46話 吸血鬼と秘書
〜ルフェシヲラ視点〜
吸血鬼となった彼女を真正面から捉える。
口からはみ出さんばかりの牙。
血の気を失った肌。
そして、赤い瞳。
悪魔の姿はそのままに、吸血鬼の特徴を混ぜたかのような姿にララ様は変化した。
吸血鬼は元来凶暴な性質だ。
今はマリア様の処置によって暴れることも無くなったと聞くが、いざ戦闘に追い込まれると、その凶暴性が一時的に開放されてしまうのだという。
凶暴性を開放した吸血鬼は、より魔物よりの存在として傾いてしまうため、地獄から直接恩恵を受けやすい。
悪魔はルーン文字を通してでしか、闇の意思に干渉して能力を使用出来ないが、魔物は違う。
知性が悪魔よりも少ない分、それだけ地獄の恩恵を受けやすい。
つまり、今のララ様はルーン無しで極自然に能力を扱えるということ。
吸血鬼の能力は身体強化とドレイン・・・結界破りの能力だ。
結界は直接破壊するか、結界を維持しているエネルギーをどうにかすることで対処出来る。
と言っても、ドレインの能力は希少な能力なので、そうそう結界が破られたりすることはない。
・・・だが、ララ様は希少な能力を一時的に手にしてしまった。
その本質を表せの能力によって。
結界破りの力を。
「こうなってしまったら・・・私の負けですね」
そう言いながらも、私は体にエネルギーを循環させる。
「何を言ってる?まだ抵抗する気満々じゃないか」
「時間稼ぎくらいはしないと・・・魔王様に怒られてしまいます」
「そうか・・・」
魔王様がこちらへ帰還する時間までとは言わずとも、せめて少しでも多くの時間を。
私がそう思った直後。
「だろうな!」
ララ様は一言そう言って、私の元へ一気に駆け出した。
パキンと地面から音が響く。
ララ様の踏み込みで、地面の氷が割れる音だ。
その音が私の元へ辿り着くのと同時に、ララ様は私の懐へ入った。
「クッ!!」
私もテレポートを発動する。
相手は音速の域に入った化け物だが、こちらは光速だ。
追いつけるはずが無い。
視界が光に包まれる瞬間に、私はルーンを唱える。
「蹂躙されいく心に力を!」
意識が光になりかけるその時、発動した精神干渉の抵抗能力によって再び意識が復元する。
光になったその状態で。
・・・まるで時が止まったかのようだ。
実際は止まっている訳ではなく、止まっているように見えるくらい周りが遅い・・・或いは私が速くなっているのだ。
光は光の時間が、悪魔は悪魔の時間と言うものが存在する。
光は独自の時間感覚を持っていて、周りの動きが止まっているかのような視点を持っている。
それこそが光の認識。
概念種の認識。
時間に関わる事象の変化は、もはや地獄の運命を左右する要素と成りえる。
運命干渉系能力よりかは数段劣ってしまうが、性質的にはそれらに近しいのではないだろうか。
それが、私の固有能力である、限定テレポートだった。
光となった私は、すぐにララ様から遠ざかる。
結界にぶつかりながら方向を調整し、目的の場所へ行く。
そして、私は転移に使っているエネルギーの流れを一旦止めた。
時間が動き出し、世界は加速する。
目に映る全てのものが、本来の時間の流れに沿って始動した。
つまり、光から元の状態へ戻ったのだ。
転移の最中で意識が戻ってしまえば、もうこちらのものだ。
結界を使って光となった体を弾けば、位置の調整は出来る。
転移を終了させたい場合は、その場でエネルギーの循環を止めればいい。
光が違和感を感じて、自然に体を分離させてしまうからだ。
いくらララ様でも、光の速度には追いつけまい。
そう思ったのも一瞬。
私のすぐ目の前で、ララ様が腕を振り上げて待ち構えていた。
その手には魔剣がある。
「お前はテレポートし終わってからの対応が遅い!」
「なっ!」
私の対応が遅い訳では無い。
ララ様が速すぎるのだ。
今のララ様は、魔具による身体強化に加えて、吸血鬼の恩恵を受けている。
速度で言えば、俊敏性を上げた悪魔よりも数段上だろう。
チャント第4段階。
恐らく、その領域にまでララ様は到達している。
一旦光から体を分離させてしまえば時間間隔は光のものから悪魔のものに変わっていく。
今の私は、音速で動くララ様を捕らえ切れていない。
だが、その短い間隔でも再度テレポートし直すことは出来る!
