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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第4章 地獄篇 空中要塞アネンヴァング
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74話 殺戮の夜9~皆殺し~

 今までずっと考えてた。

 何で悪魔達は、俺にこんな酷いことをするんだろうと。

 今、やっと分かった気がする。


 だから俺は苦しいし、つらい。

 だから怒りたいし、悲しい。

 俺は、ただこの感情をセスタにぶつける。


 怒ったからだ。

 悲しかったからだ。


 行き場のないこの感情は、俺の中で確実に溜まってた。

 こんな修羅場が続いていて、俺の心が辛くないはずがなかったんだ。

 俺だって人間だもの。

 乱暴にされたら、いつかは壊れる。

 だからこれは・・・俺の心が壊れないようにするための治療なんだ。

 ・・・俺は感情を圧縮して、冷静に荒ぶる。


 「うおああああああ!!!」

 「死ね!!!」


 お互いに叫んでいる。

 殺し合いながら。


 周りには目に見える太い電気の束がいくつも漂っている。

 あれに触れたら感電死だ。


 魔物の動きを封じる程度の攻撃力しか持っていなくても、人間の体はもろい。

 多分耐えられない。


 魔剣で防ぐか、避けるか。

 2つに1つだ。

 絶対に触れてはいけない。

 死んでしまうから。


 俺の体はそれをかわすことが出来ない。

 だから・・・魔剣にこの感情を移す。

 その感情を食らって、魔剣は俺と同化する。

 ・・・共鳴する。


 人間の感覚を超えなければいけない。

 人間の動きを超えなければいけない。

 そして・・・人間の心を超えなければいけない。

 でなければ、俺はここで殺される。


 殺す。

 セスタを殺す。

 そう思った瞬間、ラース街で発揮した俺の身体能力は、さらに飛躍して向上していた。


 「迅雷(ウルムス・サンダー)!!」


 セスタの持っている短刀が電気を纏う。

 見ると、周りが霧っぽくなっていた。

 湿ったような空気が部屋中に充満している。

 水・・・か?


