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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第3章 地獄篇 ラース領ラース街
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48話 人間と中級騎士

 火の玉が飛び交う敷地の中を、俺は駆けていた。

 辺りはまるで戦場のように騒がしい。

 交戦しようとしてくる悪魔の数は、さっきよりも段違いに多くなっていた。


 四方八方から不規則に飛んでくる火の玉を、魔剣で凌ぎつつ前進する。

 火の玉の攻撃は、もはや俺には通じない。

 後方から身体干渉系の能力を使って、俺に追いつこうとしていた悪魔がいたが、その悪魔達も追いつけていない。


 いくら走っても疲れる気がしない。

 どこまでも行ける気がした。

 ただの人間の体であったなら、もうへばっていただろう。

 だが、今の俺は違う。

 さっきのような、人間の稼動域限界まで身体能力や認識能力を引き上げるのとは訳が違うのだ。


 体はより、魔剣の意思に耐えるかのように強化を果たし、人間の出せる物理的な速度を大幅に超える移動能力を獲得させた。

 さっきまで重いと感じさせた魔剣の重量は、嘘みたいに軽くなっている。

 まるで羽みたいだ。

 火の玉が接近する度に感じていた痛い程の熱気は、常温の物体のように熱さを感じない。


 多分、俺は人間を超えたのだ。

 トップアスリート以上の走力。

 その驚異的な動きに、悪魔達は対応出来ず、ことごとく俺の足止めに失敗していた。

 そうして走り続けると、あるものが見え出す。


 「結界か」


 100メートル先には、巨大な半球体状の結界が悠然と俺を阻んでいた。

 この規模の結界を作り出すのに、一体どのくらいの悪魔達がエネルギーを消費しているのだろうか?

 だがまあ、壊せないということはないだろう。

 この魔剣の実力は、今も繋がっている俺が1番よく分かっている。


 魔剣・・・縛牢斬滅。

 2種類の能力を持つ魔剣。


 能力に適合した物体・・・即ち魔剣をエネルギーの触媒にした転移の陣を、その刀身に彫られた転移の剣。

 エネルギー吸収・・・希少なドレインの能力を持ち、その身にエネルギーを吸い込んで、結界や攻撃を無効化する崩壊の剣。


 ドレインの能力はエネルギーを使わない特別な特性があるみたいで、俺のようなエネルギーを魔剣に送ることが出来ない人間でも扱うことが出来る。

 縛牢斬滅に宿るドレインは第4段階。

 この剣があれば、殆どの攻撃や防御の能力を無効化出来るのだ。


 だが、そう簡単に物事は進まないようだった。

 他の悪魔よりも強そうな悪魔が、結界の近くにある砦の傍にいる。


 悪魔は剣を持っていた。

 周りにいる悪魔の格好とは違い、騎士のような鎧を着ている。

 ララ程の立派な鎧ではなかったが、明らかに役職の高い奴なんだろうな。

 つまり、強そうってことだ。


 だが、俺は走り続ける。

 結界に向かって。


 走らないとどうにもならないだ。

 立ち止まってしまったら、それこそ囲まれてジ・エンドのオチヘ持って行かれてしまうだろう。

 例え強そうな悪魔が前にいたとしても、走り続けなければいけない。

 死にたくなければ。


 火の玉を打ち消しながら、どんどん騎士の格好をした悪魔に接近していく。

 敵の攻撃範囲に入ったのか、悪魔は何かを唱え、持っていた剣に風を纏わせた。

 本来不可視の風が、空気中の塵を巻き込んでいるせいで、肉眼で見える姿に顕現した。


 「風の能力!」


 以前、ダゴラスさんにも見せてもらった能力だ。

 ララも転移回廊で魔物を倒す時に使っていた。

 そういえば、両者共に剣に纏わせる形で風の能力を使っていたな・・・

 能力を通せるということは、あれも一応魔剣のようだ。


 その後、前にいた悪魔はさらに何かを唱え、急に走り出した。

 俺に向かって。

 尋常じゃないスピードで。


 後方で身体干渉系能力を使って俺を追いかけていた悪魔よりも、さらに速い。

 チャントでも使ったのだろうか?

