表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第3章 地獄篇 ラース領ラース街
41/244

41話 自覚

 〜ララ視点〜


 私は、ルフェシヲラに報告を告げた。


 魔物が転移回廊に出現したこと。

 人間と接触していたマリア様には、この街から去っていただいたこと。

 人間を無事に魔王様の下へ送り届けたこと。

 そうした報告が全て済むと、魔王様の秘書であるルフェシヲラは、いつもの丁寧な言葉でこう言った。


 「分かりました。では、ララも通常の業務に戻ってください」

 「では」


 私は部屋から退室する。

 ルシフェヲラとの会話はいつも業務的な内容で始まり、業務的な内容で終わる。

 私は自身の仕事に関連してでしか、親しくない相手と会話をすることが出来ないタイプだ。

 ルフェシヲラもそういったタイプかどうかは定かではないが、相手も業務的なことしか話さないのは確かだ。

 だから、いつも淡々とした会話で終わってしまう。


 ・・・悪魔の心を読む能力は、相手を縛るための牽制と言う意味合いが非常に強い。

 やったらやり返せ、という方針を実践することで、やったらやられるの現実を作り出し、敵も自身も恐怖で縛り上げる、抑止論と言う見えざる力が人間の住む世界ではあるらしい。


 報復をお互いに可能とする状況下を実際に作り出し、お互いに報復を恐れるように仕向ける考え方だ。

 人間はこれで大きな争い・・・戦争を回避しているらしい。

 実に人間らしい考え方だと、私は人間の住む世界に行って思った。

 だが実際には、この考え方は今の地獄の世界で行っている、悪魔の心を読む力で悪魔の社会を統制している方法と原理は変わらない。


 悪魔の社会。

 心を読んだら心を読まれるということを相手は十分に分かっているから、相手は心を読まない。

 それは自身も同様だ。

 仮に、何かやましい気持ちがあれば、漠然と自然にその感情が相手に伝わってしまう。

 ただ、原理を動かす動力源が違うだけなのだ。


 つまり、人間の社会では、社会の根幹を制御するのは恐怖の力。

 悪魔の社会では、社会の根幹を制御するのは能力の力。

 

 能力があっても、共存していく上での方向性は、そんなに人間と変わらないことが良く分かる。

 私は昔、1回現世へ行って、そんなことを思った経験があるのだ。

 だから私は、人間に対して周りの悪魔程厳しく考えることは出来なかった。


 ・・・実は、ルフェシヲラには少し嘘を吐いていた。

 私は魔王様からの命令とは別に、人間を抵抗出来ないように厳重に拘束しろとの要求を彼女にされていたのだ。

 彼女の要求ならば、応えない訳にはいかない。

 何せ、魔王様の秘書だからだ。

 だが、内心ではそれに反対している自分もいた。


 私が、転移回廊で久しぶりにマリア様に会った時。

 その時まで私は、人間に対して情をかけようなどと思っていなかった。

 秘書であるルフェシヲラの言葉は、大体において魔王様の言葉とイコールだ。

 そして私は、魔王様に逆らおうなどとは思わない。


 なのに、私は人間を厳重に拘束したりはしなかった。

 もちろん人間が逃げ出さないために、警告や警戒は十分にしたが・・・それでも直接的な拘束はしなかった。

 私は秘書の命を破ったのだ。


 私が事前にマリア様へ、テレパシーで人間の処遇について連絡を取っていた時。

 あの時、マリア様は納得していないかのような感情の波を発していた。

 しかしあの方は、感情の波を他の悪魔に察知されるような真似はしない。

 テレパシーを極限まで極めた唯一の存在だからだ。

 それでも私は、確かに感じ取ったのだ。


 転移回廊で会った時には、感情を隠そうともせず堂々と殺気を向けてきたくらいだ。

 非常に強い感情。


 だが、私も人間の処遇については少なからず不満を持っている。

 不満を持つ原因。

 それは、私が人間の世界に行った経験があることに、きっと由来しているのだろう。


 地獄の世界から人間の世界へ邪悪種が紛れ込むことは、10年に1回ぐらいの割合で発生する。

 その時に討伐メンバーが組まれるのだが、その候補は騎士団隊長13名や、魔王様の側近の中から選ばれる。

 私もその中にいたし、マリア様も人間の世界に行かれた経験がある。

 マリア様はどうかは分からないが、私はその経験に今も心を引きずられているのだ。

 人間も悪魔も、本質的には同質・・・仲間なのではないかと。


 魔王様は、人間と悪魔の違いは魂が穢れているか、そうでないかの違いとかつて仰った。

 秘書も同様に言った。

 第1隊長のクルブラドや、第2隊長のヴァネール、その他の隊長達も同じ意見だった。

 皆、私同様人間の世界に行ったことがある者達だ。

 一方、私はどうなのだろうか?


