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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第3章 地獄篇 ラース領ラース街
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52話 最初の味方

 石の壁が、いきなり壊された。


 外側から急激に何かが衝突したようで、俺も含めたこの場にいる全員が、一瞬驚いたような挙動をみせた。

 そりゃびびる。

 いきなり壁が勢いよくぶっ壊されたらな。


 壁を壊したもの。

 それは、生き物だった。

 というか悪魔だった。


 土埃が舞い上がってよく見えないが、人型のシルエットなので悪魔で間違いないだろう。

 マリアさんの手伝いで読んだ本に書いてあった、吸血鬼とかでなければ・・・


 だがしかし、何で突っ込んできた?

 突っ込んできた張本人は、苦しいのか少し呻いているように思う。

 さっきまで激しく戦っていたかのように。


 不可解な奴の登場で、一気に悪魔達が警戒に入ったのが分かる。

 いつの間にか雑兵の1人は、気配を感じ取れなくする結界を張って隠れてるし。

 俺の時も多分、そうやってたんだろうな。

 どうりで不意打ちを受ける筈だ・・・


 土埃が徐々に収まっていく。

 シルエットの中身が明かされていく。


 「お前は・・・」


 ソイツは悪魔の女だった。

 肌は白く、マリアさんのように肌が浅黒く無い。

 ピンク色のロングヘアーで、髪はポニーテールで纏めている。

 まだ少女のような面影が残ったような、整った顔だ。


 背もあまり高くなく、人間で言えば中学生みたいな悪魔。

 だが、角はちゃんと2本付いていて、高級感たっぷりの銀色に輝く鎧を着用していた。


 ・・・ララだった。

 突然の登場に驚いたが、まさかのララ登場でさらに驚愕だ。

 俺を中央執行所へ連行した張本人。

 転移回廊に現れた巨大な魔物を、軽く仕留めた手練れの女悪魔。

 そいつが今、俺の目の前に現れた。


 彼女は、状況を把握するような目で周りを見渡す。

 片手に持っていた魔剣らしき剣は、根元からポッキリと折れている。

 何かと戦っていた?

 でも誰と?

 しかもコイツ、焦げ臭い。

 料理を焦がした時の臭いがする。


 「ララ様・・・」

 「何故ここに?」

 「誰かと交戦を?」

 「お怪我はありませんか!」


 悪魔達も、自分達の味方だと思ったようで、安堵の表情を取り戻す。

 みんなそれぞれ声をかけている。

 どうやら、悪魔達も俺と同じ疑問らしい。


 ララは周りから声をかけられても、無言でいた。

 何故か?

 理由は、俺を見つめていたからだ。


 コイツ・・・俺のことを、悪魔達ガン無視で見つめているのだ。

 普通だったら、不安で不安で堪らないだろう。

 だが、不思議とその視線は俺の恐怖心をかき消してくれた。


 何故かって聞かれてもよく分からない。

 俺も聞き返したいくらいだ。

 ・・・何故なんだろうな?


 「・・・」


 黙るララに対して、悪魔達は不思議がっているようだ。

 ララは周りを再度見渡す。

 そして、その直後。


 「すまないな」


 そう言って。


 「簡捷なる俊足を(エオー)


 と言った。

 それは一瞬で行われた。

 圧倒的だった。


 悪魔全員の後ろへ回り込み、手刀を首にかましていく。

 唯一、騎士の悪魔が抵抗しようとする動作を見せたが、それも間に合わなかった。

 本当に一瞬の出来事。

 俺もかすかにしか見えなかった。

 瞬き1回分の間に、全部終わってしまった。

 俺が苦戦した悪魔達なのに・・・


 ララが強いことは知っていたが、まさかここまでなんて・・・

 圧倒的すぎるじゃないか。

 もし、俺が他の隊長格の悪魔に会っていたとしたら、どうなっていた?

 多分、瞬殺だっただろう。


 ・・・いや、そこじゃないな。

 何故ララは、味方の筈の悪魔を攻撃した?

 一体何を考えてる?