 その走りは、最高速度に到達したチーターを思い出させる。

 最高速度をいつまでも維持出来るという点では、チーターよりもタチが悪い。


 俺と悪魔の距離は、あっという間に狭まっていく。

 先に攻撃したのは、悪魔の方だった。


 風を纏った剣を振り、俺に当てようとする。

 俺はそれを阻止すべく、振ってきた剣の軌道上に縛牢斬滅を盾のように構えた。

 こっちはドレインの能力つきだ。

 剣を一旦当ててしまえば、風の能力は無効化出来る。

 そうなればこっちのものだ。


 だが、悪魔は急に静止した。

 その走りを。

 強化したであろう足で。


 予想していた動作を裏切る行為。

 そして。


 「食らえ!!」


 悪魔の騎士は叫びながら、俺より5メートルくらい離れた位置で、剣を振った。

 当然剣は何も斬ることなく、空振りに終わる。

 何がしたいんだ?

 一瞬そんなことを思った。

 思った直後。


 「!?」


 バシュ!!という音と共に、俺は吹き飛ばされていた。

 剣は明らかに当たっていなかった。

 攻撃は受けていないはずだ。

 なのに何かに吹き飛ばされるように、俺は後方へと吹っ飛ばされる。

 それでもなお、俺は結界からなるべく離れないように、空中から地面に剣を突き刺して止まろうと試みる。


 「させるか!」


 悪魔は吹っ飛ばされる俺に強化された足で追いつき、またしても剣を空振りさせた。

 攻撃はまた当たっていない。

 なのに、また俺は強い衝撃で体勢を崩された。


 これ・・・風か!

 悪魔の放った2回目の攻撃にて気付く。

 あれは風だ。

 剣から風を飛ばして、俺に当てているのだ。


 剣が空振りすることを分かっていたから、防御することを怠っていた。

 風は纏わせるだけじゃなく、飛ばせもするのか。


 体勢を大きく崩された状態で、体を地面に叩きつけられる。

 ダンッと大きな音が聞こえて、少し遅れて痛みがやってくる。

 ・・・いてぇよ。


 騎士の格好をした悪魔はさらに追撃を仕掛けようと、剣を空中に空振りさせた。

 また風の攻撃!


 俺は真正面に縛牢斬滅を構える。

 風の塊が俺に迫る。

 剣で防いだと同時に、鉱石を割ったような高い音が響いた。


 俺の予想通りだった。

 能力は俺の目の前でいとも簡単に消えていく。

 余波のそよ風が俺に纏わりつく以外には、何も残っていない。


 だが、眼前には剣を振ろうとしている悪魔が1人いた。

 風の能力に意識を集中させ、その隙に俺に近付いたのか。

 しかし、足の強化以外は身体干渉系を使っていないらしく、剣の振り自体は異常に速いという訳でもなかった。

 今の俺なら全然対応出来る。


 俺は即座に反応して、剣に剣を当てて防御する。

 剣と剣がぶつかった瞬間、能力を打ち消す音が響く。

 悪魔の持っている剣から風が消失する。

 しかし、悪魔は攻撃の手を止めない。


 悪魔は次々と剣撃を放ってくる。

 俺はそれを受け止め、或いはかわしながら体勢を整えていく。


 攻撃のスピードは以前森で戦った魔物と同じくらいだ。

 だが、あの魔物とは違い、洗練された隙の無い動き。

 知能のある生き物がしっかりと、相手の攻撃を予想しながらうまく動いている。

 魔物と戦った時の俺では、多分コイツに負けていただろう。


 あの時は限界まで戦闘の動作を完璧にしたからこそ、スピードもパワーも攻撃手段も豊富に持つ魔物に勝利した。

 野生の生物の動きはやはり、野生的なのだ。

 魔物が得手とするのは戦闘ではなく、狩りの動き。

 狩りの動きは攻撃した後の隙など考えない。

 だから、人間の限界まで動作の隙を減らした俺は勝った。

 まあ、あの魔剣が別格なことも勝利の一因ではあったが・・・


 それに対し、悪魔の戦いは知能的だ。

 訓練された隙の無い動きをする。

 悪魔のパワーとスピードで隙が無くなってしまったら、いくら限界まで隙を失くした俺でも勝てはしない。

 あくまでそれは、人間の限界だからだ。


 もちろん、今の俺は違う。

 俺は腕に力を込めて剣を振る。

 腕を強化していなかった分、俺の方が筋力的には上だったようで、悪魔の持っていた剣は弾かれた。


 「クッ!」


 悪魔は直後、バックステップをした。

 