 ・・・これも、人間は地獄の秩序を乱す原因と呼ばれる所以なのかもしれない。

 人間の世界に、私は引きずられたままなのか。

 マリア様もそうなのか。


 ・・・とにかく、私は人間を拘束しなかったということは事実だ。

 それは否定出来ない。

 そして、その事実を隠し通せるものでもない。


 いずれこの私の感情は、周囲の悪魔に伝わってしまうだろう。

 私とて、マリア様と同じ道を一時期歩んだ身だ。

 短時間ながら、精神干渉を妨害する能力で誤魔化しは効く。

 だが、長時間は難しい。

 そのくらいマリア様の扱うテレパシーの技術は高度なのだ。

 

 ・・・私が秘書であるルフェシヲラに問い詰められる時間も、そんなに遠い話ではないはずだ。

 その前に私が私自身に問おう。

 私は一体何がしたいのかと。

 そして、私がそう思った・・・その時。


 結界の破れる音が城内に響き渡った。



 ---



 〜人間視点〜


 ・・・前回は煮えたぎったオイルと表現していたな。

 今はもっと、正確に俺の中で流れているモノを言葉で表現出来るだろう。


 ・・・魔剣の意思だ。

 俺の中に今、流れているモノの正体。

 そして、森の中で俺の中に流れたモノの正体。

 それが一時的に俺へ変革を与えた。


 「ん?・・・おい!人間!どうしてここにいる!」

 「・・・」


 警備兵である2人の悪魔が、俺を簡単に見つける。

 簡単に見つけられてしまったのは、俺が簡単に見つけられるようにしてやったからだ。

 俺が悪魔2人の前に出て行った。

 それだけの話。


 別に、俺は無謀って訳じゃない。

 勝算は一応ある。

 森にいた魔物、闇の器の捕食者(ブラックイーター)を倒す時に俺を動かした、陰影豪鎖とはまた違う感覚。

 俺という存在が、魔剣の意思に絡まって、同調を果たしていく。


 魔王が来るまでのタイムリミットは、これでほとんど無意味なものになった。

 早くケリをつけなければいけない。


 見てみると、悪魔2人の内1人は、目を瞑っていた。

 多分、テレパシーだ。

 他の仲間に伝えようとしているのか。

 だが、そうはさせない。

 俺は目の前の目を閉じている悪魔に対して、いきなり魔剣を投げつけた。

  

 「っ!!」


 投げられた魔剣は、悪魔2人を攻撃圏内に入れていた。

 いきなりの攻撃に対して、鋭敏に反応する2人。

 目を閉じた方の悪魔は、テレパシーを急遽取り止めて、回避行動に移った。

 予め俺の行動を注視していた悪魔も、余裕をもってかわす。


 流石悪魔だ。

 能力による強化がなくても、この程度なら簡単にかわせてしまう。

 まあ、予想通りではあったのだが。


 ガラスが割れたかのような音が、中庭に響く。

 悪魔2人が魔剣をかわしてくれたおかげで、後ろにあった門に投げた魔剣が当たったのだ。


 「なっ!!」


 かわした悪魔達は後ろを見て驚く。

 そりゃそうだ。

 強力な結界が、たった1本の魔剣が当たっただけで破れるのだから。

 驚かない方が無理と言うものだろう。

 そして、俺はこの隙を生かすべく動き出した。


 俺は素早く1番前にいた悪魔へ駆け込む。

 悪魔が再度俺の方向に向いた、次の隙に攻撃を仕掛けた。

 グチュ、と気持ち悪い泡立つかのような音が聞こえた。

 目潰しだ。

 1番前にいた悪魔の目を、指で潰させてもらった。


 「があっつ!!」


 悲鳴を堪えて、押し黙ろうとする悪魔。

 ・・・悪いな。

 得物を持っていない俺に出来る有効な攻撃は、急所を叩くか目を潰すくらいのものだった。

 それにしても激痛なのに、よく耐えるな。


 「大丈夫か!!」


 もう一方の悪魔は、怪我をしている悪魔の方に注意を捕らわれている。

 これが平和な時代の兵というやつだ。

 目の前の標的を優先しないで、仲間の方を優先するのだから笑える。

 悪魔も能力があるとはいえ、人間と似たり寄ったりだ。


 俺は、この隙に悪魔2人の間を通り抜けて、鉄柵の前へ行く。

 そして突き刺さった魔剣を引き抜き、門を蹴破る。

 案外警備兵を抜けるのは簡単だったな。

 まあ、ここまではいい。

 問題はこの後だ。


 俺は門の先を走りながら、後ろを確認する。

 中庭から見て、入り口の鉄柵にいた悪魔2人は、予想通り俺の逃走をしっかりと確認していて、1人は俺の追撃、1人は直立の姿勢のまま目を閉じていた。

 テレパシーだ。


 別に仲間を呼ばれようと構わない。

 元々この魔剣1本の装備だけでは、悪魔に見つからないと言うこと自体が不可能だったのだから。

 これから先は、連携で俺を捕らえようとしてくる悪魔が待ち構えているだろう。

 考えれば考えるほど後の状況は厳しいが、やれるだけのことはやってやる。


 昔を取り戻す感覚に浸る中、今の俺はそう思えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