 ・・・もしかして。

 もしかすると、これは・・・


 「・・・俺を助けてくれるのか?」


 だよな。

 そうだと言ってくれ。

 じゃないと、俺は今度こそ助からない。

 祈るように俺はララに聞く。


 「ええ」


 最初に俺に会った時に使っていた、丁寧な言葉を崩さずにそう言った。

 ああ・・・助かった。

 やっと味方が現れた。

 限界まで粘って、本当によかった。


 でもだ。

 何故俺を助ける?

 味方の悪魔を裏切ってまで。

 そっちに何かメリットがあるのだろうか?


 「まあ、あなたが私に質問したい気持ちは分かりますが・・・とりあえず時間がありません。ここは何も聞かないで、一緒に逃げて下さい」


 表情で気持ちを読まれたのか?

 ダゴラスさんやマリアさんが俺の顔で心境を読んでいたことといい・・・俺は顔に出やすいタイプなんだろうか?

 いずれにしても、この話・・・乗っかるしかない。

 今ここでララを味方に出来なかったら、俺はどっちみちおしまいだ。

 ララが敵なら、最初からもうそれまで。

 でも、ララが味方ならもうこれは心強い。

 俺はララを信じよう。

 俺はそう決めた。


 「・・・分かった」


 その言葉を言った途端、ララは少し表情を崩した気がした。


 「ありがとうございます。ここまで逃げてきただけあって、流石に判断は早いですね」

 「それなりに頑張って逃げたからな・・・結局捕まったけど」

 「今から私があなたの逃亡をサポートします。いいですね?」

 「・・・そりゃあこっちは大歓迎だけど・・・」


 お前は大丈夫なのか?

 立場的に・・・色々と。

 だって、これって裏切りだろ?

 ・・・とは聞けなかった。

 俺がそんなことを聞いて、ララの気が変わられたらと思うとな・・・


 「では、早速ですが・・・ここはもう危険です。手練れがここを取り囲もうとしてます」


 本当に早速だな。

 普通の奴なら不信感満点なんだろうが・・・

 まあいい。


 悪魔がここを取り囲もうとしていることは、もう分かってる。

 あのめっぽう強かったスーツ女も、ここに辿り着いているだろう。

 恐らく、今は攻めるタイミングを見計らっているのだろう。

 ここが外から見えない室内だということが幸いしたな。


 「俺はここに来るまでに、スーツを着た女と会ったけど、そいつも手練れなのか?」

 「・・・恐らく、魔王様の秘書ですね。戦闘能力的には騎士団隊長クラスでもおかしくない悪魔です。」

 「そっか・・・」


 やっぱり相当強い悪魔だったらしい。

 隊長クラスってくらいだからな。

 逃げて正解だった訳だ。

 しかし、魔王側を裏切ってるっぽいのに、まだ魔王を様付けするんだな。

 見上げた忠誠心だな。


 「俺はどうすればいい」


 そう。

 まずはプロに聞くのが1番だ。


 「どうするもなにも、逃げるのです。ただそれだけ」

 「・・・戦えないのか」

 「戦っても負けるだけです。さっきも私、殺されかけましたから」


 ララは焦げた臭いのする鎧を俺に見せる。

 確かによく見たら、所々が焦げ付いててボロボロだ。

 相当激しい戦いだったんだろうな。


 「今は魔王様の命で、殆どの隊長は別の領土へ出払っています。が、それでも私を含めた4人の隊長格が近くに残っています」

 「そんなに・・・」


 化け物クラスの悪魔がまだ3人いるらしい。

 先行きが凄い不安になってきた。

 これはララの言うとおり、素直に逃げた方が良いだろう。


 「その内の1人、この場で1番強い隊長はもうそこまで来ています。」

 「1番強いのかよ」

 「ええ。彼は火の能力を扱うのですが、それがもう手に負えないレベルで、本気を出した私でも確実に負けます」

 「・・・うん、逃げた方がいいな」

 「でしょう?」


 だろう。

 しかも、何だか周りが熱くなってきた。

 これってもう来てるんじゃないのか?