 前は気が付かなかった。

 今は分かる。

 見えないものに鋭敏になっている。


 「一閃!!」


 セスタが斬りかかってくる。

 動きは速い。


 俺は真正面から攻撃を受ける。

 かわさない。

 かわせない。


 霧の中を電気が漂っているのを感じる。

 無闇には動けない。


 刀身が合わさった瞬間、セスタの能力が解除される。

 が、それでも短刀を強引に押し込んでいく。

 腕力では彼女の方が上だ。

 いったん刀身を離して後方へバックステップする。


 その動きを見て彼女はさらに俺を追う。

 片手を伸ばして短刀を突いてくる。

 その突きは、雷を纏って尋常じゃないほど伸びた。


 危険信号を察知した俺はとっさに身をそらす。

 刹那、俺の体があった位置に電気の塊が通過する。


 風で刀身のリーチを伸ばしたのを見たことがある。

 それと同じらしい。

 電気で物が斬れるとは思わない。

 だが、触れるのは危険だ。


 彼女は後ろに離れる俺を突きで追い詰めていく。

 刀身のリーチを伸ばしている電気は不規則にぶれている。

 魔剣で受け止めてもいいが、事故で体に当たるかもしれない。

 普段なら、そう思うはずだ。


 俺は短刀の突きをタイミングよく横から弾く。

 彼女の隙を狙って蹴りを入れようとするが、その時彼女は短刀を持った手とは逆の手を俺に突き出す。

 その手には何も握られていない。

 空だ。

 それでも、俺はその手の方向から体を逃がす。


 「雷掌(テシィム・サンダー)!!」


 電気を纏った掌打が連続ですぐそばを通過する。

 短刀だから、接近戦には強いとは思ったが・・・

 彼女は体術と短刀を組み合わせて、隙なく俺に攻撃を仕掛ける。

 右腕と左腕がそれぞれ別の生き物みたいに動いている。


 ・・・対応出来ない。

 俺はそう判断して、横へ転がり込む。

 すぐ後ろは壁だった。

 またバックステップしていれば、俺は追い詰められていただろう。


 技の後には隙が出来る。

 それが普通だ。

 だが、今の攻撃には隙なんてものはなかった。


 右腕の攻撃が終れば、左腕の攻撃が。

 その攻撃が終れば、逆の攻撃が。

 そうした腕の連携で、隙をなくしていた。


 並みの筋力で出来ることじゃない。

 勢いを殺し、再び腕を構えなおすための時間が一切ない。

 体術の常識を無視している。


 当たり前だ。

 ここは地獄だ。

 常識なんて気にしていたら負ける。

 ・・・殺される。


 「三閃!!」


 彼女は俺に斬りかかってくる。

 一振り目は普通にかわす。

 これくらいならまだいい。

 問題は次だった。


 二振り目は振り下げた短刀を、大きく踏み込んだ足を使って余勢を打ち消す。

 そうして出来た斬撃はノータイムで俺を襲ってくる。

 短刀は一瞬たりとも止まらない。

 大きく振りかぶっているのに止まらない。

 殆ど反射神経で何とかかわす。


 そして三振り目。


 「うおあああああ!!!」


 俺は叫ぶ。

 短刀の先端に向かって左肩を突き出しながら。

 彼女は空いた片腕を使って阻止しようとするが、それを持っていた魔剣でけん制する。

 ズシュッと俺の左肩に短刀が突き刺さった。

 元々ない腕だ。

 肩を持っていかれたところで大して変わらない。


 「があああああああ!!!!」


 痛みが走り、血が吹き出る。

 だが、短刀は止められた。

 こうでもしなければ、非物理的連続攻撃は止められない。

 代償を払わなければ、格上には勝てない。


 「チッ!!」


 彼女が短刀を握っている手に意識を集中する短い時間を、俺は見逃さなかった。

 ・・・短刀に電気が帯びる。


 そう察知した俺は、魔剣を短刀に素早く当てて能力を解除する。

 キィーンと音が響き、俺の体に電気は通らなかった。


 片腕がない俺と、両腕があるセスタ。

 不利なのはどう見ても俺だ。

 だから、攻めるならここだった。


 「うおおおおお!!!」


 彼女に体を押し付ける。

 真っ直ぐ、全力で。

 その際に、足を刈るように足を蹴り付ける。

 体が密着しているせいで、彼女はもたついている。

 結果、彼女は倒れた。

 俺がのしかかる形で。


 「放雷(ダムズ・サンダー)!!」


 彼女の体が薄く発光する。

 ピリピリと静電気のようなものが体を伝う。

 体に電気を通す気だ。


 すぐさま俺は魔剣を彼女の胸に突き刺そうとする。

 短刀は俺の肩に突き刺さっていて取れない。

 彼女は残った片腕でそれを阻止しようと、魔剣を持つ腕を払おうとする。

 このままでは・・・電気でやられる。


 そう思った時には、とっさの判断で魔剣を口で加えていた。

 残った手で彼女の手を押し付ける。

 女の割には俺より力が強かったが、今ならのしかかっている俺にアドバンテージがある。


 口にくわえているせいで、振っている最中視界が定まらない。

 心臓を狙ったつもりが、彼女の短刀を持っている方の腕に突き刺さる。


 「っぐ・・・」


 痛みで彼女がひるみ、体の発光が収まる。

 ・・・能力は中断されたようだった。

 しかし、それに大きな隙を作ることもなく、短刀を握っていた手を離して突いてくる。

 彼女の攻撃は素手であろうと大ダメージだ。

 すぐさま魔剣を引き抜いて、彼女から距離をとる。


 お互いに傷が残った。

 俺は元々片腕を使えない。

 その腕の方の肩を怪我しても大した損失にはなりえない。


 一方の彼女は片腕をブランと下げて痛みを耐えていた。

 ・・・もう片腕は使えない。

 対等だ。


 突き刺さった短刀を強引に抜く。

 血がさらに出た。

 抜いては失血で気を失うかもしれない。

 場合によっては失血死もありえるだろう。

 だが、殺し合いには邪魔なものだ。

 突き刺さったままだと、相手に利用されかねない。

 なら、俺が利用してやるまでだ。


 致死性切断攻撃に対して、体術は分が悪い。

 リーチの差があるからだ。

 リーチに差があるだけ不利になる。

 今、俺は有利なポジションだった。

 彼女に能力がなければ・・・の話だが。


 「廻雷(ワンス・サンダー)!!」


 周りの霧から電気が立ちこめる。

 これは・・・


 自分の勘を信じて、天井いっぱいまで高く飛ぶ。

 霧はギリギリ天井まで届いていなかった。

 霧がバリバリと音を立てて、雷雲のように激しく光る。

 ・・・まるで雷だ。


 天井まで浮遊し続けるのにも限界がある。

 物は重力によって落ちるのが大概のルールだ。

 下には雷地獄がある・・・

 どうする?