 「老練なる風よ(ラド・マトラス)!」


 そう唱えると、悪魔は急に後方へと加速してしまった。

 それと同時に風がこちらに吹き付ける。

 風を利用した移動か。


 風を自分の前方に発生させて加速したんだろう。

 そんな使い方も出来るのか。


 悪魔は続けて同じルーンを唱える。

 すると、剣に再び風が宿る。

 能力が打ち消されるのは見ているはずだが・・・



 ・・・まあいい。

 俺はそのまま追撃を開始する。

 俺の脚は、対峙している悪魔と同等の速さだ。

 悪魔の兵が普通に足を強化していても俺に追いつけないところを見ると、悪魔の騎士がそれ以上のチャントを施しているのは予想がつく。


 速度は同等。

 力は俺の方が上。

 つまり、単純に打ち合えば俺が勝つ!


 そう思って至近距離からの攻撃を狙う。

 だが、悪魔は俺が目の前へ行く前に、剣を横に空振りさせた。

 横にステップしながら。


 急に横に吹っ飛んだかのように移動する悪魔。

 足で強化されていることに加え、そこに風の力が働いて悪魔に追いつけない。

 俺も遅れて、剣を空振りさせてしまった。


 悪魔はまた、横に剣を空振りさせる。

 右へ左へ、時にはフェイントも混ぜながら。

 なるほど。

 俺を翻弄させようとしているらしい。


 風の能力を俺に当てるんじゃなく、自分の移動に最大限活用させている。

 確かに、ドレイン持ちには有効な戦闘手段なのかもしれない。


 相手は風で吹っ飛ばされてもなお体制を崩さない。

 隙も見せない。

 ・・・スピードでは追いつけない。


 悪魔はステップを唐突に中止して、俺に向かって飛んできた、

 かなり速い。

 俺は剣を盾にして待ち構える。

 すると、それを見た悪魔はその前進すら無理矢理キャンセルして、横へと飛んだ。

 ・・・変幻自在じゃないか。


 相手は徐々にスピードを上げてきている。

 これはまずい。

 このままこの悪魔に翻弄され続けるのは非常にまずい。


 そう思った俺は、結界に向かって走りだす。

 だが、即座にそれを見抜いた悪魔は俺の方向にすぐさま割り込んで、風の塊を打ち出してきた。


 「この!」


 風の塊をとっさに防ぐ。

 防いだ時には、悪魔は風を使い俺に肉薄していた。

 悪魔は俺に剣を振る。

 振った剣でさえ、風でスピードを増していた。

 何とかそれを防ぐ。


 能力が打ち消される音と同時に、剣に纏っていた風が剥がれていく。

 悪魔は風が剥がれたと同時にルーンを唱える。


 「老練なる風よ(ラド・マトラス)!」


 風が再び剣に宿り、そのまま風を使ってバックステップをしながら距離をとっていった。

 結果、俺は前進していない。

 両者共に同じ位置だった。


 ・・・動けない。

 相手に先手を取られてしまう。

 相手の方が速いのだ。

 相手が風の能力を使っている以上、俺が速度で劣っているのは明白だ。


 だが、悪魔の顔を見るとよく分かる。

 無理をしているのが。

 能力を使えば普通はエネルギーを消費する。

 俺が使っているドレインは特別だが、悪魔が使っている風の能力は違う。

 エネルギーを消費する普通の能力だ。

 しかも、チャントを付加させている能力。


 これが連続で、いつまでも続けられる訳がない。

 俺はこのまま待てば、多分勝てるだろう。

 ・・・勝てるが、負ける。


 悪魔の狙いは十中八九時間稼ぎだ。

 さっきから風の能力で、疲れを見せながらも俺を翻弄し続けていることからそれは分かる。

 分かってはいるが、動けない。

 動こうとしても、押し戻される。

 そうこうしている間に、他の悪魔が集まってきてしまう。


 ・・・どうする?

 こうしている間にも、時間は着々と進んでいる。

 俺が取るべき次の行動。

 そう考えている内に。


 「来たか!」


 悪魔はそう言った。

 動きを止めて。


 何が来た?

 そう思った直後。

 俺の真下の地面が盛り上がっていた。


 それと同時に風使いの悪魔も風の塊を撃ってくる。

 俺はその場をローリングして、攻撃をかわす。

 その直後、盛り上がった地面から何かが現れた。


 「・・・苦戦しているみたいじゃないか」 

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