第二十話
台所から物音が流れてくる。カタカタと楽しげな音をあげるヤカンから昇る湯気や、フライパンのベーコンからジリジリと爆ぜあがる油煙を、だいぶ回転の怪しくなった換気扇がせっせと外へと放り投げている。目が覚めて最初に聞く音が楽しげで良かった……っていうか、
「寝過ごしたぁ゛!」
「……おはよう」
「ごめん! 明日からがんばるっ!」
「お、おぉ」
先輩が朝ごはん作ってる。窓際には洗濯物まで干してある。私の下着(←まぁコレ買ってくれたのは先輩なんだけど)まできちんと型崩れしないように&目立たないように。女物の下着の干し方心得ているとかいろいろ意外過ぎるわねこのヒト。
「……どうしたんだよ、それ」
呑まれた日はたいていこうなる。髪の毛が額にぺったり貼り付くくらいの寝汗でTシャツも短パンもジトジトになっている。すみません、もう一回お風呂借りてもいいですか?
「いいけど、大丈夫か? ……なんかすげぇうなされてたぞ、お前」
「……そうなんですか?」
そうなんだ。それは初耳。とりあえず干してあった(←きっちり乾いてた)洗濯物を持ってお風呂場へ。あ、コンディショナー買ってきてくれたんだ先輩。しかもいっつも使ってるヤツ。ホントありがとうございます。そそくさとシャワーを浴びて出てくるとテーブルの上には朝ごはん。ベーコンエッグとインスタントコーヒーが並んでる。トースターがチンって鳴って出来上がり。二人そろって、いただきます。マーガリンといちごジャムを塗ったトーストをかじりながら先輩が聞いてくる。
「で、今日はどうすんだ?」
一旦アパート戻って大家さんにお話して鍵開けてもらって荷物まとめてココに戻るから車出して……もらってもいいですか? 先輩。
「……いいけど、あの車にのる量なのか? 荷物」
「そんなにモノ持ってないから大丈夫……だと思います」
「スマホとか銀行のカードとか身分証とかは、どうすんだ?」
「あ゛」
なかなかに厄介だわね、この状況。
「全部回ったら一日かかるわね……」
「しょうがねえなぁ……夕方には出かけなきゃなんねぇから、それまでに片付けるぞ」
「やったぁ! ありがとうございますっ!!」
そのままCMにでもなりそうな満面の笑みでトーストをかじる香住。ただの食パンをこんなにうまそうに食べるやつは初めて見た。……にしても昨日のは一体なんだったんだろう。
「香住、昨日さ……」
「ん、なに先輩?」
「……いや、なんでもない」
そりゃ、夜中どうしてあんなに苦しそうに魘された挙げ句、泣きじゃくりながらしがみついてきたんだ? なんて聞けないよな、実際。