攻撃が当たるギリギリの瞬間。
私は、何とかテレポートを発動させて攻撃をかわす。
視界は時間が止まった光景に切り替わる。
光となった体で結界にぶつかり、位置調整を行いながらララ様から1番遠い場所へテレポートをする。
そして、世界はまた動き始めた。
ララ様が、世界の始動と同時にまた私の目の前にいた。
一瞬でだ。
いくら何でも速すぎる!
「無駄だ!」
「!!!」
再度私はテレポートして離れた場所へ。
ララ様は転移し終わった矢先に、一瞬で私の元へ。
それを何度も何度も繰り返した。
私のテレポートで消費されるエネルギーは多過ぎる程に多い。
悪魔1人分だろうと、光はキッチリ召喚される。
だから、転移の入り口となる陣が書き加わえられた、特別な魔具を所持していた。
大魔石からのエネルギー供給を遠距離から行いながら、光を召喚している。
だが、その魔具を使用してすら今の戦闘は処理しきれない。
吸血鬼化したとは言え、まだこれでも余力は残しているだろう。
私はさっきから全力なのに。
「チッ!!」
人間が逃げてしまうこの重要な時に、ララ様の抵抗が入ったことが腹立たしい。
城外を警備している悪魔達はどうしたと言うんだ!
人間1人捕らえられないのか!
もう限界だった。
こうなれば、転移で先に人間の方を確保するしかない。
ララ様の妨害が入って、被害も出るだろうが仕方ない。
私がそう決断した直後。
「「ヴァネールだ。加勢する故、状況を知らせろ」」
王立騎士団第2隊長のテレパシーが、私の元へ届いた。
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〜ララ視点〜
私はルフェシヲラの転移に対応しながら、剣で攻撃を仕掛ける。
ひたすら彼女に向かって剣を振った。
部屋は私が壁や天井を、縦横無尽に蹴り飛ぶ音で溢れていた。
ルフェシヲラは室内のどこにでも現れる。
私も室内のどこにでもついて行ける。
追いかけっこみたいなものだ。
私は今のところ疲れる気配が全く無い。
壁を蹴っては剣を振り、壁を蹴っては剣を振り。
氷で足を滑らせることも無い。
蹴った氷を砕く程に力を込めているからだ。
室内中に砕けた氷が舞い散り、ルフェシヲラのテレポートの光がキラキラと反射して輝く。
赤い雪が室内に降っているような光景だった。
時間にして30秒か。
短いようで長い時間の中、ついに彼女が根を上げた。
逃げたのだ。
テレポートで室内の外へ。
彼女に向かって剣を振り下ろしたが、今一歩遅かった。
一時的な光速と、常時音速では、光速の方に軍配が上がるようだ。
室内の結界が砕け、消える。
それはこの場から、ルフェシヲラが消えたことを意味していた。
転移先が城内の外か、城外なのかは分からない。
故に追いようもない。
逃がしてしまったのだ。
ルフェシヲラをここで食い止めようとは思ったが、テレポートの発動開始時間が思いの外速かった。
戦闘のブランクで鈍っているかと思っていたのだが・・・
まあ、今の私なら、城外に張られているルフェシヲラの結界を破ることも出来るだろう。
外に出て、人間がどうなっているのか確認しなければ・・・
そう思案した瞬間。
背後から気配を感じた。
私は呼び動作無く、剣を後ろに振りぬこうとする。
だが、それはすでに遅く、背中の鎧の部分に何かが当たる音が聞こえた。
一瞬だけ後ろが見えた。
ルフェシヲラが、私の鎧に手を触れている様子だ。
咄嗟に私は剣を振るうが、彼女に届くことはなく・・・
私は赤い光に包まれた。




