どやっ、と満足そうに笑うイオタは、ちょっとかわいすぎた。普段はあんまりやらないようにしているが、このときばかりはイオタの顔を両手で掴んで、顔やら頭やらを撫で回してしまった。
「よしよしよし! 偉いし、すごいぞ。さすがはグロリアスのコボルトたちだ。他の手伝いのやつらも、よくやった」
「えへへへ! ぼくらもそう言ってくれると、すごく嬉しいです!」
私に撫でられながら嬉しそうに笑うイオタである。他のコボルトもそわそわしながら寄って来たので、せっかくなので順番に撫で回してやった。女コボルトなんかもキャーキャー言いながら嬉しそうだったので、コボルトというのは自分たちが認めた者に褒められるのを喜ぶのかも知れない。
……いや、それはよく考えれば誰でも嬉しいか。
撫でられて喜ぶかはさておき。
「とりあえず、四分の一くらいを絹生地にして、残りは糸の状態で保存しておいてくれ。生地については、服飾について詳しそうなやつを連れて来るから、そいつと相談しながら、なにか作ってみるのがいいと思う。それとは別に、思いついたものがあるなら試してみてもいいぞ」
「はいっ、判りました!」
「ところでカルローザはなにをしてるんだ?」
子供たちの運搬について来たのは最初の二回くらいで、あとはたまに『金庫番』のアーロゥ・グラーデに治癒魔法を使うために砦へ戻る以外、カルローザはシロちゃんに魔力を喰わせ続けていた。
今も作業場の端に転がっているのは、魔力枯渇に近い状態でぐったりしているのだが……わざわざコボルトの作業場で転がっている意味が判らない。
「あぁ、カルローザさん、ああなるともう使いものにならなくなっちゃうので、うちの女たちがカルローザさんを風呂に入らせてるんですよ。あと、食事の世話もしてます」
なんてこともない、とばかりにイオタは言う。
「というのは、つまり……女コボルトたちが、カルローザを入浴させてる……もしかして髪も身体も洗ってやってるのか? 飯も口に突っ込んでる?」
「そうですねぇ」
「まるで赤ん坊か王侯貴族だな」
「飼ってる動物みたいな感じですねぇ」
あはは、と笑うイオタ。私に撫でられている女コボルトたちも、同じような笑い方をした。他人を蔑む嫌らしい笑い方ではなく……なんというか、愛らしいペットに向ける温かな笑み、という感じ。
まあ……カルローザ当人が望んでそうだし、コボルトたちも嫌がっているわけではなさそうなので、別にいいか。
ちなみに私は入浴しなくても臭くなったりしない――たぶん不死のせいで新陳代謝をしてない。汗も掻かない――が、入浴は好きなので風呂には入っている。アラフォーおっさんの記憶があるので、女性と一緒に入浴はしないが。
「でも、クラリス様。どうしてカルローザさんをシロちゃんに食べさせてるんです? 子供たちに関しては魔法を使えるようになるかも、ってことで判りますけど、カルローザさんは、魔法、使えますよね?」
「んー……まあ、成果が出るかどうかは判らんが、魔法の出力を上げられるかも知れない。カルローザのやつは様々な魔法を使えるが、その威力はあんまり強くないらしいからな。で、それじゃあなんで威力が強くないのか」
「魔力が少ないから、ですか?」
「魔人種だぞ。ましてビアンテの姪だとかいう話だろ。魔力が少ないとしても、そんじょそこらの人族よりはずっと多いはずだ。でなけりゃ様々な魔法が使えるってことにはならない」
「あ――だから出力、ですか」
察しのいいイオタである。私は半ば無意識でイオタの頭を撫でていた。私だってかわいいのだが、さすがにコボルトのキュートさには負けるかも知れない。
「まあそういうことだな。言うなれば、でっかいうんこをするためにケツの穴を広げてる最中だ。ケツの拡張工事で気持ちよくなってるのは当人の資質の問題だが、楽しそうなのでよしとしよう」
「……手段が目的に変わってなければいいのですけど」
「まっ、ある程度のところでビアンテを派遣しよう。説教ついでに連れ戻してくれるはずだ。私は説教は得意じゃないからな」
という話がちょっと聞こえていたようで、転がっているカルローザが「ババアは嫌ですよぅ」と呻いた。あとでビアンテにちくっておこう。
「では、私は一旦ティアント領都へ行く。糸と生地については引き続き任せるし、子供たちについても、任せることになるが、よろしく頼む」
「はいっ! 任されました、クラリス様!」
尻尾をぶんぶん振りながら、去りゆく私に手を振ってくれるコボルト一同。全力で後ろ髪が引かれてしまったが、まあ仕方がない。
土産に絹糸と絹生地をちょっともらって――次はソフィアーネの元へ。
彼女に任せた宿題の成果次第では無駄足になるだろうが、あのソフィアーネ・カリストが、あの程度の無茶振りに応えないわけもないだろう。
はてさて、どうなっていることやら。
感想いただけると嬉しいです。
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双剣無頼 ~現代ダンジョンで雑魚狩りしてた底辺掃除屋、神話級の剣を手に入れてしまう。しかも二本~
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現代ダンジョン、ダンジョン配信ものです。よかったら読んでみてください。
クラリスとは違ったタイプの、変な主人公の話です。
向こうから来た人がいましたら、ここまで読んでくれて、あざます!
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