 答えはあった。

 すぐ前には天井に設置されていた、小さいシャンデリアのような物がある。

 それに手を伸ばして、しっかりと掴む。

 攻撃からはうまく逃れた。


 下を見ると、霧は黒く暗くなっている。

 殆ど何も見えなかった。

 即席の闇だ。

 状況が分かりにくい。


 と、突然飛来物が俺に飛んでくるのが見えた。

 感知能力が高まっているおかげか、かなり早い段階で確認出来た。

 余裕を持ってそれをかわす。


 ・・・どうやら、電気を纏ったクナイのようだ。

 忍者の格好をしているのだから、そういうのも予想しておくべきだったか。

 ここにいては、いい的だ。


 俺はシャンデリアの根元部分を斬り付けて、天井から切り離す。

 落下するシャンデリアに足を乗せて、うまく足場にしてからもう1回ジャンプをする。

 普通の人間の身体能力ではここまでの芸当は不可能だ。

 明らかに俺の力は向上していた。


 暗い霧の中に吸い込まれるようにシャンデリアは落ちていき、ガシャンと音を立てる。

 霧に色が付いたおかげで、空気の流れが視覚的に分かりやすい。

 セスタのシャンデリアをかわす動作が、空気の流れでよく分かった。


 俺は落下しながら、手元にあったセスタの短刀を口でくわえて投げつける。

 彼女はそれを見切って当然かわすだろう。

 だが・・・


 ナイフをかわす先にあるものに彼女は気が付いた。

 人影だ。

 直立で立っている人影だ。

 霧のせいでよくは見えない。

 彼女はその正体を確認しようとする。

 ・・・そこが隙だった。


 直立で立っていたのはただの死体。

 そう。

 室内で魔物と戦って死んだ悪魔だ。

 周りの霧から電気が立ちこめる時、短いが時間があった。


 素早くララと俺を繋げているヒモを切断し、そのヒモを使って死体を立たせる。

 だから、ララは片手で抱えていた。

 だから、短刀は口でくわえて投げつけた。


 そうして重なったシーン。

 一瞬の隙。

 彼女の立ち位置。

 俺はセスタの真上を落ちていた。


 全部予想していた訳じゃない。

 死体を立たせたのは気が引けるかとただ思っただけ。

 立たせた死体のある場所に落下しているのは、いざという時に盾にするため。


 そうして意図されたものが、別の意味に切り替わる。

 物事に確実なものなんてない。

 状況とタイミング次第で全てが変わってしまう。

 ・・・全部利用してやる。


 「うおおおおああああ!!!」


 俺が叫ぶせいで、上空から俺が接近していることに気が付く彼女。

 問題ない。

 どうせ、かわせるタイミングでもない。

 ここで殺す!


 彼女もかわせないことを悟ってか、俺に向かい合う。

 こっちには魔剣。

 彼女は素手。

 が、能力は使われる。


 「大いなる水よ(ラグ・マグナス)