 「もう時間がないですね。貴方、どうやって悪魔と戦っていたのですか?ここまで来たからには、何か戦う術があったのでしょう?」

 「部屋の隅にある剣、それで戦ってた。」

 「あれ・・・ですか」


 ララは剣のある所まで行き、手に取る。

 すると、少し驚いたような顔をした。


 「これをどこで・・・」

 「えーと・・・」


 どこから説明したものかな。

 よく分からん。


 「いえ、説明しなくてもいいです。とりあえずは・・・」


 ララは魔剣を結界にコツンと軽く当てる。

 結界は、ボロボロに崩れ去った。

 やっぱりこの魔剣はすごいな。


 「ここを動きましょう」


 そうだな。

 そうしよう。

 俺はすぐさま立ち上がる。

 彼女を見ると。魔剣を振って怪訝な顔をしていた。


 「ドレインの能力が付加されてますね、この魔剣。しかもかなり強大な」

 「そう・・・だな」


 確か、その魔剣のドレインの能力は4段階くらいだったはずだ。

 防げなかった攻撃は今のところない。

 十分強い魔剣と言ってもいいだろう。


 「それに加えて、転移の陣が刻まれてますね」

 「・・・それが?」

 「こんな精密な陣を、魔剣のエネルギーのストックだけで起動出来るような無茶苦茶な陣を作れる悪魔は、地獄でも1人だけです」

 「・・・誰なんだ?」


 俺の寿命を減らした張本人は誰だ? 

 俺は目線を強く送ると、ララは口を開いた。


 「召喚王」

 「召喚王?」


 これまたカッコイイ称号だな。

 アニメなんかに出てきそうな呼び名だ。


 「本名をネル・ナベリウス。72柱、第19位の強大な悪魔の1人です」

 「強大な悪魔ってことは、悪い悪魔なのか?」


 マリアさんが教えてくれたことを信じるなら、強大な悪魔は魔王や地獄の住人に反抗出来る力を持っているから、自我が強い。自我が強い奴は大概悪いことをする・・・だったっけか?

 まあ、力が強い悪魔は悪い奴が多い傾向があるようだった。


 「はい、ネル自体は凶悪な悪魔です」

 「俺、ソイツからその魔剣貰ったんだけど・・・」


 ララは表情を厳しくして、話を続ける。


 「味方?」

 「・・・分からない」


 仕方ないだろ。

 悪魔みたいに俺は心を読めないのだから。

 まあ、悪魔側は俺の心を読めないみたいだが・・・


 「・・・人間という生き物は、悪魔の社会で生きるにはあまりにも弱い」

 「・・・だろうな」


 俺も今そう思う。

 俺が心を読めたらなとも思う。

 そんなことは出来っこないんだが。


 「・・・ネルが信用出来なくとも、この魔剣は有用です」

 「ん」

 「この修羅場を乗り越えるまでは、魔剣使ってください。私も貴方のサポートがないと流石に厳しい」


 だよな。

 サポートは行うべきだ。

 素直にララに従おう。

 しかし、何回も思うのだが、俺は死んでいるのに寿命とかそんなこと関係あるのだろうか?

 ・・・あるんだろうな、きっと。


 「ですが、これが終わったら必ず私に渡してください。これはあなたが持つべき代物ではない」


 正直、武器がなくなるのは痛い。

 痛いが、ここは頷いておこう。

 そうすることが、今は正しい。


 俺がそう思った瞬間。

 周りが急激に熱くなった。

 炎に囲まれたかのように。


 「・・・来ましたね」


 いよいよか。

 熱くなってきたってことは・・・


 「火の能力の隊長か・・・」


 このまま呑気に話していたら、建物ごと燃やされるだろうな。


 「まず、ここを脱出します」

 「分かった」


 俺は頷く。

 さあ、逃亡を再開させる時が来たようだ。


 「お前、結構傷だらけだけど大丈夫か?」


 よく見たら、鎧だけじゃなく、肌が露出している部分もかなり傷があった。

 俺も人のこと言えないが、ララもララで酷い。

 俺の腕の感覚は戻っているからいいが・・・


 「大丈夫です。悪魔は人間よりも頑丈ですから」


 そう言って、少女のような童顔をニコッとさせる。

 ・・・ここで動いてもらわなきゃ、俺は死ぬだろうからこれは余計なお世話か。


 パチパチと音が聞こえ始めた。

 周りを見ると、あちこちから物が燃え始めている。

 これは早くしないと酸欠になりそうだ。


 「では、行きましょうか」


 俺・・・いや、俺達の逃亡が始まった。


 

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