 水か。

 そうだ。

 霧は元々細かい水だ。

 威力を極限まで調整すれば、霧にも出来るだろう。

 つまり、彼女は数少ない水の能力の使い手だった。

 そして、水使いに出来ること。

 それは・・・


 「死ねええええ!!!」


 叫びながら水の能力を行使する。

 空中に水がどこからともなく出現し、俺を取り囲んでいく。

 そうして出来たのは、水の檻だった。


 球体状の水が俺の全身を包んで離さない。

 水の緩衝により勢いは止められて、水中へと強制的に引きずられる。

 その檻の中に空気があるなんて甘い展開はなかった。

 ・・・確実に殺す気できている。


 だが、こっちには魔剣がある。

 腰から魔剣を引き抜いて、力を込める。

 そうしただけで、水の檻は分散していく。

 この魔剣はルフェシヲラの第4段階結界も打ち破った。

 第3段階のチャントでは止められない。


 勢いが減った分、セスタに攻撃が届く時間が少しだけ長引いていた。

 ・・・時間稼ぎだ。

 そうして出来た隙間の時間に、彼女は新しく能力を唱える。


 「大いなる炎よ(ケン・マグナス)!」


 炎の能力だった。

 単純な炎の玉。

 当たったら確実に燃え死ぬ自信がある。


 火の能力と水の能力。

 そして雷の固有能力。

 合点がいった。

 恐らく、火で暖めたり水で冷やしたりして、霧を動かし電気を作っていた。

 簡単に言うとそういうことだろう。


 その一連の作業に、どれだけの技術が使われているかなんて、想像出来ない。

 絶え間ない修練をしたんだろう。

 見えない場所で努力をしたんだろう。

 ・・・今更罪悪感か。


 今更、炎の能力で魔剣に対抗出来る訳もなかった。

 魔剣の刃が、深々とセスタの胸部をえぐっていた。


 「うぐっ・・・」


 致命傷。

 心臓を貫かれて、生きてはいけないだろう。


 サッと魔剣を胸から引き抜く。

 心臓を刺したせいか、ドバドバと血が流れていく。

 ・・・終わった。


 「・・・これまでか」


 セスタのその言葉と共に、霧は晴れて、周りに帯電していた電気も散開していく。

 脅威は去った。

 俺は悪魔に勝った。


 なのに。

 なのに、胸が痛み、苦しい。

 怒りも収まってくれない。

 しかも、怒りはあるのに怒る気になれない程心は沈んでいた。

 ・・・何でだ?


 「・・・人間如きに・・・負けるなんて・・・」


 死の間際になっても、まだ俺を否定し続ける。

 そこまで憎かった。

 ・・・そういうことだろう。

 俺もその気持ちだ。


 「お前が・・・お前らが俺を襲うからだ!!」


 口から勝手に言葉が漏れる。

 考えてなんかいない。

 心が俺の口を動かした。


 「俺は・・・本当は殺したくなかった!!お前らがそうさせたんだ!!」


 さっきまでセスタが言っていたようなことを、口にする俺。

 責任のなすりつけあいだと分かっていても、口は止まらない。

 止まってくれない。


 「こんなこと、したくなかった・・・」

 「・・・」

 「殺したくないんだよ・・・」


 急速に弱っていく彼女。

 顔は怒りから、どこか寂しそうな顔へと変化していく。

 例えようもない程さびしい顔。

 死ぬ間際の顔。


 「悲しい・・・のか・・・」

 「・・・」

 「そうか・・・分かった・・・」


 何かを理解したかのように、呟く彼女。


 「目に・・・焼き付けろ・・・」


 再び目に力が戻りだす。

 その色は・・・憎しみの色だった。


 「・・・呪ってやる」

 「・・・」

 「私が・・・死んでも・・・記憶に残って・・呪ってやる」

 「・・・」

 「苦しめ・・・」


 ・・・ここまで憎しみが強かったのか。

 仲間を殺される気持ち。

 ・・・他に人間の仲間がいないから俺には分からない。


 いつの間にか、俺はセスタの目をずっと見つめていた。

 憎しみの感情を受け止めていた。


 「苦しんで・・・死・・・ね・・」


 苦しんでいたのはセスタの方だった。

 血を口から吐き、呼吸もままならない。


 魔物と戦ったであろうことを思わせる数々の傷からは、再び出血してきている。

 ・・・苦痛だ。

 憎しみを灯した目は、光を失っていく。

 

 苦しんで・・・

 苦しんで苦しんで苦しんで苦しんだ末に・・・


 セスタは息絶えた。



 ---




 生き物の死。


 死の先は何か。

 天使の言っていたように転生?

 仮にそれが嘘だったら、本当は何だ?


 ・・・分からない。


 俺は1度死んでいる。

 そう天使は教えてくれた。


 それすらも今は怪しい。

 信じられない。

 この地獄で俺は、何を信用すればいい?


 「・・・」


 しばらく俺はセスタの死体を見ながら、延々とそんなことを考えていた。

 現実逃避・・・とは思いたくない。

 休憩したかった。


 初めて悪魔を殺したのだから。

 俺と同じように話し、動く生き物を・・・


 時間がどのくらいたったかは分からない。

 だが・・・

 放心状態から復帰した時、すでに無数の悪魔達に取り囲まれていた。


 ・・・雑兵だ。

 みんな例外なく返り血を浴びていた。


 耳が取れている奴。

 体中に痣がある奴。

 目がつぶれた奴。

 俺と同じように片腕がない奴もいた。


 みんな必死に戦っていたのだ。

 そうして俺の元に集まった。


 「ああ・・・」


 分かった。

 きっと死ぬ間際にテレパシーでここの位置を教えたのか。

 ・・・納得だ。


 悪魔みんなの目線が厳しかった。

 悲しみの目。

 怒りの目。

 絶望の目。


 暗い。

 希望がない。

 なのに、みんなして俺に剣を向けてきていた。


 ・・・戦うのか。

 こんな状態になってまで。

 もう戦う意味なんてないんじゃないのか?


 「逃がして・・・くれないのか?」


 俺は言った。

 周りが一層静かになる。

 みんなは剣を向けたままだ。

 目の色も変えない。


 ・・・そっか。

 

 俺は残った力で、その場にいる悪魔を全員皆殺しにした。



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